[cf_cinema format=1 text=” 靴下を食べる妖精だか妖怪が主人公というかなりイカれた企画だけど、ちゃんと観れるものになってる。しかも妖精なのにやってることはマフィアの抗争!っていうか実質ヤクザ映画だよこれ笑 3DCG自体はわりとオーソドックスなんだけど、演出が意外にも細かい。ハッとさせられたのが、アバンタイトルでビッグボスたちがデパートだかスーパーに押し入る場面。石で監視カメラを壊すのは定番だと思うんですけど、ちゃんとその後にカメラの向きを変えるという念のいった描写が!地味だけど、細かい。まあこいつら普通の人間の目には見えないんですが。「独り身の変わり者」には見えてしまうという、怒られが発生しそうな設定なので、一応用心してるんですね。日本だと4人に1人くらいは見えちゃいそうですけど笑 普通の妖精だったら「子供だけに見える」というふうにやりそうなところですが、なんかひねくれているというかなんというか…。さっき書いたようにやってることは完全に『仁義なき戦い』なので、大人がターゲットなんですかね?そのあたりもよくわからない。この絵柄なのにナイフやカミソリは飛び出るわ死人は出るわ…(水に落ちると死ぬ)。後半、物語の舞台が狭い範囲の3箇所に別れて展開するんですけど、このあたりの込み入った感じのシナリオは非常に良かったですね。オッドソックを探すキチガイ教授と共闘関係になる展開はベタだけど、ぐっと来ます。その後の大団円も爽やかで良い。独り身のオッドソックイーター、そして変わり者の教授が家族を得るという話でもあります。劇中で繰り返し言われる「片方の靴下はオッドソックイーターに、もう片方は人間に」というシェアの精神が彼らの行動を律しているところも面白かったんですが、人間的視点から言うと片方残されても迷惑なんだよなあ…。”]

選考委員解説(藤津亮太さん、本郷みつる監督、叶精二さん(モデレーター))


!notice!

トークの内容につきましては、その場で速記してまとめています。事実誤認、不適当な記述などございましたらご連絡ください。対応させていただきます。

靴下を食べる妖精というアイデアはどこから来た?

叶 司会の叶精二と申します。今日もよろしくお願いいたします。『オッド・ソック・イーター』、非常に独創的で面白い作品だったと思います。解説とか作品の選考理由などを一次審査に当たられた審査員の方にお伺いしたいと思います。それではご登壇いただきたいと思います。本郷みつる監督と藤津亮太さんです。(会場拍手)

本 皆さん、こんにちわ。アニメの演出をやっている本郷みつるといいます。この作品(『オッド・ソック・イーター』)は私も一票を入れさせていただきました。非常に独創的な作品で、ここで選んでおかない日本で観られる機会が無いんじゃないかと思ったので選ばさせていただきました。よろしくお願いします。

藤 アニメ評論家の藤津亮太です。今、本郷さんおっしゃいましたけど、非常にユニークな作品ですね。よろしくお願いします。

叶 非常にデザインとかお話の着想とかも独創的ですよね。屋根裏に何かが住んでいるっていうのは、ヨーロッパの児童文学とか、日本でも『借りぐらしのアリエッティ』1とかありましたけど、でも靴下の片方だけを食べるという発想が非常に面白いと思います。今回の長編のコンペティションで最終選考に残った8本の中でもかなり変わったオリジナリティあふれる、デザイン的にも内容的にも面白い、際立った作品かなあと思ったりもしたんですが、他の作品とのコントラストというのは、審査の時にどうだったんでしょうか。

本 本当に独創的というか、自分も個人的にアニメーションを観るのは好きで、海外の作品も色々観てるんですけど、CGでこの世界観もそうですし、今日、この大画面で観て気づいたんですが、ものすごく細かいところまで作り込んでありますよね。街並みとか。それが古めかしくなってる、ちょっと汚い感じっていうんですか、汚しみたいな。あんまり3Dで作ろうとしてこなかった、むしろ手作りのアニメーションでやっていたような味わいがありますよね。で、靴下を食べるっていう。片方だけ食べるんだーっていうしきたりもあったりとか、発酵した靴下はより最高であるとか…(笑)。僕、実はみなさんと同じ(パンフレットの)情報しかないんですけど、選考した時は絶対これおじさんが作ってると思ってたんですね。ところが女性監督だというのが一番驚いた点で、フェティシズムみたいのをすごくよくわかってる監督だなあ、と思いました。

