本のレビュー

【本のレビュー】今月読んだ本まとめ:『折りたたみ北京』で現代中国SFに触れる。【2018年2月】

投稿日:2018年3月1日 更新日:


はじめに

 先月は『解体屋ゲン』30冊くらい読んでたので合計70冊くらい読んでたんですけど、今月は21冊。まー、普通の月はこんなもんですねー。相変わらず漫画メイン。

映画の方のログ

 おひるねラジーズ
【映画レビュー】今月観た映画まとめ:『さよならの朝に約束の花をかざろう』は必...
2018年2月に観た映画の覚書です。新作4本しか観てない…。月間ベストは『さよならの朝に約束の花をかざろう』。

良かった本5冊くらい

エラン・マスタイ『時空のゆりかご』

 地球の自転を利用する無限のエネルギー「ゲートレイダーエンジン」によって実現したテクノユートピアを、タイムトラベルによってうっかり崩壊させてしまったクソみたいなニートの主人公が元の世界線を取り戻そうとがんばる話。「ま〜〜〜たその手の話か!」と言うなかれ。人物描写の丁寧さと、どこか突き放したような、それでいて情緒的な語り口によって凡百の作品とは一線を画する物語になっている。ちょっと村上春樹っぽい文章。あと、『鋼の錬金術師 シャンバラを征く者』が好きな人ならグッとくる場面もあります。主人公バレンが作り出した世界ってのがまさに我々が住まうこの世界なんですよ。ちょっと説明しづらいからとりあえず読め!タイトルもベタだなぁと思いつつ読み始めるわけですけど、なるほどヴォネガットの『猫のゆりかご』なんですねこれ。邦題が上手いよね。

あfろ『ゆるキャン』(1-5巻)

 オタクなのでアニメ観て速攻買っちゃった…。キャンプに行く過程の描写の丁寧さがまず良い。そして、いわゆる部活ものに留まらない射程がある。それは野外活動サークルに所属するなでしことその外側で活動するりんの二人を主人公にしていることから生じる世界の広がりだ。劇中ではラインのようなコミュニケーションツールが効果的に使われていて、それが都市⇔キャンプ場、サークル⇔ソロという物理的/心理的な距離を繋いでいる。全てを均一にまとめあげるサークルの外側(りん)を肯定するこの構造が、ゆるキャンという作品をより魅力的なものにしていることは間違いない。それにしても作中に出てくるキャンプめしの美味そうなことと言ったら!とりあえず肉まんをホットサンドメーカーでプレスするやつはやった。推しキャラは志摩りん、推しじゃないキャラは野クルのメガネ(なでしこの姉ちゃんと同一人物説を提唱している…と、よく考えたら一緒にほうとう食ってたな…)。

南後由和『ひとり空間の都市論』

 都市における「ひとり空間」を住まい/飲食店・宿泊施設/モバイル・メディアという軸を通して分析した本。『孤独のグルメ』の丁寧なディスクリプションから始まるので、議論にスッと入り込んでいける。特に良かったのは第二章の「住まい」のパートで、四畳半から始まり、鴨長明の方丈庵に飛び、木賃アパート、ワンルームマンションへと進んでいく。都市の単身者住居がその中で完結しているのに加えて、食事やレジャーを外部化し、通信や各種店舗へのアクセシビリティによって「移動可能性」(モビリティ)を高めているという指摘は重要だと感じた。「ひとり」(このひらがな表記についてもおよそ一章を割いて詳しい定義が述べられている)でありながら、外部との繋がりを保っているという点で、「都市」というのはやはり面白い。

郝景芳ほか『折りたたみ北京 現代中国SFアンソロジー』

 現代SF界のキーパーソンの一人、ケン・リュウがセレクトした珠玉の中国SFアンソロ。前書きで書かれているように、ここの収められた作品群からは中国特有の匂いというよりは世界SF的な普遍性を読み取ったほうが適切なように思える。ただし、ローカルなレベル、例えば人や料理の名前などからは、確かにこれが中国という国で書かれた物語であることが伝わってくる。そして、ハードSFよりも情緒的な面を強調したような作品が多いように感じた。表題作の『折りたたみ北京』もめちゃくちゃ面白いんだけど、ビジュアルが想像しづらい!映画に期待。

