目次

はじめに

2022年に観た映画を適当にふりかえっていきます。

全部載せるのはしんどいので印象が強めのやつだけ…。

ネタバレたぶんないと思うけど気をつけて!

邦画がつよすぎ

とくに今泉力哉作品。今年の監督or脚本作の3本、『愛なのに』『猫は逃げた』『窓辺にて』、どれもこれも異常に面白い。というか1年で2本も監督・脚本作出すのがまずやばいし、テーマがほとんど同じなのに切り口が違うので全く違う面白さが出てきているのがすごすぎる。3本、どれも格好つけがたいけど1本挙げるなら稲垣吾郎がハマり役すぎる『窓辺にて』ですかね。

そういう意味だと『愛なのに』監督、『猫は逃げた』脚本の城定監督の作品は、監督・脚本作4本観てるんですよね…。上の2本に加えて『ビリーバーズ』『夜、鳥たちが啼く』。この人もウェルメイドな作品を量産する人ですねー。今泉監督と違うのは出身ゆえか艶やかなシーンが入ってる点かな。

この二人の監督の作品はややミニシアター的な感じで観る人を選ぶ感じがするんですが、もう誰にでも絶対オススメできる作品を2本。

『MONDAYS/このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない』もミニシアター、というか演劇系なんだけど、一昨年の「カメ止め」と同じようなルートでヒットしたSFコメディ。まああらすじはタイトルどおりなんで、特に説明しないんですが、このワンアイデアを膨らませていく工夫と演出の数々が素晴らしい。個人的大好きなのがプレゼンのシーンで、サラリーマンなら爆笑すること必至。部長役のマキタスポーツもハマり役で実に楽しく爽やかで、ちょっとしんみりする作品となってます。

もう一本は、恋している女性がわかる能力を持った男子大学生が主人公のラブコメ『恋は光』。これ、主人公のメンタルやら周りの女性陣やら、かなり森見登美彦。『四畳半神話大系』とか『夜は短し恋せよ乙女』が好きならマストウォッチな作品となっております。主人公の「私」感とかヒロインの一人である東雲さんの「明石さん」感とか…。ストーリーもめちゃくちゃ面白いので観てほしい…。

あまり期待しないで観た『ある男』も良かった。ちょっと思想が強いと言われるとそれはそうかも。アイデンティティと記憶の物語。撮影が良い。狂人の役を演ずる面会室の榎本明の場面が強烈すぎる。

インディーズは大田原愚豚舎の新作を2本も観れたのが収穫。『TECHNO BROTHERS』は大田原愚豚舎初の全編カラー&本格的な劇映画なんだけど、大田原市内をぐるぐるしているあたりはやはり渡辺監督作品という感じ。もう一本の『生きているのはひまつぶし』は逆に純粋ドキュメンタリーに近づいた作品で、コロナ禍の大田原を映す一種のタイムカプセルのような作品。

大橋隆行監督のインディーズ作品『とおいらいめい』はベストに入れたい傑作。地球滅亡が数カ月後に迫った世界を舞台にして、地方都市で最後の日々を過ごす三姉妹を描いた作品。『ベイビーわるきゅーれ』の高石あかりが主演というのもいいし、過度に静かでもなく、過度に凄惨でもないダイイングアースというのはなかなか珍しいテイストで印象に残ります。ラストの長回しはここ数年観た映画の中でも屈指の名シーン。

大晦日に映画納めとして観た『ケイコ 目を澄ませて』。あまりにも評判が良いので締めに取っておいたのですが、いやあ評判通りの作品でした。聴覚障害者の映画として観てもいいし、ボクシング映画として観てもいいし、コロナ禍を活写した映画として観てもいいという。マスクによって聴覚障害者のコミュニケーションがかなり阻害されている描写は、こういう風に寄り添って描かないと伝わってこないなあ、と感じました。個人的に荒川区と足立区(北千住)の風景が多く出てくるのが良かったです。

今年観た一番の怪作は相葉くん主演、中田秀夫監督の『”それ”がいる森』。令和になってあんなクリーチャー見ることになるとは思わなかった…。和製『サイン』みたいな映画ですね(落とし穴のくだりとか)。みんなでツッコミながら観ると楽しいと思います。あと子役の演技が良い。

