とてもいいんですが原作とは別物
濱口竜介監督の新作『急に具合が悪くなる』、原作(?)も大好きだし濱口監督も大好きなので当然期待値を上げて観に行ったんですが、やはりというべきか原作とはかなり別物ですね…。正直、原案というのも厳しく、「Inspired」あたりが適切なんじゃないかと思ったり。一応主人公の二人には文化人類学と哲学をやっていた、というバックボーンがあるんですが、そうは言っても書簡集における宮野先生と磯野先生は現役バリバリのアカデミアの人間なわけです。その立場で語る言葉と本作におけるマリーと真理の言葉とではやはろ重みが違っているように感じてしまうんですよね。ただ、そのあたりのアカデミックな世界と世俗的な世界の境界というのもおそらくは濱口監督のテーマではあると思うのですが。原作リスペクトという点で言うなら、「なめんなよ」はあるんですが、「最高の夏にしようぜ」が無いのは残念。本来ならそこで終わるべきでしょう。というか、そもそも真理が亡くなったあとでエピローグというのもかなり違和感があります。このへんは吉田大八監督の『敵』でも感じた、個人的に好きではない原作改変ですね。
一方で、原作から離れて映画単体で観るなら非常に見ごたえのある作品だと思います。個人的には濱口竜介監督の中でティア表を作るならティアAくらいの位置でしょうか。テーマ的には「境界とそれを意図的に壊すこと」とでも言えばいいのか、割と最初の『ハッピーアワー』から共通しているんですが、本作ではそれがよりわかりやすくなっている感じがしますね。例えばフランス語と日本語が入り乱れるマリーと真理の会話は特徴的ですし、長塚京三が演ずる劇中の一人芝居も様々な要因によって境界が壊されていく。個人的に良かったのはマリーと真理が夜通し資本主義の構造とそこから逃れる方法、について語り合うくだり。資本主義批判のようなものは最近の濱口監督のトレンド何だと思うんですが、「常に周縁を作り出さなくてはいけない」という構造は監督のテーマとも親和性が高い。が、これも原作付きでやって良かったのか?というのは少し考えてしまいますね。
あと、さすがに3時間15分は長い…!濱口監督作品の中では別に長い方でもないんですが、「ここで切ったらきれいだな」と思っているとまだ続いたりして、なんとなく小津安二郎監督作品を連想したりもしました。まあ「まだ続くのかよ…」のあとも全然面白くて驚いてしまうのですが。
とにかくすさまじい
『SIRAT シラート』をようやく観ました。冒頭でタイトルである「シラート」の意味、すなわち「髪の毛よりも細く、剣よりも鋭い道」というのが説明されるのですが、これの本当の意味がわかる終盤の展開があまりにも凄まじく、様々な意味で記憶に残る作品でした。
主人公のルイスは息子のエステバンとともに行方不明になった娘を探しに砂漠のレイブパーティーにやってくる。やがてレイブは政府によって閉鎖され、ルイスたちは別のレイブへと向かう人々を追ってモロッコの山岳地帯に入っていく…。中盤まではこのいかにもレイブにいそうなややラリった人々との交流がメインで、まあよくありそうな話ではあるんですが、後半に差し掛かったあたりからあまりにも予想外のことが起こり、物語のトーンがガラリと変わる。このあたりがこの映画のキモというか、まあ一生忘れられないと思いますね、あの場面は。まさかあんなことが起こるとは。しかもあっという間に。人生とはそういうものかもしれないとはいえ、あまりにもリアリティすぎる。
そしてこの衝撃的な出来事に続けて、「シラート」というタイトルの意味がわかる展開が待ち受けており、このあたりもすさまじい迫力。嫌なことが立て続けに起きるのに目を離せない演出力。中盤まで先導される側だったルイスが、あたかも紅海をわたるキリストのように他の人々を導いていく様は宗教的な荘厳さがあり、そしてこの「シラート」が、物語序盤からラジオを通して漏れ聞こえてくる世界情勢の悪化ともリンクしていることに気付かされる展開は見事の一言。
モロッコの壮大な自然を背景にした映像美も見応えがあり、劇中で起きる事件とのグロテスクな対比も良い。今年ベストの一本。
テアトルアニメゼミ2026 第1講「3DCGは今もフロンティアなのか」
テアトル新宿が面白いイベントシリーズを始めたのでとりあえず行ってみました。全6回の構成で、上映+講義(トーク)という流れですね。
第1講は「3DCGは今もフロンティアなのか」というなかなか突っ込んだテーマで、ゲストは瀬下寛之監督、上映は2017年の『BLAME!』。これもう10年近く前なのか…。当時も観ているんですが、今見ても古びてないのが面白いですね。全然観れます。このへんはわりとこの日のトークのテーマとも連結している気がしました。
トークのMCはアニメ評論家の藤津亮太先生で1時間程度。レジュメや出席カードが配られていて、このへんの細かい演出が面白い。そういればわざわざチャイムの音も用意したのだとか。内容としてはサブタイトル通りで、「3DCG」というものが現在のアニメ業界においてどのような位置づけでこれからどうなっていくのか、というお話でした。面白かったのが瀬下監督のAIとの付き合い方で、「30年前に空想していたことがようやく現実になりつつある、なりつつあるが遅い!」と仰っていて、なるほど、40年間3DCGやっていた人の感覚はそういう感じなのかあ、となりました。むしろ「3DCGはこれからが本番!」と仰っていて、業界の突っ込んだオフレコ話もあり、大変面白い講義だったと思います。監督自身もやりたいことが多すぎて大変なようですね。
次回は岩井澤監督で『ひゃくえむ。』。全6回の講義に全部出席すると修了証のようなものがもらえるらしく、とりあえずコンプしようと思います。
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