はじめに
こんにちわ、すいちく(@suitiku)です!今年の星雲賞参考候補作の感想書いておきました。本当は全部門の参考候補作を読んでから投票しようと思ってたんですが、普通に無理でしたねー…。海外長編だけはなんとか読み切ることが出来ました。全部イアン・マクドナルドのせいだ。来年はちゃんと全部読んで投票できるように、今から今年の話題作をガンガン読んでいく予定です。
SF大会と星雲賞
第54回日本SF大会「米魂」
「星雲賞」は日本SF大会の会期内に決定されます。第54回となる今年の会場は鳥取県米子市。米子なので「米魂」っていうわけで。会期は8月29日(土)と30日(日)です。遠いよ、遠すぎるよ!去年は茨城県つくば市だったから物凄く行きやすかったんだけどなあ…。ちなみに参加費は15,000円(早割)です。1,500円じゃないです。とはいえ、その価値はあるから行くわけですけどね…。著名なSF作家とかが会場内をウロウロしてて普通にサインもらえたりしますし、展示公演企画もここでしか見られないものばかり!この参加費の中に星雲賞の投票権も含まれてます。まあ、SFに興味が無い人にとっては全く無価値なイベントですね!
■第54回日本SF大会「米魂」公式サイト (よくわからないけど現在は閲覧不能)
第46回星雲賞
「日本SF大賞 1」と並ぶSF文学の賞ですね。日本長編、海外長編、日本短編、海外短編、メディア、コミック、アート、ノンフィクション、自由の全9部門。ちなみに、SF大会の会場では「暗黒星雲賞」なる賞もあったりします。
ちなみに、去年の星雲賞はこんな感じ↓
日本長編:小川一水『コロロギ岳から惑星トロヤへ』
日本短編:谷甲州『星を創る者たち』
海外長編:ピーター・ワッツ『ブラインドサイト』
海外短編:ケン・リュウ『紙の動物園』
メディア:ギレルモ・デル・トロ監督『パシフィック・リム』
コミック:丸川トモヒロ『成恵の世界』
アート:加藤直之
ノンフィクション:あさりよしとお『宇宙へ行きたくて液体燃料ロケットをDIYしてみた 実録なつのロケット団』
参考候補作6作品
■アンディ・ウィアー『火星の人』:ユーモアに満ちた理詰めの極限サバイバル!
[amazonjs asin=”4150119716″ locale=”JP” title=”火星の人 (ハヤカワ文庫SF)”]火星に一人残された宇宙飛行士のマーク・ワトニー。救援物資が届くまでの4年間、彼の主食はじゃがいもである…。いや、マジで火星にじゃがいも畑を作る話なんですよ。少なくとも前半は。残された資源とエネルギーをいかに効率よくカロリー(=じゃがいも)に変換するか…。かなり細かい理詰めのお話です。解説で中村融さんも言ってるけど、いかにもなどんでん返しとか暗躍するNASAみたいなものは出てこなくて、火星での生存それ一本に絞っていて、それが実にいい。ちょっと分厚いけど、アッという間に読めますよ!個人的に胸熱だったのは回収した着陸機を介してチマチマ通信するとこですね。より効率のよい通信方法を求めて、アスキーコードを使ったりね。それから、主人公のワトニーくんが絶望的な状況にもかかわらず、語り口が軽いのもいい。例えはアレですけど、「万策尽きた!」「尽きてない!」みたいな。火星は一人だけどさ。テレビとか見すぎでしょw
これからは待ち時間がやたらふえることとなる。CO2タンク一個がいっぱいになるのにかかる時間は10時間。ヒドラジンを分解して水素を燃やすのにかかる時間はたった20分。あとの時間はテレビを見ることとする。
まじな話……ジェネラル・リー(『爆発!デューク』の主人公たちが乗る自動車)はまちがいなくパトカーを追い越せるはずだ。どうしてロスコーは三人のデュークが車にのっていないときにデューク農場にいって逮捕しちゃわないんだ?