 特に印象に残ったのは『沈黙都市』、『神様の介護人』、『円』の三篇。オーウェルの『1984年』を下敷きにしたと思われる馬伯庸(マー・ボーヨン)『沈黙都市』はスタンダードなディストピアSF。当局によって「使用しても良い」表現が日々変化(減少)していく世界の話で、オチは言わずもがな。現実ではポリコレによって下のレベルからの言葉狩りが進行中だが、この話の肝は言葉の禁止ではなく「健全語リスト」なるものによって、最初から枠が狭められているところにある。秘密結社「会話クラブ」でのやりとりが印象的。長編でも読んでみたい。

 劉慈欣(リウ・ツーシン)『神様の介護人』は本書の中でもとびきりコミカルでシニカルな一編。ある日、「神」と名乗る20億人もの異星人が大挙して地球に飛来。彼らの持つ超科学目当てに、地球人類は知力・体力ともに衰えた「神様」たちを介護することになる。…のだが、その科学技術がオーバーテクノロジーすぎて全く役に立たず(例えば核融合技術が原始的すぎて記録されていなかったりする)、あっというまに神様たちはお荷物に。中国の農村でいじめられる神様の姿は、たぶんどこの国でも起こっているかのような臨場感がある。現代中国版『幼年期の終わり』みたいな話。星新一が書きそうでもある。終わりはちょっと切なく、そして宇宙単位に飛躍していく。

 同じく劉慈欣の『円』は、大ヒットした『三体』の抜粋らしいけど、『三体』自体読んだことがないのでよくわからず。秦の始皇帝が人間計算機を作る話。兵士3人に旗を持たせて論理回路を構築する場面が実に楽しい。小川一水先生の『アリスマ王の愛した魔物』もちょうど同じような話(オチも含めて)だけど、こちらのほうが人間計算機の仕組みがわかりやすく、物語はあっさりした印象。本体の『三体』も読みたいなあ。

恩田陸『蜜蜂と遠雷』

 普段あまり読まないジャンルなんだけど友達に猛プッシュされて読み始めてしまった。めちゃ面白いじゃん!でも読み終わるのに1ヶ月以上かかってしまった…。何故こんなにも時間がかかっていたかというとですね、この物語、ピアノコンクールを舞台にした群像劇なんですが、自分クラシック全く弱くて(というか音楽が弱い)、で、読み進めている中で分からない曲(ほぼ全て)が出る度にYouTubeで探して聞いてたりしたのでした。普通に読んでたら3日もかからないと思います…。ピアノコンクールという耳慣れない世界の裏側がまず新鮮。特に曲の評価の部分ね。どうやって甲乙付けているのか全く知らなかったんですが、これを読むとなんとなく(ほんとになんとなくだけど)、感覚がわかってくる気がします。群像劇なんですが、評価する側の視点が入っているのも良かったですね。選ぶ側も大変なんやぞ、というのがよくわかります。8時間ぶっ続けで同じような曲聞いてるとことか。寝るやん。で、登場する人物がまたみんな魅力的な人たちなんですよ。よくわからない天才少年とか、演奏会ブッチして音楽業界から距離を置いてるかつての天才少女とか。このコンクールを通して、彼らが様々に変化していくのが面白い。ある者は再生のきっかけを手にし、ある者は行く末を見定め、またある者は全く変わらなかったりもする。個人的にはかつての天才少女・栄伝亜夜が最後の最後で生まれ変わっていく場面が非常に印象深いです。あと謎の天才少年・風間君がオーケストラの楽器の位置を調整するとこ、天才すぎて若干引いたわ…。音楽と一緒に聞くとめちゃ良さそうなので、絶対映画化してくれよな!

