こんなことが許されるのか?
道満晴明先生の『ビバリウムで朝食を』が4巻にて完結。日常ものから始まったこの物語ですが、時間空間ともにとんでもない地平まで連れていかれてしまった…。2巻あたりで「ははあ、これは「のび太の創世日記」ネタだな…」と思っていたのですが、ある意味当たっていたというか、いやそんなところに接続してくるの?それはずるくないか??というね。本巻中盤あたりで「上層」での地球の立ち位置と宇宙大戦争の経緯が語られるわけですが、めっちゃパー○ンみたいなやつがおるな…と思っていたら最後の最後でまさかのアレですよ。ボヤッとしてるからいいのか??いやー、それにしてもどうみてもアレじゃん。そして「夏休みの宿題」に繋げてくるのが本当に上手いしずるい。もう「大長編」の裏側というか後日談というか…。これはもうFリスペクト作品の中でも大傑作ですし、なんで道満先生はFトリビュートに呼ばれなかったんだ…。まあブラックでややエロだけど、それは本家も似たようなんもんじゃないですか。そしてそして、タイトルを回収する最終話の叙情あふれる終わり方もまた素晴らしい…。侘び寂びというかR・R・マーティン的な孤独と寂寞感というか…。今年の、いやオールタイムベストマンガの一冊になりました。
そういえば今年はF作品を重点的に履修してたんですが、そういった意味でも個人的にタイムリーでしたね。
納得のお値段
panpanya先生の旅行記集成『そぞろ各地探訪』、小さい本でページ数も多くなくてマンガなのに定価2700円だったので何故???と思っていたんですが、実物を見て納得。様々な判型の本が無理やり一冊にさせられているような構造になっていてこれは製本代が高そうだなあ…と思って本を開けば、恐ろしい文字の小ささ!これはもうマンガではなくて立派な活字の旅行記+挿絵ですわ…。もちろんマンガだけのパートもあり。中身の面白さもpanpanya先生なので当然太鼓判。どうやら2009年から2016年まで作っていた同人誌を出版したみたいですね。ソフトクリームの食べ歩きから始まり都内の低山登山、ハトを連れてのハトヤ、空港整備場、カニカマ集め、とどれもめちゃくちゃ面白い。視点の面白さもさることながら、いつものpanpanya先生らしい語り口の楽しさが最高なんですよね。虚実入り混じったスタイルもいかにもという感じ。お値段結構しますがだいぶおすすめ。
やっぱりナウシカだわ
『もののけ姫』、リバイバル上映終了ギリギリに観る。ほぼ満席ですごい。当時は中学生だったけどあまりにも面白くて、二連チャンで観た記憶がありますね。そのあとはどこかで一回リバイバルで観た記憶があるけど、やはりスクリーンで観るのは久々。改めて観ると『風の谷のナウシカ』の変奏というかセルフリメイクという印象を強く受けますね。イノシシの群れは王蟲の大群だし、デイダラボッチは巨神兵だし、シシ神の森の池は腐海深部だし、ヤックルはテトだし、エボシ様はクシャナ殿下だし…。イメージのアナロジーだけではなく、物語上での役割も近しいのが面白い。原作「ナウシカ」を経由しているからか、やはり映画版『風の谷のナウシカ』よりもやや難解というか玉虫色の結末ではないところがまた良いですね。一見するとみんな幸せに暮らしました、というようなオチにも見えますが、人間による自然の征服は着実に進んでしまっていて、シシ神の森が再生することはもう無く、もののけたちは滅びゆく種族として舞台から退場の準備を始めている…。栄枯盛衰。そう考えると『平家物語』的な物語でもありますね。
「もののけ姫」4Kデジタルリマスター 47都道府県での拡大上映
プレデターって感じのデクだ!
