毎年恒例の神山健治ナイトですが、今回の目玉は初の『009 RE:CYBORG』!本来は3Dですが、新文芸坐ですので2D上映です。色々と曰くある作品ですが、トークの方でかなりたっぷり語っていただいたので満足度高めでした。
前回の「新文芸坐×アニメスタイル セレクションVol.80 新文芸坐×アニメスタイルセレクションVol.80 アニメファンなら観ておきたい200本 『鉄コン筋クリート』とSTUDIO4℃作品」のレポートはこちらになります。
トークショー
!notice!
トークの内容につきましては、その場で速記してまとめています。事実誤認、不適当な記述などございましたらご連絡ください。対応させていただきます。
登壇者
神山健治監督(『攻殻機動隊SAC』『東のエデン』などでおなじみ。以下「神」)
小黒祐一郎さん(アニメスタイル編集長、司会。以下「小」))
新文芸坐・花俟さんによる前説
花 お馴染みの神山健治監督ですが、当館では初めて「009」を上映します。2Dです。すみません(会場笑)
『009 RE:CYBORG』は師匠へのラブレター?
小 今日はお客さんが若いですね。
神 『009 RE:CYBORG』はコンテクストがいるというか、どうしてこういう映画になったのか、という説明がちょっと必要かもですね。
小 昔、記事を作った時に「なんでこんな押井さんみたいな映画なんだろう」と思いました。しかもちゃんと押井さんぽいものがでてきて説明がある。押井さんを終わらせる映画なのか、と思っていたら、押井さんへのラブレターと聞いて驚きました。
神 ラブレターといってもいろいろありまして…。
神 押井さんが神とか近代における戦争であるとか、いろいろと講釈を垂れるので…じゃあ、自分が問題用紙を書くので、解答を書いてくださいよ、とそういう意味(のラブレター)なんですね。
押井さんは(自分を)弟子にした覚えはないけど破門したとか矛盾したことを言っていますけど、弟子というのは本当に困ったときに何かを返せればいいかな、というのが僕の思う弟子なんです。脚本が進んでいる途中になって、押井さん、「009」が好きと言ってるのに全然観てないなあ、というのがわかってきたんですよね。みんなおかっぱ頭にするとか009メンバーの内7人は死んでるとか、それは押井さんの作家性だし、それを映画にできたらすごいなというのはあるんですが。パイロットフィルムまで付き合っていたんですけど、フォトショの操作法を教えているといきなり切れだしたりして…。女優論とかは語るんですけど。それで、また色々あって押井さんが一旦退場して、俺が撮ることになったんですけど、脚本を描き上げるまで「009」の方に顔を向けていなかったなあ、という反省があって、これは押井さんではなくて「009」と石ノ森先生、そしてファンに向けて作らないといけない。今からだったらまだ書き直せるかもしれない、と。
小 じゃあ、基本的には押井さんのいた時代の脚本のままなんですか?
神 そうですね。
小 「009」と向き合っていなかったというのはどのような点ですか?
神 押井さんも「神々との闘い編」1から影響を受けているのはわかったんですけど、石ノ森先生の(原作の)面白い点は前半の方にもあって、そっちも入れないといけないなあ、というジレンマでした。もう時間も無かったですし。ファンと同じ心理状態にならないと難しいなあ、と思っていました。ただ、「009」はディープなファンも多いけど、ライトなファンも多くて、タイトルは知ってるけど、内容は覚えてない人もいたりして。じゃあ、どこを目指すかというと、原作の最も熱い部分を目指そう、となったのはもう絵作りに入ってからなんですよ。映画をどっちに向けるという舵取りはもっと早い段階で出来ていたら良かったですね。押井さんとかまけている時間が長かった(笑)
小 島村ジョーがテロリストになっているとか、その辺はどうですか?
