漫画力が強すぎる:『三拍子の娘』3巻

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1巻2巻ももちろん良かったんだけど、最終巻となる第3巻はオールタイムベストに入るレベルの素晴らしさ。表現としての漫画の面白さがパンパンに詰まった読み応えもあり、物語としての巧みさもあり…。3巻を通して読むと少し長めの一本の映画を観たあとのような深い満足感に沈む。

とにかく表現が楽しい。漫画というメディアの持つ表現力の幅の広さというものを改めて認識する。個人的に良かったのは「アアー!鳩ムリ」のシーンのインパクトの強いふじの表情と餃子作りのシーンの皮と具がコマ送りのように流れていくコマ。犬の散歩のバイトのくだりで唐突に「できらぁっ」が出てくるのも楽しいし、そうかと思えば物語のクライマックスで雪が降り始めるシーンの構図のドラマティックなことときたら!

大きな物語としては父と娘たち、そして音楽という夢の話が軸になっているのだけど、これをきっちり描ききるのも素晴らしく良い。最終話において、父との再会したあとの長女すみの「毎日は 繰り返し みたいで いつまでも 続かない/音楽も人生も そういう所が私は好きなの!」というセリフが物語るのは、三姉妹の他愛もない日常を描いてきた本作が、実は「日常もの」というジャンルではなく、終わりのある映画であるということだった。そして続くエピローグではこのすみの言葉を裏付けるかのように、終わらないかのように思えていた日常は終わり、そしてまた次の日常が始まっていく。やはり思い出してしまうの『響け!ユーフォニアム』の印象的なセリフ「そして、次の曲が始まるのです」。音楽も人生も、終わりと始まりを絶え間なく繰り返していく。これはそういう漫画だったのだった。

アートアニメの波を感じる…!『めくらやなぎと眠る女』

いやー、これを全国配給するとはユーロスペースさんも思い切ったなあ。バリバリのアートアニメのビジュアルだけど、村上春樹原作なのでいけると踏んだんでしょうか。実際、村上春樹原作ものとしてはかなり好き(一番はやはり『ドライブ・マイ・カー』)。

「かえるくん、東京を救う」をベースに6編の短編を組み合わせて群像劇のような感じで仕立ててあるのだけど、これが思いの外よく合ってる。ただ、「ねじまき鳥と火曜日の女たち」は自分もかなり好きな作品ではあるのだけど、エピローグのような感じで置かれるとやや締まりが悪いのでは?と感じた。いや、このパートもいいんだけど、カタギリさんが本屋に入るカットで終わり、とかのほうが個人的には好きかな。

表現的にはロトスコープっぽいんだけど、公式には「ライブ・アニメーション」と言っているらしく、これがどう違うのかが気になるポイントではある。まあロトスコの動きを思い出してもらえればいいと思うけど。物語のメインとなるかえるくんの造形と芝居がかなり最高~!!これこれ、原作のイメージこれよ。最後の溶けていく感じも。でもあの声で古舘寛治は嘘でしょ。

アニメ映画『めくらやなぎと眠る女』公式サイト 

圧倒的情報密度…!『劇場版モノノ怪 唐傘』

TVシリーズももちろん面白かったんだけど、15年以上前の作品が当時のテイストをここまで残しつつ現代的にリファインされて再登場するとは…!期待はしていたのだけど、その期待を軽く超えてきた。

とにかく情報量が凄まじい。文字通り画面の隅々まで色彩と意匠が満ち満ちていて、それでいて無秩序ではなくきちんとコントロールされているのが良い。例えばあらゆる襖になんらかの襖絵がが描かれているのだけど、その多種多様な図像には明らかに意図が込められている。そういった読み解きの可能性のようなものが散りばめられているのもいい。これまでにない表現がいくつもあってその点も見どころなのだけど、特に良かったのが雨の表現。この話の怪異は唐傘なのだけど、これに呼応するように非常にポップで意匠的な雨の表現がなされている。アニメーションでは珍しく口の中の歯をしっかりと映すのも印象的だったのだけど、大奥が舞台ということもあり、今後「お歯黒べったり」あたりが登場するのではないかと予想したり。

テーマと物語が現代的なのも良かった。大奥が舞台であり、奥女中が主人公ということでかなりセンシティブな舞台設定なのだけど、冒頭の新興宗教めいた新人たちの儀式といい、イベントごとを強行するあたりといい、どうにも政治的な匂いがしてとてもいいですね。この第一章だけだと物語の全貌が見えず、大奥の話であるにもかかわらず艶やかな場面がなかったのがやや気になる点ですが、むしろ今度この小宇宙的な世界がどんどん広がっていく予感がしますね。主人公のカメはドジっ子系で大変可愛らしいのですが、なんでこいつがここにいるの感が大きすぎてややノイジーではありました。ハラハラしてしまう。

それにしても驚くのはリファインされた古典的怪異・唐傘の様相でしょう。これはちょっとすごかったですね。唐傘と聞いてこれを想像できる人はなかなかいないのではないでしょうか。使徒+村上隆的といった感じで個人的にかなり最高でした。

『劇場版 モノノ怪』公式サイト