男性の性的搾取を描く
一部で話題になっていた『平坦な戦場で』が終わりそうだったので滑り込みで観てきました。ロサだったので腰が重かったんですよね…(近いのに!)。結果として重い腰を上げて観に行って大正解でした。すごい傑作。
テーマとしては性的搾取の問題を扱っているんですが、搾取されるのが男子高校生という点がユニーク。監督は女性なのにあえて男性の問題を扱ってるのは面白い。実態としては圧倒的に女性が搾取されるケースが多いとは思うのですが、男性を当事者として取り上げることで男性の観客も自分事として捉えられる効果があると思うし、さらに被害者が加害者となる展開にしているのが非常に上手いと感じました。ここでは表面的には自発的に売春行為を行っている(ように見える)同学年の(つまり未成年の)女性を出すことで、物語に広がりをもたらしている。さらに、彼女の抱える家庭と貧困の問題を、渋谷ホームレス殺人事件を想起させる女性ホームレスを登場させることで物語の射程はさらに伸びている。
長回しやさりげない日常風景を丹念に描く演出スタイルも好みで、今年のベストに入れたい作品。
これくらい青臭いほうがいい
ジェームズ・ガンは『スーパー!』あたりからもう大々大好きな監督なんですが、彼の作った2025年の『スーパーマン』もまあすごい傑作ですね。今年ベストでは?
スーパーマンが敗北するという衝撃的なシーンから始まり、明らかにビックテックのあの人あたりをモチーフにした悪役、どうみてもイスラエルみたいな侵略国家、移民として非難の対象になるスーパーマン、と昨今世界を席巻している問題を詰め合わせました、みたいな内容でびっくりしてしまいましたね…。よくこんなものをハリウッドで企画通して実際に配給まで持ち込んだよなあ、と関心至極。2022年8月から製作開始だったらしいけど、イスラエルの侵略を見越していたのだろうか(当然2024年の前から紛争は存在していたとはいえ)。すごいタイミングでの公開だし、このタイミングで公開に持ち込んだプロデューサーたちはすごい。
テーマだけでなくエンタメとしても最高で、特にギャスティス・ギャングの面々の活躍が楽しい。グリーンランタンのガイ・ガードナーが特に良かったなあ。予想の範囲内ではあるけど、終盤のあそこでの登場はアツい。エレメントマンが正義に目覚めて太陽を作り出すシーンも良かった。そして何より素晴らしいのが犬のクリプト!かわいい&強い!だいたい一緒にいるので出番が多いのもいいし、可愛い犬畜生だったら生身の悪党でも多少ボコボコにしてもOKという学びがあった。続編は『スーパーガール』になるのかもしれないけど、絶対出てほしい。
なんか高えなあと思っちゃってすみませんでした
梅津泰臣監督の完全新作『ヴァージン・パンク CLOCKWORK GIRL』。正味35分で1700円均一料金。株主優待券も使えないし、さすがに高すぎだろ…と思いながら観たんですが、観終わった後は、「いや、むしろ1700円は安すぎるわ…」となりました。この尺なので当然息つく暇もなくアクションまたアクション。梅津監督なので当然アクションはいいんですが、それにしてもキレが良すぎる。クライマックスのアクションなんか首がそこにスポッと収まるはずねーだろ、と思いつつもあまりにもタイミングが気持ちいいんですよね。アクションだけじゃなくて日常芝居も上手くて、病院のシーンの上手く動けない感じとか良かったなあ。
そして話もめちゃくちゃ面白い!初見、「なんかキモいタイトルだな」と思ったんですが、なるほど、たしかにヴァージンでパンクだ…。大まかな設定はサイボーグがいる世界で違法改造サイボーグを狩る賞金稼ぎの話なんですが、主人公が大人の身体を奪われて少女の身体にされてしまうというのがタイトルにつながっているわけですね。こういった少女が大胆なアクションで敵を倒していくという設定は特に日本アニメにおいては枚挙にいとまがないわけですが、この設定に対して主人公に嫌悪感を抱かせたりしていて日本アニメあるあるへの自己言及的なエクスキューズが見られるのもとてもおもしろいポイントだと思います。個人的には生身の24歳のほうが好みだったんですが、見た目14歳が実は怪力でめちゃくちゃ強い、みたいなのはやっぱりギャップがあって面白いですね。この状況を作り出した打倒すべき相手でもあり雇用主でもあるMr.エレガンスは、14歳(という設定)の裸体を盗撮するようなロリコンクソ野郎で非常に魅力的なヴィランなのですが、どういう死に様を迎えるのか大変楽しみです。まあただのクソ野郎、というだけではなさそうではあるのですが。
