まさか「アレ」が出てくるとは思わないじゃん:『スター・ウォーク』
全くノーマークだったんだけど、やたらと評判が良かったので買ってみたら大当たり。というか普通のSFだと思って読み始めると3回くらい「そんなことある????」が発生して、とにかくすごい。
とある任務から26年ぶりに地球に帰ってきた宇宙飛行士・ミアは地球が公転軌道から外れているのを発見する。地球は自転が止まっている上に、公転面に対して垂直、アルファ・ケンタウリの方向に直進しているため、生存可能域である「黄昏地帯」が時速2キロで移動しているというかなりの地獄。しかたなく地上に降りたミアとサポートAIのしろわんはスヴァールバルの世界種子貯蔵庫を目指すが、地上には異形の化け物が徘徊しており…、というのが大まかなストーリー。自転停止で黄昏地帯であれやこれややるパターンはよくあるけど、ここまで豪快なやり方で黄昏地帯が「移動する」というアイデアはさすがに見たことがない。謎の化け物が地上に蔓延って~というのも当然あるんだけど、この化け物たちどっかで見たことあるなあ…と思っていると後半であまりにも思いがけない単語が出てきてかなり驚かされてします。この不意打ちは嬉しい。一話ごとにかなりの角度から変化球が飛んでくるすごいマンガ。ここからシミュレーション仮説あたりに繋がると熱いなあ。バンド・デシネ的なタッチと日本的なkawaiiキャラクターの取り合わせも楽しい。しろわんの健気さが好きすぎる。今一番面白いマンガの一冊だと思う。とてもおすすめ。
2ちゃんの民俗学:『ネット怪談の民俗学』
評判通りめちゃくちゃ面白い。「2ちゃんねるでも民俗学になるんだ!」というか2ちゃんねるのようなものこそ民俗学のメインフィールドだということがよくわかる本。思えば、2ちゃんねるのようなものを含めたネット文化全体が、本のような強固な物理的実体を持つ文化に比べて非常に脆弱であり、一周回って一昔前の口承文化に戻りつつあるというのは非常に面白い。インターネットの誕生から50年以上が経ち、インターネットアーカイブの拡張版のような、なんらかの記録機構の必要性がここにきて強く求められているということも、民俗学という地味な学問を通じて明らかになってくる。
とまあ、本題の「ネット怪談」の部分よりもインターネットと民俗学の親和性のようなものを考えてしまったのだけど、本題の方もめっぽう面白い。今ではみんなが知っている「キサラギ駅」「くねくね」「三回見ると死ぬ絵」といった有名ネット怪談の成立過程がログを解きほぐす手業と民俗学の知識によって丁寧に解説されていて、抜群の読み応え。個人的にも一昔前はオカ板、というかまとめサイトで怪談を漁るのが日課になっていたので、そういった意味でも感慨深い本でありました。今年のノンフィクションの中では超おすすめ。
『僕のヒーローアカデミア』最終第42巻は余韻が素晴らしい
正直言うと死柄木との決戦自体は消化試合というか、もちろん超重要ではあるのだけど、最終巻であるこの42巻では冒頭で終わってしまって、残りは長いエピローグ。この構成が実に素晴らしい。戦いの直後の復興と病室のシーンから始まり、登場人物たちに訪れる変化が描かれ、そしてさらにその未来まで射程が伸びる。それでいて最後は読者も気になっていたであろうあの二人の関係にクローズアップして締める、という最強の構成。
良かったシーンがいくつもあるのだけど、個人的にぐっと来たのはかっちゃんが涙を流す場面と轟家が集合する場面。特にかっちゃんの涙は予想外過ぎて最高。8年後の描写でデクに振られたりしてるのも良すぎる。エンデヴァーと轟家の場面も素晴らしく、かっちゃんと同系統のオラオラ系の親父が頭を下げるという成長っぷりがいい。
そして、エピローグのあとのエピローグで描かれる8年後のA組の同窓会も最高of最高!B組の黒色と希乃子が付き合ってるとかいうかなりどうでもいい情報が挟まれつつ、逆に上鳴と耳郎はまだ付き合ってないのかよ?!とか、まあ公式同人誌的なおまけの楽しさ。そして最後の最後はあの二人で締めてfin。最高!
堀越先生、お疲れ様でした!
『動物界』はモーフィング途中が怖い
徐々に動物に変わっていく奇病が流行して大変!という映画なのだけど、これ「徐々に変わっていく」というくだりが本当にいやらしいなと思っていて、こう、ワンチャン元に戻れるのでは??という希望を抱かせつつ、そんなことはないというのが本当に嫌。完全に変異してしまえば森に行けばいいのだけど、じゃあ中途半端に動物になっちゃった人はどうしたらいいの?という、まあ露骨にマイノリティの話なんですよね。それも境界がきっかり分かれていない感じの。もしくはアイデンティティが未確立の状態の暗喩とも取れるかもしれない。主人公エミールについてはむしろこっちの方が当てはまるかも。
全体的にビジュアルで押していくタイプの映画。特に映画のテーマとも密接にリンクしている変異途中の人々の描写が悪夢的で夢に出てきそう。哺乳類はまだいいんだけど、劇中で一番印象深かったのはタコに変異しつつある子供で、あの目の描写のあたりだけでも今年一のインパクト。エミールと仲良くなる鳥人間も良かったのだけど、飛ぶ練習をするくだりは完全に鳥人間コンテストの絵面で、日本人には別の意味で印象深かったのではなかろうか。
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