はじめに
いやー、『七人のイヴ』完走しましたが、たしかにこれはオール・タイム・ベスト級!素晴らしい。
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映画の方のログ今月のベスト1冊!
ニール・スティーヴンスン『七人のイヴ Ⅲ』
[amazonjs asin=”4153350400″ locale=”JP” title=”七人のイヴ III (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)”]うわ、ほんとに5000年経っちゃった!!前巻のあの衝撃的な引きから5000年、(ほぼ)絶滅していた人類は軌道上に作られたハビタットリングで30億人まで繁殖。「ハードレイン」を人工的に抑制し、地表に再入植するまでになっていた。結構0リセットスタートだったけど、まあ5000年あればなんとかなるか…。個人的には近未来ロビンソン・クルーソーというか、空気なし重力あまりなし人口一桁男なしエネルギーだけ腐るほどある、という状態からどうやって文明を再建していったのかに興味があったのですが、そのあたりはそこまで詳しくなくて残念。ただ、5000年前のリセット時が神話になっているのは震えたし、あそこで予言されたとおりの差別と対立が生じているのも良かった。軌道上のレールを行き来する月の残骸を基にして作られた超巨大ステーションとか軌道上からケーブルで吊り下げられた空中浮遊都市とか、5000年後の人類のテクノロジーはとにかく豪快!そして5000年越しの伏線回収!第一巻のあの別れがこんなところで出てくるとは…。「その装備で5000年は無理でしょ…」って思っちゃってごめん!ディザスター、宇宙開発、政治策謀劇、ファーストコンタクトと、様々な要素がてんこ盛りのSF宝石箱のような作品。オールタイム・ベスト級の読み応えです。超おすすめ。
おすすめの新刊!
ゆうきまさみ『新九郎、奔る!』第1巻
[amazonjs asin=”4098600013″ locale=”JP” title=”新九郎、奔る! (1) (ビッグコミックススペシャル)”]いやー、センターの選択、日本史だったんですけど、全然わかんねー!ベテランゆうきまさみの新作は応仁の乱を中心とした戦国時代もの。主人公は室町幕府の政所執事伊勢備前守盛定の一子、千代丸。この子が後の北条早雲になるまでの物語…らしい。人物の名前が長くて分かりづらいのもあるし、室町幕府の政治機構の複雑さ、各勢力の思惑の入り組み方が、まあ非常に分かりづらいんだけれども、随所随所で説明が入るし、そこを乗り越えればめちゃくちゃおもしろい大河戦国ドラマが始まる。むしろその複雑さが、次に何が起こるかわからないという緊張感と面白さを生み出している。あと、リアリティがありつつも正確ではない、というのがこの漫画の特徴で、例えば「それが武家のリアルというものではないか」なんてセリフがさり気なく出てきたりする。史実には(わかっている範囲で)正確に、しかし、ディテールは現代人のリアルに寄り添う、という手法は600年前の世界に没入させる方法としては非常にスマートだし、作者本人が言っているように、物語のテンポを崩さない。これはとてもいい。それにしても初っ端、新九郎38歳から始まって、回想シーンという形で本編が始まるんだけど、このショタがあんなむさ苦しいおっさんになってしまうのかと思うと戦国時代の厳しさに思いを馳せずにはいられない…。今後の展開が楽しみな作品。
高野史緒『翼竜館の宝石商人』
[amazonjs asin=”4065125928″ locale=”JP” title=”翼竜館の宝石商人”]17世紀オランダ、アムステルダム。水位の上昇とペストの襲来に浮足立つ商人の街で、宝石商ホーへフェーンがペストで落命する。しかしホーヘフェーンが埋葬された翌日、彼の家に隠された鉄格子の部屋からホーヘフェーンそっくりの男が意識不明の状態で見つかる…。事件の解決に乗り出すのは記憶を失った謎の男ナンドと、レンブラントの息子ティトゥス!いやー、歴史改変SFの名手であり、歴史的人物がガンガン出てくることで定評のある高野先生ですけど、まさかのレンブラント!しかも息子。17世紀オランダクラスタにはたまりません。事件が起きるのは1662年の夏のことなんですが、この頃までにレンブラントは収集癖がたたって破産宣告を受け、嫁と息子に財産管理されて彼らの社員として働いているという状態。画家としてガンガンやっていた1630年台とかを持ってこないあたりが通好みですねー。それにちゃんとオランダという国が「商業国家」という点を踏まえているのも好印象。あまり記録に出てこないティトゥス君ですが、本作では働かない親父と彼の作った借金に挟まれて苦悩する若手経営者(兼画家)という面白い立ち位置です。物語が佳境に差し掛かる辺りでレンブラントが家を抜け出し、ラファエロの絵を買ってきちゃったりしてまじでキレてて笑う。で、肝心のレンブラントは出てくるのか…ネタバレになっちゃうけど、なんと後半まで部屋に引きこもってたレンブラント親方が探偵役だったりしてこれには驚き。安楽椅子探偵ならぬ自宅謹慎画家探偵。締めはファンタジーになっちゃって若干ずるいんだけども、それにしても17世紀オランダの雰囲気がよく出ていますね。《テュルプ博士の解剖学講義》のあの人もメインキャラで出てくるぞ!
