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最後の長編作品がこれなのはシュヴァンクマイエルらしさが溢れてて最高
ヤン・シュヴァンクマイエル最後の長編と言われる『蟲』をようやく鑑賞。いきなり「序文」と宣うシュヴァンクマイエル翁のカットから始まるのでのけぞってしまうが、その後も本編とメイキングが交互に流されて来て発狂しそうになる怪作。いかにもシュヴァンクマイエルらしい。物語としてはカレル・チャペックの『虫の生活』を上演しようとする素人劇団の稽古の風景を描いたものなのだけど、要するに『虫の生活』の劇を演じようとする劇団の映画のメイキング、ということでこの入れ子状態とそれによって生まれる現実なのか夢なのか映画なのか劇なのかが入り混じってわけがわからなくなるトリップ体験。これは経験したことがない感じの体験で非常に面白い。さらにそこにシュヴァンクマイエルならではの超現実的奇想、例えばコーヒーの粉が全部細かい虫に変わったりといったビジュアルが挟まれ、さらにそのメイキング映像に切り替わったりする超カオス。いやー、最後の最後までシュヴァンクマイエルという感じ。しかし、映像を見る限り80歳を越えているとは思えない佇まいでそのあたりも見応えあり。
べらぼうに面白い!
『大長編 タローマン 万博大爆発』を観ました。「タローマン」、なんか流行ってるなあくらいの認識だったのであまり興味がなかったのですが、ふとTVシリーズを見てみたら一気にハマってしまい…。テレビの方は1話が7分しかないというのがショート動画時代のニーズにマッチしてるのもいいですね。さて、元は1話7分のものをどうやって1時間半のものの仕立てるのかと思っていたのですが、驚くべきことにこの尺の長さにもかかわらず情報の密度がTV版に全く劣っていない、というかむしろ情報密度が上がってないか?というべらぼうな完成度。70年代のザラッとしてフィルムの感覚の新作映画を2025年に観られるとは…。最初から最後まで「そうはならんやろ」という展開しかない異常な映画なのですが、個人的に良かったポイントは以下の通り。多すぎるので箇条書きにする。
- 川端英司演ずるカウボーイのおじさんの名前が「風来坊」でサイボーグでディーゼルエンジンで動いている
- 奇獣「縄文人」の装飾の上を走って爆発する電車
- 太陽の塔が捕らえられている設定
- 鷲野パビリオン(当然壊される)
- 冒頭の一瞬で終わる三大奇獣総進劇
- エラン隊長のかっこいい常識装着シーン
- 妙にまともだと思ったら脳の一部が未来人と入れ替わっていたタローマン
- どう見てもネルフ地下の「明日の神話」
- 奇獣のくせにやたらと喋る水差し男爵
- タローマン汁
- 兄弟勢揃いシーン
犬映画すぎる。
『赤い糸 輪廻のひみつ』、ずっとタイミングが悪かったんですが、ようやく観れました。たしかにみんなが絶賛しているだけあってめちゃくちゃおもしろい!とにかく主役の二人のバディが可愛すぎる。月老の制服も学校感があって良すぎるし、死んだ彼氏をずっと待ってるシャオミーが健気すぎる…。終盤で彼女の秘密が明かされるくだりはかなり驚きましたが。精神力強すぎる。
そして一番のポイントはシャオミーが飼っている犬・阿魯(アルー)が可愛すぎる点。そもそも主人公のシャオルンが記憶を取り戻したのもこのアルーがきっかけだったし、去り際も見せ場がたっぷりだし、冥界でもめちゃくちゃ活躍するし…。いい犬すぎる…。
ちなみにエンドロールの生まれ変わりランキング(必要な善行の数)、人間が最大の10で犬がその1個下の9つというのは予想通りだったんですが、まさかの人間の上に猫(11個)があって笑ってしまいました。『銀河ヒッチハイク・ガイド』っぽさがある。
期待の10倍くらい良かった。
映画『ひゃくえむ。』、『チ。 ー天体の回転についてー』の魚豊先生の初期作品をあの『音楽』の岩井澤健治監督が映画化!そんなん期待しないわけにはいかないじゃん、と思って期待満点で見に行ったんですが、これが期待の10倍以上良くて驚き。原作は未読で、映画の後に読んだんですが、結構エピソードを入れ替えたりキャラクターを削ったりして一本の映画としてかなり観やすくなっている印象。岩井澤監督といえばデビュー作の『音楽』がロトスコープの傑作アニメ映画なわけですが、インディー色が強くてやや人を選ぶ『音楽』からめっちゃメジャー感のある映画を作ったなあというのもまた驚き。映画は大きく分けて3パート、小学生編、高校インハイ編、社会人日本大会編と別れていて、小学生編はそれほどロトスコ感がなかったんですが、高校からはこれぞロトスコ!という感じで最高でした。思えば、音楽も陸上も身体そのものをテーマにしているので、表現技法としてのロトスコにぴったりなわけですよね。さらにそこにマンガ的かつアニメ的なエフェクトが加わり、素晴らしい競技シーンになっているわけです。そして原作で描かれる「チ。」にも連なるテーマ、すなわち「人生の意味とはなんなのか」が100メートルの10秒間に凝縮されているのもかなり好きですね。特に物語後半のトガシと小宮の会話シーンは素晴らしい。ラストカットも、物語の締めくくりをそこで切って髭男の『らしさ。』が流れはじめるのも演出としてうますぎる。これは売れてほしいけどレゼに客取られてる(そもそもターゲットが違うか)感じですねー。特に表現に興味があるアニメファンは必見だと思います。
映画『ひゃくえむ。』公式サイト | 9月19日(金)全国公開
行動経済学は死んだのか?
