短編スロット2
[cf_cinema post_id=8184 format=3 text=” 本当に何も起こらないのでびっくりする。もっとも、何も起こらないというのはちょっと適切ではなくて正確には「想像したようなことは何も起こらない」。『何も起こらない』と言うタイトルを否定する何かがあるのだろう、と想像して観ると思うのだけど、タイトル通りなので逆に驚くのであった。この我々の態度は、「なにかが起こること」を期待して何も無い雪原に集まってくる劇中の人々の姿と重なる。画面は前からと後ろからの2つのカメラによって撮られ、そのシンプルなフレームの中にワサワサと人間たちが入ってくる。彼らは個性の乏しい大衆的な人物として描かれているのだけれど、他に観るものがないので、彼らの身じろぎや細かな仕草に思わず注目してしまう。何もなかった雪原に人々がぎっしりと集まってくる様子はなかなかに圧巻で、ここにきてようやく「何も起こらないことで集まってきた人々」という事象が起こっていることに気付く。観ること⇔観られることについての意識が明瞭になっていく感覚が面白い。挟まれるカラスの群れも良い。”] [cf_cinema post_id=8187 format=3 text=” ゴブラン制作なのに日本が舞台で音声が日本語なのに驚く。日本語めちゃくちゃ頑張ってますね(ウエメセ)。テーマはヤクザがカタギになる話。向こうだとすごく受けそう。よくあるカンチガイニホンじゃないんだけど、微妙ーーーにずれてるところが面白いですね。足を洗った主人公のヤクザが乗ってるのが軽トラだったり。すごく似合ってるんだけども!ゴブランっていうかフランスアニメのノッペリとした質感で日本の住宅街が描かれてて、とてもとても自分好みでした。このテイストは日本でやっても受けそう。ところで、本編の最後に出る『イチゴ味』が邦題としては正しいのではないかしら?”][cf_cinema post_id=8223 format=3 text=” 短編部門グランプリも納得の超絶大傑作。短い尺の中でここまで饒舌に人の人生について語れるとは!トランクを通して紐解かれる父と子の物語。荷物の詰め方という実用的な視点から、個人的な記憶にアクセスしていく軽やかな足取り。現実と幻想、現在と過去もまた、アニメーションという魔法の下に緩やかに越境していく。主人公の乗る車がファスナーになり、ベルトが海蛇のように身を捩り、思い出を形作るトランクの中身は優しい寄せ波に変わっていく。アニメーション的変態のもたらす快楽が凝縮された作品。情報量は多いのだけど、主人公の語り口はむしろ抑制されていて、全体を静謐な雰囲気が包み込む。最後に明らかになるタイトルの意味も実に素晴らしく、「旅」という軸が最後まで貫かれている。”] [cf_cinema post_id=8260 format=3 text=” ストップモーションを作る人形を描いたストップモーションというややこしい作品。リアリティのある人形というよりは、木彫りの人形のようなざっくりとした作りで、劇中で壊れた部分を自ら修理するような展開もある。だから外見的にはあまり人間に近い存在には見えないのだけれども、行動や仕草はいかにも人間らしく、細やかに作られた調度に囲まれていることもあって、不気味な人間らしさを湛えている。というよりむしろ色気があると言えばいいだろうか。なんとこの造形でセックスシーンまである!すれ違い生活している男女の日々の生活描写の細やかさも印象的だ。動くことで魂が入っていくというあたりは、いかにもアニメーション本来の魅力(anima)だと言えるだろう。入れ子状になっている物語も魅力的で、おそらくそうなるだろうな、というように展開していくのだけれど、このジオラマの「外側」が実は……のところでは思わず声が出た。サスペンスホラーでもありメタフィクションSFでもある多様な見方が出来る作品。制作、すごく大変だっただろうなあ…。”]
(予告編)
[cf_cinema post_id=8262 format=3 text=” 大胆な筆致で描かれた父と娘のそり遊びの一コマ。橇の動きのように、流れるようなテンポで現実が軽やかに少女の空想にモーフィングしていく。短い尺の中で手堅くまとめているという感じ。すごく尖ったところはないけれど、観ていて楽しくなるかたちと色彩が丁寧に表現されている。絵本っぽさ。お父さんの典型的中年感がいいすね。”] [cf_cinema post_id=8266 format=3 text=” 語弊があるけど、すげえ『悪魔バスター スター・バタフライ』っぽいキャラデザ。王様(パパ)は(PPGの)ユートニウム博士だし。でも森のクリーチャーっぽいのはなかむらたかしさんとか福島敦子さんぽさがある(てきとー)。これもすごく個性バリバリって感じじゃないんだけど、安心して観れる。画面の色彩設計とかレイアウトがいいですね。作画安定(しかしインディーズのアニメーション作品で作画が安定していることに意味があるのかは微妙なところだと思う)。商業なら売れそうなかんじ。”]
