はじめに

 けっこう出遅れましたけどー。東映アニメーション様60歳のお誕生日おめでとうございますー。1956年7月31日は日動映画が東映株式会社に買収された日です。日動映画株式会社(日本動画株式会社)は1948年に設立された会社ですが、この日から東映株式会社の子会社としてアニメーション制作をしていくことになります。当時のメンバーは社長の山本善次郎さん、藪下泰司さん、森康二さん、大工原章さんの4人、そして東映動画株式会社の採用第一期生である大塚康生さん1ら。
 1956年末に練馬区にスタジオが完成。第一弾の作品は森康二さんがメインアニメーターの短編『こねこのらくがき』(1957年4月15日初号試写)。東映動画の長編第一作であり、日本初のカラー長編動画である『白蛇伝』は藪下泰司さんを監督としてスタートし、1957年12月10日に作画を開始、翌1958年10月22日に封切り。以後、東映動画ではほぼ1年に1本というペースで長編動画作品を作っていくことになります。
 一方、手塚治虫御大率いる虫プロダクションの台頭によって、それまで1年間かけて1本の映画を丁寧に作るという体制を変えることを余儀なくされ、東映動画もTVアニメーション制作に進んでいくこととなります。と、まあ、初期の東映動画はこんな感じですが、なにぶん60年の歴史がありますので、あとはWikipediaでも読んどいてください。
 さて、今回はこの東映動画の○○周年記念作品について調べてみました。

10周年記念作品 『少年ジャックと魔法使い』

[cf_cinema post_id=5028 format=3 text=” 1967年3月19日公開。いきなり全然知らない作品が出てきた!東映長編の一本ですが、知名度的には黒田昌郎監督の『ガリバーの宇宙旅行』(1965年)より下なのでは…?あまり語られてない印象ですね(「ガリバー」には宮崎さんも参加してましたしね)。個人的には68年公開の『太陽の王子ホルスの大冒険』(高畑勲監督)かな、とも思ったのですが、アレはアレで色々あったから10周年記念という感じではないよなあ。なお、この作品に限って予告編・本編ともに冒頭にデカデカと「東映動画創立十周年記念作品」というテロップが出ます。
 物語はイギリスの叙事詩「ベオウルフ」を下敷きにしていますが、そこはそれ、主人公のジャックは車キチガイだし(なにしろ冒頭、家の中でオープンカーを乗り回してる)、魔女はヘリコプターで襲ってくるわで、東映らしい楽しい作品になってます。見どころは後半のトリップシーン。ちょっと他の作品では見られない感じの幻想的な雰囲気です。でも長くてちょっと眠くなる。監督(演出)は藪下泰司さん、作監は大工原章さんという初期東映の二大巨頭!それと、後に出崎監督の作品を支えた超ベテラン美術監督の小林七郎さんのデビュー2作目だったりします(背景の一人で参加)。キャラクター的にはヒロインのキキー(cv.中村メイコ)が、のちのヒルダ(『太陽の王子ホルスの大冒険』)を思わせる悪女ヒロインで印象的です。可愛い。
 併映は芹川有吾監督による『サイボーグ009 怪獣戦争』。奇しくもこちらのヒロインであるヘレナも悪女ですね。ちなみに、東映の60周年記念誌『東映の軌跡:the history of Toei:April 1st 1951-March 31st 2012』に当たったところ、この作品も「東映動画十周年記念作品」という記載があったのですが、予告編や本編・ポスター等にそのような記載はなく、おそらく記念作品としては『少年ジャックと魔法使い』だけだったのではないかと思われます。
 なお、ネットで「東映動画10周年記念作品」で検索すると、『安寿と厨子王丸』(1961年、同じく藪下泰司監督)がヒットしますが、これは東映動画ではなく「東映」の創立十周年記念作品です。”]