ちなみに、当然ながら35分で物語が完結するわけもなく、そこそこ長い物語のプロローグという感じです。とにかく早く続きが観たいんですが、普通に数年後になるんじゃないかなあ…。
梅津泰臣×シャフト オリジナルアニメ『ヴァージン・パンク』公式サイト
テーマ的には面白いんだけど、重い
内田英治監督の『逆火』。実話を映画化するときに実は嘘だらけだったらどうする?というのを制作者サイドから描いた作品で非常に面白かった。要は制作者としての倫理を取るか生活を取るか、という話なのだけど、このあたり自分の中でも最近良く考えているテーマなので、自分だったらどう行動する/すべきだろうか、と考えてしまう。この映画の中ではヤングケアラーだった少女が身体が不自由な父親を献身的に介護しているという美談が実は嘘だったのではないか、という疑惑が持ち上がり、映画を撮影するべきか中止すべきか、という内容で、さらにそれを撮影開始3週間前に判断しなくてはいけない、というシチュエーション。主人公・野島は撮影の中止を提言するのだけど、ここにくるまでに多くのスタッフが半年以上の時間を費やしているわけで、そのあたりのせめぎあいの話なんですよね。個人的にはこのシチュエーションなら続行一択だろうな、とは思うものの、例えば原作を書いたのが猛烈な差別主義者だったのが後からわかった、といった事例も考えられるわけで、そこで中止という決断ができるだろうか、と思ってしまうわけですね。一つの解決策としては本人がチームから外れるというのがあると思いますし、こういった場合の保険を開発する、という可能性も考えられると思います。
それはそれとして、もう一つの筋として野島の家庭問題が語られるわけですが、正直こっちのほうが切実で見入ってしまいました。虚構と現実という対比がしたかったのかなと思うのですが、本筋での野島の悩みがとても小さなものになっていくのはとても上手かったですね。で、こっちの筋の結末があまりにも重い…。これ、どうすればよかったんでしょうね。
軍事独裁政権とピアニスト
フォロワーが猛烈に勧めていた『ボサノヴァ 撃たれたピアニスト』、新文芸坐でかかったのでようやく観れました。『戦場でワルツを』に端を発する、昨今流行りのアニメドキュメンタリー作品ですが、前情報無しで観に行くと、始まってしばらくは何の話をしているのかわからない。しばらくすると一人のピアニストが行方不明になった事件を追っている話だということがわかるのだけど、家族や友人、仕事仲間たちへのインタビューがアニメーションで描かれる。声はインタビュー音声を使っているので、緩めの絵柄とのギャップがあってちょっと面白い。前半は1950年代のボサノヴァ全盛期に至る歴史を概観していき、その中でこの行方不明になったピアニスト、テノーリオ・ジュニオルの話に入っていく。ボサノヴァも聞いたことはあれども歴史については全く無知だったので、この前半パートも大変勉強になる。後半はブエノスアイレスでツアー中に行方不明になったテノーリオの足跡を辿っていくのだが、その中で南米の軍事独裁政権の歴史が語られていく。本作の肝はこの後半部分にあって、テノーリオ個人がいかにして殺されたのかというミクロな話を、当時アメリカが実行していたコンドル作戦というマクロな話へと接続させていく。歴史の話であってすでに終わったことであるのに後半パートの緊張感は凄まじいものがある。今年の作品の中でもかなりのおすすめ。
コメントを残す