毎年思うけど、10本選ぶのはきつい。例年通りアニメ多め…と思ったが日本アニメは2本しか入ってないのでバランスはいい…ような気もする。レギュレーションは新作かつ映画館で観たもののみ。母数は73本。順不同。

ベスト10本

夜明けのすべて

撮影と音楽が良すぎる。あのザラッとした解像度の低い感じの質感はどうやってるんだろう。ちょっと昭和の雰囲気。PMSとパニック障害の話だけれど、それよりも宇宙の話が印象的。栗田科学の人々が実に魅力的であの部分が一番ファンタジーなのだけど、こうあってほしい、という感じがする。特にあのおばちゃんがいい。主役の男女二人が恋仲にならないのもいい。

映画『夜明けのすべて』公式サイト

リンダはチキンが食べたい!

期待はしてたけど期待の10倍くらい面白かった。『大人のためのグリム童話 手をなくした少女』の表現の延長線上だけど、単色でキャラクターを表現するあたりなどかなり面白い。内容はバリバリのスラップスティックなエンターテイメントで作劇も凝っている。吹き替えで見たけど、どのキャラクターも芝居がいい。アニメーションとしての芝居も素晴らしい。リリー・フランキー演ずるジャン=ミシェルが特に好きなキャラ。結局鶏盗んで戻さないんかい、とは思ったけど、それはそれとしていい映画だった。

映画『リンダはチキンがたべたい!』公式サイト

悪は存在しない

あそこでエンドロールに入るのかなり天才。観客としてはあの後が当然気になるわけだけど、そこはもう監督の興味の外なんだよなあ。最後の展開はかなり難解なのだけれど、それにしても1カット1カットが美しいし、音楽も最高。嫌なデベロッパーたちが次第に愛おしい感じになっていく展開もいい。

映画『悪は存在しない』EVIL DOES NOT EXIST

数分間のエールを

とにかくルックが良すぎる!アート短編アニメだと割とありがちな絵柄だけど、これ一本で長編を作るとは…!キャラクターデザインもかなり好き。先生の目が終始死んでるのが最高。ロングショットのレイアウトも最高。夏の空気感ヨシ!輪郭なしセルルックだけど、日本の漫画的表現が観られるのもいい。テーマも今的でかなり好み。68分と短いが密度の濃さが素晴らしい。『ルックバック』とどっちをいれるか迷ったのだけど、表現の面白さでこちらを。

映画「数分間のエールを」公式サイト 2024年6月14日(金)公開

関心領域 The Zone of Interest

音響映画。画面が写っていないときのほうが雄弁ですらある。

映画『関心領域 The Zone of Interest』オフィシャルサイト

密輸 1970

OPの歌謡曲から昭和の東映感がすごい。父とジングの死に方がかなり嫌すぎる。後半まで誰が味方かわからない展開が良い。女たちの連携がメインテーマだけど、敵役のクォン軍曹(チョ・インソン)が実にいいキャラ。顔もいいし、優男風なのにしぶとい。あの顔で極悪人というチャン・ドリ(パク・ジョンミン)も好きすぎる。ガラス食べるシーンは何のパロディだっけ?

7.12(金)公開『密輸 1970』公式サイト

化け猫あんずちゃん

これも期待はしてたんだけどはちゃめちゃに面白い。ロトスコだけあってやはり芝居がいい。主人公のかりんちゃんはオリジナルキャラらしいけど、リアルな小学5年生という感じでかなり最高。(『トラペジウム』の)東ゆうに続いて舌打ちと悪態が似合う主人公が出てくるとは。後半の地獄下りの展開もアニメーション的にかなり面白い。お母さんのその後が気になってしまうけども。

それはそうと自転車を盗まれるシーンの芝居だけで元を取れるくらい面白いのはさすがにすごくないですか?

映画『化け猫あんずちゃん』公式サイト

ラストマイル

評判通りめちゃくちゃ面白い。宇野祥平がいい味を出している。満島ひかり演ずる主人公の所長はだいぶ胡散臭くて悪役っぽいなと思っていたら逆転するのもいい。いきなり爆発が起きるスピーディーな脚本も好きだし、やはりテーマが今風で良い。やはり野木亜紀子脚本に外れなし。もっとも、じゃあお前はAmazon使うのやめられるのかよ?と言われたら難しいわけではあるものの。

映画『ラストマイル』公式サイト

シビル・ウォー アメリカ最後の日

みんな言ってるけど赤サングラスの男のシーンの緊張感が素晴らしい。ただあそこで赤サングラスというアトリビュートを与えてしまったのはテーマ的には失敗だったのではないかと思う。大統領の情けないシーンが見れるのはいいとは思うが最後の展開はやや違和感がある(サブタイの「アメリカ最後の日」というチープな感じを回収している感じもする)。一人の女性カメラマンの成長物語としても見応えがある。

