さて、今回は久々の『東のエデン』オールナイト!前回の開催は2011年9月17日(土)のvol.18で、実に4年弱ぶりの開催です。実は、前回の『東のエデン』オールナイトでアニメスタイルオールナイトに初参加だったので、感慨深いコンテンツであります。

 今回のトークゲストは神山健治監督とジュイス役の玉川砂記子さんです。

 前回の「新文芸坐×アニメスタイル セレクションvol.67 押井守映画祭2015 第三夜「マニアック編」」のレポートはこちらになります。

トークショー


!notice!

トークの内容につきましては、その場で速記してまとめています。事実誤認、不適当な記述などございましたらご連絡ください。対応させていただきます。

出席者

神山健治監督(以下「」)

玉川砂記子さん(以下「」)

小黒祐一郎さん(アニメスタイル編集長、司会。以下「」))

タチコマのアフレコは3体同時!

小 何年か越しの企画だったんですけど、ようやく実現しました。
 お話は『攻殻機動隊』から始めたいと思います。玉川さんとの出会いは「STAND ALONE COMPLEX」1になるんですよね。

神 タチコマという思考戦車がいて、男の子っぽいんですけど男の子じゃない感じで。相当、無茶な役でした。9体いるんですけど、全部一人でやって頂くという。

玉 最初はそんなことになるとは思わなかったんですよ。

神 最初は3体くらいを演じ分ける感じだったんですけど、第15話でタチコマだけが議論するという話があって 2 、3人(体)くらい一度に録ったんですよ。

玉 3人くらいずつをいっぺんに録ったほうがトーンが違うというか…。

神 期待以上に演じ分けて頂いて魅了されてしまいまして、それからできるだけ玉川さんには出てもらいたいということになりまして。キャスティングの際に意識するようになりましたね。

小 玉川さんがいたからタチコマの出番を増やしたりとかはあったんですか?

神 「タチコマの日々」3なんかは玉川さんがいなかったら思いつかなかった企画ですね。シリアスな話でもタチコマが出ることで柔らかくなったというか、色を添えてくれたというか。

玉 タチコマとの出会いは私の人生の中で大きなものでした。今朝もファンの方からファンレターが来ていました(笑)

『東のエデン』の玉川さん

小 『東のエデン』ではどのへんから玉川さんを意識されたんですか?

神 脚本の段階でキャストを意識し始めまして。ジュイスが出るシーンでは設定が上書きされていって、キャストも最初から玉川さんを意識していた気がします。「すみません、また口パクがない作品なんですけど…」ということでお願いに行った記憶があります。

小 どんな感じでオファーがあったんですか?

玉 いや、普通に『東のエデン』という作品がありますということで話がありまして。本当に機械がやるものと思っていたら、セレソンが違う場合は感じを変えて下さいと言われて。携帯を持つ人によって違ってくるので、神山さんの着眼点は違うなと思いました。

神 決め台詞である「救世主たらんことを…」も、そこで差異がでてきて、同じ台詞だけど、優しげだったりサディストっぽかったりして4、玉川さんにキャラクターを組み立てていただいてあのようなキャラクターが出来上がっていきました。

玉 最初はああいうキャラクターが4人いるということは聞いていなかったんですけど、言われるままに進んでいって…。あ、ネタバレしちゃいましたね(笑)

神 途中で爺さんの正体を描かないといけなくなって、亜東才蔵というキャラクターを作っていく中でジュイスというキャラクターも作っていきました。

小 4姉妹とジュイスのキャラクターは一緒なんですか?

神 分けていましたね。喧々諤々やりながら徹夜で作っていました。「エデン」は色々と忙しくて、メディアミックスもあったから忘れていることもあります。もともとは2クールの予定だったんですけど、当時のノイタミナで2クールは無理です、ということになって、分割2クールの予定が無くなり、急遽、劇場版を作ろうという事になったんですけど、テレビ1クール分の予算で劇場版を作ることになったという事情があったんです。9話、10話のあたりで劇場版の脚本を書いてました。北朝鮮のミサイルとか、草○くんの全裸事件とかあって、放送が危ぶまれたんだけど、その時になんとか放送をしてくれた編成の人に「劇場版のEDはいいけど、TV版にもおみやげちょうだいね」と言われ、あのようなTV版のラストになったわけです。ギリギリでアイデアが浮かんだりして綱渡りで作っていましたね。そのせいで他の作品に比べて記憶が無いです(笑)

Q&Aコーナー

Q 現在の設定で滝沢くんに100億円を使わせるならどうしますか?

神 確信をついた質問ですね。これは『東のエデン』という作品の根幹に関わるものなので。6年間、苦しんで作っていて、おっさんと若者のコミュニケーションの断絶という危機がテーマでしたが、現代もそれは変わらないと思います。若者の貧困化とか団塊の世代が金を持って行ってしまったとかね。そういうのが『東のエデン』が終わったあともずっと続いていて、この両者の間がどんどん離れいくという問題があるんですよね。会社の若い子が自分の企画書をコピー機の脇に置きっぱなしにしていて、自分たちの世代だったら直接上に見せに行くのに…、という事件があって、その時に『東のエデン』という作品のテーマを思いついたんです。滝沢は最後におっさんをスリッパでひっぱたいたけど、その後は仲良くなっていると思うんです。そういうのが僕の理想なんです。

Q お二人に質問ですが、身一つで投げ出されたらどうしますか?あと『東のエデン』のおかげで妻と結婚出来ました!(会場笑) ありがとうございます!