[cf_cinema post_id=8270 format=3 text=” 鶏版『注文の多い料理店』。残酷なテーマなんだけど、食べられる側のトリが終始ノリノリで楽しい。ファスナーを下ろすようにして皮を剥ぐのはナイスアイデア!リアルだとめちゃグロや!付け合せの野菜たちと鶏の関係がホストとゲストになってて、最後は仲良く皿に収まる笑 野菜さんたちが滑り台で切り刻まれるところがヒャッってなります。オーブンの中がライブハウスみたいな雰囲気に仕立て上げられてて、このあたりも上手いなー。始まりと終わりがはっきりしてるのも短編アニメーションとしてはいい感じ。”] [cf_cinema post_id=8273 format=3 text=” 今回上映された短編の中で一番客席で笑いが上がっていた作品。ど直球に笑わせに来るんだけど、「絶対にシュールギャグなんかに負けたりなんかしない!」→「勝てなかったよ…」になる。常に揺れ動く輪郭線、反復するモティーフ、物理学と人体の組成を無視したアクション、アニメーションならではの楽しみが凝縮されている。ドギツイAC部vsやさしいキューライスみたいなイメージある。下の制作日記を読むと伝わってくるけど、キューライスさん自身がめちゃくちゃ楽しんで作ってるのが伝わってくるんですよね。こののびのびとした動き、癖になります。反復という要素はキューライスさんの作品を特徴づけるものだと思うんだけど(それが顕著に出ているのが『失われた朝食』(2015年)など)、本作では短いストーリーの中で日常の反復もありつつ、同じモティーフが同調して動く形の反復もあり、そのまったり適当なビジュアルとは裏腹に非常に緻密な計算に基づいて作られていると感じました。個人的に好きなのはソフトクリーム屋さんのところですね。あのおっさん(中に入ってて見えないけど毛が濃いからおっさんだろう)何がしたいんや!最高!”]
[cf_cinema post_id=8275 format=3 text=” 最初、売り飛ばされたのが女の子に見えたので「百 合 じ ゃ ん !」(限界オタク感)となったのですが、作品説明のページ読んだら普通に「少年」になってましたね…。別にいいんですけど…。ビジュアルとしてはやはり高畑勲監督の『かぐや姫の物語』を連想してしまうのですが…、あ、よく考えたら人と人が引き離されちゃうという展開も同じだ…。漫画的なキャラクターの造形、不自然ではない程度ののびやかなアニメーション的身体が見どころで、密やかな少年少女の恋慕の初々しさが良いですね。でもやっぱり男この子の方は女の子にも見えるなあ…。”] [cf_cinema post_id=8278 format=3 text=” 少女の成長をモンスター的な存在との関わりを通して描いた作品。ゲーム的なノッペリとしたCGが面白い。少女と共に旅する青いモンスターは巨大な体を持っているのだけど、どこかふわふわしていて柔らかそう。旅を続けるうちに彼(彼女?)はだんだんと小さくなっていくが、「なるほど、正体はアレだったか!」と膝を打つこと間違いないオチが実に見事。確かに、小さい子どもにとってはああいう風に映るかもしれないなあ。やっぱりオチというか終わりがきちんと定まってると短編アニメーションとして締まりますね。ところで、他のいくつかの作品でもそうなんだけど、ArtFXの学生作品ってスタッフロールで制作者のメアドが流れるんですよね。次の仕事に結びつけようという意欲があっていいけど、絶対メモとかできないんだよなあ…。”]
[cf_cinema post_id=8280 format=3 text=” 熱にうなされてる時に見る夢現のような作品。レイアウトの巧さが印象的ですね。最初の部屋を映したところから、もうすごくいい。鏡となった水面を活かした構図とか窓越しに見える町の光景が、伏せる主人公の視点を以て語られていて、自然と感情移入していく。半分は幻想なんだけど。いつの間にか水で満たされた部屋、そこからつながる水没した町の情景がすごくいいです。光の表現も、あのどんよりした雨模様から水面に映える夕日まで変化していくのが美しい。フックがあまり無い地味めな作品だけど、丁寧さが光る。”]
選考委員解説(加藤タカさん、白石慶子さん、叶精二さん(モデレーター))
!notice!
