目次
はじめに
今月はどれもこれも良い作品ばかりでしたが、期待通りの『寝ても覚めても』とまさかの大穴『若おかみは小学生!』が双璧。この2本は年間ベスト10入り確定ですね…。特に『若おかみは小学生!』は尖ったところもない王道のストーリーと柔らかめなビジュアルなので万人におすすめできる上に、作画の拘りが凄まじく、後半には強烈な急展開が待っているのでコアな映画ファンにも見応えたっぷり。
本の方のログ今月のおすすめ!
若おかみは小学生!
[cf_cinema format=3 no=1 post_id=9417 text=” 『茄子 アンダルシアの夏/スーツケースの渡り鳥』の高坂監督なのでそりゃあ観るでしょ、でもちょっと地味っぽいから後回しかなー、なんてのんきに構えていたら旗艦館のTOHO日比谷でまさかの一週間限定上映だったので慌てて観に行った次第。で、とりあえず観とこうかなレベルの期待値で行ったら、これがまーすごい。確かにすごく地味で(一部を除いて)オーソドックスな脚本の王道ストーリーなのだけど、そういう地味な部分をとてつもなく丁寧に描いている。パッと目につくところだと、眼鏡のつるの影であったりとかレンズによる屈折、ガラスや金属、木の床に反射するものの姿が丹念に描かれていて、しかもそれらがアニメらしいシンプルな絵柄の中にさり気なく挟まれている。一見すると、いつも観ているアニメなのだけど、「なにか違うぞ」というのがじんわりと伝わってくる。全身を使った芝居も印象に残るものが多くて、特に雑巾がけのダイナミックな感じとか神楽の練習場面の静かな動きが良かった。あと若おかみをやることになっちゃうシーンの「変なポーズ」三連発とか一人ファッションショーの場面のおっこは可愛かったな…。登場人物も魅力的な連中ばかりで、特にライバル的立ち位置のピンフリさんが実はいい人で良かった(分厚い肉)。こういうの定番だけど逆にいいよね。脚本は安定の吉田玲子さんということもあり、若干駆け足かな、というところはあったんだけど、むしろよくもまあ90分であれだけ密度の濃い脚本を書いたな、という気持ちの方が強い。特にすごいのが後半の展開で、ここは本当に神がかってた。ネタバレになるから詳しくは言えないけど、若おかみという仕事を通じて、現実に否応なく直面させられ、しかもそれを克服していくという子ども向けらしからぬハードな展開。とはいえ、そこに至るまでに貼られた伏線のおかげでそれほど不自然になっていないのは逆に尺の短さが奏功しているようにも思う。今月観た作品では『寝ても覚めても』に匹敵する完成度だけど、応援する意味を込めてトップにおいておきます。ところで、おっこの両親がジブリっぽかったり松本零士っぽかったりするのは、やっぱり高坂監督の出自がストレートに出てきたセルフパロディ的なものなんですかね?そのあたりも面白かった。今年のアニメ映画の中では(というか邦画の中で)必見の作品。“]観た映画一覧(時系列順)
アントマン&ワスプ
[cf_cinema format=3 no=2 post_id=9325 text=” あの壮大なスケールの『アベンジャーズ4 インフィニティ・ウォー』の後にこういう「小さな」話を持ってくるセンスがとてもいい。何しろ主人公のスコット(ポール・ラッド)は3年前のシビル・ウォーでお尋ね者になって自宅軟禁状態、金もないし、バツイチ子持ち。いい人が幸せになれるとは限らないという典型的なお人好し。アントマンが小さいのは言うまでもないが、やってることも世界を救うわけではなくて身近な人を助けるということ。敵のゴースト(ハナ=ジョン・カーメン)の目的もひたすら私利私欲だし、とにかくスケールが小さい。「アベ4」でサノスが「全人類の半分、死になさーい!」とかやってるのを見ると微笑ましく感じてしまう。とは言うものの、彼らには彼らなりの目的意識があって、人命もかかっている。その必死さが良い。アベンジャーズ、仲違いしてる場合じゃねーよ。縮小拡大自由自在の映像マジックも実に楽しい。予告編でも出てるけど、ラボがトランクになり、ペッツが巨大な武器になる、トランスフォームの楽しさ。推しキャラはもちろんルイス(マイケル・ペーニャ)!単なる脇役じゃないなコイツ、という存在感。「自白剤」の場面などもう笑わずにはいられない(しかも伏線になってる)。最後のIWへの接続さえ無かったら後味スッキリの超娯楽映画なんだけどなあ…。あそこ、IW観てないとわけわからんと思う。隣のカップルも「??????」っていう顔してたし。しかしこのあとどうなるんや…。”]タイニー・ファニチャー
