今月のおすすめ

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 1989年の東ドイツ。12歳の少女・フリッツィは親友のゾフィーから彼女の一家がハンガリーへとバカンスに行く間、愛犬のスプートニクを預かる。しかし約束の日を過ぎてもゾフィーは帰ってこない。一家が亡命したらしいという話を聞いたフリッツィはゾフィーに会うためにベルリンの壁を目指す。

 ベルリンの壁崩壊前夜の東ドイツ・ライプツィヒの物語。キャラクターの造形が一昔前のカートゥーンのようで若干不安を覚えるのだけど、すぐにそんなことは気にならなくなるくらい引き込まれてしまった。まず東ドイツの日常生活が面白い。まあ面白いというか「割と普通だな」という印象なのだけど、さり気なく秘密警察が徘徊してたり、旅行代理店で亡命を疑われたりと、さすがに共産国という雰囲気。あと美術が素晴らしくて、一つだけぽつんと建つ共産主義的な巨大ビルや街並みが実にいい。「西側に行けば本物のコーラが飲める」なんてセリフも共産国にいないと言えませんからね。

 12歳の女の子が犬と一緒に友人との再会を目指してベルリンの壁を目指すのだけど、しかしそう簡単には行かない。旅行代理店では怪しまれて秘密警察に通報され、林間学校で壁のすぐそばまで近づくものの、あえなく国境警備隊に捕まってしまう。12歳の子供があれやこれやと画策しているのを観るのはハラハラして心臓に良くないのだけど、実際にそれが現実になってしまうというシビアなリアリティが絵柄の柔らかさとのコントラストが面白い。では代わりに何が物語をすすめていくのかというと、実際にベルリンの壁崩壊を引き起こす要因の一つとなったライプツィヒの聖ニコライ教会を拠点として行われた「月曜デモ」だ。人々がろうそくを手に通りを行進していく様はビジュアル的にも美しく、物語は史実と同じように民衆の力を結集する方向に進んでいく。このあたりの展開は、歴史の通りではあるのだけど、近年のブラック・ライブズ・マターの様相を連想せずにはいられない。

 ところで、この作品、美術やメインとなるストーリーも素晴らしいのだけど、何気ないところでさりげなく施されているアニメートの巧みさにも触れておきたい。個人的に特に印象に残っているのが、物語の最後、東ドイツ市民に対してゲートの解放が宣言された際のゲートの責任者のおじさんの芝居。間のとり方、どこか晴れ晴れとしたような表情の繊細さ、そして彼が自らゲートを押し上げる力強い動き…。今年のベストアニメート賞をあげてもいいレベルの作画だった。

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観た映画一覧(時系列順)

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 一流広告代理店・共報堂の営業部長としてささやかな家庭を築いていた小市民・三沢(三國連太郎)の家にある日突如として二人の暴漢が押し入る。著名な医学者・坂田博士の孫を誘拐した脱獄死刑囚・川西(西村晃)とサブ(室田日出男)は、三沢の家を拠点に身代金1000万円を手に入れようと画策するが…。

 新文芸坐のサスペンス特集にて。深作欣二監督のモノクロ・サスペンスで監督らしい暴力シーンもある。突如として死刑囚に家を乗っ取られてしまった一家の緊迫した日常生活が見ものなのだけど、本質的には「叛逆者の映画」で、非日常的なストレスに晒された三國連太郎が次第に変貌していく。中二病的な妄想の典型的な例として「学校にテロリストが乗り込んでくるも返り討ち」みたいなシチュエーションがあると思うのだけど、ここでの三國連太郎はいかにも中間管理職的な小人物として描かれているがために、反逆することに踏み切れず、そのあたりがなかなかリアルだ。車で轢き殺せる場面でも躊躇してしまう。現実はなろう系ではないので。

