ツグミさんジト目かわいい。『百木田家の古書暮らし』第3巻

ラブコメ感が増してきた…。相変わらず感情表現の演出がうますぎるという印象なのだけど、ツグミさんのこじらせっぷりがいっそ清々しくて気持ち良い。ほんとこの子はジト目がよく似合う。梓沢さん、考えてることも適宜開示されるんだけど、どこか得体の知れないところがある雰囲気も魅力的。ツグミさんの方からだと本当に何考えてるかわからないという見せ方も上手い。小さなディスコミニュケーションが積み重なっていくわけだけど、それが決定的になることはないというのもどことなくリアル。この付かず離れずといったアンチロマンチックとでもいうべき雰囲気が実にいい。お姉ちゃん(イチカ)はいい歳してドがつく鈍感っぷりだし。なんか愛おしいんですよね…。一応?古書店ものでもあるので、その辺りのエピソードが絡んでくるのも物語に深みを与えているような気がします。

やべえやつしかいなくて良すぎ。『終戦後のスカーレット』第1巻

今年ベスト級の面白さなのになんで話題になってないんだろう…。

ざっくり言っちゃうと「第二次大戦後版『ゴールデンカムイ』」。主人公は不死身の杉本よろしくやたらと頑丈な男だし、奇人変人祭りというあたりもかなり共通してる。そして、こちらも男女バディが「あるもの」を探すというストーリーなのだけど…それが「第3の原爆」というのがめちゃくちゃ面白いポイント。その価値はなんと500億円(現在の価格で10兆円)!このスケールの大きさもいい。「第3の原爆」、いかにも都市伝説にありそうだし、金塊よりも明らかにデンジャラスな香りがするんですよねえ。

でもって出てくる連中が揃いも揃って狂ってるのも最高!表紙の時点で設定盛りすぎで胃もたれしそうな眼帯パンツスーツ三つ編み美女がヒロイン(?)なんだけど、こいつからしてもうかなりイカれてる。というか目の表現とか見るに明らかに『チェンソーマン』のマキマさんがモデルなんだよなあ。いきなり主人公をガチで撃ってくるヒロインってなかなかいなくないですか??それこそマキマさんくらいだよ。原爆を追う敵組織、とりあえず第1巻は進駐軍(米軍)くらいなんだけど、こいつらも大体おかしい。特に1巻のトリを飾る拷問大好きウッズ中尉はただの筋肉バカだと思って見ているといきなり「人間サッカーボール」(人間をそのまま丸めたボール)が出てきて思わず声が出てしまいました。狂ってんなあ…。

とにかくめちゃくちゃ面白いので読んでほしいんですわ…。こっちは絶対アニメ化とかできない(気がする)し…。売れてくれ〜!

湯浅政明のブレなさに驚く:『クレヨンしんちゃん 雲黒斎の野望』

こないだの「アクション仮面VSハイレグ魔王」に続き、「【新文芸坐×アニメスタイル vol. 159】熱烈再見!クレヨンしんちゃん 雲黒斎の野望」にて。

これも大体30年前だから観た記憶はなんとなくあるんだけど全く覚えていなかったので後半のパラレルワールド編は驚いた。これは記憶なくしておいて良かったパターン。というかパラレルワールド編は今見ると湯浅監督の色がめちゃくちゃ濃いですね。トークで雲黒城ロボのアクションまわりは全部湯浅さんという証言は出てたんですけど、その前の雲黒城にタイムマシンで乗り付けるまでのくだりも湯浅さんっぽくないですか?まんま『マインドゲーム』というか。前半の時代劇パートも今見ると作画陣が異常に豪華。亡くなられた京アニの木上さんのあたり(門の中での待ち伏せから塀を飛び越えるまで)とか菜の花畑での斬り合いの場面とか。

前回のイベントもそうだったんですが、今回もトークショーが異常に盛り上がり最高。今回は原監督が来ていたこともあり、まじでオフレコのやばい話がガンガン出てきて大盛り上がり。時間も2、30分くらい押してた感じだったし。原監督のトーク、やっぱりやばすぎて面白いですね。書けないけど、某プロデューサー周りの話がすごかった…。業界裏話といった感じ。最後に作品に携わって今は亡き人々の名前を挙げていたのが印象的でした。そういったあたりも含めて、いいイベントでした。