20周年記念作品 『長靴をはいた猫 80日間世界一周』

[cf_cinema post_id=5076 format=3 text=” 1976年3月20日公開。言わずと知れた東映アニメーションのマスコット「ペロ」が主人公の「長猫シリーズ」最終作。原作はもちろん、ジュール・ベルヌの『80日間世界一周』。ヨーロッパのとある町のレストランで働いていたペロは町の名士・グルーモン卿と80日間で世界を一周できるか賭けをする。カバのカーター、ネズミの親子と共に80日間世界一周に旅立つペロだったが、グルーモン卿の放った刺客・ガリガリ博士やいつもの猫の殺し屋3人組が襲ってくる上に尺が足りない…!まんがまつり全盛期ですんで、昔のようには作れないんですよね(とはいうものの、90分の作品も無いんですけど…。いわゆる東映長編は80分から90分の間がほとんどですね)。それでもこの映画は68分ということでそれなりのボリュームではあります。設楽監督の当時の思い出を紐解くと「時間がないからどうやって世界一周感を出そうか苦労した」と仰ってますね。
 前作『ながぐつ三銃士』は冒頭でいきなりヒロインの父親が殺されてたり、敵が贋金作りのギャングだったりとどこか大人向けな印象を受けましたが(これはこれでとてもおもしろいですよ!後半のどんでん返しに驚きます)、本作は第一作のテイストに立ち戻った印象ですね。陸・海・空とそれぞれにいつものような楽しいドタバタ劇があって盛り上がります(尺が短くて密度が濃いということもあるけど)。本作の敵役・ガリガリ博士は『ハッスルパンチ』の同名キャラクターですが、声は『名探偵ホームズ』のモリアーティ教授と同じ大塚周夫さん(ちなみに、『ハッスルパンチ』のガリガリ博士役の八奈見乗児さんは本作では市長さん(ライオン)役。71年の『どうぶつ宝島』(池田宏演出)の男爵役でもありますね)。資本主義の豚野郎(グルーモン卿)が立ちはだかるクライマックスの追いかけっこも非常に東映動画的で楽しいですね。そういえば、高いところで決着を付けるパターン多いなあ…。あとエロいメス猫も出るよ!
「まあまあ、いいってことよ!」
 ちなみに、「東映創立二十周年記念作品」は若き日の宮﨑駿さんの奮闘も楽しい、池田宏監督の名作『どうぶつ宝島』。”]

25周年記念作品 『世界名作童話 白鳥の湖』

[cf_cinema post_id=5086 format=3 text=” 1981年3月14日公開。これも未見でした…。この記事を書くためにVHSで借りてきましたよ!アニメ史的には、この時期に盛んに作られた「名作もの」の一本ですね。東映動画の「世界名作童話」シリーズとしては『白鳥の王子』(1977年、西沢信孝演出)、『おやゆび姫』(1978年、芹川有吾演出)、『森は生きている』(1980年、矢吹公郎演出)に続く4作目。キャラクターデザインが漫画家のいがらしゆみこ先生ということもあり、他の作品とはちょっと違ったイメージです。でも狂言回しとして登場するリスのカップルはいつもの東映タッチ(と言っていいのか、あれは森康二タッチと言うべきなのか)。監督が「長猫」一作目の演出でもある矢吹公郎さんということもあってか、悪い魔法使い・ロードバルドのデザインは「長猫」の魔王ルシファを彷彿とさせます。娘のオディールとともにコミカルで楽しいキャラクターです。悪役なんだけど、オデットに恋い焦がれる乙女感あるおっさん。あと恒例のお城の上の方での大立ち回りもどこか「長猫」っぽいですねー。今見ると作画の微妙なシーンがけっこうあるんですが、これは前年12月にセル画2,500枚が盗難にあうという事件があったことも影響しているのだと思われます。”]

30周年記念作品 …無いっぽい…?

 東映アニメーションの50年史と東映の60年史に当たったんですが、どうも記念作品は作ってないっぽいんですよね…。20年と40年には実施している記念行事もやっていないようですし。平田敏夫監督による最後の東映長編映画『グリム童話 金の鳥』かとも思ったのですが、制作されたのは1984年で、ちょっと時期が違うかな、と。予告にも本編にもポスターにも記載ないですし…。誰か分かる人がいたら教えて下さい!m(_ _)m 作られなかった経緯も気になるところです。

