はじめに

 今月はとりあえ予想外の傑作だった『ファースト・マン』推します!次点で『バジュランギおじさんと小さな迷子』。あまり数が観れなかったなー…。2月は毎年忙しいイメージ。

今月のおすすめ!

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 この映画のニール・アームストロング(ライアン・ゴズリング)は「人類で最初に月面に足跡を刻んだ男」というアメリカニズム的なマッチョなイメージからはかけ離れた存在として描かれている。今風に言うなら「陰キャ」。終始鬱々と過去を反芻する姿からは、『ラ・ラ・ランド』の(終盤の)ライアン・ゴズリングを思い出す。これは、アポロ11号という人類史上最大の偉業ともいうべき国家的事業を、ニールの個人的な、ミクロな出来事と結びつけている映画だ。まさに「ファースト・マン」というタイトル通りに。

 例えば、マーキュリー計画を描いた『ドリーム』もまた、3人の黒人女性にフォーカスを当てた宇宙開発ものだったが、『ファースト・マン』においてはマクロとミクロの距離はさらに隔たっている。アポロ計画へと至る血塗られた道が淡々と描かれるかと思えば、ニールの喪失と家族における問題はジメジメと描かれ、さながら水と油のようだ。ぶつ切りになった二つの視点が交互に進んでいくので、終盤になるまでは若干退屈にも映る。

 …のだが、圧巻なのは次女の死も含めて史実を忠実になぞってきた、いわばドキュメンタリー的な作りをしてきた本作が、最後の最後に付け加える、ささやかな嘘だ。この小さな、しかし歴史上には記録されていない重要な嘘によって、チャゼル監督は「アポロ計画」という人類の偉業を、ニール個人の内面へと鮮やかに接続してしまう。

 『ラ・ラ・ランド』でも感じたことだが、チャゼル監督の持ち味は、世界の壮大さと個人の小さな内面世界とを地続きにしてしまうという点にあるのではないか。そう考えると、『ラ・ラ・ランド』も『ファースト・マン』も最後にはライアン・ゴズリングというちっぽけな(しかし世界とつながっている)個人へと収束していくのは必然だったのかもしれない。

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観た映画一覧(時系列順)

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 原作(?)っていうか昔の映画の方は全く未見で、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー リミックス』のヨンドゥのアレの元ネタがメリー・ポピンズだということを知っていた程度の知識だったんだけど、単体で普通に楽しめました。

 観ていて連想したのは大傑作映画『パディントン』。舞台もロンドンだし、普通の一家に非日常的なものが闖入者として入り込んでくるというあたりも共通。この手のいわゆる『ドラえもん』的な物語は物語類型として「エブリデイ・マジック」と呼ばれるが、日常と非日常をシームレスに行き来していたパディントンと同様に、メリー・ポピンズもまた、2つの世界を隔てる壁をあっさりと壊してしまう。

 予告編でも印象的だったバスタブ背面飛び込みも良かったのだけど、さらに素晴らしかったのが青磁の世界。この世界ではキャラクターが擬人化された動物たちで、さらに古典的カートゥーンのアニメーションで表現されるのだけど、日常と非日常をつなげるために実写とアニメーションをごちゃまぜにしてしまう手法が非常に面白い。アリ・フォルマン監督の『コングレス未来学会議』と同じ手法。で、そのアニメーションの世界でエミリー・ブラントが踊りまくる!ステージショウっぽいこの場面は情報量が多すぎてもう最高!

 この映画の魅力の5割以上はエミリー・ブラントなのだけど、彼女の妖艶とも言える妙なる演技を見ているだけで、料金の元は取った感じがしてしまうほど。厳しいかと思えば優しく、成長を見守るかと思えばピンチには駆けつけ、まあ、あの表情が最高ですね。特に物語の最後、バンクス家を離れていくシーンのなんとも言えない表情の美しさ。

 物語の時代背景を大恐慌時代に設定したのも上手い。主人公であるバンクス家の長男マイケル(ベン・ウィショー)は代々続いていた自宅を担保に取られ、返済の期限が刻一刻と迫っている。ロンドンの空は排煙でもうもうと烟り、薄暗い。その灰色の空から颯爽と降り立つメリー・ポピンズ。日常の閉塞感とメリー・ポピンズの魔法が開く非日常へのドア。想像力がロンドンの空へと浮かび上がっていく爽やかな幕切れも最高です。

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 前評判で「(攻殻機動隊)ARISEっぽい」という噂を聞いて戦々恐々としながら観に行ったんですけど、なんのことはない。普通に面白かったです。っていうか、「PSYCHO-PASS」シリーズとしてはこれまで以上にシンプルすぎて、むしろ物足りない…。

 サンクチュアリがサンクチュアリじゃない、ってのはもはやお約束すぎて展開が読めちゃうし、隠されてたのがアレってのも全然驚きがないよね。ただ、「それで青森だったのか~」ってのはあったけど。っていうか、22世紀にもなってアレを人間が掘らなきゃいけない方にツッコまなきゃいけないよね…。殺すのが目的だって言うならわかるけど。

