かなり予想外
アレステア・レナルズの久々の邦訳『反転領域』を読みました。前評判では「とにかくネタバレ厳禁!」とのことだったので、どういうことやら…、と思っていたのですが、確かにこれは初見で驚きたい感じの作品ですね。レナルズらしからぬ19世紀の帆船による探検旅行から始まり、いつものレナルズの宇宙に着地する。物語が世界を形作り、現実と非現実の境目が曖昧になっていくあたりはマジックリアリズム的な趣があり、ラストシーンの美しさはコニー・ウィリスの傑作『航路』の終わりを思い出しました。面白いのは、現実の冒険よりも、何度も繰り返されるクラシカルな空想科学小説的な冒険旅行のほうがリアルに思えてきて、かつ面白いという点。これは本当に不思議な感覚でした。個人的に良かったのは空洞地球に降下していくパートですね。重力が逆転するんじゃなくて天井に構造物がくっついているというのが良すぎる。
それにしてもレナルズは現役SF作家の中ではそれなりに売れっ子だと思うんですが、日本だと微妙な人気なのはなんででしょうね…。もっと出てほしい。
幽霊の正体見たり高次脳機能障害?
ハヤカワ新書の話題の一冊『幽霊の脳科学』、これはめちゃくちゃ面白い!幽霊がどのように(脳内で)生じるのか、という仕組みを実際の怪談事例から解きほぐしていく手際が鮮やかで痛快。例えば典型的な幽霊譚の正体をナルコプレシーにおける金縛り症状や入眠時/覚醒時幻覚に求め、さらに通常であればナルコプレシー患者以外には起こらないこれらの症状が特定の条件下では患者以外にも生じ得ることを示していく、といった具合。さらに、都市伝説でよくあるタクシーに乗ってくる幽霊の話やいわゆる神隠しの事例、そして子供だけに幽霊が見えるケースなど、典型的な怪異譚をも高次脳機能障害の症状によって解明していく。このあたりのロジカルな解説が非常に面白く、人間の脳というものに対する理解が深まっていく。最終的には怪談の3分の2は高次脳機能障害によって説明できると豪語しているのだけど、じゃあ残りの3分の1は?というあたりにあえてふれていないあたりも上手い。
心配になるハイクオリティ!
スタジオ4℃の新作『ChaO』。まあ4℃なので尖った映画だろうなとは思ってたんですが、これほどとは。ストーリーはオーソドックス(?)な人魚ものなんだけど、キャラクターデザイン/作画/演出/美術が凄まじい。特に圧巻なのは背景美術。物語の本編が始まるやいなや魚人と人間が共存する近未来の上海が醸し出す著しい発展の匂いと伝統的な街並みが織りなす濃厚な世界観、それを描き出すあまりにも情報密度の高い美術に圧倒される。余白のある未来的な新市街と余白を恐れるかのごとく所狭しとものが犇めく旧市街、どちらもあまりにも魅力的で、これだけでも映画館の大スクリーンで観る価値があると断言してもよいだろう。背景美術の次に目を引くのは頭身がバラバラのキャラクターたち。極端に頭の大きな2頭身のおじさんおばさんがそのへんを普通に歩いているのはビジュアル的に面白すぎるし、それに対して特に説明があるわけではないのもいい。この世界は魚人が存在する世界で、そこのお姫様が冴えない主人公のもとに嫁いでくるという、ある意味手垢のついたストーリーなのだけど、そのお姫様が人魚というよりはあからさまに魚人というのが面白い。しかし、話が進んでいくにつれてこの反ルッキズム的なチャオのビジュアルも気にならなくなってくるのは、濃厚な背景美術とへんてこなビジュアルの脇役たちのおかげもあるだろう。その意味では物語後半でチャオが日本アニメ的な美少女になってしまうのはやや惜しいとも感じた。まあどちらのバージョンもめちゃくちゃキュートなんですけども。
脚本的には非常にシンプルで分かりづらいところはあまりないのだけど、やっぱりサプライズって良くないなあと思いましたね…。
それにしても4℃はここ数年で『海獣の子供』『漁港の肉子ちゃん』『ChaO』と3本も海ものやってるんですね。本作はオリジナルということもあってかなり苦戦している感じですが(上映2日目のグラシネ池袋で300席中10人くらいしかいなかった…)、なんとかがんばってほしい…。いつものように死後評価されるタイプだとは思うのですが。
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