映画レビュー

【映画レビュー】踊りだしたくなる映画!『シング・ストリート 未来へのうた』

投稿日:2016年9月23日 更新日:


あらすじ

 1980年台の大不況にあえぐアイルランドの首都ダブリン。父親が失業したことから14歳のコナー(フェルディア・ウォルシュ=ピーロ)は荒れ果てたクソ公立高校シング・ストリートに転校させられてしまう。学校の連中からはのけ者にされ、両親は毎夜喧嘩を繰り返し家庭は崩壊寸前。味気ない日々を送るコナーだったが、ある日学校の前で見かけたラフィーナ(ルーシー・ボーイントン)に一目惚れ。なんとか話すきっかけを作ろうと、彼は彼女を主役にしたPV制作を持ちかける。かくして、特に音楽に秀でたわけでもないコナーはバンド結成へと乗り出すのだった。

ライブハウスにやってきた気分!

 ジョン・カーニー監督の前作『はじまりのうた』(2013年)は一人の中年男が音楽を通して人生の再起を計る映画だったが、本作の主人公は十代の後半を生きる若者。そして、ド直球の青春映画だ。

 何より素晴らしいのが、主演のフェルディア・ウォルシュ=ピーロのみずみずしさ。荒れ果てたシング・ストリート中学に入学した直後のやさぐれた雰囲気、ルーシー・ボーイントン演ずるヒロイン、ラフィーナをなんとか口説こうとする必死さ、そしてその時々の曲の好みに合わせて外見がコロコロと変わるのがいかにも移り気な中学生らしくて可愛らしい。対するラフィーナは彼と1歳違いなのに大人びた雰囲気がバリバリまとわりついていて、一見すると姉と弟のようなカップルなのだけれど、しだいに青年らしくなっていくコナーの成長も見ていて楽しい。

 音楽をテーマにした映画なので当然といえばそうなのだが、劇中曲はどれも素晴らしい。自分は音楽というものに全く疎いので80年台のブリティッシュサウンドと言われてもさっぱりなのだけれど、とにかく観終わって0.5秒ほどでサントラをポチってしまったほど1。特に良かったのが、最初の手作りPVを作るときの”リドル・オブ・ザ・モデル”と、クソ校長(ドン・ウィチャリー)がノリノリのキャラで登場するのが超楽しい”ドライブ・イット・ライク・ユー”。そして最後にその校長をボコボコにする”ブラウン・シューズ”!『はじまりのうた』でもそうだったように、どの曲の歌詞も、彼らの生きている現実に寄り添っているところがとてもいい。何より、ライブ会場に来ているかのような臨場感があって、さすがこのあたりはPV出身のジョン・カーニー監督という感じだ。映画館にいるのに、思わず身体を動かしたくなってくる高揚感。

『はじまりのうた』の前日譚のような映画

 それにしても、この映画では前作である『はじまりのうた』の影がそこかしこでちらつく。コナーが最初に出会うバンド仲間のダーレン(ベン・キャロラン)は楽器でもボーカルでもなく「マネージャー」という役職(自称「校内コンサルタント」というのがまた面白い)だし、前半でコナーを虐めていたバリー(イアン・ケニー)がのちにローディーとして加入するあたりも、バンド運営の裏方に対する目配りがある。ついでに言うと、このバリーを勧誘する際に彼の家庭の状況をさり気なく映していくあたりもにくい。

 『はじまりのうた』はロンドンから出てきたグレタ(キーラ・ナイトレイ)がニューヨークで生きていくことを選んでいく映画だが、「シング・ストリート」は二人の若者がアイルランドからロンドンへと渡るまでを描いた映画だ。閉塞感の中で、音楽を頼りに次のステップに進んでいくあたりは共通しているし、あたかもこの映画は『はじまりのうた』の前日譚のようにも見えてくる。