アニメもつよいけど『すずめの戸締まり』はやや肩透かし

アニメのベストはやはり『四畳半タイムマシンブルース』!『Sonny Boy』の夏目真悟監督なので間違いない。内容は原典の『サマータイムマシンブルース』のまんまなのに、キャラクターと演出が「四畳半」になるだけでこれほどまでに面白くなるのか、という驚き。早くBlu-ray出して。

サイエンスSARUつながりで湯浅政明監督の『犬王』もすごかった。期待はしてたけどそれ以上。ストーリーもさることながら、それぞれのライブシーンのアイデアが素晴らしい。

新海誠監督の『すずめの戸締まり』はやや期待外れ。いや、全然凄いんだけど、新海誠らしさが徐々に抜けてきているという意味で。『ほしのこえ』を出発点とするなら、売れるにしたがって個性が消えてきている感じがしますね。いかにもな猫のマスコットキャラとか。2046年の夏休みははるか遠くになりにけり…。とは言うものの、本作でもかなり光るものはあって、例えば市井の人々をありのままに描こうとしている点には惹かれるものがあります。具体的には神戸のスナックのママのエピソードなどは飾らないキャラクターデザインや生き生きとした仕事ぶりに驚かされました。あと単純に震災三部作の最後(ですよね?)のセリフとして「行ってきます」はさすがにセンスが良すぎる。

あまり期待してなかった原恵一監督の『かがみの孤城』、蓋を開けてみれば大傑作。原監督と女性原作者、相性いいのかな。演出も作画もいいし、ミステリアスなストーリーも素晴らしい。

逆に、あの名作『宇宙よりも遠い場所』のいしづか監督による絶対間違いないと思われた青春劇『グッバイ、ドン・グリーズ』。いいところもあるけど、うーん…。

期待してなかったし実際にその通りだったのは泡が出るあのアニメ。アクションは良かったんですが…。

『ペンギン・ハイウェイ』の石田祐康監督による新作『雨を告げる漂流団地』は、児童向けの皮をかぶったフェティシズム全開の怪作。これは人を選ぶね…。自分はもちろん大好きです。団地と廃墟とソフトリョナが好きな人は是非…。

ファンサは100点だけど映画ファンからは不評だった『映画 ゆるキャン△』。意欲的で自分は好きだけどなあ。映画ファンからはファンタジーと現実の敷居が雑すぎるとのこと。まあそれはそう。大垣さんが二代目ぐび姉になってるの最高。終わっていく青春と変わっていく関係。死の匂い。ファーストカットが富士山なのは松竹ならではでインパクト大。

「はいはい、ラノベラノベ」と思って観に行った『夏へのトンネル、さよならの出口』は、メインガジェットの「ウラシマトンネル」の設定がハードコアすぎて予想外の面白さ。ていうか令和版『ほしのこえ』じゃん!

安藤雅司/宮地昌幸というベテランアニメーター二人の共同監督作品『鹿の王 ユナと約束の旅』、かなり出来が良かったと思うんですが、あまり話題にならなくて残念…。数年後に評価されるといいなあ。作画と演出の良さは素晴らしい。あとやっぱりジブリ感はあるよね。ファンタジー要素を強めにしたのは評価の分かれるところだと思います。機会があったら観てほしい作品。

同じくベテランの礒光雄監督待望の新作『地球外少年少女』(前後編)。リアリティがありつつも漫画的なステーションの描写が素晴らしい。穴に落ちていくとだんだん重力が強くなる、というあたりとか。本格的な宇宙サバイバルものとしても超面白い。『電脳コイル』に連なるAR、AIものでもあって、テーマが次第にそちらにシフトしていくのも上手い。

東映で100億超えた『ONE PIECE FILM RED』。前半はほぼほぼウタのMV集なんだけど、中盤からの急展開に驚かされます。ブルーノとかコビーらの古株が活躍するのも個人的には嬉しい。

毎年狂ってる「コナン」、今年は『名探偵コナン ハロウィンの花嫁』でやはりツッコミが追いつかない。警察学校組がテーマで舞台は渋谷。毎回最後に「そうはならんやろ」の大ネタがくるけど、年を経るごとにどんどんスケールが大きくなる…。あのサッカーボール、兵器転用したら強そう。ハイライトは「コナンに麻酔針打たれすぎて医療用麻酔が効かず苦しむ毛利探偵」

