おひるねラジーズ

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デブ猫はいつもかわいい。
【映画レビュー】『ペット』

      2017/07/06


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うちのペットがおとなしくしているわけがない

 動物たちが活躍する映画なのだけど、猫が少ないのが不満だ。この映画の主人公は犬であり、猫はマイノリティ。大量に出てくるシーンでは悪役だし(そしてかわいくない!)、ヒロインのポメラニアン・ギジェットは「今日だけはお前らも犬だ!」とか暴言を吐く。でも仲間のデブ猫・クロエはかわいい。とても。

 小型犬マックスは飼い主のケイティのことが大好き。だけど悩みはケイティが昼間出かけてしまうこと。毎日、彼女の帰りを待ちながら、同じマンションで飼われている動物たちと遊ぶ日々を過ごしていたマックスだったが、そんな彼の日常に突然の闖入者が…。ケイティが保健所から救い出してきた大型犬のデュークが一緒に住むことになったのだ。大きさも違えば、性格も全く違う二匹は途端に犬猿の中に(犬同士だけど)。家の中での主導権を争う二匹だったが、ふとしたことから街なかで迷子になってしまい、動物管理局に捕らえられてしまう。果たして、彼らは無事にケイティの家まで帰ることができるのか…1

 家に帰ろうとするマックスとデューク、彼らを助けに行こうとするマンションの動物たち、そして暗躍する謎の組織「元ペット団」。様々な勢力が入り乱れ、ニューヨークの街を駆け巡る。カーチェイスあり、カンフーあり、でかいヘビありともりだくさん!主人公側の動物たち、特にデブ猫のクロエとかもとても良いのだけど、「元ペット団」団長のスノーボール(うさぎ)がかなり狂った性格で、こいつが出てきてから物語の雰囲気がガラリと変わる。マックスとデュークが「元ペット団」に入る際の「飼い主も殺したし」2「飼い主を殺す度に10セントもらってたら……いまごろ10セントだな。一人しか殺してないし」なんてセリフも最高だし、後半に出てくるウインナー工場の場面3では二匹の犬がウインナーでトリップするかなりイカれた映像が流れる。それもまた、このウインナーの妖精(?)が明らかにミニオン(怪盗グルーのアレね!)の粗悪なセルフパロディという面白さ(踊り食いされたりする)。

人間社会の鏡としての動物たち

 ところで、動物たちが活躍するという点を見れば、今年大ヒットしたディズニーの『ズートピア』を思い出させるが、『ペット』ではあくまでも人間は人間、動物は動物として分けて扱われている。が、しかし、それでもなお、この作品における動物たちは人間たちのアナロジーとして扱われているように思える。動物たちは人間たちの生活を模倣するように、パーティーを開き(ちゃんと片付けもする!)、ゲームを遊び、youtubeにハプニング映像をアップする4

 白い小型犬マックスと焦げ茶色の巨大なデュークの組み合わせは、白人と黒人がコンビを組む「バディもの」の系譜の延長線上にある5。若い白人女性であるケイティがマックスと暮らしている一方で、デュークの元飼い主が黒人高齢者であることはとても対照的だ。『ズートピア』では肉食獣と草食獣の組み合わせだったが、ここでは同じ犬という種族の中の犬種の違いとして表現されている。

 「家に戻る」という共通の目的の下に団結したマックスとデュークは冒険を通じて親交を深め、お互いを認めあっていく。バディものではお約束の展開が描かれる。

「ペット」は本当に幸せなのか?

 新入りとの確執や、いがみ合う二匹が協力することによって家へ戻るという筋立ては『トイ・ストーリー』そのままだが、一方で「元ペット団」という存在がこの物語にオリジナリティを与えている。彼らはその名の通り、かつてペットだったが身勝手な人間によって捨てられたゴロツキ集団で、人間に深い恨みを抱き、人間撲滅(!)を誓っている。

 動物たちが人間のアナロジーとして表現されていると考えるなら、彼らはさながら「反体制派」というところだろうか。マックスのような人間に飼われる側のペットと、自由を求める「反ペット団」という二項対立が存在していて6、飼われるペットたちは自分たちがしあわせであることに微塵も疑いを抱いていない。そういった意味では、ある種の「ユートピア≒ディストピアっぽいもの」としても捉えられるかもしれない。画一的な都市のマンション7と対比的に描かれる、猥雑な単一の場としての反ペット団のアジトの様相が示唆的に写る。

 また、飼い主とペットとの関係を資本家と労働者の関係としてみるなら、よく似た作品として浮かび上がってくるのはリッチ・ムーア監督の『シュガー・ラッシュ』(2013年)だ。文字通り甘いビジュアル(お菓子の世界を舞台にしたアーケードゲームの中のお話)を糖衣のようにして表現されているのは、搾取される底辺労働者が闘争の末にちょっとだけ待遇がよくなるという夢も希望もない物語。もっとも、こちらの主人公である悪役ラルフは自らの境遇に自覚的であり、活躍の末に悪役という役目から解放されると信じている(もちろん、そんなことはないのだが)。コンピュータの中に囚われたラルフの姿はマックスや他のペットたちの姿と重なるが、より近いのは経営者という飼い主に縛られながら自らのしあわせを疑わない社畜たちなのかもしれない。この映画において、「バック・トゥ・ザ・ホーム」というシンプルな筋書きの裏に隠れているのは、現実の人間社会を見つめるシニカルな視線だ。

予告編

基本情報

ペット  The Secret Life of Pets91 min

監督:クリス・ルノー/ヤロウ・チェニー

音楽:アレクサンドル・デプラ

脚本:ブライアン・リンチ/シンコ・ポール/ケン・ダウリオ

出演:ルイス・C・K(設楽統)/エリック・ストーンストリート(日村勇紀)/ケビン・ハート(中尾隆聖)/ジェニー・スレイト(沢城みゆき)/エリー・ケンパー(佐藤栞里)/レイク・ベル(永作博美)/ダナ・カービ/ハンニバル・バレス/ボビー・モナハン/スティーブ・クーガン/アルバート・ブルックス(宮野真守)

公式サイトhttp://pet-movie.jp/

Notes

  1. 動物管理局が敵だったり、カーチェイスがあったり、目的が家に帰ることだったりと、去年公開された『ひつじのショーン バック・トゥ・ザ・ホーム』(2015年、リチャード・スターザック/マーク・バートン監督)を思い起こさせる。
  2. 後に書くけれど、「元ペット団」は人間どもを憎む動物集団なのだ!
  3. 映画の中とはいえ、あのあとあの工場どれくらい業務停止したのかを考えると胸が痛みます笑
  4. このシーンのクロエ(デブ猫)がもうかわいくて…。
  5. ちょっと古いけど『夜の大捜査線』(1967年、ノーマン・ジェイソン監督)とか好きです。
  6. もっとも、ペット達も飼い主の目の届かないところでは自由にしているのだけれど、それでもスノーボールが言うように完全な自由ではない。
  7. もちろん、内装は個性豊かなのだけど、基本的なユニットが同じという意味で。

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