今年の10月にはリドリー・スコット監督による映画も公開になりますねー。こちらも楽しみ。どうか『ゼログラビティ』の亜流みたいな(悲壮感だけの)作品になりませんように…。
■ジョー・ウォルトン『図書室の魔法』:ファンタジックな自伝的小説
[amazonjs asin=”4488749011″ locale=”JP” title=”図書室の魔法 上 (創元SF文庫)”] [amazonjs asin=”448874902X” locale=”JP” title=”図書室の魔法 下 (創元SF文庫)”]陰鬱な中身を想像していて結局読むのが最後に…。たしかにめちゃくちゃ状況は暗いんですよ。主人公のモリは双子の妹を失い、足に障害を抱え、スクールカースト(体育会系有利的な)はびこる女子寄宿舎学校に厄介払い。でもって母親はキチ○イ。でも、書き方はそんなに悲惨な感じじゃないんですよ。なんか達観しているというか。成人した筆者が、「そういえばああいうこともあったなー」という思い出話的なテイストですね。とはいうものの、彼女がその時代を生き抜いてこれたのは本(特にSF)とフェアリーの存在があったからなんですよね。アウェーな環境で、本だけを楽しみに十代の前半を過ごしてきた人々なら共感できる自伝的な物語です。1979年の夏から1980年の春までのとても短い回想録。最後は「明日もがんばろう」と思える素敵な締めくくり方をするのも後味良いですね。
ところで、ウェールズからイングランドの学校にやってきたモリが「学校のメシ、クッソ不味い」って言ってるんですけど、やっぱりイギリスって…。
生徒が料理することは禁止されており、わたしたちは食材に近づくことすら許されず、与えられる食べ物は最低だ。たとえば、昨日の夕食はスパムのフリッターがメイン・ディッシュで、味付けされていないマッシュポテトと茹ですぎのキャベツが付け合せだった。デザートは、カスタードとくるみを添えたプティングがたったの一皿。ハワイアン・ディライトと称するこれを、わたしたちは六人で分けなければならない。
■ジョン・スコルジー『レッドスーツ』:三文スペースオペラが極上のメタSFに飛躍する傑作!
[amazonjs asin=”4153350133″ locale=”JP” title=”レッドスーツ (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)”]宇宙、それは人類に残された最後の開拓地である。 そこには人類の想像を絶する新しい文明、新しい生命が待ち受けているに違いない。 これは人類最初の試みとして5年間の調査飛行に飛び立った宇宙船、 U.S.S.エンタープライズ号の驚異に満ちた物語である。
…というのは『宇宙大作戦』のオープニングナレーションですが、この小説の主役は銀河連邦の宇宙艦隊旗艦イントレピッド号。原題は『イントレピッド号航宙記』というタイトル…というわけではなく、原題も『RedShirt』です。これはスタトレシリーズに出てくる保安要員が来ている服の色で…。とまあ、ちょっと語っただけでどんどこネタバレしてしまうので感想がとても書きづらいんですよねー。
物語はこの宇宙探険を目的としたイントレピッド号に新任少尉ダールが配属されることから始まります(なんで銀河連邦の旗艦が宇宙探検なんかしてるんだ?)。行く先々で大宇宙の脅威と直面するイントレピッド号。巨大地虫に殺人ウイルスに暴走ロボット…。そしてその「遠征」の度に死んでいくクルーたち。しかし、船長をはじめとする5人の上級クルーは決して死ぬことがない。この事実を知ったダールたち新人クルーたちは巨大な陰謀に立ち向かっていく…のですが、ここから彼らがどうやって生き残っていくか、そしてその結末のメタSF的な飛躍がとてもうまい!しかも3重のメタ構造になっているという。しかもしかも本編が終わった後の「終章」がまた素晴らしい。最初はC級宇宙活劇ものを読んでいたというのにいつの間にか人生に思いを馳せることになるとは。「書かなければ生活できない、しかし書けば誰かが死ぬ」というジレンマに悩むとある人の苦悩もいいですねー。物書きの人にぜひ読んで欲しい本です。
ジョン・スコルジーと言えば『老人と宇宙』でも奇妙な設定でオーソドックスな宇宙戦争活劇を書いてましたけど、ここまでヘンテコで素晴らしいものを書くとは驚きですね。ヒューゴー賞とローカス賞受賞。
あー、あと『レッドスーツ』の方が語呂はいいんだけど、意味的にはやっぱ「赤シャツ隊」でしょ!