トークの内容につきましては、その場で速記してまとめています。事実誤認、不適当な記述などございましたらご連絡ください。対応させていただきます。
スロット2は異色作ぞろい!
叶 はい、短編スロットの上映はこれで最終となります。トークショーも短編の方はこれで最後です。一次審査にあたられた審査員の方々に解説ですとか、審査基準、その他いろいろお伺いしたいと思います。それではご登壇頂きます。みなさま拍手でお迎えください。審査員を勤めてくださいました、加藤タカさんと白石慶子さんです。それでは、一言自己紹介をお願いします。
加 加藤タカです。今回、一次審査を務めさせていただきました。普段は自分も作る側の人間ですが、たくさんの作品を拝見することが出来て、みなさんにいろいろお話できればと思っています。よろしくおねがいします。
白 白石慶子と申します。同じく一次審査員を務めさせていただきました。普段はフリーランスでアニメーション監督をやっていまして、今やっている『ハクメイとミコチ』というTVアニメのオープニング監督ですとか、『暗殺教室』のエンディングの監督などをしております。今日はどうぞよろしくお願いいたします。
叶 今回の短編スロット、それぞれ本当に見ごたえがあるんですが、特にこのスロット2の作品はかなり異色な作品を集めていて、笑えるものあり、不条理なものあり、ちょっとシリアスなものあり、本当に色々な内容のものがバラエティ豊かに並んでると思うんですが、審査の時に特にこの作品という形で推されたものがあれば挙げていただきたいと思うんですが…。
加 私が観た中で印象深かった作品というと、今更かもしれませんが、やはり『ネガティブ・スペース』ですね。このお二方の作品は『Between Times』1とかも観ていたんですけど、造形がとてもかわいくて馴染みやすいものなんですよね。今回は非常にパーソナルなテーマというか、今までの作品とは少し違うテーマを持ってこられたなあと思います。パーソナルなんだけれども、とても共感できるし、可愛い造形とあと演出のアイデアも豊富で、今回すごく好きな作品です。
叶 ギュッとまとまっていて本当にパーソナルな内容なんですけど、すごく余韻があって、あとタイトルも奥が深いですよね。人形の造形も独特ですけど、作品の中で流れてる時間も本当に独特で。このご夫妻でしか作り出せないものを作られている、オリジナリティの高い作品だなと思います。スタティックで、静かな余韻が楽しめる作品ですね。残念ながらアカデミー賞の短編部門、最終選考のいいところまで行ったと思ったんですが…。
加 ただ、候補になられたことで一般の方にも知られる機会になって、メイキングとかインタビューとかがテレビでも流れたりして、それはとても良かったと思いますね。
叶 そうですね。これを機会に過去の作品、『Between Times』も素晴らしい作品ですし、ぜひご覧いただければと思いますね。日本でお生まれになって、海外で旦那さんとコツコツ作り続けている方がいらっしゃるというのは面白いですよね。
このスロット2では他にもコマ撮りのアニメーションで、『人形は泣かない』という、メイキングならぬ人形自身のメイキング、人形が人形をメイキングしてるっていうですね、劇中劇的な作品がありますよね。
加 妙にエロチックですよね。
叶 造形的には関節とかがむき出しになっていて、テープを張ったりとか関節から針金が見えてるようなものなんですけど、ものすごい色気があって、生身の役者さんのような生々しさがありますよね。
加 表情は変わらないのに、感情が見て取れるというのがすごいですよね。
叶 映画なんだけど、向こうから見つめ返されてるような恐ろしさがありますね。この場合は人形だから、ある種のリアリズムのようなものがより強いと思うんですけど、作り手の方々というのは、自分の意志を離れて、キャラクターの方に逆に作らされてるような感じというか、倒錯した感情というのは起こってくるものなんでしょうか?