40周年記念作品 『銀河鉄道999 エターナル・ファンタジー』

[cf_cinema post_id=5089 format=3 text=” 1998年3月7日公開。1999年の「本編」(完結編)を控えて製作されたものの、爆死したので本編が作られなかった悲劇の作品。やっぱり尺が短いよ…。おまけでついてきたはずの『長靴をはいた猫』の方が長いんだもん。おまけにそっちの方が面白いんだもん。(個人的に好きな)ボルカザンダ三世の出番も10分くらいしか無いし…。あと砕け散ったはずがなぜか復活したクレアさんを差し置いて電子妖精カノンの方がかわいいのも問題じゃないですか!太陽系が消滅するのはいいとして…。当時、高校生だったんですが、全く999に関心がない友だちを誘って観に行って、みんな「『長靴をはいた猫』面白かったね」としか言わなかったもんなあ…。ただ、単体としての出来は悪くないんですよね。作画安定してるし。初の完全CG999(と言われてはいるけど、明らかにCGじゃないとこもある…。ブライトリングファイアフライの地上を走ってるとことか)も違和感ほとんどないし。カノンさんかわいいし、イーゼルもかわいいし(だいたい同じ顔だが)。やっぱりボリュームがなー。停車駅も1つだしなー。あと1時間あれば「ブライトリングファイアフライ」→太陽系爆散→「大テクノロジア」という流れで行けたと思うと…。「完結編」で出るはずだったヤマトがチラッと出てるのも悲しい…。原作の「エターナル編」自体は面白いと思うのでTVとかでリブートしませんかねー(『銀河鉄道物語』面白いかったし。制作、東映じゃないけど…)。”]

50周年記念作品 無し

 半世紀の記念なのに!なぜか無い!これも30周年と同じく東映と東映アニメーションの社史に当たったんですが…。50周年記念パーティーはやってるんですけどねえ。
 一応、50周年記念事業のサイトがあるんですが(東映アニメーション50周年記念)、記念作品が『貧乏姉妹物語』と『パワーパフガールズZ』…。いや、どちらも良い作品だと思いますけど、半世紀の記念かと言われると…うーん。あと東映アニメーション研究所を大泉に移転したり(もう無いけど)、上海駐在員事務所を設置したりしてます。

60周年記念作品 『ポッピンQ』(2017年1月公開予定)

[cf_cinema post_id=5205 format=3 text=” 先日発表された60周年記念作品!オリジナル作品です。監督の宮原さんはプリキュアシリーズのダンスシーン中心にやってる方ですね。下にダンスシーンのプロモ貼っときましたけど、プロキュア感ありますね…。最近プリキュア全然チェックしてないからあまりわからないんだけど。「ダンスで世界を救う!」っていうストーリーはわかりやすくていいですね。黒星紅白絵のキャラクターもちゃんと動いてるし、作画のクオリティは高そう。20年ぶりの○○周年記念作品ですので、期待しております。”]

おわりに

 こうして並べてみると…その…あまりこういうこと言いたくはないんですが、、○○周年記念作品、、不遇な作品が多くないですか…。現在気軽に観られる作品って20周年記念の『長靴をはいた猫 80日間世界一周』ぐらいなのでは…?逆に当時不遇だった作品、例えば『太陽の王子ホルスの大冒険』などが現在では非常に高い評価を受けているのを見ると、60年という時間の長さを感じます。なにはともあれ、これからのますますのご発展・ご活躍を祈念しております。

参考文献

[amazonjs asin=”B000J8QWXW” locale=”JP” title=”日本アニメーション映画史 (1978年)”] [amazonjs asin=”4198190100″ locale=”JP” title=”THE ART OF 劇場アニメ70年史”] [amazonjs asin=”B000J8MCFE” locale=”JP” title=”東映動画長編アニメ大全集〈上巻〉 (1978年)”] [amazonjs asin=”B000J8K7CE” locale=”JP” title=”東映動画長編アニメ大全集〈下巻〉 (1978年)”] [amazonjs asin=”B00TFN0DPK” locale=”JP” title=”東映アニメーション 50年史 1956-2006″] [amazonjs asin=”416812200X” locale=”JP” title=”作画汗まみれ (文春ジブリ文庫)”] 『東映の軌跡:the history of Toei : April 1st 1951-March 31st 2012』東映株式会社総務部社史編纂担当編集、2016

NOTES

  1. 大塚さんは日動動画の時から研修生として出入りしており、東映動画発足後に改めて採用試験を受けて臨時採用されたとのこと。