[cf_cinema format=3 no=3 post_id=9343 text=” 主演(兼監督)のレナ・ダナムの終始不機嫌な顔が良い。彼女が演じるオーラ、大学を出たは良いけれど、職なし家なし彼氏なしの三重苦。そんな彼女が実家に帰省(寄生)し再起を図る!…んだけどどうにも上手くいかない。母親(ローリー・シモンズ)は売れっ子アーティストだし、妹(グレース・ダナム)はメガネっ子(カワイイ!)のくせに陽キャのパリピ、寄ってくる男はまじでクソ。この友達以上彼ピ未満の男がまあ良いキャラクターで、身体は許さないけどなんだかかんだ言い訳付けてオーラの(実)家に居座る。職業はアーティスト気取りのYoutuber。でもこれ撮られたのが2010年なんですよね。先見の明があるというかなんというか。よくある独女もの…ではあるんだけども、この居心地の悪さときたら!オーラの、人生全てに難癖つけたくなるような仏頂面がそこに華を添えていて、盛り上がらないんだけども、一つ一つの場面がどうにも愛おしく感じてしまう。ラストカットの「目覚まし時計の音」のくだりなんてもう最高だよね。あとからじわじわと来る。『フランシス・ハ』とか『コーヒーをめぐる冒険』が好きな人におすすめです。”]ウインド・リバー
[cf_cinema format=3 no=4 post_id=9371 text=” カメラの力がずば抜けて素晴らしい作品。ロングショットで撮られた雪原の中であがくように蠢く人々の姿も良いし、彼らの人生に寄り添うようなカットも印象深い。舞台はワイオミング州のネイティブ・アメリカン居留地。若い女性が暴行された末に死体となって発見される。捜査にあたるのは地元の人々と縁が深い森林保護官のコリー(ジェレミー・レナー)と若きFBI捜査官ジェーン(エリザベス・オルセン)。典型的なバディものらしく、正反対の性格を持った彼らが雪深い土地の陰鬱な雰囲気が翻弄される様が見どころだ。現代のアメリカにこのような土地がまだ残っているということにまず驚く。ネイティブ・アメリカンの警察組織があるというのも初めて知ったし、あたかもアメリカの中にもう一つの国があるかのような雰囲気。見えない「居留地」という枠だけではなく、土地全体を覆う雪が象徴的ですね。田舎、というよりはなんとなく因習が支配する横溝正史的なそれ。ここに入り込むFBI捜査官ジェーンの異物感が際立つ。あまりにも寒くて肺から出血するような土地にFBIジャケット一着で来るし、出身はカリフォルニアだし。バディとなるコリーは警察組織ではなくハンターなのだけど、それがこの事件と上手くマッチしている。しかも彼は今回の事件と同じようなやり口で娘を失うという過去も持っていて壮絶。最後の彼の選択も非難できないよね…。むしろ「いいぞ!やったれ!」と思ってしまった。悪党が懲らしめられる結末ではあるのだけど、どうにもスッキリしないもやもや感が残る作品。どんよりした物語は人を選ぶかもしれないけど、映像力が凄まじいので観て損はない。”]プラトーン
[cf_cinema format=3 no=5 post_id=9374 text=” 「午前10時の映画祭」にて初見。序盤のジャングル行軍の場面で「うわ~蚊の音がうるさくてヤダな~」なんて舐めたこと考えてたんだけど、もう後半に行くにしたがって地獄感がすごい。特に物語のターニングポイントとなる中盤の村落の場面。単純な暴力だったらヤクザ映画とかでよくみてはいるんだけど、罪なき人々がその場の気まぐれによって殺されていくのを見るのはやはりつらいものがある。しかも実話だし。物語的には、戦場の狂気を体現するバーンズ(トム・ベレンジャー)と戦場でも人間であろうとするエリアス(ウィレム・デフォー)の仲間内での対立という軸が用意されているため、非常にわかりやすくなっているのもポイント。実際のベトナム戦争ではどうだったのかも気になるところだが、たとえ映画の中の虚構だったとしてもエリアスのような人物の存在は人類全体の希望のように明るく映画全体を照らす。最後のクリス(チャーリー・シーン)の選択は人間的には理解できるのだけど、あれによって彼もまた戦場の狂気に飲み込まれてしまったのがつらいところだ。「今回もまた負け戦だった」(志村喬)という『七人の侍』の名台詞が頭をよぎる。”]寝ても覚めても