白 元々、アニメーションという言葉は「アニマ」、つまり魂で、元々動かないものに対して命を与えて動かしていくということなので、立体でも平面でもそういうことは起こるんじゃないかと思いますね。
加 最初は作る側が設定して動かしているんですけど、作っているうちに、この人はこんなことしないだろうという風になってきますよね。
白 なりますねー。勝手にキャラクターが動き出しちゃうっていう。
叶 逆に恐ろしさみたいなものってないんでしょうか…。怖いじゃないですか、深夜にシャッターを押してるわけですよね。コツコツコツコツ、一枚一枚、誰もいないところで。恐ろしくないのかなあ、と思ったりしますけど…。亡くなられた川本喜八郎先生2のアトリエも、棒に刺した首がズラーっと並んでいて、こんな部屋で撮影なんかできるんだろうか、とも思ったんですが…。
加 おそらく監督にとっては役者なんでしょうね。
叶 ある種人形アニメーションの創作の現場の迫力とか狂気とかそういったものが滲んでるような作品ですよね。生々しいんですけど、でも人形であるがゆえに、実写のような生々しさというものからはちょっと距離のある生々しさを感じますね。
白 今回の一次審査で特にちょっと物議をかもしたんですけど、推薦させていただいた作品が、一番最後に上映された”Nothing Happen”、『何も起こらない』という作品です(笑) すごい作品ですよね。結構、賛否両論ありまして…。一体これは何なんだと。
加 でも(そうなったのも)わかりますよね。
白 なにか時間軸のある映像を見る時に、きっと何か起こるだろう、という期待がある中で、この作品はタイトルに『何も起こらない』って書いてあって、でも観ていく中で、我々も鳥を眺めていたり、逆にこのスクリーンの中の人たちから観られているような感じがあったりして、「何も起こらない」と言いつつ、でも観る前と観終わった後とでは私たちの感情は何も変わらないわけではないんじゃないかという、観終わった後になにがしかの、モヤッとした感情でもいいですし、なにか確実に変化を与えてくれる作品だったなあということで推薦させていただきました。
加 作者の方が、「見て見られるという見世物」という風に書かれてますけど、まさにそうですね。実際はあそこで何かが起こっているわけじゃないですか。音であったり、鳥の動きからそれはわかるんですけど、あえてそこには触れずに、見世物としての出来事と、それを見に来ている人たちを客観的に感じさせてくれる作品ですよね。手法もロトスコープみたいな感じで。
叶 生々しいですよね。
加 だから本当にリアルな動きで。
叶 目が点になってるの面白いですよね。
加 傍観者的というか…。
叶 全員、目に表情がないんですよね(笑)あのストリートミュージシャンみたい人たちは最初からあそこで演奏するつもりで、たまたまその場にいたということなんですかね?