 あと「サンクチュアリ」と言いつつ、幹部スタッフの連中が胡散臭すぎるのもいいポイント。明らかにマッドサイエンティスト臭しかしないせむしのおっさんとか好き(名前がわからん)。自分で襲ってくるし。小山さんのロジオンも「狂犬」って単語がめっちゃ似合う感じでかっこいいし。あの人たちこれ一本で終わらせちゃうのもったいない。またどっかで出して欲しい。

 上映時間が59分ってのもいいよね。一本のストーリーとして飽きさせないし、ちょうどいいところで終わる。その分、物語に深みがあまりなくて物足りなさはあるのだけど。

 サンクチュアリの捜査は美佳ちゃん(佐倉綾音)と宜野座さん(野島健児)コンビがメイン(よく考えたら六合塚さんもいたんだけど、影が薄かったな…。役割は重要だったんだけど)で、宜野座さん大活躍なのでファンの方は是非!こんな感じの中編を3本ってのは観る方にもやさしくていいね。

 ただまあ何度も言うけど、PSYCHO-PASSとしてはちょっと毛色が違うかな、という感じはする。面白いからいいんだけど。

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 前半こそいつもの歌って踊っちゃうインド映画なのだけど、すごいのは中盤から。主人公のパワン(サルマーン・カーン)は敬虔なヒンドゥー教徒で曲がったことが大嫌いな最初から好人物おじさんなんだけど、うっかりパキスタンからインドへにやってきて迷子になっちゃった6歳のシャーヒダー(ハルシャーリー・マルホートラ)を国に返そうと奮闘する後半の旅パートでその「いい人」属性が存分に発揮される。

 特に印象深かったのは印パ国境線をめぐるやり取りの場面。密入国業者の手引きで国境線を超えたはいいものの、不正が大嫌いなパワンは「密入国」の許可を得ようと国境警備隊を待ち構えるのである!そして、パワンは警備隊にボコボコにされつつも、なんとか隊長から「俺たちは10分後に戻ってくるが、その時まだいたら今度こそぶっ殺す」という事実上の黙認を勝ち取る……のだが、不正が大々大嫌いなパワンは「許可を得ていない」という理由で10分後に警備隊が戻ってきた時もまだいるのである!この場面は本当にいままでの映画で見たことがないくらいの新しい名場面!

 印パの紛争は一朝一夕では解決するようなものでもないだろうし、パワンのような「善人」が実際に同じことをしたとしたら撃ち殺されてしまうのがオチだろうが、映画の中だけでもその想像力に血肉を授けたという意味でもこの映画は意義深い。パキスタン道中に仲間になるジャーナリスト崩れのおっさんやワイルドなイスラム教のイマーム(でいいのかな?)といった脇役も個性豊かで楽しいし、最後に正義に目覚めるパキスタンの刑事も味わい深い。未解決の重いテーマが根底にある作品だが、パワンの善人っぷりが全てをコミカルにしていく素晴らしい映画。

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 海底人と地上人の異類婚姻譚から始まり、半神半人の主人公アーサー(ジェイソン・モモア)が弟との跡目争い(王位継承騒動)に巻き込まれるという、ヒーローものというよりは神話の文脈で語った方が正しいような作品で最初から最後までスッキリ正統派の味わい。王家の武器がキーアイテムになっていたり、弟が性格悪いツンデレだったりと、DC版『マイティ・ソー』って感じ。

 で、まあそういう正統派な作りなんだけど、ちょっと事が落ち着くと画面横から爆発が飛んできて物語をひっくり返したり進展させたりする謎の演出がめちゃくちゃ面白かった。いや、ほんとに、「よし、じゃあ次行くか!」みたいなシーンになると横からなんか飛んできて乱戦になるのよ。あの演出クッソ面白いのであらゆる映画で取り入れて欲しい新しいメソッドだ(入れてほしくはない)!

 役者陣では王家の忠臣でありアーサーの師匠・バルコ役のウィレム・デフォーがとてもいい役どころ。ママ(アトランナ)役のニコール・キッドマンも普通にツヨカワで良かったです。ああ、あと忘れちゃいけないライバル・ブラックマンタ役のヤーヤ・アブドゥル=マティーン2世もなんともやりきれない悲哀がありましたね。っていうか、あのブラックマンタのデザイン何あれ(笑) トニーたけざきの『岸和田博士の科学的愛情』に出てくるモー帝国科学神官ポーを思い出しました(あのモコモコ感が)。いい(かませ)キャラだったのでまた出てほしいな。

 あ、あと海の中なんでみんな髪の毛がふわふわーーーってしてるんだけど、あれ、CGなんですかね、どうやって撮影したんや…。

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 毎月恒例の新文芸坐×アニメスタイルセレクション、「Vol.112 SPECIAL PROGRAM 幻魔・妖獣・迷宮・AKIRA!!」にて。

