SF版ブラック・ジャックみたいな読み味

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博士とマリア (ハヤカワ文庫JA) [ 辻村 七子 ]
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博士とマリア (ハヤカワ文庫JA) (Kindle版)

辻村七子先生の『博士とマリア』を読みました。人類が衰退に向かっている『ヨコハマ買い出し紀行』的な世界観だけど、大企業が世界を支配しているというのが今どきっぽい。博士(医者)とロボットの助手が崩れかけた世界を放浪しながら人々と交流していく…というとまあよくありがちな話だなあ、と思うのですが、蓋を開けてみるとこれがかなり印象が違っていて、SF版『ブラック・ジャック』とでも言うべき、手塚調の濃厚な人間ドラマが展開されていくのでかなり嬉しくなってしまいました。船で巡っていくというあたりと人体の変容が一つのテーマになっているあたりは椎名誠のSFを連想したりもします。連作短編集になっていてそれぞれかなり読み味が違っているのも面白いのですが、反権力/反大企業的な視点は共通していて、特に真珠採りの女工たちが反旗を翻すエピソードなどは未来版蟹工船という感じ。

博士とマリアという二人の関係はSFによくある主人とロボットの関係のように見えるのですが、これが逆転していく最後のエピソードがとりわけ素晴らしい。使用/被使用という関係性が逆転し、さらに反転し、混ざり合っていく最期は実に美しく印象に残ります。そういった意味では広義のフェミニズム文学とも言えそうです。

若さあふれる

目黒シネマの相米慎二特集で『ションベン・ライダー』を。初見。あらすじはめちゃくちゃ面白そうなんだけど、実際観てみると割とちぐはぐで観づらい印象でしたね…。声が聞き取りづらいとかもそうなんですが、登場人物の背景と関係性を把握するまでに結構ラグがあるというか…。中盤からはだいぶ入り込めるようになったんですが、わりとこう、テンポがやや悪いというか、うーん…という感じ。とはいえ、全体の完成度は若いときの作品だなあという感じなんですが、やはり代表作の一つだけあって、個々の場面では強く印象に残るところがかなりありました。例えば中盤の材木置場での乱闘をロングショットで舐めるように撮っていくカットとか、あとはやはり立てこもりの家での最期の場面ですね。ここは演劇の書割っぽいつくりなのも面白い。登場人物としてはやはり財津一郎演ずる島町がやたらとかっこよかった印象があります。あの色気はなんですかねー。

晩年の傑作

『ションベン・ライダー』に続けて『風花』も観たんですが、最晩年の作品だけあって完成度が異常に高い…!それもあって『ションベン・ライダー』の評価が若干下がってしまった感じがありますね。ワケアリの男女が北海道をだらだらと旅行するだけの話と言ってしまえばそれまでなのだけど、話が進むにつれてどんどん面白くなっていく。主演の二人、小泉今日子と浅野忠信がやはり素晴らしい。特に浅野忠信はめちゃくちゃ感じの悪い素の時とめちゃくちゃ面白い酔っ払った時の演技の切り替えがすごすぎて笑ってしまう。ていうか、若いときの浅野忠信、松田龍平すぎないですか??話もしみじみいい話なんですが、苦みが多めなのがさらに好みですね。そして演出がとにかくいい。焼肉屋で地元の人に絡まれるくだりとか、アウェーな宿での素人劇を観るくだりとか、最後にバックミラーを覗くカットも最高。地味なタイトルだったから期待値は低かったんですが、いやー、面白かった!