加 たぶん、あれが初めてのことじゃなくて、時々起こるんだと思うんですよ。人が集まることがわかっていて…時計見たりしてましたよね。
叶 そうですよね。あれ、なんでこのタイミングで演奏するんだろうっていう。
加 何かが終わった後に演奏する予定だったんでしょうね。手際がとてもいいし。
叶 みんな人が一番集まってる時にやればいいのに…と思ったりもするんですけど、その時はみんな別のものを凝視してるから、やったら怒られちゃいますね(笑)
加 怒られますね(笑)こういうフェスティバルですと世界中から作品が集まるので、日本にいると想像できないような状況から生まれてくる作品というのが多いと思うんですよね。そういうものに触れるのも、とてもいいですよね。
白 そうですね。ドキュメンタリー形式というか、メッセージがアニメーションとして描かれているような面白い作品でした。
叶 加工もちょっと油彩っぽい感じのタッチで面白いですよね。
加 この監督の他の作品も、なんとも言えない怖さと客観的な視点がああるんですよね。
ちょっと面白かったのは、『イチゴの香水』。これは全く日本人が作ったものではないというところが。
叶 この何とも言えない台詞回し、内輪に日本の人がいるのかなあ…。
加 北野武監督の映画を彷彿とさせるような世界観で、こういうものが出てくるのも面白いですよね。
叶 微妙に無国籍な感じがするのもまた面白い。
加 フランスのゴブラン3で作られているので、フランスの方からみた日本のイメージですよね。
叶 日本語であえてやるというのが面白いですよね。色々と大変だと思うんですけど。軽トラ、なぜ軽トラなんだろうっていう(笑)日本の輸出車としては軽トラって主力商品だったりするんですけど。他にもデジコンでグランプリを取った『鴨が好き』。
加 審査する時に、驚きと共感というのを軸にしていたんですけど、これってまさに驚きですよね。予想もしないことが起こって面白いという。結構、笑い声も聞こえてましたね。
叶 普通に喫茶店行ったり散歩したりしてるだけなんですけど、その間がめちゃくちゃですよね。グニャグニャに変形したりして…。
加 構想が素晴らしいですよね。めちゃくちゃなようでいて、繰り返して出てくるものがあったりとか、本当に構成が素晴らしいなと感心してしまいました。
叶 漫画でもこういう不条理なものは描けるんですけど、メタモルフォーゼの面白さというのか、大きいものが小さくなったり、小さいものが大きくなったり、顔の形が変形したり、いろんなものが近づいてくる面白さとか、時間軸の面白さであるとか空間の面白さみたいなものもありますよね。なかなかこういうものがたくさんエントリーされるとは思えないので、独創的な光を放っていますよね。
加 私が選考した中で『アンフォの通り』という作品がありまして、この監督、2作品応募されてるんですけど、両方とも本当に美しい、絵がいい作品なんですよね。
叶 難しい絵ですよね。
加 短編ならではの作品という感じもしますよね。メジャー作品だとなかなかこのスタイルで展開するのは難しいんですけど、短編だからこそ、監督の世界観であるとか絵の世界なんかを突き詰めながら、ストーリーを語っていけるというのが短編の良さだということが表された作品だな、と思いました。
叶 カリカリと細く描いたような線描みたいなものと、繊細なデザインと、あと逆に塗りつぶしたゴテゴテ感のある美術のアンバランスさがミックスされて、一つの絵になっているというのが面白いですよね。
加 絵柄と動きも合っていて、幻想的な作品ですよね。
叶 カルアーツ4だっていうのがまたすごいですよね。キャラクターアニメーションの伝統で、ディズニーが作ったキャラクターアニメーションコースで学んで、こういう正反対なものができるというのが…。
加 そうですね。なんだかフランスっぽい感じがしますけど…。
叶 まだゴブランだったらわかるような気がするんですけどね。そして、この方、中国の人なんですよね。
加 今はもうそういう地域差というものが無くなってきていていますよね。
白 今、カルアーツでもアジアの方とかがいっぱいいらっしゃっていて、国をまたいで色々なところで様々な持ち味のある作品が作られているということを、今年は特に痛感しました。