外国アニメは『バッドガイズ』がベスト。「ルパン三世」+『ズートピア』というテイスト。テーマもさることながら、アクション、芝居、演出が素晴らしい。

とても良かった『シング』の続編、『シング:ネクストステージ』。うん、これはない。ハリウッドのスキャンダルとか一切見ずに作ったのかな?劇中劇の宇宙ものSFも絶妙に面白くない。

またアフガンものか…のヨナス・ポヘール・ラスムセン監督『FLEE』は、アフガンの迫害から逃れて亡命した男の半生もの。「生き残ってるからいいよね」という話で終わらせないのがいい。生き残った人々がノーダメージなのかというとそんなわけはないというお話ですね。一人の同性愛者の物語としても素晴らしい。

同じくアフガン(カブール)が舞台の『マード 私の太陽』は東京アニメアワードフェスティバル2022のグランプリ受賞作。アフガン版の『この世界の片隅に』と言っていいのかわからないけど、チェコの女性がアフガンの男性に嫁いでいくあたりは割とそのままという気がします。傑作なのでどこかで上映してほしいけど…。

大人気シリーズ最新作『ミニオンズ・フィーバー!』は誰にでもおすすめできる超娯楽作。ヴィラン集団「ヴィシャス6」のキャラが濃すぎてグルーの影が薄い。特に好きだったのは謎の暴力シスター「ヌン・チャック」さん(武器はヌンチャク)。ミニオンズ勢だとオットーの奮闘がとりわけかわいい。

洋画の記憶があまりない

なんだかんだ言って洋画の本数が一番多いんだけど、いまいち印象に残ってる作品が少ない。

そんな中でクロエ・グレース・モレッツ主演の機上モンスターパニック『シャドウ・イン・クラウド』はインパクト強めの傑作。WW2を舞台にしながらも素晴らしいフェミニズム映画であり、グレムリンをボコボコにするクロエが最高!

「よくわからないものとの闘い」という点では『NOPE』も良かった。ある種のモンスターものでありながら、現在のアメリカと地続きのシンボルとアナロジーを盛り込みつつ、映画の歴史を俯瞰する。あと金田バイクが出る。

同じく「よくわからないもの」つながりでアピチャッポン監督の『MEMORIA メモリア』を。中盤の強烈な長回しとか、音の正体それかよ〜というあたりがとても楽しい。タイトルにあるように「記憶」にまつわる映画。

超話題作『RRR』も予想外の展開で3時間全く飽きさせないのがすごい。まあ誰にでもおすすめはできるんだけど、個人的には味付けが濃すぎる気がするのでベスト10ではないかな、という感じですね。旗で子どもを助けるあたりがハイライト。

伊坂幸太郎原作の『ブレット・トレイン』もかなりぶっ飛んでいて良かった。異常新幹線とキモいマスコットが好きな方は是非。ミネラルウォーター視点に笑う。

文芸系だと『コーダ あいのうた』がとりわけ良かった。全編かなりの緊張感。最後のコンサートの場面、『サウンド・オブ・メタル』と同じ無音の演出が使われているけど、その際に家族たちが周りを見回す演出が入っていて、ここがとてもいい。結末もさわやか。

ホアキン・フェニックス監督の『カモン カモン』。モノクロで地味な作品だけど、沁みる。子どもを持った人ならさらに沁みるかもしれない。子どもの目線で世界を視るというのはどういうことなのだろう。

子どもと大人のかかわりについては『秘密の森の、その向こう』も静かな快作。ある種の時間ファンタジーだけど、シームレスな移動が面白い。最後の会話のシーンが珠玉。

同じく女二人の関係を描いた『ふたつの部屋、ふたりの暮らし』。話はいいのに演出がなぜかホラー寄りの変な映画。観ていて異常に疲れた…。ドルンさんの行動、事情知らなかったら普通にホラーだし、介護士も特に落ち度なかったのにかわいそう、という感想。でもラストシーンがそれを吹き飛ばすくらいの良さ。

絶対面白いはずだったウェス・アンダーソンの新作『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』はどうにもしっくりこなかった。いや順当に面白いんだけど、全く記憶に残っていないんですよね。こういうのはえてして2回観ると理解できるような気がします。

いつまで作るんだクリント・イーストウッドの『クライマッチョ』。『グラン・トリノ』感のある話だけどさわやかに終わるので安心。主役はほぼニワトリ

マーベル新作。

『スパイダーマン:ノーウェイホーム』。とんでもマルチバース。ヴィランを「治療」する、というあたりがウーンという感じ。それでいいの?