服部昇大『邦画プレゼン女子高生 邦キチ! 映子さん』
[amazonjs asin=”4834284875″ locale=”JP” title=”邦画プレゼン女子高生 邦キチ! 映子さん (ホーム社書籍扱コミックス)”]「映画について語る若人の部」なる非常にわかりやすい部活で男子高校生と女子高生が映画についてダベる漫画…なんだけど、基本主人公の女子高生・映子さんが一方的にしゃべくりまくる漫画。ディスコミュニケーション!とにかくこの映子さん、押しが強すぎる上に、映画の趣味が偏りすぎている!あ、「邦画プレゼン」とタイトルにあるように邦画なんですけど、その中でもかなり重箱の隅的なところを突いてくる。第一話で初っ端出てくるのが『魔女の宅急便』ですからね。もちろん実写の方。知らねー!!!いや存在は知ってるけど観てねーーー!!その後も『ゲゲゲの鬼太郎 専念呪い歌』(音楽映画枠…)とか『劇場版仮面ライダーオーズ WONDERFUL 将軍と21のコアメダル』とか、まあ常人はまず観ていない映画がどんどん出てくる。しかし、この漫画のすごいところはそんなよくわからない映画たちを観たくさせてしまう映子さんのプレゼン力!「いや、ほんとにそんなシーンあるんか??ちょっと観てみるか…」となること請け合い。『魔女の宅急便(実写)』で「トンボがキキを張り倒すシーン」とか『哭声/コクソン』の「國村隼がパンツ一丁で鹿にかぶりつくシーン」(ほんとにある)とか。映画語り映画としてはかなりハイレベル。こんなふうに語っていきたいよね(友達無くしそう)。ちなみに一番好きなエピソードは単行本描き下ろしの「シネフィルの会で『デビルマン』(実写版)を力強くプレゼンして出禁になる話」です。
杉谷 庄吾【人間プラモ】『映画大好きポンポさん2』
[amazonjs asin=”B07H7YNV5F” locale=”JP” title=”映画大好きポンポさん2 (MFC ジーンピクシブシリーズ)”]前作(というか第一巻)が非常にきれいに纏まっていたので、「これ2作目要ります?」と危惧していたのだけど、全くの杞憂であった…。前作でニャカデミー賞を受賞したジーノ監督が超大作映画(の2作目)に挑む!…のだけど、編集の段階で尖りまくった映画を作り上げてしまい、ペーターゼンフィルムをクビになるというすごい展開。「予期せぬ(もしくは製作者の望まない)続編」という映画でもよくありがちな事象をメタレベルでネタにするアバンタイトルから、「物語を物語るとはどういうことか?」に力強く踏み込んでいく本編のテンポの良さ。むしろテンポが良すぎて終わりがあっさりすぎると思うくらい。「売れる映画」と「面白い映画」の対比、ポンポさんによる実践的な物語構築論、金集め係としてのプロデューサーの重要性、とこの一冊の中に映画づくりの様々な側面が詰まっている素晴らしい作品。まだまだ語ることがありそうだし、続編が出るならそれもまた楽しみ。
まとめ:その他良かった本&来月読む本
その他良かった本(旧作とか)
スティーブン・スローマン,フィリップ・ファーンバック『知ってるつもり ― 無知の科学』
[amazonjs asin=”4152097574″ locale=”JP” title=”知ってるつもり――無知の科学”]「無知の知の再発見」とでも言えばいいのか。ご存知ソクラテスは「自分の知識が不完全であることに対する自覚」として「無知の知」を唱えたわけですが、本書では人類全体に広がる「知の錯覚」について論じている。ざっくり言ってしまうと、「我々は大勢であるがゆえに」、他者の知識、集団の知識を自分個人の知識であると錯覚してしまうという話なのだけど、ゆえに、これからの「知」は集団のものとして活かしていく方法が重要だとのこと。個人のちっぽけな知識よりコミュ力が大事だというのはショックだけども、言われてみればそうだよね。論旨がわかりやすいのでおすすめです。
