マッドサイエンティストはこうでないと


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『裏世界ピクニック』でおなじみの宮澤伊織先生による配信者系百合SFシリーズ第2弾『ときときチャンネル ない天気つくってみた』。一発で終わるかと思ったらまさかの第2巻。今回も生活感あふれつつスケール感大きすぎるエピソードが多すぎてたいそう楽しい。最初に置かれた電気を作る話がらしてもうぶっ飛んでますね。普通は何かしらの超エネルギーでタービン回すとか宇宙太陽光発電とか思いつくと思うんですが、4パターン出てくるうちの最初がまさかの「宇宙背景放射発電」!たしかにエネルギーではあるけど…。そんなチリツモみたいな…。2つ目は宇宙から盗電、3つ目は電気のように振る舞うなにか、そして4つ目が気持ち悪い感じの方法でオチ、という流れ。やってることはかなり専門的なのだけど、マッドサイエンティストの多田羅さんと素人配信者のさくらという組み合わせが絶妙で、そこに配信中のコメントからもツッコミやら補足説明が入るのでたいへん読みやすいのもいいですね。

最後に置かれた「【宇宙からの荒らしとバトってみた】」もタイトルの軽さからは想像できないハードSFでとても面白い。底辺配信者ネタから宇宙規模のスケールまでひとっ飛びに爆発していくのがこのシリーズの魅力ですが、さすが宇宙の荒らしともなるとレベルが違っていて、攻撃してきた対象の時空をランダムにループさせるという破天荒さ。時間ループネタはよくある話ですが、明確に攻撃として使ってくるのはなかなか珍しい。そしてこれがある種の文明としての通過儀礼としても機能していて、これからのシリーズ展開が楽しみになってきました。チャンネル登録者数が増えていくのを見ているような感じでもあります。

結構ハードボイルドな仮想世界

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風になるにはまだ (創元日本SF叢書) [ 笹原 千波 ]
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笹原千波先生の『風になるにはまだ』、待望の単行本化です。第13回創元SF短編賞受賞作の表題作がかなり印象に残っていて、単著がいつになるかと待ちかねていたのでした。しかも「風になるにはまだ」の世界観を使った連作短編集。これは面白くないわけがない。世界観としては、仮想世界が実現した近未来で、様々な理由で肉体を捨てて仮想世界の住人になることを選んだ人々と、現実世界で生きる人々の物語。ただ、仮想世界と言っても万能ではないのはこの手の話につきもので、使えるリソースによって生活レベルが制限される(『楽園追放』)とかハード的制約(『順列都市』の前半)とかがこれまではあったのだけど、本作における制約は「長期間存在できない」、つまり仮想人格であるにもかかわらず死という概念があることで、この制約が物語を大きく動かしている。これじゃあ永遠の命を得るどころの話ではないのだけど、さらに「日常生活を大きく逸脱すること」によってこの仮想世界での死(「散逸」と呼ばれる)が加速するという制約によって、仮想世界なのに住人たちは現実世界の人間のように暮らしているというのも面白いポイント。

また本作の特徴はこの仮想世界と現実世界の関わり方を重点的に描いているという点で、たとえば表題作の「風になるにはまだ」は情報人格に身体を貸すアルバイトをする女子学生の話。身体を貸すと言っても意識も身体機能も本人にあって、感覚器官だけを貸し出すようなイメージ。ここでは久しぶりに現実世界の感覚を得て、その情報量の膨大さと解像度の高さに驚く情報人格の描写が丹念に描かれていく。仮想世界がテーマでありながら、身体性は本作のもう一つの重要なテーマであるというのも面白い。各エピソードの登場人物が緩やかに交差していくのも連作短編集ならではの醍醐味という感じがする。今年ベストの一冊。

前作超え

『羅小黒戦記2 ぼくらが望む未来』、前作もめちゃくちゃ面白かったですが、続編も輪をかけて面白いのですごいですね。まず小黒(シャオヘイ)の姉弟子として登場する鹿野(ルーイエ)が良いキャラクターすぎなんですよね。普通こういうのが出てくると最初は意地悪な役で出てきて中盤くらいで小黒と仲良くなっていくパターンだと思うんですが、鹿野はデレるのが早い。まあいい年した大人がいつまでもガキといがみ合ってたらそっちのほうが厳しいのはあるんですが、逆に、中盤に思想の違いから道を違えるくだりは、表層的な違いではなく彼らが生きるための哲学に立脚した対立というのがいいですね。そしてその思想が最後まで変わることがないというのも特徴的。このシリーズは人間と妖精の共存共栄がテーマとなっているわけですが、人間と妖精が対立した際に、小黒は正義の側に、鹿野は妖精の側につくと言っていて、こうした根本的な思想の違いを抱えつつ共に生きていくというのはシリーズ全体の大テーマを引いてもいるし、物語全体にこのような大テーマの縮小版が散りばめられているのも非常に上手いですね。

このシリーズの大きな特徴としてはアクションシーンの素晴らしさがありますが、今回も良かったです。物語の展開としては、鹿野と小黒の弟子バディが事件の捜査に取り組み、その過程で黒幕の送ってきた刺客たちと戦う、という流れですが、やはりすごかったのは飛行機のくだりですね。飛行機が落ちそうになってなんとかする話はよくありますが、その解決方法はあまりにも豪快すぎる…!で、この弟子たちのアクションシーンもいいんですが、正直にいうと無限(ムゲン)のアクションシーンがすごすぎてやや霞んでしまったというのも事実。今回は事件の容疑者として哪吒(ナタ)の家に軟禁されている無限ですが(このあたりのキュウ爺を交えてのゲーム大会の場面も楽しすぎる)、後半は大活躍。門前での哪吒との大空中戦も非常に楽しいんですが、軍事基地に向かうくだりの「この人って一応人間だったよね??」という無敵すぎる感じには思わず笑ってしまいました。さすがに硬すぎるだろ。

『羅小黒戦記2 ぼくらが望む未来』2025年11月7日(金)公開