[cf_cinema format=3 no=6 post_id=9379 text=” 『不気味なものの肌に触れる』『ハッピーアワー』の濱口竜介監督なのでそりゃ期待をするんだけど、期待値を遥かに超える大傑作。普通に今年のベストですね。洋画は『パディントン2』、邦画はこれで決まりかなー(まあまた直前になったら考え込んだりするだろうけど)。恋愛映画ではある、あるのだけど、物語全体を覆う不穏な空気は『不気味なものの肌に触れる』のそれで、それは後半のホラー映画ライクな場面へとつながっている。それにしてもどのカットを取っても絵になるのがまあすごい。エモいと言ってしまっては安直かもしれないけれど、何気ない日常芝居の場面の合間に凄まじく印象的なカットが挟まったりもする。東北の海を眺める真正面のカット、雨の中走る二人を追うように差し込む陽の光。そしてこれも一種の夢映画。朝子(唐田えりか)の行動は一見すると狂ってるとしか言いようがないのだけど、そこを『寝ても覚めても』というタイトルが補完する。夢が覚めたと思ったらそうでなかった、というような人間の持つ曖昧さ、非合理さが、正反対の性格を持つ全く同じ顔の男(東出昌大)と彼らを巡って揺れ動く朝子の行動によって力強く描かれている。震災、夢、入れ替わりなどの要素からは、どことなく『君の名は。』を想起したりもした。あと猫がすごくかわいい。雑に言うと「猫はかすがい」みたいな映画。今年一本だけしか観れないとしたら今の所これを選ぶ、というくらいの完成度だった。”]MEG ザ・モンスター
[cf_cinema format=3 no=7 post_id=9382 text=” ステイサムが!!ステイサムが「本当に」生身で超巨大ザメと一騎打ちしてる!!これだけでわりと元取った感あります。なによりもB級サメ映画と違ってメガロドンがちゃんとしてるのがいい。質感とかがリアル~金かかってる~(他の有象無象のサメ映画と比べて)。施設の通路のガラス壁にドーンするシーンとか、それまで海底でよく見えなかったメガロドンのスケール感が一気に伝わってきて漏らしそうになります(漏らした)。この場面、クジラが上手く使われてますよね~。ちょっとかわいそうだけど。クジラを!小魚のように!!あ、ストーリーは特に凝ってないです。でもサメ映画界の中で見たら『ディープブルー』とか『シャークネード』が異端児なわけで、B級サメ映画に慣れてると全く不満はないですね。まあでも金かけた割にはちょっと地味かな…。序盤の「海底の下にさらに海底がある」という設定にはワクワクさせられましたけど。いやでもステイサムがサメと一騎打ちするだけで十分でしょ。むしろ最初から最後までそんなテンションでも良かったくらい。あ、あとでかいはでかいんだけど、もっとでかくても良かったなー。後半、大型クルーザーとかが出てくるとちょっと大きさ的に見劣りしちゃう。次回はもっとでかいやつがステイサムと決闘して欲しい!!”]フリクリ オルタナ
[cf_cinema format=3 no=8 post_id=9385 text=” 上映開始日にタイムラインで巻き起こっていた阿鼻叫喚を尻目に「まあ一応前作は観てるけどそんなに思い入れもないし余裕っしょ♪」と思って観に行ったのですが…。…いや、これで「フリクリ」を名乗ったらダメでしょ…。まず、映像・演出が全然クールじゃない。「フリクリ」と言ったら、「今までに観たことのないアニメ表現」というイメージがあったんですけど、全然驚くようなカットもないし、尖った演出もないし、色んなアニメで見たことのある既視感のある場面ばかり…。女子高生同士のめんどくさいやりとりとか、劇中のセリフじゃないけど「そういうのもういーから!」。話も全く飛躍がなくて、4人組の女子高生のそれぞれに一エピソードという行儀の良いつまらん構成。最終話付近で劇的な展開が起きるは起きるんだけど、その前まで散々「この日常がいつまでも続くと思ってた」とか言っちゃうもんだから意外性もクソもない。最初から滅亡寸前くらいの方がマシだったよ!前作から変わらなかったのはハル子さん(最後の「叫べ!17歳!」