『プレデター:バッドランド』、ちょうどヒロアカFinal Seasonが放送中で、しかもこっちの主人公の名前も「デク」なので、なんだか妙なシンクロニシティを感じたり。そのうえこっちの「デク」も最初は超弱くて、そのへんの共通点も面白い。プレデター視点の話ってこれまでもあったと思うんだけど、今回の主人公は本当にガチで弱いんですよね…。映画の冒頭で親父から「一族最弱」「一族の恥」とか罵られているわけなんですけど、こっちは「いやいや、親父言いすぎだろ」と思って観ているわけです。で、その後不時着した惑星で、序盤の敵すぎる「ツタ植物」にボコボコにされてるシーンを観て、さっき言ってたのが嘘じゃなかったのがわかるんですよね。ツタ植物にもってる武器ほとんど盗られるシーンとかほとんどコントでめちゃくちゃおもしろい。
ところで、全く予備知識無しで観に行ったんですが、今回は「エイリアン」シリーズとのコラボなんですね。普通にウェイランド・ユタニが出てきて驚きました。ちょうど配信で『エイリアン:アース』を観ていたところだったので、このあたりも妙なシンクロニシティを覚えます。で、このユタニのアンドロイドであるテッサがヒロインとなるわけですが、下半身持ってかれてるのでデクにかごで背負われているというビジュアルもなかなか衝撃的。「子連れ狼」的な雰囲気。後半になると俄然活躍するのですが、上半身と下半身で別れて敵を倒していく場面はアンドロイドならではの痛快さ。
プレデター的な価値観が、我々の世界にもある保守的な家父長制と重ね合わされていて、それを打倒あるいはそこから抜け出す、というテーマが掲げられていたのも現代的で非常に良かったです。
エグすぎ
インドの大作アクション『KILL 超覚醒』、寝台列車を襲った凶悪強盗団だったが、偶然乗っていた特殊工作員の男にボコボコにされるーという、あー、セガールとかステイサムとかがよくやってるやつね、と思って軽い気持ちで観に行ったわけですが…。中盤までは想像通りというか、列車の中という構造を上手く使ってるな~くらいのぬるい感想だったんですが、列車に乗っていたヒロインがまさかの展開になってからがすごかった。まさに「超覚醒」!前半が普通のアクションで後半はスプラッタ映画。そして殺し方がとにかくエグい。お前本当に公務員か?という殺し方でこんなん西側じゃ絶対作れないよ。消化器で頭潰す系と口に燃料突っ込んで焼き殺すやつが特にやばかった。こうなってくると列車という特殊空間もあまり関係なくて、とにかくみんな殺す、という凄まじい話になっております。オチも全く救いがない。予想外の展開で大変良かったですね。
映画『KILL 超覚醒』公式サイト|2025.11.14 Fri ROADSHOW
旅感のない旅
三宅唱監督の新作『旅と日々』。三宅唱は『きみの鳥はうたえる』『ケイコ 目を澄ませて』『夜明けのすべて』と近年の作品どれもバチバチに刺さってくるので当然これも期待していたのですが、いやー、今まででベスト、とはいかないまでもだいぶ良かったです。原作がつげ義春だそうなんですが、未読。大きく二つに分かれていて、前半がシム・ウンギョン演ずる脚本家・李が脚本を書く劇中劇で、夏の海でのボーイ・ミーツ・ガール。この作品の出来に納得がいかない李は旅に出て己を見つめ直していく、というのが大まかなあらすじ。前半の夏の話も爽やかでいいのだけど、やはり本体は後半の李の旅。夏の海に対応するように、こちらは冬の雪山だ。予約もせずに彷徨く李が行き着いたのはべん造(堤真一)が営む宿なのだけど、この宿がまたすごくて、宿というより単なる民家なんですよね。宿の主人と同じ空間で雑魚寝したりするんだけど、風呂とかどうしてたんだろうなあ。このへんてこな空間での李とべん造の会話が実に楽しく、クライマックスは深夜の鯉泥棒。「インドに行って自己啓発」みたいなものの中年版みたいな感じだ。今までの三宅作品もそうだったけど、撮影と照明が抜群に良い。
クオリティが高すぎる
『トリツカレ男』、ビジュアルは湯浅監督とか三原さんとか大平さんっぽい尖った感じでむしろ好きな部類だったんですが、タイトルとあらすじがなんだか全く心惹かれなくて観てなかったんですよね。まさかここまでSNSで話題になるとは…。で、あまりにも評判がいいので観に行ったわけですが、いやー、これは年間ベストも納得の出来ですね。主人公ジュゼッペがタイトルでもある「トリツカレ男」なわけですが、キモいオタクがストーカーになる話だと思っていたらまあ当然そういう話ではなかったし、「トリツカレ」方も一つのものから別のものへの乗り移るサイクルが早いのでオタク的不気味さというよりはテンポが良くて爽やかな描かれ方なのも良かった。このジュゼッペ青年がヒロインであるペチカに恋をして、仲良くなっていく…というラブストーリーが物語の幹なのですが、彼女の抱える悩みを彼女に知られずに解決していく…という言わば枝葉の部分がめちゃくちゃ面白い。マフィアと対決したり母の病気を直したり。で、そこで過去に「トリツカレ」たあれやこれやが活きてくる、という流れが痛快。出てくる脇役たちも大変魅力的で、特に個人的に大好きになったのはマフィアのボスであるツイスト親分。彼のパートのアニメーションがまた素晴らしすぎて、ここの部分をもっと積極的に宣伝に使ったら作画オタクとかがもっと集まったのでは?さて、物語のクライマックスはペチカの三つ目の悩みを解決するくだり。このパートがまたすごすぎて…。「先生」がロープウェイのところでとった行動には劇場で唖然としましたし、良い意味でも悪い意味でも夢に出てきそうなほど強烈な印象が残りました。最後はややファンタジーな場面があるけど、ネズミ(シエロ)もガンガン喋ってるしまあええでしょう。アニメーションでは『ひゃくえむ。』と並んで今年ベスト。
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