 もう最後の最後まで踏ん切りがつかず観ている方もフラストレーションがだんだんと溜まっていくのだけど、それだけに最後の大爆発がとても印象的。特に身代金の入ったバッグをチラチラを覗かせながら階段の上で佇む三國連太郎のカットは、彼の曰く言い難い覚悟を秘めた絶妙な表情と相まってこの映画の顔とも言える素晴らしい場面。やっぱり三國のスター性ってすごいわ。

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 北陸のとある地方銀行。頭取の娘を妻に持つ直江津支店の次長・滝田恭助(金子信雄)は本店の業務部長に内定したが、長年の不正の証拠を押さえられ、ヤクザの熊木(草薙幸二郎)に脅され、金庫破りをさせられることとなる。滝田はかつての妻の恋人である庶務課の中池(西村晃)が宿直の晩に彼を飲みに誘い、酔いつぶれたすきに押し入ろうとするが…。

 新文芸坐で『脅迫』と二本立て。タイトルも内容も合わせてあって、狙ってるな~という感じだったんだけど、どちらも西村晃が重要な役どころで出ているという共通点も。『脅迫』ではかなりガンガンくる系の死刑囚だった西村晃、こちらの映画では恋人を寝取られたしょぼくれたおっさんを演じていて面白い。序盤の滝田の送別会の場面なんか一人だけ宴の席から離れてお燗してたりするのがとても似合っていて印象的。…かと思いきや、後半まさかの変貌を見せ、このあたりの演技も見応えがあります。『脅迫』がどちらかと言えば陽キャの西村晃ならこちらは陰キャの西村晃という感じ。

 ところで、金子信雄を割と目当てに観に行ったのですが、『仁義なき戦い』の山守親分のイメージしかなかったので、若い金子信雄に衝撃を受けたり。全くたぬきおやじ感がない…!まあちょっとぽっちゃり系だけどガタイがいいけいだし。声も若々しい。…と思っていたら後半かなり山守みが増してきてかなり満足。やっぱりたぬきだったわ。金子信雄すきだなあ。

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 前田建設㈱が実際にやっている「空想世界の建築物/構造物を設計する」というコンセプトサイトの映画化。今回は『マジンガーZ』に登場する光子力研究所のマジンガー格納庫を作る!

 予告編からだとものすごい地雷臭がしていたので完全スルーの体制だったのだけど、フォロワーさんたちがそこそこ絶賛していたので観てみた次第。うん、かなり面白いですね。っていうかスルーしてたから気づかなかったけど、脚本がヨーロッパ企画の上田さんなのね…。そりゃ面白いわ。「そんなん無理やろ…」ってところから出発して、主人公の土井(高杉真宙)を始めとする集められたメンツのテンションも異常なまでの低さなんだけど、それがどんどん加熱していく様が熱い!リーダーの浅川(小木博明)だけは最初からおかしいテンションで「邦画の悪いところが出てる…」と思いながら観ていたのだけど、次第にそれが癖になっていくから面白い。

 最初は無理じゃない?と思っていた壮大なプロジェクトを一個一個分解して進めていくあたりとか、「この仕事に意味があるのか?」と自問自答するくだりはお仕事ムービーとしても良い出来で、サラリーマンなら共感するところも多いと思う。一番面白かったのは、終盤、ほとんどこれで行けるな!というところまで詰めたところでマジンガーが横移動するエピソードがあると判明した瞬間で「なんで横移動してしまうんだ~~!!!」は笑ってしまうのだけど、彼らにとっては切実な問題で、印象的なセリフ。現実と空想世界が入り交じる幻想味のあるクライマックスも面白い。明日もまた仕事を頑張ろうと思える映画。

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 ゲーム「マイエクササイズ」の発売記念で過去作をだいたい一挙上映!「わからないブタ」とかで入った口なんで、こういう回顧展というか全部まとめて劇場で観れる機会というのはめちゃくちゃありがたい。