は音楽と相まっていい感じだった気がするけど、それにしてもお前そんなキャラじゃないよな…)とメディカルメカニカのアイロン、あとthe pillowsくらいだ…。あのアイロンもなー。バレバレだっつーの!隠してあるっぽい雰囲気だったけど。あらゆる意味で前作未満、っていうか映画未満?アメリカだと「プログレ」と合わせて全12話らしいじゃないですか。TVアニメと映画とで差を付けるわけじゃないけど、深夜にテレビでやってたらなんとなく観ちゃう作品だとは思う。しかし、それをそのまま劇場で流したら…。うーん、前作のファンはもちろん、普通のアニメファンにもオススメはできないな…。”]バーフバリ 伝説誕生
[cf_cinema format=3 no=9 post_id=9389 text=” やっと観れたよーーーーー!!新文芸坐さんありがとうありがとう!!噂通りの快作!アバンタイトルのシヴァガミ様の腕でもうやられてしまった…。やべーよ、すでに伝説じゃん…。とにかくスケールがでかいよね。最初の滝もアホみたいな大きさで神話というか日本昔ばなしの世界だ。2時間超えなんだけど、退屈なシーンが全然ないのもすごい。アクションありラブロマンスありサスペンスあり政治策謀劇あり…。ヒロインのアヴァンティカと出会った後のラブロマシークエンスがシャンプーとか化粧品のCMにしか見えなくて、こういう多彩な表現にも目を見張る。話自体もみっちり詰まってるしね。後半は50年前の回想シーンが延々と流れるんだけども、こっちが本編だったりもするのも驚く。蛮族との戦いの場面のスペクタクル感も良いし、バーフバリの「ひらひら作戦です!」には残酷すぎるけど笑ってしまった。エグすぎる…w バラーラディーヴァの殺戮戦車も尖りすぎててかっこいい。しかし、いいところで前半が終わるよねえ。あんなんすぐ続編観れなかったら何も手につかなくなるわ。二本立てで本当に良かった!ベストシーンはカッタッパのスライディング土下座ですね。あのシーン神がかってるわー。「これ絶対ネタにする人おるよな…」と思ってたらエンディングでセルフでネタにされててワロタw 完全版の方だとカッタッパの出番がかなり増えてるらしいのでそっちも観たい!!っていうか応援上映とか行きたい!これはハマる人いるのわかるわ…。最高だ…。”]バーフバリ 王の凱旋
[cf_cinema format=3 no=10 post_id=9392 text=” 間髪入れずに第二部!二本立てはありがたいですね~。しかも新文芸坐のポイントが余りまくってるのでただで観れるし。最高!!第二部の見どころはやっぱりクンタラ王国でのバーフバリとカッタッパのボンクラ演技と3本同時発射攻撃、戴冠式でのバーフバリコール、「そなたが切るべきはこの男の首だ!!!」、暗殺の場面のカッタッパの慟哭、合体変形人間砲弾、王様生焼、いやーほんと盛りだくさんだなー。まあなんかあれですね。シヴァガミ様とカッタッパがかわいそうで…。デーヴァセーナさんが指切り落として無かったら、バーフバリがあんなにカリスマ性が無かったら、とか色々考えてしまいますね。あの痴漢役人、確かに憎むべき犯罪野郎なんだけど、首切り落とすのはやりすぎだよな~ってちょっと思ったんですけど、面白いから良かったです(悪趣味)。シヴァガミといいデーヴァセーナといい、女性陣が大活躍するのもポイントですね。デーヴァセーナも老女になってからはヨボヨボになっちゃった…と思っていたら最後の最後でいい場面をかっさらっていって…。もうあの場面のいい笑顔が最高~。結論:王家で兄弟を育てるときは片方を養子に出しましょう。”]県警対組織暴力
[cf_cinema format=3 no=11 post_id=9400 text=” 初見。菅原文太、松方弘樹ダブル主演の安定感。成田三樹夫演ずる川出さんのインテリヤクザ感(地上権設定とか専門的な単語も出てくる)とか金子信雄のたぬきおやじ(毎度おなじみ「この腐れ外道が!」が良い)とかこの辺も安定ですねー。タイトルから想像するものとは微妙にずれていて、警察の文太とヤクザの弘樹の組織を超えた友情を描いた作品。BLっぽく言うと文太と弘樹のロミジュリ。ヤクザと警察がクラブで輪になって酒かっくらってる描写にまずのけぞるわけですが、もうほんとどっちがどっちかわかんねえなこれってなる。