”じきにわかるが、イントレピッド号の慣性吸収装置は危機的な状況ではうまくはたらかない” ダールはジェンキンズのことばを思い出した。 ”ほかのときなら、艦がUターンしたり宙返りしてもだれも気づかない。ところが、なにかドラマチックなできごとが起きているときは、足もとがぐらつくんだ”
■イアン・マクドナルド『旋舞の千年都市』:異形のイスタンブールを舞台にした生々流転の大群像劇!
[amazonjs asin=”448801450X” locale=”JP” title=”旋舞の千年都市 上 (創元海外SF叢書)”] [amazonjs asin=”4488014518″ locale=”JP” title=”旋舞の千年都市 下 (創元海外SF叢書)”]クソ読みづらい。キャラクターがさあ、多すぎるんだよなあ。ほら、小説の最初の方に主要人物書いてるあるページあるじゃないですか?あれが6,7ページあるんですよ!計47人分!でもって、こいつらがザッピングで群像劇を繰り広げるという…。金融市場でガス詐欺を企てる4人のリーマン、テロで精霊が見えるようになった穀潰しの男、過去の悔恨を抱える引退した老経済学者、テロ組織を追う少年探偵、謎の遺物「蜜人」を探すクールでキュートな女美術商、ナノテクで起業しようとするはとこのために金策に走る金融マーケッター。一応、軸となる人物がいるのでそんなに混乱はしないのですが、脇役までキチンと描写しようとするのでわたわたしますねー。しかも結構ぶつ切りなので、いいところで他の人物のパートに行っちゃう。俺は少年探偵の続きが読みたいんだー!みたいな感じになります。ちゃんと最初と最後が繋がって大団円なんですが、終盤のパイプライン施設のあたりの伏線の処理、超クール!クライマックスの爽快感は半端ないね。最初はけっこう退屈だけど、「蜜人」のエピソードが始まる辺りから物語が急加速!ナノテクとマイクロボットが生活に密着していて、自動運転も実現しているのに、EUに加入したばかりで、古い喫茶店(チャイハーネ)にギリシャ人たちが集うという新旧入り混じった世界観も素敵。ちょっとネタバレですが、テーマ的には「信仰は作れるか?」。
正気の世界にポッカリと空虚な穴が開き、その縁でシーソーのように揺れうごく。壁に並べられているシバの女王ベルキスと預言者のペルシア風細密画が、場所をまったく変えないまま、渦を巻くように回転する。二十一世紀の二十年代に響きわたる、奇跡の世界のこだま。もし蜜人が魔法の時代から歩みでてくる場所があるとするならば、幻想と日常がありふれた邂逅をする場所があるとするならば、ジンが大地に降りたつ場所があるとするならば、それは確かに、イスタンブールしかありえない。
■アーネスト・クライン『ゲーム・ウォーズ』:主人公機はレオパルドン!
[amazonjs asin=”4797365250″ locale=”JP” title=”ゲームウォーズ(上) (SB文庫)”] [amazonjs asin=”4797373822″ locale=”JP” title=”ゲームウォーズ(下) (SB文庫)”]一言で言っちゃうと「小太りの貧困層ギーク野郎がゲームで一攫千金する話」で間違ってはいないのだけど、めちゃくちゃ濃度の高い80年台サブカルチャートリビア小説でもある。舞台は近未来のアメリカ、資源が枯渇したお先真っ暗の世界。人々の希望となったのはインフラ直結の超巨大仮想空間「OASIS」。そして、その創始者であるジェームズ・ハーディが死んだことから彼の数千億ドルに及ぶ遺産をめぐってエッグハントがはじまった。このエッグハントというのはOASISというゲーム内に隠されたイースターエッグのことですね。近未来にもかかわらず、このエッグハントのヒントになると考えたエッグハンターたち(ガンターと呼ばれる)が80年台カルチャーを再興させたいびつな世界観が最高に楽しい!まあほとんどわからないんだけど!日本のカルチャーもかなりたくさん出てきますよ。人公がとあるエッグハントのとあるクエストの褒美として数ある日本のジャイアントロボットたちの中からあえてレオパルドンを選ぶシーンとか、ウルトラマンと三式機龍が戦う場面とか…。日本人としては嬉しい。
それから、後半の精算労働者の生活を書いたパートも現実に目の前にぶら下がってるかのようなリアリティがありましたね。負債を貯めてると企業警察がやってきて強制連行→強制労働させられるという。「負債を精算して新しい明日を!」なんてCMが施設内に流れるとことかディストピアものの定番をやっていて面白い。明日にでも実現しそうなディストピア。この小説のいいところの一つは、ゲームの中だけで完結していないところですね。ちゃんと現実を描いていて、きちんとそこに回帰していく。この精算労働者のシーンもそれまでずっとOASIS内での俺ツエー描写が続いていきなりの現実世界、しかもほぼ無防備という状態なのでかなりドキドキしますが、そこからの大逆転が最高に盛り上がります!バックドアの開け方が子供の頃やったファミコンの裏ワザみたいなのもいいですね。
この作品も映画化が決まってるそうで、そちらのほうも楽しみですね!