叶 ピクサーでもディズニーでも、長編におまけみたいな感じで短編が付いてるんですけど、ああいうもの(の監督)はアジアの人が多いですよね。だからそこにすごくチャンスが与えられていて、色々な技術をそこで試して、新しい可能性を模索しているというのがありますよね。そういう意味では、短編が長編についているというのは羨ましいですね。
加 本当にそうですね。毎度言ってしまいますけど、日本のプロダクションでも短編作品が出てくるといいのになあと思いますね。
叶 長編に一本付いてると嬉しいですよね。それも同じ監督ではなく全く若い人の作品とか…。
加 日本のアニメーターさんたち、みなさんお忙しくて、短編をやる時間とか余裕がなかなか厳しいと思うんですけど、それこそエンディングタイトルとか、そういうものなら少し実験的なことができるんじゃないでしょうか。
白 そうなんですよね。TVアニメのオープニング・エンディング、本編とは違った作風とか手法というものを使えるので、短編のアニメーションを作る方はかなり相性がいいと思んです。商業とインデペンデントの橋渡しになれたらな、と。
叶 短編ていうか、ちゃんと白石さんの作品になってますよね。
白 この曲でという指定があるくらいで、あとは好きに絵コンテから完パケ完成まで、好きに作らさせていただけるので、すごく楽しくやっております。
叶 『おそ松さん』のdwarf4さんの作品なんかも、ああいうエンディングでコマ撮りやったりとか、全く違う技法のものが混ざってくるというのは全然オッケーというか、むしろ劇場用長編でもそういうものが観たいですけどね。「クレヨンしんちゃん」なんかはオープニングだけ石田卓也さん4が粘土でやられていたりとか、もっとああいうものがあってもいいかな、と思いますね。長編でも最近では、『君の名は』や『この世界の片隅に』なんかは、回想シーンとかで全然違う技法をあえて混ぜるというのをやられてますよね。デジタルであるからこそ、色々なものがデータにできて、色々な手法で撮られたアニメーションがどんどん出来てくると面白いなあと思いますね。そういう意味では、技術的にこなれてない感じのものをほとんど見かけなくなったというのがすごいですよね。塗り方にしてもカラーコントロールにしても、本当に完成されているというか。
加 本当に選ぶの大変ですよ。
白 みなさん、学生なのか卒業後なのかもわからないくらいの完成度で。
叶 学生さんの集団制作、卒業制作なんて、本当にすごいものが今回もたくさんあって、今、本当に短編の映画祭って大変ですよね。
加 面白い作品がいっぱい作られる時代になってきたんだなあと思いますね。
Q&A
Q (遠くて聞き取れず)
叶 えーと、(『龍の橇』の)イェブゲニヤ・ジルコヴァ監督の傾向ということですか?この方、そんなに観たこと無いような気がしますけど、ただ、同じような傾向のものとか、ロシアで作られてるこういうザッと塗ったような感じの太い線描のアニメーションってありますよね。
加 もともとロシアはアニメーションに力を入れてきたわけですが、国営で子どものための文化を守るというところがあって、非常に素晴らしい作品がたくさん生まれていますよね。
叶 ソビエト時代は本当に充実した作品がいっぱいありましたね。
加 西化されてからの方が大変という話もありますね。
叶 去年も女性のロシアの作家の方が入選されましたけども5、すごくバラエティ豊かなテーマで、面白いもの、あの太い線描のもの、細い線描のものがあって、そして2Dのものが多いですよね。
加 そうですね、2Dのものが多いような気はしますね。
叶 手描きを大事にされてるのかな、という気がしますね。
Q (同じ人だったので遠くて聞き取れず。『何も起こらない』についての質問)
加 舞台のように感じられたというのはカメラの位置がある程度固定されているというところだと思うんです。3点くらいでカメラを固定していて、カメラが動かないで、人物が入りとはけがあるというのが舞台っぽいと感じられた点だと思うんですけど、作り手側も、主観が入りやすいカメラをあまり動かさないことで、客観的にその場を見せるという意志があるんだと思うんですね。ですので、作者の引いた目というか、客観的な目線というのを、カメラの目線などに感じて、おそらくそのせいで、劇場で何かを見ているのと同じ感覚になるんだと思います。