藤 水物って言うと変なんですが、おもしろいキャラクターって作ろうとして作れるものではないと思うんですよね。そういう意味では、この作品はキャラクターを作ることに成功していて、見たことないキャラクターなんだけれど、靴下が片方無くなった経験はみんなあるので、あーわかるって感じなんですよね。ちょっと調べてみたんですけど、チェコの方に靴下を片方食べる妖精がいるというわけでもないようなので、たぶん日常の中から発想したんだと思います。ただ、それを調べていく過程でわかったんですけど、チェコの人にアンケートを取ったら44%の人が妖精とかの存在を信じてる。神様を信じてるって答えたのが37%。そういう意味では、チェコの国民性のある種の反映なのかなあ、というのはちょっと思いました。なので、そういうベースとなる文化のようなものと、日常のあるあるから生まれたものが上手くクロスすることで他にはないユニークなキャラクターが生まれているのが第一印象で、そこですでに半歩抜けてる、という印象がありました。

叶 チェコの伝統みたいなことで言うと、例えばチェコで初めてアニメーションをお作りになったというヘルミーナ・ティールロヴァー2ていう人なんかは、洗濯物、靴下とかハンカチとかそういうものをずっと細かく動かしていて、『結んだハンカチ』3という作品ではハンカチと子供と共演させるなんてことをやっていますし、イジー・バルタ4という人も洗濯物が絡み合うラブシーンみたいなものを作ったりシていて、そういうものに対する愛情とか熱意というものが我々とは違うものがあるのかな、と感じたりもしました。もともと、無生物が動き回ってファンタジックな世界を作り出す、それがアニメーションの本質的なところでもあるので、それは実現されているのかなと思うんですけど、やっぱりキャラクターの目の位置だったりとか、口を靴下のゴムのところの形にしたりとか、それをキャラクターにするというのが面白いですよね。しかも日本的な意味で言うと派手でキャッチーなグッズが作れるようなキャラクターにならないというのが面白いところだと思うんですけど、いかがでしょう?

本 でも数年後に日本で大ヒットしてグッズがいっぱい出ている可能性もあると思うんですよね(笑)非常に独創性がある。似たものを観たことがない。キャラクターもCGなんですけど、それこそ全員が布の素材感があって、「縛るぞー!」と言うと手を本当に自分の手で縛られてるとか、非常に独創的。あと最初にスーパーに押し入る時の手口の巧妙さ、あれはすごいですね。他のシーンもそうなんですけど、それぞれのシーンのカットの積み方とかリアルさはちょっと他のアニメでは観られないような丁寧な描写をしているし、組織とか抗争とか、絵面は漫画なんですけど、人間ドラマはすごくリアルな感じがして、この監督のこれからの作品も観たいなって思いましたね。

妖精版『仁義なき戦い』!

藤 僕、逆に本郷さんにうかがってみたいなと思ったのは、跳ね橋を使ったアクション、渡る渡らないというのが何回か繰り返されますけど、ああいう小道具ってやっぱり演出家を刺激するというか、面白く見せてやろうという意欲を掻き立てるものなんでしょうか?

本 一つ言えるのはあれはシナリオではないと思うんですよね。ああいう跳ね橋のアイデアが出てきた時に、それをどう小道具として使うかというのは、絵コンテとかで膨らませていく部分なので、あれはだから映像ならではの面白さだと思うんですよね。漫画や文章だとそんなに面白くないんですけど、だからこの作品はアニメーション的な、映像ならではの面白さをふんだんに詰め込んでるとは思います。

藤 僕も通して観ると、そういうアクションの工夫が大きい作品だなあと思います。

叶 全編アクションという感じですよね。

藤 その中で、水に落ちたらダメっていうルールがあるのも効いてると思うんですよね。で、主人公だけ何故?っていう。ベビーオイルのオチがしっかり効いていて、ここは伏線だったのか、という感じになりました。

叶 シナリオも確かに面白くて、『仁義なき戦い』5じゃないですけど、マフィアの暴走みたいなものをこれだけアクションてんこ盛りで、しかもロングショットが多い。小さなキャラクターたちがわーっと全編動き回ってるので、カメラも非常に低い位置にあったり、人間との対比も表現しなきゃいけないからどうしても引いた画が多くなったりして、画作りとしては難しいカットが多いんですけど、動き回ってるキャラクターは派手なわけでもないので、街に溶け込んでなければいけないというような作り方とかとても面白いなあと思ったんですよね。くすんだ感じの抑えた色調とかも。