アイルランドを飛び出して

 この映画の背景には不況に翻弄されるアイルランドがあり、学級崩壊と暴力教師が横行するマッドマックス的ハイスクールがあり、そして夫婦の不和に揺れる家庭がある。コナーの周りには3重の壁があり、閉塞感が支配している世界だ。一見華やかなヒロインのラフィーナにしても、実は孤児院で暮らしていることが中盤で判明する。

 コナーがバンド結成とPV作成に向かう動機は、当初のラフィーナと仲良くなるというものから音楽を通してこの閉塞感を打開していく方向へと向かっていく。プロムでのライブでそれまで学校を支配していた校長をこき下ろす「ブラウンシューズ」は圧巻の一言。そしてコナーを影から支えていた兄ブレンダン(ジャック・レイナー)の、荒々しくも粋なアドバイスによって二人は未来へと向かっていく。

 物語は、ボートでロンドンへと向かうコナーとラフィーナの姿で幕を閉じる。いつか二人が島へと渡った日とはうって変わって、荒れ狂う海原が若い二人の前に広がる。向かう先には何が待っているのか。自分たちの音楽だけを携えて、国家や学校、家庭から彼らは軽やかに脱出する。青春を生きるものの一瞬がまばゆく輝く瞬間。ずぶぬれになりながらも満面の笑みを浮かべる二人を、少し、羨ましくも思う。

基本情報

シング・ストリート 未来へのうた  Sing Street102 min

監督:ジョン・カーニー

音楽:ベッキー・ベンサム

脚本:ジョン・カーニー

撮影:ヤーロン・オーバック

出演:フェルディア・ウォルシュ=ピーロ/ルーシー・ボーイントン/マリア・ドイル・ケネディ/エイダン・ギレン/ジャック・レイナー/ケリー・ソーントン

公式サイトhttp://gaga.ne.jp/singstreet/

関連商品

 サントラ、即買いました!!!

NOTES

  1. ただ、単品で聞いてもいいんだけど、やっぱり映画のあの雰囲気が価値を10倍くらいにしている気はする。

関連コンテンツとスポンサードリンク

-映画レビュー

執筆者:


comment

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

関連記事

『リズと青い鳥』を観て!【2018年4月に観た映画感想レビューまとめ/全13本】

2018年4月に観た映画の覚書です。MVPは山田尚子監督の新作『リズと青い鳥』。スピルバーグ監督の『レディプレイヤー1』も順当に良かった。あと『クレヨンしんちゃん 爆盛!カンフーボーイズ〜拉麺大乱〜 』も予想外に傑作でしたね。全13本(プログラム)。

【映画レビュー】『LUPIN THE IIIRD 血煙の石川五ェ門』:あ!五ェ門が生ハムになった!【ネタバレなし】

映画『LUPIN THE IIIRD 血煙の石川五ェ門』のレビューです。敵がほんとに『アルプスの少女ハイジ』なんですよ!そしてめっちゃ強いの。あと見終わったあとに生ハム食べたくなる。

【映画レビュー】『貞子vs伽椰子』:にじみでる白石イズム

白石晃士監督による映画『貞子vs伽椰子』のネタバレ無しレビューです。『リング』・『呪怨』の設定を引き継ぎつつも、白石イズムあふれる傑作Jホラーです。これまでの「コワすぎ」シリーズなどと比べると笑い抑えめ怖さマシマシですが、最後はやっぱり衝撃的!

【映画レビュー】『幕が上がる』:「どこでもない、どこか」へ。

青春の向こう側へ  『幕が上がる』は、端的に言ってしまえば「直球ド真ん中の青春映画」だ。  さおり(百田夏菜子)、ゆっこ(玉井詩織)、がるる(高城れに)らの弱小演劇部。なんとなくの部活動をしていた彼女 …

【レポート/レビュー】記録映画『飄々~拝啓、大塚康生様~』&大地丙太郎監督トークショー【TAAF2015】

目次記録映画『飄々~拝啓、大塚康生様~』大地丙太郎監督特別講演「私のなかの東京ムービー」大塚さんとの思い出記憶の中のトムス・エンタテインメント(東京ムービー)トムスの中で影響を受けた作品アニメ業界内で …

search