 名作だと言うのに初見。キャラデザが完全に川尻さんで、「走る男」のまんまというのがもう最高!一緒に観た友人は「ヒロインがかわいくなーい」とか言ってたけど、えー、めっちゃ美人じゃないですか。ていうか「美人すぎてモデルとしては無名」っていう設定が最高に面白いw 空港での立ち回りの場面とかの演出もとてもかっこいい。あの逆光に浮かび上がるあたりとかすごく好き。

 今でこそ「多少過激かな」というレベルのエロシーンもなんだか新鮮で良かったですね。っていうかあの爺さん(ジュゼッペ・マイヤート)、ボディーガードされる側なのにめちゃくちゃ迷惑なやつだな…と思っていたら最後のどんでん返しが!普通のダークファンタジーとして観ていたから、あのオチは嬉しい誤算。

 あと、あれですね。主人公二人はめちゃくちゃ世界観に合ってるのに、ジジイだけ『らんま1/2』の八宝斎なのに笑ったw キャラデザもそうだし、声も永井一郎さんなの。だがそこがいい。いろいろな意味で観てよかった!

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[cf_cinema format=3 no=7 post_id=10019 text=” すみません、今日のメインこれだったはずなのに、真ん中100分くらい爆睡してしまいました…。めったにかからないし、初見だったから絶対見たいと思ってたのに…。ベガが復活したあたりで落ちて、気づいたら最終決戦だった…。知らん味方がたくさんおる…。でも終わったあとに友達に聞いたら、最後の戦いに出てきて仲間たち結構唐突に出てきたと聞いて笑った。しかし作画がすごいですね、さすが。家に帰ったらちゃんと観よう、と思ったのだけどどこも配信してない…。ちなみに一番印象的だったシーンは女占い師のとこ。”] [cf_cinema format=3 no=8 post_id=8099 text=” もう何回も観てるし、油断して寝てしまった…。せっかく妖獣都市かかってるんだから、「走る男」だけでも観比べたかったなー。”] [cf_cinema format=3 no=9 post_id=4171 text=”

 すっげえ久々に観たけど、やっぱめちゃくちゃおもしれーな!オールナイトの最後だったんで完全に寝るスタイルだったけど、全く寝れなかった!

 やっぱりアニメーションとしての質が高いですよね。「動き」という意味で。例の金田がバイク止めるとこもいいんですけど、個人的に好きなのはカオリと一緒にボコられる鉄雄を助けに来る金田が敵のバイクを奪う場面のふわっとした感じ。この場面は殴られたカオリの顔が容赦ないのも好きですね。あと校長室で絞られた金田たちが校舎から出てきてワチャワチャやってる場面も楽しい。

 年一回、大スクリーンで観たい映画ですね。ていうか家帰ってネトフリでまた観た。

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 いやー、よくもまあここまで魔夜峰央感を出してくれたなあ!というのが第一印象。GACKTはもちろん、予想以上にハマっていたのが、二階堂ふみ演ずる百美!宝塚というか演劇チックな演技が魔夜峰央ユニヴァースの「茶番感」に実にしっくりマッチしていて、これは演出と演技の勝利だね。この手の漫画実写化ってどうしても邦画特有の「安っぽさが」が気になってしまうんだけど、本作ではむしろそれが良い方向に作用していて、ある意味で奇跡の一作といった風情が感じられる。オープニングがさいたまんぞうの「なぜか埼玉」ってのも、なんというか魔夜峰央っぽさ、80年台のサブカルっぽさがあって実にいい。ちなみにこの曲、カラオケでも入ってるのでぜひ歌って欲しいところ(持ち歌)。

 差別について描かれた映画だが、かなりギリギリのところを渡っているという印象。「埼玉」だから許されているところがある。予告編でも印象的な「埼玉県民にはそこらへんの草でも食わせておけ!」に代表されるように、コミカルではあるものの中途半端になっていないディスり、というか迫害が物語最後の解放のカタルシスにつながっている。しかし、これが北海道だったり沖縄だったりしたらかなり微妙な評価になったのではないか、という意味で「埼玉」という土地の特異性を見出したのはやはり魔夜峰央という漫画家の才能だなあ。

 しかし、最後に伝説の世界が現実世界に帰結するというオチはいいのだけど、映画オリジナル要素の「現代パート」要りましたかねえ…。「早く話を進めてくれーー!!!」ってちょっとイライラしてしまった…。物語を相対化するという意味では面白かったし、千葉県をディスられてブチ切れる麻生久美子には笑ったけど笑

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まとめ

 『ファースト・マン』、正直地味な印象で全く期待してなかったので、今月のMVCになったのは意外!途中ちょっとウトウトしちゃったのでまた観たいな。

 来月は「東京アニメアワードフェスティバル2019(TAAF2019)」と「GEIDAI ANIMATION 10」で短編アニメーションを狂ったように観る予定です。