白 定点観測という感じで、時間の経過とともに何かが変わっていくんだけども自分の視点は固定されているという点が、観測的なアニメーションだなと思いますし、一方で「わからなかった」というその感想もぜひ大事にしていただきたいですね。
叶 短編のアニメーションって何度も何度も観ると、また別の見方ができてきたりとか、違うものが発見できたりするという、詩のような味わい方ができるのもまた魅力ですよね。
加 詩のようですよね。
叶 日本のアニメーションって非常に主観的で、そして感情移入型で、キャラクターに寄り添うようなものが多いんですよ。だからそのキャラクターにカメラをべったりくっつけて、そのキャラクターが行く先々で出会うものをカメラが一緒に追いかけて、そのキャラクターになりきるというようなことをベースに作られているものが非常に多いような気がするんですけれども、必ずしもそうでなくてもいいわけですよね。誰にも感情移入できないっていうのか(笑)全部が群衆であり、鳥でしかないという。状況そのものを観測しないといけないものが見方としてはあってしかるべきで、そういうものも実はたくさん作られてるんですけど、なかなか日本のテレビベースだとか劇場ベースだと難しいんですよね。だから、そういう意味では、映像の可能性とか演出の可能性みたいなものも、色々な作品から感じていただくと良いのではないかなあという気もします。作り手としては、色々作り方というものがある中で、(コンペの作品を)選ぶというのはどうなんでしょう。難しいですよね。
加 そうですね。やはり自分がどれだけ揺り動かされたか、というところが基準にはなってしまいますね。技術はみなさん素晴らしいし、演出もみなさんそれぞれ工夫されてるので、あとはそれがどれだけ人に伝わってくるのか、というところですね。結局、印象に残った作品ってそういうところじゃないですか。
白 そうですね。今回のこの東京アニメアワードの審査で、4つ項目が挙げられてまして、それが「オリジナリティ」「技術力」「先進性」と「大衆性」という。
叶 大衆性というのが特徴的ですよね。
白 大勢の皆さんに観ていただきたい、という作品を特に推したりしてますね。
叶 お二人ともアニメーションを作り続けてらっしゃいますけど、こういうものはやはり作り手として刺激されるものなんでしょうか?
加 それはもう…。
白 そうですねー。私も審査をしていて、世界各国の色々な国から送られてきているので、世界を知る切っ掛けにもなるし、創作意欲を頂いたり、それを皆さんに観ていただきたいなという気持ちも生まれたりというループが生まれている気がします。
加 本当に素晴らしい作品に出会うと、タダのファンになっちゃうところもありますね(笑)ただ、ベテランの審査員の他の先生からも「嫉妬を覚える」っていう言葉が出たくらい、こういうものを作られたなあという作品とか、自分でこういうものが作れるのかなあという感覚もあって、面白いですね。
叶 本当にお二方、本当に素晴らしい作品をお作りになってますので、観ていただきたいと思いますし、(他の回で)ご登壇されてる審査員の方々も研究者であったり、評論家であったり、創作をされてらっしゃる先生もそれぞれ作品を発表されてますので、「あ、この審査員の先生、素晴らしい!」と思ったら、その作品も観ていただけるとさらに広がるんじゃないかと思います。また、日本でも多様な作品が作られてますので、そういうところにも関心を持っていただけるといいなと思ってます。最後に先生方から一言づつ。
白 この東京の池袋という町で、色んな所で点在しながら色々な世界中のアニメーション、立体から平面までいろんな技術を使った、本当に多様なアニメーションを見ることができて、そういうものがどんどん世界中で作られているということを感じます。是非、今後もそういうアニメーションに注目して観たり、作ったりしていただけるとアニメーションの世界が活性化するのかなと思ってます。今日はどうもありがとうございました。
加 このフェスティバルが池袋に移ってから3年目で、これからどんどん周知されて、是非多くの方にこのフェスティバルで色々な作品に触れていただけるよう、少しでも何かお役に立てればと思ってます。ありがとうございました。
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