まとめ:その他良かった本&来月読む本

 『ゆるキャン』と同じく、アニメがあまりにも面白かったので購入。8巻なので少しずつ。時間が止まっているという異常な状況にもかかわらず、登場人物の適応能力が高いのでイライラしない。時間停止下での物理法則もよく考えられてて(まー、細かく考えるとよくわからなくなるけど)、特に水の表現が面白い。バトルロイヤルものの変形とも言えるストーリーだけど、時折挿入される細かなギャグ描写で和む。どうオチを付けるのか気になる作品。

 タイムラインで大評判かつ友人から大プッシュされたので読み始め。全5巻というもの嬉しい。…が2巻がどこにも売ってねええ!ちゃんとしたレビューは来月かなー。1巻読んだ限りだとすげー普通ですね。評判聞いてなかったら切っちゃうなこれ…。3巻からがマジでやばいと聞いているのでとりあえず揃えます。

 押井守監督大ファンと言いつつ、著作は初めてなんすよね…。各章の頭で「ここでは何を語るか/語らないか」が明確に述べられているのが非常に良い。映画だけだと伝わってこない政治的スタンスとか、話題になってるアレヤコレヤに対する反応がわかって楽しい。首肯するところあれば「そりゃねーよ」と思うところもあり(違う人間なんだから当然ですが)。押井監督のツッコミが鋭いので全ページげらげら笑って読めます。宮崎監督の『風立ちぬ』を「試写会のポスターを見て一驚しました。主役が人間です。」と評した第23回「ぜろ」のあたりがすき。まー全編こんな感じですよ笑

 2018年3月はとりあえずコレ。こないだ文庫化で読んだ『未必のマクベス』がめちゃ面白かったので。『SFマガジン』に掲載されてたけど、SFじゃないらしい。うーむ。

 まーーーたケン・リュウかよ!!ゲームSFアンソロって珍しいよね。『All you need is kill』の桜坂さんとか《サイロサーガ》のヒュー・ハウイー、人気絶好調のアンディ・ウィアーあたりが楽しみ(っていうか他の作家が知らないやつばっかや)。

 あと今月読みきれなかった宮内悠介『超動く家にて』、今月読みます(っていうかもう読んだ(2018年3月5日現在))。

読んだ本一覧

suitikuの本棚 – 2018年02月 (21作品)
蜜蜂と遠雷
蜜蜂と遠雷
恩田陸
読了日:02月06日
評価5


powered by Booklog

関連コンテンツとスポンサードリンク

-本のレビュー

執筆者:


comment

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

関連記事

no image

【本のレビュー】ジョン・ヴァーリィ『汝、コンピューターの夢 <八世界>全短編 1』:人体改造・性転換・人格コピー、何でもありの奇妙な世界。

ジョン・ヴァーリィ『汝、コンピューターの夢 <八世界>全短編1』のレビューです。異星のテクノロジーによって歪な進化を遂げた人類の太陽系黄金期を描いた短編集。

no image

【本のレビュー】アン・レッキー『叛逆航路』:ラノベっぽいニュー・スペースオペラ(良い意味で)

アン・レッキーによる遠未来の宇宙を舞台にしたニュー・スペースオペラシリーズの開幕編『叛逆航路 ラドチ戦記』のレビューです。めちゃくちゃ読みづらいけど、途中から俄然面白くなります。ヒューゴー賞、ネビュラ賞、ローカス賞、アーサー・C・クラーク賞、英国SF協会賞、英国幻想文学大賞、キッチーズ賞の話題作。

【本のレビュー】今月読んだ本まとめ:『プラネタリウムの外側』から。【2018年3月】

ライフログです。2018年3月に読了した本の感想を適当に書きます。宮内悠介『超動く家にて』、麻生鴨『伴走者』、早瀬耕『プラネタリウムの外側』ほか。

【本のレビュー】『世界の終わりの天文台』:なんかしらんけど世界が終わってたっぽい話。(リリー・ブルックス=ダルトン著、佐田千織訳)

リリー・ブルックス=ダルトン『世界の終わりの天文台』(原題:GOOD MORNING, MIDNIGHT)のネタバレなしレビューです。「どうやら終わってしまったらしい」世界の極北で生きる老科学者と少女、そして地球に帰還しつつある人類初の木星探査船の人々。過去を反芻する人々が迎える穏やかな終末の日々。ラストの余韻がとても良いのでみんな読んで!

【本のレビュー】『アルテミス』:月面DIY小説!(アンディ・ウィアー著、‎小野田和子訳)

『火星の人』でおなじみアンディ・ウィアーの新作『アルテミス』(原題:Artemis)のネタバレなしレビューです。今度の舞台は人類初の月面都市アルテミス!主人公がノリよくて下品で最高!