『ソラリス』の漫画化がいい感じ
今週は森泉岳土先生の漫画『ソラリス』を。言わずとしれたスタニスワフ・レムのSF『ソラリス』の完全漫画化です。かなり予想外の人選という感じだったのですが、雰囲気がすごく合っていて驚き。『ソラリス』の視覚化といえば、やはりタルコフスキーが基準になってしまうと思うのですが、それに引けを取らない存在感のあるビジュアル。シンプルな線なのに、奥行きと情感を感じさせるくれるこの雰囲気。実にレムっぽい感じです。結局ソラリスがなにかわからないまま終わらせるというのも、原作のままとはいえ、このビジュアル以外にしっくりくるものが思いつかない、それくらいのマッチ具合でした。素晴らしい。
『ゴールドフィンガー 巨大金融詐欺事件』はスケール感がすごい
返還直前の香港を舞台にしたマネーゲームもの。圧倒的なのはその壮大さ。無一文からあれよあれよという間にのし上がっていく悪党サクセスストーリーなのだけど、往年の香港を席巻したバブルの狂騒が活写されていて、出てくる建築のまあ豪華なこと。経済犯罪もので、かつ登場人物も多いので話はやや分かりづらいのづらいのだけど、豪華なセットと調度品を見ているだけでかなり幸せな感じになりますね。登場人物は見かけ上多いのだけど、結局は犯罪王VS敏腕捜査官という構図なので思いの外わかりやすいのもいい。成り上がり犯罪王チン・ヤッインをトニー・レオンが、それを追うエリート捜査官ラウ・カイユンをアンディ・ラウが演じていて、この二人だけでもめちゃくちゃ豪華。タイムスパン的にはかなり長い話になるのだけど、最後の最後で対決する朝食のシーンは冒頭のそれと対比になっているのもそうだけど、15年という年月の重みを感じさせる落ち着いたやり取りが実に素晴らしく印象深い。
映画『ゴールドフィンガー 巨大金融詐欺事件』/ 2025年1月24日公開
ロボット映画の新たな傑作
『野生の島のロズ』を観ました。前評判どおりの傑作。『アイアン・ジャイアント』からこっち、ロボットものは定期的に大傑作が出ている気がしますが、そういえば去年の『ロボット・ドリームズ』もそれでしたね。
ロボットが刷り込みによってうっかり事故で死なせてしまったひな鳥の育て親になるというどこかで見たようなプロットながら、タイトル通り人間が一切出てこないのがポイント。主人公の家庭用ロボット・ロズは配送ミスで人跡未踏の孤島に漂着する。造物主としての人間が存在しないことで、被造物主としてのロズが島の動物たちと対等となりうるという設定が面白い。一方で、終盤になると明らかになるように、島の多種多様な動物たちは社会における多様な人間のメタファーとして描かれていて、それゆえに終盤の冬眠シーンはややファンタジーの雰囲気を帯びていく。愛のくだりもしかり。ロジカルなSFとして始まり、愛のファンタジーとして終わっていく、この構成の巧みさも見事だ。
テーマ的な部分も魅力なのだけど、アニメーションとしても素晴らしい。動物たちのキャラクターと動きも楽しいが、やはり主人公ロズがいい。序盤から動物たちにどつき回されてボロボロになっていくのが健気で良い。丸くなったりするあたりからなんだか怪しかったのだけど、終盤のあるポイントからいきなり宮崎アニメになったりするのも面白い。あの苔むした感じは完全にロボット兵だし、調停者としての性質はナウシカの巨神兵。キラリがわたっていく先でチラッと水没した都市が見えるあたりは『未来少年コナン』のオマージュらしいし、そういった意味でも宮崎的だ。
コンセプトの勝利。
話題になっていた『遺失物統轄機構』を購入。架空のゲームの攻略本を装ったイラスト集というコンセプトが、ゲームを買ってもらえず攻略本を読んで慰めてい幼少期を持つ自分にクリティカルヒットでした。一枚絵のパロディ画像ならいくつか見た記憶がありますが、一冊丸ごとこれでやり切るのはすごい。そういえば、Twitterの「存在しない漫画の一コマ」botもそうですけど、存在しないコンテンツをメタ的に消費するというのはどういう時代精神の現れなんですかね。いわゆるデータベース消費とも違うしなあ。
ともあれ、スクショ風のイラストのみならず、ストーリー解説やマップまで載っていて、攻略本っぽさはかなり本格的。今流行りのSCPインスパイアな設定がいいですね。ちょうど『ゴーストフィクサーズ』にハマってる自分にはかなり刺さりました。ストーリーを追っていくと、途中から感情移入してしまい「ニコくんと碑文谷さんどうなるんや…」と思っていたらTRUEエンドの攻略も載っていて一安心。しかしTRUEエンドだと今度はひょろひょろさんが…。ゲームシステム的には遺失物の能力を埋め込むシステムが気になりましたね。能力と引き換えに人外になっていくという当たりが意地が悪くて好きです。
しかしここまで作り込まれていると、どうしても実際にプレイしてみたくなるものですが、実際にやってみたら「なんか違うな」となりそうな気もしますし、このまま楽しむのが正しいのかもしれませんね。まあ本当に出たら絶対買いますが。
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