本物の 、ちゃんと動くロボットをもらえるのかもしれない 。そう考えて 、選択に慎重になった 。一番強くて 、一番装備のいいロボットを選びたい 。しかし 、レオパルドンを見つけた瞬間 、ジョイスティックを動かす手がぴたりと止まった 。コミックの 『スパイダ ーマン 』を原案として一九七〇年代に日本で製作された特撮テレビドラマ 『スパイダ ーマン 』に登場する巨大ロボットだ 。リサ ーチの過程で 『スパイダ ーマン 』を知って以来 、とりこになってしまった 。レオパルドンを見つけた瞬間 、どれが一番強そうかなんてどうでもよくなった 。絶対にレオパルドンがいい 。一番強くなくたってかまわない 。
■オースン・スコット・カード『道を視る少年』:タイムパラドックスを大胆に扱った<パスファインダー>シリーズ第1巻!
[amazonjs asin=”4150119457″ locale=”JP” title=”道を視る少年(上) (ハヤカワ文庫SF)”] [amazonjs asin=”4150119465″ locale=”JP” title=”道を視る少年(下) (ハヤカワ文庫SF)”]「ファンタジーの皮をかぶったSF」。しかも時間SFである。主人公である少年リグは人々や動植物が移動した痕跡「パス」を見ることができる能力を持っている。それまで父と山奥で暮らしていた彼は、ある日を境として王国の継承をめぐる陰謀に巻き込まれる…。といういかにもな王道ファンタジーっぽい出だしですが、各章の頭にこの世界の成り立ちにまつわるSF的エピソードが挿入されるため、きちんとSFであることがわかりますね。通り抜けることの出来ない壁「囲壁」、19に分割された世界、11,191年前から始まる逆算式のカレンダー、リグたちの持つ能力…。様々な謎を散りばめたシリーズの第一巻。能力者SFでもあり、時間SFでもあるわけですが、透明人間の時間SF的解釈には驚きましたねー。よく考えたら主役の3人はジョジョのラスボス級の能力持ってるんだよなー。続刊が気になります!
未来の人間が時間をさかのぼって過去の自分になにかをするなと警告すると、その言葉だけが残り、警告者は消えてしまう。警告者も新しいパスをたどりはじめるからだ。
とにかくそうなるのだ。時間をさかのぼって自分自身に警告するとそうなる。
リグが別行動をとり、無関係な他人に警告するだけなら、警告者であるリグは変わらないのかもしれない。新しい待ちあわせ場所へ行けるかもしれない。わからない。
「頭がおかしくなりそう?」パラムが訊いた。
「わけがわからなくなってきた」
この本に投票しました!
さてどれに投票するか、かなり悩みましたねー。特に『レッドスーツ』と『火星の人』。どちらも理詰めなんですが、前者はリアリティ、後者はSF的破天荒な理詰めという。で、結局『レッドスーツ』に投票しました!『ゲーム・ウォーズ』と『旋舞の千年都市』もかなり良かったんですけども…。でもさすが参考候補作だけあって、どの作品もハイクオリティ!
さて、もう投票自体は終わってしまったわけですが、せっかくなので、次回は日本長編の星雲賞参考候補作についてレビューしてみたいと思います!まだ『オービタル・クラウド』と『人類は衰退しました』(全9巻)しか読んでない…。
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