神 そうですね、そこはこの作品を現代に蘇らせるために腐心した点です。上手くできているかはわからないけど。
小 映画としては短めの100分ですけど、これも製作的な意図だったんですか。
神 初のフル3DCG作品ということで色々制約もありました。3Dが得意なことと苦手なことがあって、さらに立体視できるようにしないといけなかったりして、そういった技術開発からやったんです。国内でも海外でも全部外注しちゃうところをサンジゲン2のスタッフと話し合って作っていきました。立体視の点で言うとちょっとしたことが事故になってしまう。観た人が気持ち悪くなってしまうことがあって、そういう点も難しいところでしたね。プリプロからポスプロまでいろいろ変わってしまった映画というのも珍しいですね。前半は師匠の世話で終わってしまって。押井さんがカナダで講演した話がyoutubeに上がっていて、再生数24くらいだったんですけど(笑)、観てみたら「先日、神山と和解してね」というところから始まってカナダの人キョトンですよ。それで和解してくれたんだな、とわかったわけです。去年は誕生日も祝うというので行ってみたら3人しかいなくて。友達いないんだなって…(会場笑)
小 来年はみんなで押井さんの誕生日会をしよう!
神 さみしがりやさんですからね。この前飲んだ時、「師匠ってのは待つもんなんだよ」って言っていて。あー、寂しいんだなー、と(笑)
原作準拠だと車にも乗れない002…
小 『009 RE:CYBORG』は「009」のリブートとしてよく出来てると思うんですけど、計画的にはこの後にいろいろ作れる感じなんですか?
神 機会があればなあ、とは思いますね。
小 ピュンマですよ、ピュンマ!
神 ピュンマはいろいろ怒られましたね。
小 カット数は少なくないですよ!
神 そもそも水に入ってないしね。あれは水たまりだろ、って(笑)
小 ピュンマは過去の作品でもいろいろ問題になりましたね(笑) ところで、あのラストはどういう感じなんでしょうか。
神 あれもいろいろ受け取り方がありますね。押井さんからはあの部分だけ褒められました。
小 当時、メカアクションが滾ってる、熱い、80年台ぽい、と思いましたが、あれは神山さんの持ち味なんですか?
神 子供の頃は004(ハインリッヒ)が一番好きだったというのもありますし、002(ジェット)はあれは全裸なのか違うのか、新たな解釈ですね。ギミック一個にしても難しくて。「なんで石ノ森先生の絵でやらなかったんだ」とお叱りも受けましたけど、ちょっと無理なんですよね。あの絵じゃないと出来なかった。
小 002とかあの鼻をそのままにしたら大変なことになっちゃいますね(笑)
神 002はあのままだと車にも乗れないんですよ!(会場笑) なかなか大変で。髪の毛もね。
小 映画としては2日間の話ですよね。009、落ち着くひまが無いですね。
神 編集さんからは詰め込み過ぎだよ、と言われました。映画とテレビシリーズの尺は違うんだな、という勉強になりましたね。
小 3Dとしてはフランソワーズの色気も見どころですね。
神 3Dでは難しいんですけどね。あそこは女性にやってもらったんですけど、女性だったから良かったんですかね。細かいこだわりとか。
小 「009」の頃の押井さんは心がさみしい感じになってたんですかね。
神 あの頃、3Dで押井さんも実験的な作品を作っていて、でもあまり皆さんの目に触れてなくて、伊藤和典さん3ともお仕事をしなくなってしまって…。お金を出してくださる人たちから、「押井さん監督はいいけど脚本は別の人の方が…」ということをなんとなく言われたりしてね。これは俺も言われるんですけど。押井さんにとって俺はうるせえ息子なんですよね。押井さんは「なんでこんなやつの脚本をやんなきゃいけないんだよ」と思ってたんじゃないかな。あと、俺遅刻しないんですよ。押井さんは絶妙に遅刻するんですよ。それも、みんなの怒りがピークに達するタイミングで。そういうことも含めてなんかイライラしてたんだと思いますよ。なんか拗ねてたんじゃないかな。
小 最初の脚本の009メンバーがほとんど死んでるやつも押井さんの作品としてはどうでしょう?
