映画レビュー

【レビュー】「ワタクシノモノガタリ」カナダフォーカス⑤【TAAF2015】

投稿日:2015年3月21日 更新日:


 「TAAF2015」、2日目の3月20日(金)は「カナダフォーカス⑤ワタクシノモノガタリ」。カナダ国立映画制作庁による短編アニメーションの特集です。テーマは「個人史」ということで、絵画でいうところの「自画像」のようなものでしょうか。個人的記憶やその人自身のルーツといったものにまつわる作品群。タッチもポップなものからアーティスティックなものまで多様な作品を見ることが出来ました。

リンク 「ワタクシノモノガタリ」カナダフォーカス⑤|TAAF2015

カナダ国立映画制作庁について

 カナダ国立映画制作庁(National Film Board of Canada: NFBC)はモントリオールにある国立の映画制作スタジオです。設立されたのは1939年。映画大国であるアメリカの隣ということもあり、短編アニメーションとドキュメンタリーを集中的に制作しています。

 特徴的なのは、分業制を主体とするアニメーション制作の現場において、作家主義色の強い小規模の作品を伝統的に作っていることにあります。今回の特集上映においても、CGを多用したものから油彩アニメーションまで多様な表現形式がありました。

 また、公式サイト上ではほぼ全ての作品が視聴可能となっています。

リンク National Film Board of Canada(公式)

「ワククシノモノガタリ」全6作品+α

Torill Kove『My Grandmother Ironed the King’s Shirts』

 トーリル・コーヴェ(Torill Kove)監督(1958-)はノルウェー出身の女性アニメーション作家。アニメーション制作を始めたのは30代になってからで、それまではコンコルディア大学で都市計画学を学んでいたという異色の経歴の持ち主です。今回上映された『My Grandmother Ironed the King’s Shirts』、『The Danish Poet』はどちらもアカデミー賞短編アニメーション部門にノミネートされた作品。最新作となる『Me and My Moulton』も、2014年のトロント国際映画祭でプレミア上映され、今年のアカデミー賞にもノミネートされています。

リンク [参考] アカデミー賞候補にTorill Koveのアニメ短編映画「Me and My Moulton 」|駐日ノルウェー王国大使館

 『My Grandmother Ironed the King’s Shirts』(王様のシャツにアイロンをかけたのは私のおばあちゃん)は彼女の祖母の実体験に取材した作品。タイトル通り、20世紀の前半世紀、ノルウェーの君主であったホーコン7世のシャツのアイロンがけをすることになったおばあちゃんのお話です。寺村輝夫さんの「ぼくは王さま」シリーズを彷彿とさせる絵本タッチの柔らかい絵柄で、ホーコン7世の即位からナチスの侵攻、そしてレジスタンス活動と王の帰還にいたるまでの怒涛の半世紀を10分間に詰め込んだテンポの良さ。凄惨な場面も柔らかく。あのキュートなレジスタンスたちは本当の出来事なのか、タッチとマッチしていてとても良かったですね。突拍子もないところからテーマ(ワタクシノモノガタリ)に着地するストーリーも面白い。

My Grandmother Ironed the King’s Shirts by Torill Kove, National Film Board of Canada

基本情報

監督・脚本・アニメーション:トーリル・コーヴェ(Torill Kove)
ナレーション:マグ・ラフマン(Mag Ruffman)
音楽:ケヴィン・ディーン(Kevin Dean)
上映時間:10分3秒
制作年:1999年

リンク 『My Grandmother Ironed the King’s Shirts』紹介ページ|NFBC

Torill Kove『The Danish Poet』

 2本目も同じくトーリル・コーヴェ監督のアカデミー賞ノミネート作『The Danish Poet』(デンマークの詩人)。『My Grandmother Ironed the King’s Shirts』は祖母の物語でこちらは父母の馴れ初めのお話。直接的なつながりはないのもの、2本立てで見るとトーリル自身の系譜が浮かんでくる。タイトルこそ「デンマークの詩人」だけれども、彼がトーリルの父かというとそういうわけでもなく…。紆余曲折、運命のピタゴラスイッチが楽しい作品。長く伸びすぎた髪のくだりなど、どこまでが真実なのかわからなくもなるけれど、そういうところもとてもアニメーション的ですね。あと犬がかわいい。