「高度に親しくなったマル暴はヤクザと区別がつかない」ってよく聞くけど、それを地で言ってる感じ。ヤクザ同士の抗争よりも、取調室での徹底した暴力の方が観ていて恐ろしかった。もっとも、小役人的というか普通の「お巡りさん」もちゃんといて、コントラストを成しているのが面白い。警察からヤクザに転職したトクさんとかいいキャラだよねえ。あと劇場で笑いを誘ってたのが、ことあるごとに「アカの脅威」を説く塩さん(汐路章)。あそこまでしつこいと思わず笑っちゃう。ヤクザよりアカというのが時代を感じますね。それにしてもほんの数カットしか出てこなかった田中邦衛はなんだったんだ…。”]孤狼の血
[cf_cinema format=3 no=12 post_id=9404 text=” 新文芸坐の二本立てで『県警対組織暴力』とセットで観たんですが、この組み合わせいいですね。特に「県警~」から続けて観ると本作が巧みにオマージュを取り入れているのがよくわかって面白い。特に繋がりを強く感じたのは取調室での過剰なまでの暴力やライターの使い方、「三つの条件」のあたり。しかし、あの「三つの条件」は飲めないでしょう、さすがに。ライターもさり気なく登場しておきながらどんどん存在感が大きくなっていくのが上手いなあ。『県警対組織暴力』でも最初に出てきたライターが最後の最後まで印象深く出てくるんだけど、『孤狼の血』ではさらなる決定的な役割を果たす。そして、「県警~」では菅原文太と松方弘樹の組織を超えた友情が軸だったところが、本作では役所広司演ずる不良刑事と、松坂桃李演ずる新米刑事のある種典型的なバディものにひねられているところが面白い。しかし、役所広司の破天荒ぶりもそうだけど、松坂桃李君の演技が実にいいよね。脂が乗ってるなあ若手って感じ。最後の拳を振るうあたりの鬼気迫る感じも良かったけども、「何が正義なのか?」に悶々とするあたりも良かった。脇役では、石橋蓮司演ずるぬらりひょん然とした悪の親玉・五十子の「ビックリドッキリクリトリス」という決め台詞(?)と汚ったない死に様が最高~!”]君の鳥は歌える
[cf_cinema format=3 no=13 post_id=9408 text=” 『そこのみにて光輝く』といい『オーバー・フェンス』といい佐藤泰志原作の映画に外れは無いんだけど、本作も予想に違わず。ストーリーラインもいいのだけど、より素晴らしいのは主演の3人の繊細な感情表現、特に身体を使った彼らの心の距離感を示す演技がとても良い。例えばそれは夜を明かした「僕」(柄本佑)と佐知子(石橋静河)が早朝の雨の中を歩く場面での二人の腕の触れ合いであったり、朝食を食べる佐知子の前をブリーフ一枚で行き来する静雄(染谷将太)の姿であったりする。染谷将太の、そっけないようでじっとりとしたリアリティのある演技ももちろんいいのだけど、なにより柄本佑の絶妙な表情が光る。とりわけ最後のカウントをする場面のいかにも我慢しているような顔。出会いのシーンでのそれと呼応している場面なのだけど、彼の内面は明らかに変化している。ところで、この映画は「夜明け前」の曖昧さの中で生きる若者たちを描いた映画なのだけど、「夜が明けてしまった」後の決着をつける場面をも曖昧にしてしまったところに作品の妙味がある。これも必見ですね。”]トップガン
[cf_cinema format=3 no=14 post_id=9413 text=” 「午前10時の映画祭」にて。9月は戦争もの特集ということで『プラトーン』とセットなんだけど、同じ1968年に作られたとは思えないほど毛色が違う2作品が取り揃えられていて、名画座的な趣がある。ベトナム戦争の悲惨な陸上戦を描いた『プラトーン』に対して、『トップガン』は戦闘機乗りの学園もの。ベトナム戦争(冷戦)という背景はあるものの、戦場が出てくるわけでもなく、戦場で人が死ぬわけでもなく、最後なんかは実にあっけらかんとしたオチである意味唖然とする。唯一劇中で死ぬグース(アンソニー・エドワーズ)にしても、事故で命を落とすという徹底ぶりだし、敵を殺しておいて脳天気にも歓喜の声に包まれるエピローグからはプロパガンダ映画としての匂いしか感じられない。もちろん、これは『プラトーン』と並べてしまっているからだろうけど、それにしてもこの2本が同じ年に作られたというのは非常に面白い。「戦争の光と影」「前線と後方」「罪悪感と高揚感」と様々な対照が見えてくる。もちろん、そういった文脈を無視して観れば、若いトム・クルーズの笑顔は素敵だし、ノリノリのミュージックとドッグファイトのリズム感のシンクロも素晴らしい。特に良かったのは、事故の後、アイスマン(ヴァル・キルマー)がマーヴェリックに慰めの言葉をかける場面のキルマーの演技。ライバルが絆される展開はよくあるけど、それまで嫌な奴一辺倒だったアイスマンの人間的な側面がむき出しになる演技が最高!”]モリモリ島のモーグとペロル