神 いろんな人の顔を思い浮かべなければね…。
小 お金出す人とか(笑)
神 押井さんはもっとゆるゆる仕事したい人なんですよね。
小 今回は、押井守作品じゃないけど押井守作品ぽいところがある、という楽しみ方もできますね。
神 逆にこいつ押井守わかってねえなあー、と…。神山の押井度がこれくらいだな、と思って観てもらってもいいかもしれません(笑)
おわりに
小 新作の『ひるね姫』4についてちょっとお話いただければ…。
神 「009」から4年経ちますが、今までの作品からは珍しいタイトルです。まだ詳しいことは言えないんですけど、来年公開になると思います。これまでの神山作品ぽいところもあると同時に、作品との関わり方についても、変わってきたし変えてきた作品です。観てもらえればと思います。
小 最後に、今日の3本の楽しみ方を。
神 神山という人間がどのように作品を作ってきたかを楽しんでいただければと思います。自分もこの順番で観たことはまだないですね。
上映作品
[cf_cinema post_id=4504 format=3 text=” 総集編といえばそうまでなんですけど、上手くまとまってますよねー。「攻殻SAC」はメインである「笑い男事件」の合間合間に独立したエピソードが入っている形式なので、こういう形でメインの話だけを追っていける形式はとてもいいですね。あと、今回押井監督のことを念頭に置いて観ていたら、エピローグにあたる部分、非常に押井感を感じますね。あそこでトグサが独白するシーンで終わるのが押井守で、ちゃんとオチをつけようとするのが神山健治、とかなんとか。あと、すごくベタですけど、タチコマの最後のシーンはやっぱ泣けますね。”][cf_cinema post_id=4588 format=3 text=” 観たことあったと思ってたんですけど、実は初見でした。時系列的には「2nd GIG」の後になるんですよね?原作でも少佐は9課から独立しますし、『イノセンス』でも別の勢力として登場しますけど、TV版SACの流れで見るとまた新鮮。なんかアイデア的には「2nd GIG」の「小数点以下の小銭を集める話」を連想しました。全然違うけど。あとトグサくんが管理職になっているのに軽く衝撃を受けたり笑 確かにバトーは管理職タイプじゃないけど、そりゃあこの前まで部下みたいな位置付けだった新入りに指導されたくないよな。そういうところにちょっとサラリーマンの悲哀を感じたり。”]
[cf_cinema post_id=4590 format=3 text=” 当時、劇場で観た時は「なんだこりゃ?」って感じだったんですが、3年ちょっと経って再見すると、これはこれで良いというか、なんかしっくり来ますね。押井守映画祭で押井作品にどっぷり浸かっているせいでしょうか…。聖書からの引用であるとか、神をめぐる物語であるとか、そこかしこに押井守監督の影をひしひしと感じますね。ベースとなった脚本が押井監督の手によるものだということはトークの中で語られているわけですけど、そこにさらに川井憲次さんの音楽がのっかると、完全に押井映画!とはいえ、押井さんの色だけでなくて、その上に神山監督らしいポリティカルサスペンスの色がかぶさっていて、これが実に具合がいいですね。頻発する大規模テロという物語の背景も同時代性という点で興味深いですし、何より主人公であるはずの009がテロを計画しているという衝撃!リアルな六本木ヒルズに景気よく着弾するミサイルも『東のエデン』的な意味で神山監督らしさを感じます。ほかにも、メガネ装備のOLみたいなフランソワーズのエロ可愛さとかギルモア博士と張々湖の生臭い確執とかいつの間にか消えてるピュンマとか核爆発から加速装置で逃げるジョーとか、よく考えると見どころ一杯すぎですね。最後の軌道上でのジョーの神への問いかけのシーンは特に印象に残ります。”]
写真など
まとめ
予想通りというべきか、トークの大半が押井守がらみだったのが良かったですね。師匠と弟子、仲良すぎでしょ笑 初見で「???」だらけだった『009 RE:CYBORG』も今回の流れで見るとオリジナリティあふれる大作という印象。押井さんの影がちらつくとはいえ。そんなところも含めて押井守映画祭2016第1.5夜みたいな感じでした!
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関連リンク
■新文芸坐 http://www.shin-bungeiza.com/
■Webアニメスタイル http://animestyle.jp/
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- 1970-72年。「COM」に連載。色々あって中断してしまい、物語の全容は明かされなかった。
- 株式会社サンジゲン。ゴンゾから派生した会社。『蒼き鋼のアルペジオ』でおなじみですね。
- 伊藤和典(いとう・かずのり)[1954年12月24日-]。押井監督と因縁浅からぬ人。「パトレイバー」シリーズのシリーズ構成とか脚本とかでおなじみの方。
- 正式名称は『ひるね姫~知らないワタシの物語~』。2017年公開予定。公式サイト: 映画「ひるね姫 ~知らないワタシの物語~」オフィシャルサイト 神山健治監督、待望の最新作!
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