『行動経済学の死』を読みました。著者は行動経済学会会長の川越敏司先生。2020年にジェイソン・フレハが自身のブログで提唱した「行動経済学の死」について解説しているのだけど、これがめっぽう面白い。具体的には、行動経済学の基本原理とも言える「損失回避性」への疑義、行動経済学の社会実装としての「ナッジ」への疑義、経済学一般における近年の「再現性危機」の解説。統計学の概念や数式がかなり多くて文系にはやや厳しい上に、損失回避性への疑義とナッジへの疑義、どちらも確かに疑義があると認めているので中盤までは????となってしまうのですが、再現性危機のパートから種明かしと言うか、ああ、なるほど、となる構成が面白い。結局、「行動経済学は死んだのか」という結論については、割とトンチというか煙に巻かれたような感じなのですが、考えてみれば確かに、と納得感もあります。行動経済学を分離せずに一般法則によって統合すべきという川越先生のご意見もなるほど、となりました。個人的には「再現性危機」のあたりが学術一般に言える概念として捉えることで得るものが多かったです。
窓口先生は芸達者だなあ
『ファーストコンタクト 窓口基作品集』。『東京入星管理局』でおなじみの窓口基先生がTwitterとかで発表していた細かい作品を集めた短編集です。今連載している2作品と同じように、SFからファンタジーまで縦横無尽のアイデアマンという感じ。同じ系列としては道満晴明先生とか速水螺旋人先生ですね。どれもハイレベルで面白いんですが、収録作品の中ではサイボーグのグルメもの「サイバネ飯」、特撮ヒーローものの怪人が女子高生に擬態して潜伏生活を謳歌する「変身解除」あたりが特に良かったですね。
デビュー作とは思えない完成度
新文芸坐の伊丹十三特集でデビュー作の『お葬式』。初見。タイトル通りお葬式の数日間を淡々と写しただけなのにめっぽう面白くてすごい。主人公の夫婦、山崎努と宮本信子はここから伊丹監督と長い付き合いになるわけですが、この二人が実にいい。特に、俳優なのに挨拶したがらない山崎努が面白い。途中で浮気相手が押しかけてきてすったもんだするくだりは、いかにもありそうで笑ってしまう。そういうあるあるネタが散りばめられているのも魅力的で、葬式の意味をよくわかってない子どもたちが部屋の中を駆け回ってる描写なんかはすごくいいですね。個人的に一番好きな場面は後半の煙突の煙を見上げる面々のカットですね。映画の顔のような良い場面。
言いしれぬ面白さ
『お葬式』に続けて長編映画2作目の『タンポポ』。これも未見で、これもめちゃくちゃ面白い。予告編から面白すぎたので期待していたのだけど、それ以上の出来で驚いた。「ラーメン・ウェスタン」という惹句そのままに、流れのトラック運転手が場末のラーメン屋で微妙なラーメンを食べて荒くれ者たちに絡まれるという出だしがもう面白いのだけど、その後に続く怒涛のラーメン修行が良すぎる。仲間たちが集まってくるくだりがいい。ホームレスの先生もいいし、餅を喉につまらせて命の恩人になってそこの料理人が加勢に来るというあたりも面白すぎる。そして本筋の合間に唐突に挟まってくる食をテーマにした小噺のような細かいエピソードがまたいい。個人的に良かったのは最後のチャーハンを作る母親の話。いかにも昭和っぽい性別役割分担的な話なのに、なぜだか感動してしまう。オチのタンポポ開店は、デザインそれでいいんか?とは思った。いやー、傑作!!
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