[cf_cinema format=3 no=15 post_id=9443 text=” この短編はもうとにかく料理が美味そうすぎるんですよね。モーグ(どーもくんみたいな方)がひたすら料理を作るんですけど、これが狂ったように細かくて、しかも手際が良い。包丁で具材を切る場面なんて、スタイリッシュすぎてストップモーションであることを忘れてしまうくらい。ストップモーションだったらやりやすいような気もするんだけど、タイミングとかリズム感とか、逆に難しそうだよね〜。このモーグの料理の腕前だけでも見応え抜群!!そして、毎度毎度モーグのご飯を奪っていくペロル(ネズミみたいな方)の横取りしていく手際も良い(笑) YouTubeとか色々なところで公式公開されているので是非観てください!”]陸にあがった人魚のはなし(パイロット版)
[cf_cinema format=3 no=16 post_id=9430 text=” 今回のオールナイトの目玉。ほとんどこれ目当て出来ました。本来はクラウドファウンディングのリターンなので基本観れないという貴重な一本。恥ずかしながら村田監督の作品、初めて拝見したのですが、「人形が人形である」という実在感、手触り感がすごいですね。人間に近づけようとするのではなくて、むしろそこから微妙な距離感を保つことで圧倒的な存在感を作り出す。画面の向こうに物理法則の違ったもう一つの現実を現出せしめるというか。さらにパペットだけではなくて背景、というのか、彼らの周りを覆う自然の狂おしいほどの緻密さがそれに拍車をかけている。特に森の木々がすごかったなあ。人魚の話なので海の表現も見どころがあって打ち寄せる波の場面などが印象に残ります。全編この密度で作られた長編、すごく観てみたいです!そういった意味で「パイロット版」としてはとても成功していると感じました。観れて良かった~。”]映画の妖精フィルとムー
[cf_cinema format=3 no=17 post_id=9434 text=” 発展途上国の子どもたちに映画の楽しさを伝えるために作られたというクレイアニメ。クレイアニメならではの自由なモーフィングが楽しい。白黒から始まりカラーへと移り変わっていく映画の歴史をなぞって、様々な名作映画の場面が次々に粘土で再現されていく。『モダンタイムス』、『雨に唄えば』、『未知との遭遇』、『ジュラシックパーク』…。日本の映画も入れてほしかったところ(あったけど気づかなかったかも…)。最後に夢としての映画が唐突に終わって現実という廃墟に帰ってくる流れも上手いし、そこから未来への希望へとつなげるラストも良い。短いながらもスッキリとまとまった作品。”]チェブラーシカ動物園に行く
[cf_cinema format=3 no=18 post_id=9448 text=” チェブラーシカ、初めて観たんだけど、やばいかわいいですね…。一歩間違えたらシルエットはグレムリンなのに…。そして18分しかないのに濃いいストーリー!動物園で働くワニのゲーナ(新聞読んだりしてる)が風邪を引いてしまって、チェブラーシカが代役を務めようと奮闘する。明らかに違うのに気づかないみんなも微笑ましいし、なんとかワニっぽく(新聞を読んだりする)がんばるチェブラーシカが健気で良いよね〜。それにしても、日本人の中村監督が作っているはずなのに、端々からにじみ出るこのロシアアニメ(っていうかチェコアニメ?)っぽさ!そんなに詳しくないけど、本場の人が太鼓判を押すくらいだからやっぱり似てるんだろうなー。チェブラーシカ役の折笠富美子さんの朴訥とした演技もいいですね。”]ちえりとチェリー