コナンさんの映画まとめて観る

そういえばコナンシリーズ全部観たことなかったなあと思い。この時期になると新作公開記念で全作配信になるので、思い切って1日1作ずつ観てみました。

最近のコナンは基本的に「そうはならんやろ!」の部分を楽しみに観ているところがあるのですが、さすがに初期は落ち着いて…全く今と変わらないですねこれが…。これは観ていてちょっとびっくりしました。第1作の「時計仕掛けの摩天楼」の時点ですでにバカみたいな爆発が起きてるし、蘭姉ちゃんは普通に死にかけてるし…。とはいえ、確かにこの時点ではまだ「おとなしい」感はありますね。基本的に常識的なことしか起きないし。そういった意味では第5作の「天国へのカウントダウン」の車で隣のビル飛び移りあたりからだんだんおかしくなってくるんですよね…。第2作の「14番目の標的(ターゲット)」の頭のおかしい大崩壊あたりから兆候はありましたが…。

個人的に良かったベスト3作は、小五郎のおっちゃんが珍しく活躍する第9作「水平線上の陰謀(ストラテジー)」、ホール関係者がバカしかいない第12作「戦慄の楽譜(フルスコア)」、SOMPO美術館(旧:東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館)の館長が実名で出てくるのも見どころの第19作「業火の向日葵」あたりですね。しかしどれを観てもめちゃくちゃ面白いのはすごい。ハズレがない。ドラ○もんもクレ○んも当たり外れがかなりあるのに…。

『最後まで行く』めちゃくちゃおもろいやん

予告編の10倍くらい面白い。最初から最後までずっと笑ってた(予告でもあった車が潰されるシーンは除く)。正直なめてたけど、今年ベスト級の面白さ。

うっかり人を轢いてしまった刑事が追い込まれていく…というあらすじは知っていたものの、冒頭から追い込まれ方が半端ない。「一難去ってまた一難」が100個くらい立て続けに起こるイメージ。「いやいやいやもう無理!!」と思っているといい具合に危機を脱してほっと一息…と思っていると息つく暇もなくまた新しい危機がやってくる…という。しかも実はダブル主人公なのでそれが×2という構成も面白すぎる。葬式がらみの場面はマジで不謹慎だけど母親の棺桶に無理やり死体を詰め込むシーンとかもう笑うしかない。

そしてこの超ハイテンションの物語を支える役者陣もすごい。ヤクザの組長役の柄本明が出てきた時は「まーたこいつがインパクト残していくのか…」と思っていると、主人公の刑事・工藤(岡田准一)のライバル的立ち位置の矢崎(綾野剛)が中盤から性格が確変して頭のおかしい方向に転がっていく…。特に岡田と綾野の新年カーチェイスの場面での狂気を孕んだ吹っ切れた笑顔はもう最高。これは歴史に残る演技ですわ。

『NOVA2023年夏号』でオールタイムベストの1本を見出す

今回は全員女性作家ということですが、それはあまり関係なくハイクオリティな作品が集まってます。まあ毎年のことなので特に驚きもないんですが…。

とはいえ、今回の高山羽根子先生の「セミの鳴く五月の部屋」はこれまでに読んだ短編小説の中でもオールタイムベストの一本。謎のゲームに興じる人々が次々と主人公の部屋を訪れる…と書くと何がなんだかわからない話なんですが、「誰もがみんな自分の”物語”を生きている」ということをさりげなく、そして力強く表現した作品。素晴らしい。

芦沢央「ゲーマーのGlitch」も個人的に大好きな作品。未来のRTA大会を実況形式で描いた作品で、これだけでもかなり面白いんですが、これまたオールタイムベストの一冊である赤野工作先生の『ザ・ビデオ・ゲーム・ウィズ・ノーネーム』とテイストがすごく近いんですよね。ゲームの実況から彼らの人生が垣間見えてくるあたりとか特に。あと単純にRTAの解像度が高くて楽しい。

絶好調の斜線堂有紀先生の「ヒュブリスの船」は、よくあるタイムリープものと思わせておいて著者らしい悪意に満ちた作品。まあそうなるだろうな、という予感はありつつも、まさかねえ…というルートをちゃんと書くんだよなあ。バッドエンドまどマギ的な。普通に毎日楽しめばみんなハッピーだったのではと思わなくもない。このどん詰まり感は『〔少女庭国〕』を思い出しました。

総じてどれもめちゃくちゃ面白いのでSFファンは必読。