宮澤伊織『そいねドリーマー』
[amazonjs asin=”4152097833″ locale=”JP” title=”そいねドリーマー”]『裏世界ピクニック』シリーズが絶好調の宮澤伊織先生の単発百合SF。夢の中でモンスターと戦うとか夢と現実の逆転というあたりは「夢SF」だと定番だと思うんだけど、「この現実自体がかつては「夢」だった」という展開に衝撃を受ける。デイランド⇔ナイトランドの設定がよく出来てる。思えばこれも『裏世界ピクニック』の表⇔裏の関係と似ているな。短いのでテンポよく読めるのもいいし、夢ならではのメタモルの面白さもあって、竜から百合のあたりのメタファーを読み解く面白さも。百合SFっていうか添い寝SFですね。終わりの曖昧さも夢SFっぽい。はい、明晰明晰!
ルイス・ダートネル『この世界が消えたあとの 科学文明のつくりかた』
[amazonjs asin=”4309253253″ locale=”JP” title=”この世界が消えたあとの 科学文明のつくりかた”]人類文明がある日突然にして崩壊してしまった場合の文明再建マニュアル。「都市部はどんどん劣化して危険なので田舎に行け」とか「ゴルフ場に行くと電源が手に入る」といった実践しやすい豆知識から、化学物質合成のためのプラントを作るための鉄を作るための…みたいなかなり高度なものまで網羅されている。後半に行くに従って高度なテクノロジーを再び作り出す方法が出くるけど、基本的な科学の知識がないと若干退屈かも(難しかった)。思考実験の読み物としての面白さが際立つ一冊。アラン・ワイズマンの『人類が消えた世界』と合わせて読みたい。
[amazonjs asin=”4150503524″ locale=”JP” title=”人類が消えた世界 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)”]野田サトル『ゴールデンカムイ』第15巻
[amazonjs asin=”408908315X” locale=”JP” title=”ゴールデンカムイ 15 アニメDVD同梱版 (ヤングジャンプコミックス)”]あいかわらず目のきれいな変態が多い漫画。前巻に引き続き樺太編。クズリが可愛くて怖い。サウナのあたり、ぜっっったいあんな感じの展開になると思ってたらやっぱり「バァーーーン」があって最高だった(つたわって…!)。
来月買う本
飛浩隆『零號琴』
[amazonjs asin=”4152098066″ locale=”JP” title=”零號琴”]飛浩隆16年ぶりにして第二長編!!SFマガジンの塩澤編集長をして「今まで担当した数百冊の中でベスト(SFとして)」と言わしめていることからしても、これはマストバイでしょ!
デニス・E・テイラー『われらはレギオン 3: 太陽系最終大戦』
[amazonjs asin=”4150122024″ locale=”JP” title=”われらはレギオン 3: 太陽系最終大戦 (ハヤカワ文庫SF)”]これも超楽しみな一冊。3部作がついに完結ですが、超強力な異星種族である「アザーズ」にボブたちはどう立ち向かうのか…。今年のベストに入るのは間違いない。
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