本 そうですね。そういうことが上手くコントロールされていて、世界観の構築が非常に上手くいっていますね。今日、劇場で初めて発見したんですけど、双子のキャラが被ってるニット帽に「愛」っていう字が付いてて、これは劇場で観ないと発見できないと思うので、今日は皆さんと一緒にその発見を共有できたのは本当に良かったです(笑)

叶 いいですよね、あれ。ちょっと日本に目配せがあるのかな、って。

本 CGで作ってますから、偶然買ってきた帽子をかぶってるわけじゃないと思うので、たぶん日本に対するちょっとした目配せなんじゃないかな、と思いますね。

叶 あと面白いなあと思ったのは、車の質感ですね。ピクサーが『カーズ』6を作って以来、本当に照り返しのテカテカの車ばっかりなんですよね、3DCGって。理想的なメカニックボディーのようなものを追求していた感じがするんですが、この作品の車はみんなマットペイントをほどこしたようなボディーで、横にストライプが入ってるような感じの内装、あれ面白いですよね。なんか作り物の車みたいな。あえてそういうふうにしている感じもして。

本 CGなので、全部そうしてるんですよね。あの車のデザインも含めて、この物語を描くための世界観の構築がすごく上手くいっていると思いました。

藤 あと若干今の話と外れちゃうんですけど、ストーリーで、この設定だったらこうなりそうだな、と思った通りに行かないんですよね。普通だったらあの教授とのドラマになるのかなと考えるんですけど、どちらかというと彼ら(オッド・ソック・イーター)のお話で進行していていますよね。しかも後半、場所が3箇所で並行して進んでいって、それが大団円になだれ込むっていう、結構複雑な作りをしていて、少し複雑になることで飽きずに観られるのは面白いですよね。

本 そして、かわいいキャラなんですけど、全編暴力なんですよね(会場笑)ナイフは飛び出すわ、女子キャラもカミソリは出すわ。本来、やらない方向ですよね。この作品はもう何が飛び出すか本当にわからない。双子キャラがそっくりだというのも、あそこまで引っ張るとは思わなかったですし、全てが意表を突く作品で非常に楽しめました。

藤 そうなんですよ、双子キャラも出落ちというか、キャラクターを面白く見せるだけかと思ったら、お話の中でちゃんと複雑に絡んでくるので、そこも面白いところですよね。

叶 パーティーみたいなものを組んで動いていくような作品だと、主人公とヒロインをメインに映しがちだと思うんですけど、それぞれみんな活躍しますよね。それぞれのキャラクターを活かすためにサイドストーリーがちゃんと用意されていて、それを上手く裁いている思います。難しいことをやってるなあ、と。プロフェッショナルな方々から見ても、だいぶ工夫を凝らした作品であるということが言えるのかなあと思いました。

本 似たものが無いっていうか、『オッド・ソック・イーター』ってなにかの影響を受けてるねっていうのが言えないというか…。強いていうと、(北野)武映画とかがあるのかなあと思いましたけど。

叶 ああ、いきなり暴力がパーンと出て…。アクションもパーンって出てっていう。

本 あの○○の○○7は結局死んじゃったんですよねえ(笑)

叶 それも結構救いがないですからね。平然とやってますよね。ファンタジーの割に過酷なところが…。

Q&A

叶 せっかくですから会場の方から質問とかおありになれば、審査員の方にお答え頂きたいなと思います。

Q 今回、審査するにあたって、どういうところに着目して審査をされたかを聞きたいです。

本 私は日本で今後観る機会が無くて、一緒に体験を楽しめるような作品を選びました。

藤 僕はユニークさというか、十数本ある中で他のものに似てないもの、すごく個性が際立っているものを選びました。それが一発芸とかではなくて、ちゃんと作品の根幹になっているものを選んでいって、実際、今回の4本はわりとそれに合っているものが選ばれたかな、というのが僕の印象です。

叶 それぞれ全く違う傾向の作品ですよね。技術も内容も作り方もデザインも…。逆に伺いたかったんですが、このTAAFのコンペティションの長編部門て久しく日本の作品がノミネートされていないんですけど、今回は日本の作品もあったんですか?

