蛇足感

実写版の『秒速5センチメートル』を観ました。まあ一言で言うと「ジジイのションベンみたいなダラダラと長い話」ですね…。そもそもそんなに期待してなかったんですが、普通に退屈でした。元々が60分程度の中編映画なんで、それを2時間にすると単純でエピソードを水増ししないといけないわけですが、その時点でもう駄目な発想じゃないですか?オリジナルの良かった点てその「寡黙さ」「語られなさ」にあったと思うんですよね。水増しするためにオリジナルキャラクターが追加されてたり、オリジナルで語られなかった部分が補足されていたりするわけですが、本当にみんなそんな部分ほしかったんですかね?例えば社会人編で付き合ってた女性の話とか。このへんは小説で補完されてるわけですけど、映像にすると冗長な感じが否めないというか…。とにかく「わかりやすいものが良い」という現代のニーズからすると合っているとは思うのですが、正直自分には合わなかったですね。

構成的には時系列シャッフルなんですが、意図がよくわからないですね。ジジイのとりとめない思い出話とか走馬灯みたいな感じになってる。他にも意味不な演出がいくつかあって、その最たるものが「One more time, One more chance」の流れるタイミングですね…。タイミングというか流れ出し方というか。電車の中で知らん若者が曲聞いてて、それが音漏れし始めて…という、マジでよくわからないかかり方で悪い意味でかなり驚きました。その直前に音漏れで舌打ちするおっさんがいたりして、『8番出口』を思い出したり。

新海作品といえば、郷愁を誘うようなエモーショナルな映像だと思うんですが、これも非常に微妙で、解釈違いだなあ、という感じ。とりあえずぼやっとしたエフェクトかけとけばいいや、みたいなノリでかなり無理でしたね…。感性としては、岩井俊二あたりがやっぱり近かったと思いますよ。新海もどきの締まりの無い映像を2時間見せられるのは大変苦痛でした。

唯一良かったのは天文手帳で文通をするアレンジくらいかな…。あと安易なハッピーエンドにしなかったあたりとか。うーん、今年観た中でもかなり下位の駄作ですね。

劇場用実写映画『秒速5センチメートル』

20年ぶりくらいのシト新生

まさか令和になってから春エヴァ(『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 シト新生』)がロードショーになるとは…。今見てもDEATHの方はマジでよくわからないですね…。終盤の精神世界とか実写とか、今観ると「ああ、ガイナックスだなあ」と思うのですが、当時はどういう気持で観ていたのだろうか…。前回といっても当時中学生だったからリアルタイムでは観ていなくて、そのあとDVDかなにかで観たと思うのだけど、もはや覚えていないですね…。後半の新規映像であるREBIRTHは印象が強烈で、あれだけ盤石に思えたネルフ本部がなすすべもなく蹂躙されていくあたりに衝撃を受けたのを鮮明に覚えていますね。今回も面白かったのは後半。しかし、リアルタイム世代はあそこで3ヶ月待たされたあげく、オチがアレというのはなかなか厳しいものがありますねえ。いやしかし、久々に観ると面白かった!

今週末10月10日(金)より『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 シト新生』がスタート

こういうアニメ映画をもっと観たい

『オッドタクシー』の木下麦監督と脚本の此元和津也による新作映画『ホウセンカ』を観ました。今回は最初から人間で、キーワードは「一発大逆転」。死にかけの昭和ヤクザが刑務所の独房で過去を回想するという流れですが、このキーワードから連想するようなファンタジー要素がないのが良かったです。アニメ映画でこういうキーワードが出てくると、昨今であれば「タイムリープ」であるとか「別の世界線」といった解決が連想されるのですが、この映画ではそういった要素は全くなく、中年~老人男性による地に足のついた物語が展開していくのがむしろ逆に新鮮。「女子高生が主人公で世界の危機を救ったりする」みたいな作品が氾濫している中ではひときわ光るものがあると思います。まあ「喋るホウセンカ」というファンタジー要素はあるにはあるのですが、これにしても病床の老人が最後に見る幻、あるいは過去を眼差す際に現れるもう一人の自分のような重層的な解釈が可能であって、このちょっとしたファンタジーの塩梅は非常に上手いと感じました。そして、無期懲役の囚人として人生を終えようとしている主人公・阿久津が譫言のように呟く「一発大逆転」とはなんなのか?という謎ひとつで物語を最後まで駆動していく作劇もとても面白い。最後にこの謎は明かされるのですが、この部分は人生経験の多寡によって解釈が分かれるのではないかと思いました。人によっては「大逆転してないし、負け犬の遠吠え」という感想も出てきそうですが、自分にとっては非常に納得のいく「大逆転」でありました。「人生で大切なのは何なのか?」というテーゼのお話ですね。作画面では特に室内での細やかな芝居に見応えがあり、画面に溢れる昭和っぽさも良かったです。こういう質の良い文芸作品をもっとアニメーションの領域でも観てみたいものですが、日本の市場ではなかなか売れるのは難しそうな気がしますね。

映画『ホウセンカ』 2025年10月10日(金)公開