オールタイムベストの一冊!『ここはすべての夜明けまえ』
初見は異常に読みづらい本、という印象。全編にわたってほぼひらがなで記述されていて、さながら『アルジャーノンに花束を』の退行していくシーンが延々と続いていく感じ。
物語は九州の山奥に住む「ゆう合しゅじゅつ」を受けて人ならざる存在になった女性が100年後に自らと自らの家族を顧みる手記という体裁で綴られていく。老いることのない「彼女」(物語中で名前も明かされない)は自分にも社会にもほとんど関心がなく、人里離れた山奥で日々淡々と暮らしている。彼女がこうなってしまった理由についても作中でじわじわと明かされていくのだけど、とにかく100年にわたる未来史であるにもかかわらず、「彼女」という小さい小さい窓から未来社会を覗き込むという視点の独特さがとにかく素晴らしい。それも彼女が実際に体験したことはほとんどなく、家族史を綴る中で、その端々から漏れ出るように垣間見えるという体裁が良い。例えば首都圏で大地震があって兄弟の誰々が関西に避難してきただとか、仮想空間で姉妹の誰々と会って…のような、ある意味もどかしさを感じるのだけれども、見えない部分は見えない、というあたりにどうしようもないリアリティとフェティシズムを感じるのである。
100年に渡る思い出語りの中で、人類はとても大変なことになっていくのだけど、そのあたりも全く詳しく書かれず、あくまでも「彼女」の視点から描かれていくのが実にいい。そして、それまで受動的に人生を生きてきた「彼女」が最後の最後で主体的に自らの人生を選び取っていくという結末の美しさがたまらない。テクノロジーによってどれだけでも無限に生きていくことができ、記憶や思考も自由に変えられる世界。しかし、そこで彼女を救うのがそういったテクノロジーではなく、「哲学」であるというのは大いに共感できるところだ。SFという枠を使って一人の人生を描き出したオールタイムベスト級の傑作。これがデビュー作というところがまたすごい。
何回来ても最高のビストロ「ビストロ ブノワ」
一年ぶりに表参道の「ビストロブノワ」へ。年一くらいで来てるけど、毎回最高~!になりますね。
今回は階段脇の小さめの部屋。壁紙がかわいすぎる。
コースは前菜2種+メイン1種+おすすめワイン3杯。毎回選ぶのが楽しいんですよねー。びっくりドンキー的なデカメニュー表も好きすぎる。
前菜①「フランス産フォアグラのコンフィ」。シンプルに美味しい。少し臭いが残っているも好き。添えられた金柑と一緒に食べるとかなり最高。
前菜②「野菜のアンサンブル ビネガーソース」。こいつ野菜のくせに追加料金取るのめちゃくちゃ強気だな…と思って思わず頼んでしまいました。結果として、確かにめちゃくちゃ美味しい。根菜メイン。アスパラが甘い。ソースは酸味がたっぷりで刺激的だけどかなり好き。
メイン「”丹波黒どり”のローストとウイキョウ 柑橘風味」。メインって毎回あまり印象に残らないんだけど、これはめちゃくちゃ美味しい。シンプルに肉が美味しい。胸とももでテイストが全く違うのもいい。
デザート「ババ・アルマニャックとバニラ風味の生クリーム」。アルマニャックかけ放題。普通にかけすぎたような気もするけどこれくらいが適量な気もするし、難しい。生クリームもたっぷりでかなり最高。
年一で来てたけど、季節ごとにくると楽しいかも。これからももっと来たいお店。
代官山の聴景居で「お茶のフルコース」をいただく
ちょうど一年前くらいに開店し気になっていた聴景居さんへ。代官山のコンランショップの地下にあります。というか運営がコンランショップなのね。混んでるだろうと思ってダメ元で行ったんですけど、普通にガラガラでスルッと入れてしまった。なんで??
まずはその空間の素晴らしさ。余計なものが削ぎ落とされ、必要最小限のソリッドな空間にいるだけでかなりテンションが上りますね。BGMも最小限の旋律がわずかに聞こえてくる程度。まさにTea Barという二つ名がふさわしい感じ。
メニューは単品もあるのだけれど、今回は思い切って「お茶のコース」(税込5,500円)を頂きました。コースとはいえお茶に5,000円はなかなか勇気がいる気がするんですが、初回は絶対コースを選んだほうがいいと断言できますね。
コース内容はこんな感じ。
最初の玉露の一煎目がとにかく衝撃的。アミノ酸の旨味が出ていて出汁のような感じなんでよね。これだけなら前にも飲んだことはあるんですが、ここのものは質が高くて素晴らしかった。そして同じ玉露の葉っぱを使って二煎目は普通に淹れ方、そして三煎目はミントを加えてアイスティーにするというアレンジがあり、意外性もさることながらやはりクオリティが素晴らしい。しかもその茶葉を塩で食べるんですよね。これが美味しい。
最後に出てくるスパイス抹茶もインパクトのある美味しさ。抹茶とスパイスという字面も面白いけれど、飲んでみるとこれがまた不思議な雰囲気の飲み物で唯一無二という感じ。
お茶を淹れてくれる様もすべて見えるのですが、実に丁寧で見とれてしまう。そういった点も含めて素晴らしく最高な体験でした。ここは絶対また行きたい。
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