 特に初期作は全く観てなかったので、最近の作品と比較すると類似するところもあり、違うところもあり…。「わからないブタ」(2010年)や「春のしくみ」(2010年)あたりではビジュアルが完成されていて、すごく観やすいんですが、最初期の「蠕虫舞手」(2004年)なんかは尖りまくった絵柄で正直言うととっつきづらい。とは言うものの、例えば「反復」「同一性」「変容」といった根幹の部分は共通していて、そのあたりが非常に面白かったりします。「あまり好きじゃないな~」と思いながら観ていたのですが、それでも画面に目が吸い寄せられてしまう吸引力はすごい。

 特に印象に残ったのは横浜美術館で展示されたスクリーン5面のインスタレーション作品「私の沼」(2017年)。本来は四方の壁に投影されていたものを一つのスクリーンで観るという趣向で、同じ場面を舞台にしてそれぞれの画面で様々なことが起こるという淡々としているのに目まぐるしいというのが面白い。次第にそれぞれの場面の関連が見えてきたり、不穏なものが画面を横切ったりして見ごたえがある作品。

 ちょうど初日だったので水江未来さんとのトークショーがあったり、会場限定のBlu-ray(もちろん買った)があったりして盛りだくさんでした。ショートアニメーション、波が来てるのでこういうのもっとやってほしい。あ、あとゲームの方もボタンを押すだけなのにじわじわくる面白さですので是非!

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ゲーム「マイエクササイズ」公式サイト

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 ロシア産のCGアニメ。魔法嫌いの王は王国に住む魔法使いたちを一掃する方法を思いつく。それは氷の中から発掘された鏡の門を使って、魔法使いたちを「鏡の国」へ追放してしまうというものだった。魔法使いの一家に生まれながら全く魔法を使えないゲルダは鏡の国に追いやられた両親と兄のために奮闘する。

 いかにもピクサー的なビジュアルで、数年前の『キコリキ:デジャヴ』を連想してしまうのだけど、今回は内容的にも深みがある作品だった。TAAFは毎回1本はこういうビジュアルの作品があって、アート寄りだけではない多様性と懐の深さが嬉しい。序盤の暴走する蒸気掃除機の場面やクライマックスに置かれた王の操縦するロボットとの対決など、ファンタジーではあるもののSF的なガジェットが登場して盛り上がる。ドラゴン・ガールは正直言うとダサいが、むしろそれがいい。ダサかっこいい的な。

 本作の王は科学に傾倒し、理知的な人物として描かれるが、それゆえに魔法使いたちを鏡の国へと追放する。要するに異民族(マイノリティ)と多様性の話なのだが、その対立の果てに現れてくるのは「赦し」というテーマだ。映画祭の作品紹介には全く触れられていないのだけど、実はこの作品は『雪の女王』シリーズの2作目で、前作で主人公ゲルダによって恐ろしい雪の女王は鏡の国に幽閉されているという設定(いきなり前作のキャラが出てきたりしててビックリしてしまう)。ゲルダは恐ろしい雪の女王の力を借りて皆を鏡の国から救い出そうとするのだが、その中には当事者である雪の女王も入っているというのがポイントだ。悪役が皆が赦される優しい世界は予定調和的でもあるが、しかし現実の我々が目指すべき世界でもある。登場人物が一同に踊り明かす2Dスタイルのエンドロールの多幸感は素晴らしく印象に残る。

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7 短編アニメーション スロット1@TAAF2020

 今年の短編コンペも豊作。このスロット①では比較的わかりやすい直感的な作品を集めたとのこと。特に良かった作品を以下にメモ。

 リダー・ファズリー「あっちとこっち」は境界線が分かつ二つの国での交流と戦争を描く。よくある寓意的な作品かと思いきや、最後にはメタフィクションの領域に突入し、虚構の世界の暴力が現実世界と地続きであることを示す。

 インジョン・フー「彼女の舟」。キャラクターデザインがいかにも中国っぽい。風景の美しさ、前に進んでいく主人公の姿が印象的。

 セザール・ディアス・メレンデス「ムエドラ」。ストップモーションなのだけど、無機物が生き物のように動き出し、岩の中に水のように沈み込む。アニメーションならではの面白さ。しかし屋外でこれをどうやって作ったんだろう…。