玉 ニューヨークですよね?そうですねえ。ニューヨークといえばショービジネス?ショービジネスの裏側に入り込む?お掃除とか。

神 6年たったら日本に簡単に電話できるようになっちゃったしねー。スマホに頼っちゃいますかねー。

小 身一つだからスマホはないんじゃないですか?

神 あ、スマホはないんだ。税関でアニメの監督だと言ったらふーん、っていう反応だったんだけど、『GHOST IN THE SHELL』の名前を出したら「おお、俺もファンだ!」というふうに優遇されたので積極的に使っていきたいですね。

Q 今日はじめて見るのですが、見どころを教えて下さい。

神 見どころは人それぞれだと思うけど、主人公の男の子が実際にいたら色んな人が魅了されていって日本がもっと楽しくなっていくんじゃないかと思って作ったので、そういうところを見てもらったらいいと思います。

玉 個人的には羽の生えた人が重要だと思います。いろんな過去を持った人が出てくるんですけど、描かれる場面は少ないのでそういうところを想像で膨らませてもらったら面白いと思います。

Q 滝沢の表情がだんだん乏しくなっていったのは?

神 意図していた部分としては、記憶を取り戻していく冒険だから、記憶を失いたいくらいつらい記憶に再会していく中で表情が乏しくなっていくということなんだけど、自分たちの力量不足の部分もあるかも。

Q 最終回の咲との約束について。

神 回答は出されたと思っています、僕は。あの後に女性スタッフから「あんたは女性の心理がわかっとらん」とお叱りを受けまして…。女性スタッフ以外にも怒られました。僕は完全に果たしたと思って描いているのですが、それが伝わっていなかったとしたら僕の力量不足ですね(笑)

Q 次回作は?

神 『東のエデン』のその後を描ければいいなと思っております。

Q ジュイスにゴーストは宿ったんですか?

玉 それがゴーストなのかはわからないですけど、精密機械と人間との間でもコミュニケーション的なものは起きるんですね。

神 「攻殻」の世界にこの作品がつながっていくのだとしたら一つの例になったかと思います。

Q 名台詞を生で聞きたいです。

A 玉 じゃあ、NO9のオーソドックスなやつで。「ノブレス・オブリージュ!あなたが今後も救世主たらんことを!」。…台本無いと出来ないんですよー。もう私覚えられなくて…。

神 「ステキな王子様たらんことを」をお願いできますか。

玉 「ノブレス・オブリージュ!あなたが今後も素敵な王子様たらんことを!」(会場拍手)



上映作品

[cf_cinema post_id=5218 format=3 text=” 前回のオールナイトの時はこの部分がTV版全12話だったんですよね。どういう時間配分だったんだろ…。それにしてもよく出来た総集編だと思います。特に付け足されたところはないのだけど。キャラクターのナレーションが被るので、その時その人物がどんなことを考えていたのかがわかったりして面白いです。特に大杉くんのとか。一回、テレビシリーズを見てからの方が楽しめるかも。”]
[cf_cinema post_id=5220 format=3 text=” ニューヨークで滝沢を探す咲のシーンから始まり、その中で各セレソンが邪魔したり助けたりといった駆け引きが楽しい映画。今回のゲスト絡みで言うと、各セレソンごとのジュイスのキャラの演じ分けが素晴らしいですね。特にセレソンNo.6(岸元くん)とのやり取りは何回観ても面白い!ストーリー的にもテレビシリーズの伏線回収をしつつ、後編へさらに伏線を張っているのが上手いですね。”]
[cf_cinema post_id=5222 format=3 text=” 完結編ということですが、この複雑怪奇な物語で、それなりにキチンと風呂敷を畳んでいるのが良いですね。畳みきれてはいない気はするものの。クライマックスも完全な科白劇になっているし、この辺りは師匠である押井守監督の影響を感じられずにはいられないんですよねー。団塊の世代とこれからの世代という対立軸については丁寧に描かれているとは思うのですけど、その結果についてはあまり新規性を感じなかったというのが正直なところです。このシリーズ自体は非常に面白いのですが、毎回、オチを忘れてしまうというのはこういったあたりにあるのかも。最後に例の「記憶を消す音」が流れますしね。”]

写真など


まとめ

 やっぱりこの手の複雑なシリーズ物はまとめて観るのが最高ですね。ゲストの神山監督と玉川さんのやりとりも面白かったし、生「ノブレス・オブリージュ!」が聞けたのは最高でした。あ、そういえばタチコマネタも聞きたかったな…(いまさら)。

 

 次回の新文芸坐オールナイトは5月23日(土)の「コワすぎ!最終章』を最大限楽しむために 白石晃士ユニバース!」。アニメスタイルオールナイトはついに最終夜!「新文芸坐×アニメスタイルセレクション vol.69 押井守映画祭2015「カルト編」」です!


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関連リンク

■新文芸坐 http://www.shin-bungeiza.com/
■Webアニメスタイル http://animestyle.jp/

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NOTES

  1. 『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』。2002-03年、神山健治監督。全26話。
  2. 1期第15話「機械たちの時間 MACHINES DESIRANTES」。
  3. DVD等の映像特典短編映像。
  4. セレソンNo.6のジュイスの演技とか最高!