質の良い邦画のようなおはなし


https://amzn.to/3LzbJXl

衝撃的な出だしから注目していたおかくーこ先生の『父を怒らせたい』が3巻を持って完結。余命宣告された父を契機として、主人公の人生とまわりの人間関係が再構築されていく物語。まあよくある話だとは思うのだけど、やはりタイトルにもあるように「父を怒らせる」という形で関わっていくのが面白い。この手の話の定番として父が人生で関わってきた様々な人々の視点によって、主人公の意識は緩やかに変わっていくのだけど、それよりなにより「父を怒らせる」というモチベーションが彼女の人生を変えていく。クライマックスでは生前葬を敢行して父を怒らせようとするのたけど、そのためには結構な額の資金が必要で…と右往左往しながらも生前葬をプロジェクトとして成功に向けていく主人公が頼もしく見えてくる。「怒り」の持つエネルギーは凄まじいと思うと同時に、それが昇華されていく物語の美しさに見惚れてしまう。テアトル新宿あたりでかかっている質の良い邦画を観たあとのような満足感だ。オールタイムベストに入る質の高さ。

インド産ディストピア


https://amzn.to/4rk0Rfb

ローカス賞・クラーク賞候補となったインド発の監視社会SF『頂点都市』を読む。気候変動によって従来の国家が消滅し、世界は企業が支配するいくつかの巨大都市に分かれている。人々は能力に応じて上位90%の「ヴァーチャル民」と下位10%の「アナログ民」に選別され、アナログ民は都市で暮らすことも高度なテクノロジーを使うことも禁止されている。割とよくありがちな階級社会SFのようにも見えるのだけど、カースト制が現役で機能しているインドならではというべきか、人々の分断が妙にリアルなのが面白い。上位10%と下位90%ではなく、この比率が逆転しているのは、下位10%は被差別民として存在しているからなのだろう。もちろん、上位90%のヴァーチャル民にしても、その中で非常に細かくランクが分けられていて、より良い生活を求めて人々は奔走している。この本の読みどころの一つとしては様々な階級の人々の視点からこの歪な社会が描き出されているところにある。例えばヴァーチャル民からアナログ民に転落する人もあり、逆にアナログ民からヴァーチャル民に登ってきた人の物語もある。それらの様々な人々の人生が、クライマックスの大波乱の中に巻き込まれていく。能力主義と分断が幅を利かせる現代ならではの物語という感じ。