The Danish Poet by Torill Kove, National Film Board of Canada

基本情報

監督・脚本:トーリル・コーヴェ(Torill Kove)
アニメーション:トーリル・コーヴェ、アストリッド・アークラ(Astrid Aakra)、ビャルテ・アジェステイン(Bjarte Agdestein)
音楽:ケヴィン・ディーン(Kevin Dean)
ナレーション:リヴ・ウルマン(Liv Ullmann)
上映時間:15分4秒
制作年:2006年

リンク 『The Danish Poet』紹介ページ|NFBC

Anita Lebeau『Louise』

 作家自身の96歳になるベルギー系カナダ人である祖母の一日を追った作品。声もこのおばあちゃん(Marginet)自身のもの。厳密にはおばあちゃんだけではなくて、ハエ(たち)も出演。このハエがクソうるさくて、かつアクセントになっていて良いですね。背景美術とキャラクターのタッチの違い、ばあちゃんの細やかな動きが見どころ。トランプで一人遊びをし、庭の草を豪快に刈り取る。そしてその合間に挟まれるハエとの戦いとタスクリスト。ハエが蝿取り紙に捉えられるバチっという音も印象深い。この作品は、2004年に世界4大アニメ映画祭の一つでもある広島国際アニメーションフェスティバルでヒロシマ賞を受賞したことでも有名ですね。
 アニタ・ルボーはカナダの女流映像作家で実写の短編映画も制作しています。近年の作品は2012年のドキュメンタリー映画である『Art City』。

Louise by Anita Lebeau, National Film Board of Canada

基本情報

監督・脚本:アニタ・ルボー(Anita Lebeau)
アニメーション:アニタ・ルボー、ジェイソン・ドール(Jason Doll)、John Tanasiciuk
出演:Louise Marginet、ロジャー・クリー(Roger Currie
上映時間:9分57秒
制作年:2003年

リンク 『Louise』紹介ページ|NFBC

Martine Chartrand『Black Soul』

 油彩による恐ろしく手間のかかったアニメーション。一コマ一コマを部分的に描き直し、撮影するという気の遠くなるようなプロセスで作られた作品ですが、想像以上に動きます。というより静止している瞬間というものがないかのよう。
 内容的にはハイチ出身の黒人というシャルトランのルーツを反映した「黒人の歴史」。奴隷貿易から黒人文化(ジャズなど)へ至る歴史叙事詩となっています。あるイメージが別のイメージに軽やかに移ろっていく美しさ。特に後半の本を開くと様々な世界が溢れ出るシーンは歴史というものを感じさせるとともに教育というものの重要性を連想します。あ、あと『バッカーノ!』とか『デュラララ』のオープニングっぽい。

Black Soul by Martine Chartrand, National Film Board of Canada

基本情報

監督・脚本・アニメーション:マーティン・シャルトラン(Martine Chartrand)
音楽
ナレーション
上映時間:9分47秒
制作年:2000年

リンク 『Black Soul』紹介ページ|NFBC

Patrick Doyon『Sunday』

 2011年の第84回アカデミー賞で、アカデミー短編アニメ賞にノミネートされたパトリック・ドヨン監督による作品。ある少年(幼少時の監督自身だろう)の目を通して語られるある地方都市の日曜日の情景。どこか日本のマンガを思わせるような独特のタッチの絵が面白いですね。子どもの目、ということでただの列車が怪物的な巨大感をもって描かれたり、熊の剥製が裏から見ると本物のように(アニメの中では本物さながらに動きまわるのですが)映るのも、この生意気な男の子の頭のなかを覗いているかのよう。微妙に色が付けられた空のテクスチャが好きです。

Sunday by Patrick Doyon, National Film Board of Canada

基本情報

監督・脚本・アニメーション:パトリック・ドヨン(Patrick Doyon)
音楽:ルイージ・アレマーノ(Luigi Allemano)
上映時間:9分50秒
制作年:2011年

リンク 『Sunday』紹介ページ|NFBC

Anita Lebeau『Big Drive』

 こちらもアニタ・ルボーによる2011年の作品。『銀河鉄道999』の「C62の反乱」を思い起こさせる退屈すぎる前半パートから、4姉妹のイマジネーションが爆発する後半へのシームレスな遷移が実に楽しい。ドライブの終端で箱庭がストンと終わるのも、夢から醒める瞬間のようでいいですね。ちょっとモダンなデザインのキャラクターと実写っぽい車、CGの箱庭、といろいろなテイストの表現が混在しているのも面白いところ。