なぜか駄作扱いされてる『モービウス』。いや、面白いやん。少なくともあれとかあれよりは…。脚本ガバガバだしエフェクトもうざいけど…。マーク・スミスがウィレム・ディフォーっぽくて良かった。

『ドクター・ストレンジ:マルチバース・オブ・マッドネス』。「スペダン」(『スペース☆ダンディ』)っぽい。平行宇宙とかゾンビとか。ゾンビストレンジのあたりがかなりサム・ライミっぽかった。

『ソー:ラブ&サンダー』。基本バカ映画なのに最後しんみりさせて、Cパートでどうでも良くなる。信仰の問題を扱ってるのに軽いなあ。まあこれくらいでいい気がするけど。ハイライトは斧とハンマーの痴話喧嘩

『ブラック・パンサー:ワカンダ・フォーエバー』。「そうはならんやろ」な展開が多いけど、チャドウィック・ボーズマンの追悼映画としてはかなり良かった。

韓国映画、今年も相変わらず面白い。

盗油映画『パイプライン』はやや肩透かしだったけどラストの爽快感はすごい。

『ベイビー・ブローカー』、監督は是枝監督だけど舞台韓国だし俳優も韓国なのでほぼ韓国映画でしょう。是枝監督にしては思いのほかエンタメで終わり方もいい。子役が上手い。

絶対間違いない北×南映画『モガディシュ 脱出までの14日間』。二人の外交官を演じたキム・ユンソクとホ・ジュノが素晴らしい。

矢田部さんがプログラムディレクターから抜けた東京国際映画祭。今年は忙しくてQ&Aセッションは全部スルー。もちろん矢田部さんがいないからというのもあり…。

『テルアビブ・ベイルート』はレバノン紛争を扱ったイスラエルもの。女二人が爆撃の音響くビーチで水遊びに興じるシーンに微かな希望が見える。

『1976』。ピノチェト政権下のチリを舞台に、ブルジョワの主婦が反政府運動に巻き込まれていく。弾圧のシーンは直接的に描写されないのだけど、じわじわと迫りくる不気味なものとしての演出がとても上手い。サスペンス映画調の不安を煽る音楽も印象的。

『アシュカル』。ジャスミン革命を経たチュニジアを舞台に、『セブン』を思わせるかのような不可解な連続殺人を追う二人の刑事。シンメトリーとロングショットを多用した画面がひたすらに美しく、それだけでかなり満足。中盤からSFみが増していき、不気味なラストシーンにたどり着く。

3時間弱の長尺作品『ライフ』はウェス・アンダーソンっぽい画面と人の死の軽さ。一旦埋められて掘り出されるシーンとか富豪の飛行機のシーンとかめっちゃウェス・アンダーソン。かなり好き。

『ザ・ビースト』はスペインを舞台にした村八分ホラー。どっちもどっち感はあるけど、どちらかというと村人が悪いかな。飲み屋のシーンが良い。

あらすじ読んでヒトラー系コメディだと思って観に行った『第三次世界大戦』はかなりの鬱映画。というか最近の映画、ヒトラーを軽く扱いすぎだと思うよ。この映画くらいがちょうどいいような気がする。映画の制作現場での様々な構造がナチスの蛮行と重なっていくあたりが上手い。

ベスト10本(+ベストシーン)はこんな感じ

順不同。

『シャドウ・イン・クラウド』

 グレムリンを殴り殺すクロエ・グレース・モレッツ

『とおいらいめい』

 ラストシーンの山手線ゲーム長回し

『MONDAYS/このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない』

 部長を説得しようとする先読みプレゼンテーション

『ケイコ 目を澄ませて』

 ケイコの日記にのせた回想シーン

『窓辺にて』

 「この小説マジきめえ男が出てくるんですよね〜」と青年から相談されて(俺のことじゃん…)と思ってる稲垣吾郎

『四畳半タイムマシンブルース』

 リモコンをなくした城ヶ崎先輩を責める樋口師匠

『かがみの孤城』

 マサムネの「真実はいつも一つ!(ドヤァ)」

『コーダ あいのうた』

 耳の聞こえない家族たちがルビーの歌唱を聞こうとする入試のシーン

『NOPE』

 「それ」が人様の家の上空でわざわざ排泄物を撒き散らす最悪のうんちシーン

『モガディシュ 脱出までの14日間』

 書籍類で増加装甲した脱出用車両が爆走するクライマックス