[cf_cinema format=3 no=19 post_id=9437 text=” これも観逃しちゃってたやつなんですよね~。これもまた人形アニメとは思えない作品。トークショーで中村誠監督が「CGでしょ?って言われる怒」って言ってましたけど、たしかにこれはCGだと言われると「すごくリアリティのあるCG」に思えてしまいますね。キャラクターの表情、特に口の周りの動きなんかはなめらかすぎて全く違和感が無い。かといってCGのような現実感のない表現でもなく、チェリーとかネズミ、犬の質感はクラシカルな毛羽立つような毛の表現だし、なによりそこに実際にある、という現実感が画面のこちら側まで伝わってくる。ストーリーはオーソドックスな少女の冒険&成長譚だが、イマジナリーフレンドにしてはガタイの良すぎるうさぎのチェリーが物語の中で歪な存在感を放っている。彼は明らかにちえりにとっての代理的な父として機能しているのだけれど、この物語全体が亡き父の法事の間に起こっていることと考え合わせると、少女にとっての成長として「父の死を乗り越えて現実を見据えること」が設定されていて、このあたりの展開も非常に上手い。最後の子犬のくだりは評価が分かれるところかもしれないけれど、想像力の可能性と消失を示すものとしては良かったと思う。なにげに中盤のアクションシーンも別の映画のようにグワングワン動いて見どころがたっぷり。チェリー役の星野源も普通にうまくて驚いた。”]ぼくの名前はズッキーニ
[cf_cinema format=3 no=20 post_id=6249 text=” 去年の東京アニメアワードフェスティバルで観て以来だったので久々に観た。そういえばTAAFの時はタイトルが『ズッキーニと呼ばれて』だったり字幕だったりしたなあ。眠気に襲われる時間帯だったんですけど、彼らの眼力が半端ないので最後まで観てしまいました。顔芸アニメ、というかその表情を形作る表現力が凄まじいですよね。どうしたってリアルではない顔なんだけども、その内面に渦巻く感情が伝わってくる、アニメーションならでは、否アニメーションでしか表せられない無二の表現。『この世界の片隅に』を観ているときにも感じたんですが、実写ではないからこそ表現できること、というのも確実にあって、この作品はまさにそんな映画なんだと思います。スキー場でのみんなが一斉に画面のこちら側を見つめ返してくるかのような場面なんかは、彼らの内面に秘められたどうしようもない寂寥とした孤独が確かに伝わってくる気がします。今年のロードショーで見逃していたので今回の上映は嬉しかったですね。”]KUBO/クボ 二本の弦の秘密
[cf_cinema format=3 no=21 post_id=9440 text=” うーん、オールナイトの最後だったので結構寝てしまった…。去年のロードショーの時に観ていたこともあり…。やっぱり序盤の折り紙が生き物のように生き生きと動き出す場面とか中盤のがしゃどくろのスケール感、船上の戦いでの水の表現のあたりすごいですよね。っていうか本当に人形なのか…。そういうツッコミが入るのを見越してエンディングでメイキングが流れる構成になってるような気がする…。ところで、映像の美しさも目を瞠るんですが、個人的に大好きなのが、最後の戦いの後、村人たちが集まってきて「物語」を語り始める場面なんですよね。「人の生き様を物語ること」というのがこの映画の背骨になってるんですよね。激しいアクションと静かなエピローグという静と動のコントラストが際立っていて心に残ります。”]まとめ
『若おかみは小学生!』と『寝ても覚めても』がとにかく良かった2018年9月ですが、その他も粒ぞろいというか、ハズレが『フリクリ オルタナ』くらいしか無かった。すごい。
さて来月は年に一度のお楽しみ、『第31回東京国際映画祭』!!今年はコンペメインでいきます!全16本だけど日本公開2本抜いて(今泉監督すみません…ロードショーで絶対観るので許して…)14本+「ワールドフォーカス」と「アジアの未来」数本という構成の予定(全20本予定)。新作はあまり惹かれるものがないけど、やたら評判のいい『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』と『イコライザー2』は観たいな。
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