Big Drive by Anita Lebeau, National Film Board of Canada

基本情報

監督・脚本:アニタ・ルボー
アニメーション:アニタ・ルボー、クリス・カミアー(Chris Cormier)
音楽:ダン・フレシェット(Dan Frechette)
出演:Nathalie Daudet、Emma Collins、Annie Rose Daudet、Maggie Collins、アニタ・ルボー
上映時間:9分17秒
制作年:2011年

リンク 『Big Drive』紹介ページ|NFBC

山村浩二『マイブリッジの糸(Muybridge’s Strings)』

 『頭山』でお馴染みの山村浩二さんとNFBCとの共同制作。「マイブリッジの糸」とは写真家のエドワード・マイブリッジが1878年に馬の疾走する動きを撮影するために考案した装置で、等間隔に置かれたカメラのシャッターを、馬の動きに合わせて切るというものです。世界ではじめて走る馬の連続写真が撮られた、アニメーション史的に非常に重要な出来事です。
 物語はこのマイブリッジの数奇な人生、例えばこの糸の発明や殺人事件などと現代の日本に生きる母娘を対比させ、さながら二重らせんのごとく紡いでいくのですが、正直自分にはちょっとわかりづらいところもありました。とはいえ、抑えられた色彩、微妙に揺らぐ手描きの線、そしてなによりその動きに圧倒されます。まさにアニメーション的な作品。

Muybridge’s Strings by Koji Yamamura, National Film Board of Canada

基本情報

監督・脚本・アニメーション:山村浩二
音楽:ノーマン・ロジェ(Normand Roger)、ピエール・イヴ・ドラポー(Pierre Yves Drapeau)、デニス・シャルトラン(Denis Chartrand)
上映時間:12分39秒
制作年:2011年

リンク 『マイブリッジの糸』紹介ページ|NFBC

イベント概要

イベント名「ワタクシノモノガタリ」カナダフォーカス⑤
日時2015年3月20日19:00 - 20:30
会場TOHOシネマズ日本橋
料金一般:1,000円 学生:800円

関連コンテンツとスポンサードリンク

-映画レビュー

執筆者:


comment

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

関連記事

【映画レビュー】『ゾンビマックス! 怒りのデス・ゾンビ』:輸血袋?こっちは「給油袋」だぜ!

「マッド・マックス」の本場オーストラリアからやってきた痛快ゾンビ映画。タイトルからして『マッド・マックス 怒りのデスロード』の丸パクかとおもいきや、思いのほかちゃんとしてる!ゾンビが「資源」となってしまった世界で生き残りをかける人々!

no image

【映画レビュー&レポート】『息の跡』:3.11後の世界を生きる。

小森はるか監督による震災ドキュメンタリー映画『息の跡』のレビューです。震災後の世界を力強く生きる一人の男性を映し続けた、他のドキュメンタリーとは一線を画する作品です。関東最速上映の2016年3月10日新文芸坐にて。小森はるか監督と映画評論家・三浦哲哉さんのトークショーの覚書もあります。

『パディントン2』すでに年間ベスト入り確定!!【2018年1月に観た映画感想レビューまとめ/全14本】

ライフログ的なやつはじめました。2018年1月に観た映画(新作・映画祭・特別上映etc)の感想まとめです。今月のベストは『パディントン2』、そしてまさかの『中二病でも恋がしたい! Take on me!』でした。

【映画レビュー】『そこのみにて光輝く』

呉美保監督の映画『そこのみにて光輝く』のレビューです。どうしようもなく憂鬱な映画ですが、不思議と心に残ります。出演:綾野剛、池脇千鶴、菅田将暉ほか。

「原爆ドーム」を超えて。映画『この世界の片隅に』がつなぐもの。【ネタバレなしレビュー&考察】

片渕須直監督、主演のんによる映画『この世界の片隅に』のネタバレなしレビュー&考察。戦時中の人々の「日常」を綴ることで、何を表現したのか?2016年のベスト映画です。片渕監督の過去作である『アリーテ姫』との関連にも触れています。

search