「テート美術館展」にすべりこみ

「テート美術館展 光 — ターナー、印象派から現代へ」

テート・ギャラリー×「光」テーマの展覧会。テート・ギャラリーの所蔵品、「光」のイメージってあまりないけど、前半はターナーとか印象派あたりがメインでしたね。展覧会構成は基本的に18世紀から時代を下っていくスタイル。古典絵画から現代のイスタレーションまで系統だって観られるのは嬉しい。

特に印象に残った作品は前半ではジョン・マーティンの《ポンペイとヘルクラネウムの崩壊》、ホイッスラーの《ペールオレンジと緑の黄昏—バルパライソ》、そして展覧会の目玉の一つ、ハマスホイの室内画。ジョン・マーティンは初めて知ったけど生頼範義先生っぽさがある。スケール感と奥行き、独特の色彩が素晴らしい。ハマスホイはやはり落ち着いた光が良い。

Room5からは20世紀以降の作品。絵画ではロスコ、リヒター、ニューマンあたりの作品が良かった。SNSで映えるエリアソンの《星くずの素粒子》は写真で見るのと実物とではかなり印象が違う作品。影の方が本体だと思うのだけど、みんなが実体のある照明の方にカメラを向けていたのが面白かった。個人的にベストだったのはタレルの《レイマー、ブルー》。空間そのものに色をつけるとでもいうべきか、空間そのものを味わう唯一無二の忘れ難い体験。

ところで今回は会期終了間近の平日夜間開館で行ってきたんですが、これがかなりガラガラで快適でした。平日の中でも中日の水曜に行ったのが良かったのかも。その点もかなり良い展覧会でした。

ポリコレ時代のコワすぎ:『戦慄怪奇ワールド コワすぎ!』

久々のコワすぎ。工藤DがプロデューサーにAD市川がディレクターになっていたりするのだけど、基本はこれまでと同じノリ…と思いきや冒頭からコンプラを意識したかのような発言が出てきて驚かされる。これもモキュメンタリーという作品の特性と、劇中で「これは映画である」という発言からくるものなのかもしれない。

今回の怪異は謎の廃墟(「カメ止め」のあそこ)に出現する「赤い女」。例によって工藤はこの怪異を捕まえようと金属バット片手に乗り込んでいくのだけど、廃墟に向かう途中から怒涛の展開で圧倒される。基本的には「真説・トイレの花子さん」を踏襲する時空間入り乱れ系で、例によって擬似ワンショットの中で時間と空間が入り乱れる編集が見事。

前半はいつものように工藤Pの異常な言動に笑ってみていたのだけど、中盤から動画投稿者であるTikTokerたちの過去のトラウマが明かされるあたりから空気が重苦しくなっていき、物語の黒幕である謎の存在の正体が明らかになるくだりでそれが加速していく。

物語のクライマックスは工藤がある人物と対峙するシーン。暴力とセクハラでキャラクターづけられていた工藤は自らの暗部と対峙し、これを克服する。前半に置かれていた「ポリコレ」的な場面はこの伏線だったのだなあ。そしてこれは「コワすぎ」シリーズの終わりにふさわしオチでもある。

それにしてもエンドロールがひどすぎて笑ってしまった。

映画『戦慄怪奇ワールド コワすぎ!』公式サイト

『新版 ウは宇宙ヤバイのウ!』続編が楽しみ(出るのかな?)

前から読みたいと思っていた作品が待望の復刊!ありがたい。

噂には聞いていたけどめちゃくちゃなワイドスクリーンバロック。開始4ページにして隕石で地球が滅亡するインパクト。タイムリープありAI擬人化ありDIY超兵器あり世界改変あり人間ブラックホールありエイリアン皆殺しスプラッターあり時空検閲官(ではないけど)の部屋あり出稼ぎ自爆ドローンの一族ありと、とにかくアイデアが盛りだくさん。それぞれのネタも濃すぎる。ベースはラノベだけど、中身はハードで口当たりが良いというすごい作品だ。おまけに百合ハーレムでもあったりする。幼馴染の女の子が食いしん坊キャラである理由が凄すぎて笑った。その発想はないよ。

それにしても復刊のタイミングが絶妙。『裏世界ピクニック』がヒットしているということもあるけど、作者が書きたい百合ネタがウケる土壌ができていて、さらに世界線混淆機〈ワールドシャッフラー〉がすんなり理解してもらえる「エヴエヴ」と「スパイダーバース2」の年に復刊!世界線がこんがらがっていくのが物語の根幹にあるわけだけど、望む世界を実現するために世界線混淆機を何度も起動するあたりはタイムリープものの変奏としてみることができるかも。全人類が熊になってしまった世界線が最高。熊の菫ちゃんかわいい。

ところでこの新版、著者が「百合が書きたいから」という理由で主人公の性別が男性から女性に変わってるのが一番の面白ポイントですね。キャラクターと設定が魅力的なので復刊を機に続編出てほしいなあ。