本 無かったと思います。

叶 最初からオミットされていたと。

本 僕、今年始めてこの審査をやったので、今までのは全く知らないんですが、今年に関しては日本の作品は無かったです。

叶 まあレギュレーションとかもあると思うんですけども…。

本 日本で大ヒットした作品をここで上映するっていう必要は無いかなと、僕も思います。東京で世界の長編アニメを観られる機会ってなかなか無いので、今回は選ぶ側でしたけど、やっぱり非常に楽しい企画なんじゃないかと思いますね。

藤 僕も今回が初めてなので、どういう趣旨かというのを完全に理解しているわけではないんですけど、基本的には世界のユニークなアニメーションを選びましょう、というのが(候補作の)18本を観た時の印象だったので、そこはたぶん、事務局さんがそういう主張なのかなと思いました。

叶 長編をコンペティションという形で審査するというのは日本の映画祭ではあまりないんですよね。短編はいろんな映画祭で結構あるんですけど。そういう意味では非常に貴重な機会で、それをこういうちゃんとした劇場のスクリーンで観られるというのは、いろいろと発見もありますね。(上映作は)僕も事前に観せていただいてるんですけど、モニターで観るのとスクリーンで観るのとでは全然違う作品に見えるんですよね。奥行きであるとか、色使いであるとか…。モニターだと、どうしても薄っぺらいというか、色もコントラストがきつく見えてしまったり、世界が平板に見えてしまったりとかするんですけど、やっぱり劇場で観れるのはいいなあ、と思いますね。

本 いいですよねえ。歌ったり踊ったりするのを観るのは映画館が一番じゃないですかね。

叶 特に見ごたえのある画とかは細部まで見れますし。

Q ジブリの作品とかと比較しちゃうんですけど、オリジナルストーリーテリングはすごかったんですが、画面が暗い色調が全体の90分の中で多い気がしてちょっと飽きてくる感じがしました。例えば『借りぐらしのアリエッティ』だったら自然の色とか家の色とかのバランスが良いと思うんですけど、そのあたりは先生方はどのように感じられたんでしょうか。

叶 特に色調とかライティングに関してですね。

本 これはどういう視点を持つかってことなんですね。アニメーションは基本的には全部打ち込んでコントロールするんですが、変えるのがいいかどうかってことなんです。例えば我々の日常の色味ってそんなに大きく変化しないじゃないですか。それをやることによってリアルさが出てくるので、明るく見やすいようにする。暗いところは暗くして見えないようにする。一種の決まりごとで作るんですね。それで、見る側もそれをわかってるから、それが見やすいということになっていって、それが長く歴史として続くと、みんなそうなるわけです。だから、深夜のアニメを観ると、みんなが見やすいように同じようなキャラが同じようなことをしている。そういう風に作られていくんです。なので、それは良い悪いではなく、そうであるということなんです。で、この作品は全くその影響を受けてない。むしろ、そういう世界の中でオッド・ソック・イーターが生きてますよ、という構築で言うと、これで正しいと思うんです。確かに長編の場合だと、そういう飽きてくるという問題があるんですけど、見やすくするというのはまたその監督の判断だと思うので、この作品に関してはこれで全く正しいと思うんです。私の意見ですけども。

藤 僕も最初に観た時の印象として、キャラクターはユニークだけど、色味が地味だなあ、とも思ったんです。で、じゃあ、これがカラフルな赤とか黄色とか青みたいなキャラクターであの質感だったらどうなるだろうか、と考えたんですけど、いわゆるピクサーっぽいCG作品って今回何本もエントリーしていたんですね。そうすると、やっぱりそちらの平均的な方に近づいちゃうなと思ったんです。この作品は結果的に地味さとキャラクターのキモかわいさみたいなものが合わさって強い印象になっているので、出来上がった作品を観た時に、ここをこうすればよかったのにというのは結構難しい感じだなと思いました。(コンペティションの)他の作品はわかりやすいキャラクターとわかりやすいストーリーが多くて、それはそれでまとまっていて面白いんですけど、逆に言うと世界でよく観られているタイプの作品に似ているものもあるわけです。そういうことを考えると、この作品の推した理由の「ユニークさ」というものが減ずることになってしまうという気がします。難しいところだとは思うんですけど、今回はそこが大きい欠点であるとは取らなかった、ということですね。

