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【映画レビュー】『死神ターニャ』:ローテンション×ハイテンションな美味しいごはんをめぐる冒険

投稿日:2015年4月10日 更新日:


芹澤興人という素晴らしき俳優!

 この映画は一言で言って「俳優・芹澤興人」を愛でる映画だ。前半(といってもほとんど導入部にすぎないけど)は巻き込まれ型の気弱なチンピラ、後半は妙にローテンションの死神を演じている。死神なのに死神らしくない感じが良い。まあ外見はただのおっさんなのだけど。一目観ると忘れられない強烈なクマ系の風貌に乙女回路が内蔵されているかのようなアンバランスさ。ハンバーグと初対面した時の「うわぁ〜」なんて、その表情(このためにわざわざ1秒くらいのワンカットが入る!)と相まって可愛すぎる。

 そして、この怪優と双璧をなす素晴らしき女優・小堀友里絵!ツイてない女・谷屋(ターニャ)を超ハイテンションで演じる様は圧巻の一言。初見の「食べてませんけど!!」(売り物のトマトを丸かじりしながら)の強烈なインパクトもさることながら、何があっても徹頭徹尾ハイテンションで突っ走る爽快感がたまらない。ちょっと声量大きすぎるだろwと思ってしまうのもご愛嬌。

 この二人の愉快な掛け合いが作品の魅力の9割5分くらいを占めていると言っても過言ではないのだけれど、そこから生み出される数々の名言がまた最高に楽しい。死神初登場時の「地面!地面!」(飛び跳ねる芹澤氏)から、「俺まだハンバーグ食ってねえよ!」、ターニャの「浅いなあ!死神くん!」などなど…。ところ狭しと散りばめられた魅力的な言葉たちがズレた世界観そのものを体現していて、また愛おしい。

死神が美味しいハンバーグを食べるまで

 本編の筋はわりと複雑…というレベルでもないのだけれど、死神が乗り移ったりするので若干ややこしい。仕事をクビになり、彼氏に振られたついてない女・谷屋みゆき/ターニャ(小堀友里絵)。ついてない極めつけに、ついに人を轢いてしまうが、その男・佐々木(芹澤興人)はなぜかピンピンしていて自分を死神だと名乗る。実は人が死んで黄泉の道(どっかの工場の裏手みたいな感じだが黄泉の道なのである)を死後の世界まで歩いて行く間に死神がその魂に触れると現世に蘇ることができるのだ。ただし、復活して2日目の24時までに「涙」を流さなければ、その死神も消滅してしまう…。

 というわけで、ハンバーグを食べてみたい男死神は特に興味もなかった女死神を巻き込んで人間界にやってくる。しかし、乗り移った男・佐々木はチンピラ仲間が人を殺して奪った金を持ち逃げし、狙われている身だった…。一方、女死神はターニャを振った二股クズヒモ男・良太(竹田尚弘)の彼女・ゆき(岡田あがさ)に乗り移っていた。こうして、男死神&ターニャ、女死神&良太という奇妙な2つの同居生活が始まる。

 群像劇らしく、3つの勢力の運命が交差してからがとても面白い。金を持ち逃げされたチンピラたち(松本高士、河嶋健太)が偶然、ターニャの車を盗むところとか。最後の乱闘に近いアクションシーンも、特に岡田あがさのカッコよさが際立っていて盛り上がる。

生きることは食べること

 言うまでもないことだけど、死神がハンバーグを食べる、という当初の目的はあっさりと達成されてしまう。店に行けば食べれるし。そして、自らの存在を確定させる「涙を流す」ことが彼らの目的になっていく。…のだけれど、「どうせクライマックスでだれか適当な登場人物が死んだりして泣くんでしょ?」という、大方の観客が思いつくであろう陳腐な展開とはならない。第一、これまで散々人の死に目に立ち会ってきた死神たちが、ほんの2日間くらい人間と馴れ合ったからといって涙を流すと考えるほうがどうかしてる。このあたり、「死神」という設定が上手く生きている。

 しかして、死神がいかにして人間になるか。この映画の中でその答えは明確に描かれる。それは「生活すること」だ。男死神(芹澤)はターニャの家に転がり込み、女死神は良太となんとなく一緒に過ごす。血まみれの服も着替える。いきおい、2つのカップルを甘苦しい恋愛関係に陥れたくなるが、この映画ではそんな野暮なことはしない。「なんとなく居心地が良いので一緒にいる」という関係のまま、映画は終わる。

 映画の中で、特に重要なのは衣食住の「食」だ。死神の当初の目的であるハンバーグはもちろん、ターニャの作るパスタやうどん、女死神の飲む酒など、どれも美味しそうに食べる描写がなされている。「食べること」を通して、人ならざるものが人になっていくお話としては、最近では水島精二監督の『楽園追放』だろうか。そういえばこの映画のうどんのくだりは『楽園追放』でのあの印象的なシーンを連想する。物語の最後、二人の死神はどちらも涙を流すことに成功して人間となるが、そこでも「食べること」が直接のきっかけとなっている。

 あまり話の本筋に絡まない広子(仁後亜由美)の最期があまりにも不憫すぎるし、あの合鍵の伏線はなんだったのかとか部屋にあったおっさんの死体はどう処理したのかとか、そういう脚本上の細かいところがなんだか気になってしまうところではある。しかし、それを差し引いても「生きること」という命題に対して、「衣食住」というシンプルな答えを提示してくれる、地に足がついた爽やかな映画だ。まあ、死神と入れ替わった連中はみんな死んでるんだけどさ。

基本情報

死神ターニャ  80 min

監督:塩出太志

脚本:塩出太志

撮影:塩出太志/田村専一/佐藤稔浮

出演:芹澤興人/小堀友里絵/岡田あがさ/竹田尚弘/松本高士/河嶋健太/星野祐樹/矢島康美/仁後亜由美/萩原正道/香取剛

上映開始日:2015年3月28日

公式サイトhttp://www.shinigamitanya.com/

公式Twitterhttps://twitter.com/shinigamitanya

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