 イヴァン・ラビオジー「アイロン・ミー」。アイロンを恋人のように偏愛する男。絵面の面白さや誤ってアイロンを「殺害」してしまった主人公が隠蔽するあたりなど劇場でも笑いを誘っていたが、しかしこのアイロンが何の暗喩かを考えるとただ笑っていてもいいのかという気持ちにもなる。なんでも丸呑みにするワニがいいキャラ。

 ガブリエラ・プラチュコヴァー「シュタイン博士の信じられないワードローブガジェット」。古典的なストップモーションだけど、部屋のごちゃごちゃ具合がとにかくいい。クリーチャーの造形も面白い。

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 これぞまさにアニメーションの極北!アニメーションという技法の自由度を最大までに広げたらこうなるのか、という衝撃。かといって実験アニメ的なわかりづらさというのもなく、エンターテインメントであり、一匹の犬の犬生に寄り添った叙情豊かな作品でもあるというのがいい。

 ストーリーは主人公の犬・マロナの死の瞬間から始まる。要するに彼女の走馬灯の物語だ。彼女の誕生の瞬間から4人の飼い主との生活、そして自身の死までが彼女の語りを通して淡々と語られる。邦題が「物語」ではなく「物語り」なのはそういうことかと膝を打つ。

 4人の飼い主(一人目はほとんど出てこないけど)との生活の様も非常に面白いのだけど、やはりこの映画の見所は自由自在なアニメーションらしい表現の素晴らしさ。本の中の生き物や無機物たちが枠を飛び越えて動き回る序盤の展開は序の口で、二人目のマノーレの身体はゴムのように伸び縮みし、挙句の果てに彼の着ている服の模様までもが生きているかのごとく画面中を飛び回る。飼い主ごとに作画のタッチが異なっているのも面白く、例えば建築家である3人目の飼い主・イシュトヴァンの工事現場は8bitサウンドで彩られ、コンピューターグラフィックスの世界のように表現されたりする。マロナの目線で見られた世界、そして彼女の走馬灯の中で夢のように変幻する世界の面白さは実に魅力的だ。

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9 短編アニメーション スロット2@TAAF2020

 初っ端のデヴィット・ドゥテル/ヴァシュコ・サ「予兆」の絵画的な美しさに心奪われる。どんよりとした空、暗い室内、死んだような目の男…。とにかく暗いのだけど、最後の光には救われる。セリフもほとんどなく、二人の関係性はほとんど描写されない。湖の水の下の表現が素晴らしい。

 アリス・ギマランイス/モニカ・サントス「影と影の間で」は実写のストップモーション。まあストップモーションって言ったら実写じゃんというのはそうなんだけど、ミニチュアじゃないってところが面白い。動きの粗さと突拍子もない挿入の面白さ。シュヴァンクマイエルを思わせるシュルレアリスムの世界。

 アビル・ゴールドファーブ「イアン~物語は動き始めた~」。前にどこかで観たんだけど、どこだったか…。モザイクを思わせるテクスチャが印象的で、フェンスの象徴的/物理的な使い方も神がかってる。実話ベースだけど、現実もこう上手くいったのだろうか…。

 ダリア・カシュチーヴァ「娘」はとにかくライティングと撮影が素晴らしい。荒々しい造形の人形たちによるストップモーションだが、実写映画的な撮影技法によってむしろ奇妙な実在感が生まれていて、それが面白い。父の臨終に際して娘が過去を述懐するというのも普遍的でわかりやすい。鳥の真似をする娘がかわいい。

10 短編アニメーション スロット3@TAAF2020

 個人的にはこのスロット③が一番面白かった。比較的抽象的で、アダルティな表現も交じる、若干大人向けのスロット。

 ユゴ・フラセット/ソフィー・タヴァート・マシャン「トレース」は先史時代を舞台とした創作と父子の葛藤を描いた作品。セリフはなく、全てジェスチャーだけで物語は進むが、筆のストロークが残るビジュアルが素晴らしく魅力的。「赤」の使い方も鮮烈で印象に残る。