叶 本当に先生方のお話は勉強になるなと思うんですけど、僕も結構ジブリの方に取材に行ってるものですから、言わせていただくと、「アリエッティ」なんかはジブリの中でもけっこう特殊な作品というか、そんなに色数が多い方ではないんです。『火垂るの墓』とか、『となりのトトロ』が作られた時は「なんでこんなに色を増やすの」っていうくらい、それまでアニメーションでは全然使われなかった色をいっぱい作ったんですよね。むしろ地味と言われていたんです。キャラクターは必ず原色じゃなくちゃいけない、とか言われていた時代でしたから。ジブリの色彩設計をやっていた保田道世さん8にお話を伺ったら「トトロは全部地味だから、サツキとメイだけは原色に近い色を着せて」という形で、際立たせないと作品が成立するか不安だったっておっしゃってましたけど、それも先人の方々が築き上げてこられたものなんですよね。僕らもそれらをリアルタイムで観てたから、こういう風にアニメーションってもっと色が豊かでも良いんだと思ってきてて。でも、全く違う歴史を持ってる国の作品もあるわけですよ。チェコにはチェコの歴史があって、ずーっとこんな感じのくすんだ色調のものがたくさん作られてるので、チェコらしい、チェコカラーというのもあると思うし、それはフランスにもドイツにもイギリスにもアメリカにもあると思うんですよね。色々な国のアニメーションを僕らはあんまり見ていないので、それに対するリテラシーが僕も含めてまだ育っていないと思うんです。だからこういう場所で、色々な国の色々な作品を観ると、可愛らしさやデザインや考え方や色使いなんかも全然違う。その驚きとか面白さというものに慣れていけると良いなあ、そういう機会がもっとあると良いなあと思います。

藤 作品単体を観て、これは上手くまとまってるということはわかるんですが、それが成立した文脈のようなものは外国の場合は理解がしにくいというか、体系的に捉えられる国には限度がありますよね。そういう意味でも、単発でもいいから紹介されていくことによって、色々な国にそれぞれの文脈があるということが分かると良いと思います。僕自身もそういうものを知りたいという気持ちがありますので。

本 僕も色々な国の作品が見られると良いなあと思いました。今回思ったのは、世界中のCGアニメを観ると、どこの作品もレベルが高いんですよね。審査の時は実は英字幕だったんですが、今回、日本語字幕で観ることでお話がわかって、より楽しめました。

叶 3DのCGで長編を作るというのは、制作面では分業がしやすいとか、様々な利点もあって、今では世界中で作られるようになっていますけど、20年前はアメリカとか極一部の国でしかできなかったわけです。それが世界中で作られるようになって、アメリカとは全然違う方向のものがどんどん出来てきたのがとても面白いと思うんです。日本も3Dの使い方がアメリカと全く違うと思いますし、そういう意味では色々な可能性を様々な長編から感じられるのは素敵だなあと思います。

Q 今回、4本選ばれた中で、人間ドラマが2本と人外のドラマが2本( 人外(笑))あったと思うんですけど、全体的な割合はどんな感じだったんでしょうか。

叶 それは18本の中でということでしょうか。

Q 海外は人外が主人公になっている作品が多い傾向があるのかな、って思うんですが…。

藤 18本のうちで、3DCG作品はいわゆる人外っぽいものが多かったかな。そういう印象はありますね。ただ、残りが人間ドラマかというとちょっと違っていて、アニメーション的な面白さを追求したものもありました。ただ、3DCGとなると、ピクサーとかディズニーの影響力は強いなあという印象はありますね。生身の人間のものもありますけど、そうでないものが一定数あります。

叶 やっぱりピクサーの影響力って絶大で、もう一本ある『キコリキ』なんかも目の描き方とかピクサーの描いてる目の描き方を継承している感じはするんですよね。逆にこの『オッド・ソック・イーター』は目も独特の瞳孔を描いてて、そういうところまで細かく凝ってるな、と思いました。

本 この作品は、このあとも似たような作品が増えないってことは間違いないと思いますね(笑)

NOTES

  1. (2010年)米林宏昌監督。
  2. (1900-93年)チェコのアニメーション監督。1926年にチェコ初のアニメーション作品『恋する河童』(夫であるカレル・ドダルとの共作)を制作。1946年の『おもちゃの反乱』はヴェネツィア国際映画祭の子供向け部門でグランプリを獲得した。
  3. 1958年。
  4. (1948年11月26日-)カンヌ映画祭にも出品された『笛吹き男』(1986年)あたりが代表作かな。
  5. (1973年)深作欣二監督。言わずとしれた東映実録路線の金字塔。
  6. (2006年)ジョン・ラセター/ジョン・ランフト監督。
  7. ネタバレなので一応伏せときます
  8. (1939年4月28日-2016年10月5日)。東映動画からジブリへ。トップクラフト制作の『風の谷のナウシカ』から2013年の『風立ちぬ』までスタジオジブリのほとんどの劇場作品の色彩設計を担当。柴口育子「アニメーションの色職人」(1997年、徳間書店刊)に詳しい。