 クラウディウス・ジェンティネッタ「自撮り狂騒」。人種も性別も様々な人々の自撮り風の画面がテンポよく並び、アニメーションを形作る。全く違う人々であるのに、ある一つの悲喜こもごものタイムラインが生まれていく様は世界の広さと多様性を感じさせてくれる。

 ヤリ・ワーラ「ハンター」。「なんか藝大アニメーションでありそうだな~」と思ってたら多摩美の方だそうで…。なるほど。コミカルに残虐で好み。ゲームっぽいテクスチャもいい。

 ヴェロニカ・ソロモン「ラブ・ミー、フェア・ミー」。今回上映の中ではかなり好きなクレイアニメ。大衆の熱狂と飽きやすさ。芸と信仰。主役の形態変化のデザインが好きすぎる。

 ベン・ミッチェル「スピードデート」。今回のすべての上映作品の中で最も短い2分の掌編。これでいいんだよこれで。あるあるネタなので大いに笑う。

 サラ・ヴァン・デン・ブーム「レイモンドおばさん」。確実に刺しに来てるやつ。女性がターゲットだけど、ある程度孤独な人々にはみんな刺さるんじゃないかな。パンティにチーズ塗って送り出すバイトは傍目には滑稽だけど、悲しさがさらに増している。キリスト教の信仰を交えた抑圧と解放の物語だけど、さて彼女は開放されたのだろうか。

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 1998年、カブール。タリバンの支配下にあるこの街で、人々は抑圧に耐え暮らしている。若きズナイラとモーセンもまた、かつての自由な日々を懐かしみ、未来への希望を抱きながら過ごしていた。しかし、些細なミスがタリバンの目に止まり、モーセンは処刑の対象となってしまう。

 水彩画のような柔らかいタッチのビジュアルが魅力的だが、描かれるのはタリバンの圧政の下での「日常」だ。冒頭から女性の石打ち刑の場面が始まり、主人公のズナイラも周りの熱狂に押されて石を手に取る。非日常が地続きになっている日常。人権の抑圧がとりわけ激しいのは女性たちで、ズナイラの恋人であるモーセンも「白い靴を履いていた」というだけで咎められ炎天下の中裸足で立たされたりする。数年前にタリバンが来る前までは女性たちはヒジャブをかぶることもなく、映画や音楽といった文化を享受していたことを考えると、そこに暮らす人々の絶望感は計り知れないものがあるだろう。

 この映画はそんな現実に存在していた地獄の中に置かれた一組の若いカップルがトラブルに巻き込まれていく様を描くが、もう一組の主人公たちとして中年の夫婦が登場する。夫のアティクは女子刑務所の看守で、要するに体制側の人間だ。伝統的な価値観の持ち主で、病気の妻に食事を作らせていたりする人間なのだけど、あまりにも厳しいタリバンの支配に対して後ろめたい気持ちも抱いている。ある日、彼の務める女子刑務所にモーセンが連れてこられる。寡黙な中年の男と自由に憧れる若者が出会い、余命幾ばくもないアティクの妻を巻き込んで、ささやかな抵抗の狼煙が上がる。このクライマックスのどんでん返し(と言っていいのか)はかなりエンターテイメント的で盛り上がるのだけど、しかしそこにある犠牲に目を瞑ってしまうのは難しい。無愛想だが実直なアティクというキャラクターは後半に向かうにつれてどんどん魅力的になっていき、物語は彼を中心に回り始める。彼は一見すると地味で無表情な中年男性なのだけど、しかし彼の繊細な表情の芝居は実に見事だった。かなりおすすめの作品。今回の東京アニメアワードフェスティバルの前にも2019年にフランス映画祭などで上映されている実績があるし、もしかしたらロードショーに来るかもと期待(来て欲しい!)。

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