映画『シビル・ウォー アメリカ最後の日』|大ヒット上映中

ロボット・ドリームズ

オールタイムベスト級。前半はやや単調で不安になったけど後半が素晴らしい。Septemberとツインタワーの使い方が上手い!なんやかんやあって2回観たんだけど、何回観ても面白い、というか噛めば噛むほど味が出る映画という感じがする。また観たい。

映画『ロボット・ドリームズ』オフィシャルサイト

その他ベスト10ではないけど入れたかった映画たち

『宝くじの不時着 1等当選くじが飛んでいきました』

期待の10倍くらい面白かった。ずっと笑って観ていられる。全部いいシーン。酒盛りのシーンも良かったし、交代した二人が手柄を立ててしまって戻れなくなりそうになるのは爆笑した。あと出鱈目ドイツ語のシーン。最後の切ない感じもいい。

『カラオケ行こ!』

齋藤潤の聡実くんがあまりにも再現度高くてかなり最高。綾野剛の狂児はなんかこれじゃないと思わせておいて、原作以上に狂児で、これはこれですごい。似てないのに似ているという不気味な感覚。映画として構成も上手いし、漫画から映画への変換が上手いなあ、という印象。いやそれにしても聡実くんがすごいわ。最後の「紅」熱唱も素晴らしいし。一人の少年の成長譚として素晴らしくよくできている。

『熱のあとに』

仲野太賀の大声がうるさくて気になるがそれ以外は素晴らしい一本。特に最後の60秒の演出が最高。シチュエーションの緊張感がいい。ラストカットが特にいい。橋本愛演ずる主人公はエキセントリックだが彼女の中では完全に筋が通っているっぽいのが恐ろしくもあり魅力的でもある。劇中の抽象的な議論は解釈に時間がかかるが、それを最後の60秒でシンプルに映画にしているのが面白い。

『落下の解剖学

濃厚な法廷劇。裁判が進んでいくうちに夫婦の複雑な関係があらわになっていく。夫婦喧嘩の場面が法廷で流される場面は目を覆いたくなる様相。結局、事故なのか自殺なのか殺人なのかが曖昧なのも良かった。結婚前にカップルで観たい映画。

『シロッコと風の王国』

東京アニメアワードフェスティバル2024にて。なかむらたかし、というか『とつぜん!猫の国 バニパルウィット』を思い出す。本の中で亡くなった姉が確かに実感を持って生きているというのもいいし、この点で単なる不思議の国のアリスから逸脱している。ジュリエットとシロッコが出会い、問答でタジタジとなるシロッコがすごくコミカルでいい。ケンケンパで移動するのもいい。色彩設計と影なしのルックがもう最高。

『マッド・マックス:フュリオサ』

正直、期待してなかったけどあまりにも面白い。完璧なカットがあまりにも多いし、夜のシーンの美しさときたら。賢者のキャラが良かった。

『ルックバック』

泣く泣くベスト10からは外したが、アニメーションの歴史的には大事件。作画(というか線の表現)と演出が良すぎる。あの絵でよく最後までいったなあ。劇伴も意外にも良くて驚き。アニメ化に際しての翻案が見事。手を引くカットとか。

『トラペジウム』

主人公の東ゆうが最高すぎる。こんなゲス顔と舌打ちが似合う主人公いるかよ(と思っていたが、その後『化け猫あんずちゃん』のかりんちゃんが出てきた)。崩壊した後の展開が素晴らしい。

『クワイエット・プレイス:Day1』

猫がかわいすぎるし、終活というテーマも最高。その終活もピザを食べるだけというのがいい。モンスターが添え物になっている感じがするがそれはそれで。こういうのをもっと観たいが売れないだろうなという気はする。

『WALK UP』

いつものホン・サンス、いつも会話劇。しかし、それでもだいぶ面白いのですごい。主人公のビョンスの女関係が奔放すぎて面白い。白黒会話劇なので若干眠くなってしまったがまあそういうこともあろう。

『フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン』

オープニングからおしゃれすぎて最高~!!チャニング・テイタムの生真面目な感じ、合ってるなあ。スカーレット・ヨハンソンも最高。脇役たちも印象深い。ツアーのおじさんとか映画監督とか。もうちょっと捏造のあたりが濃い目だと良かった。カメラの引いていくカットがいい。猫ちゃんの活躍も楽しい。

『違国日記』

中盤までは解釈違いだな~と思っていたけど、最後の方はかなり良かった。上手く纏めているなあ。最初の事故のシーンはいらんかった気がする。

『めくらやなぎと眠る女』

一般受けしないキャラデザだなーと思って観ていたが、別にアニメオタクはこれは観ないだろうしまあええか。春樹の好きな短編ごっちゃ煮で個人的には大満足。かえるくんの芝居と声(古舘寛治!)だけで元は取った。

『劇場版モノノ怪 唐傘』

近年観た映画の中では圧倒的な情報量。画面を観ているだけで眼福。三角形の意匠が面白い。古典的怪異である唐傘の現代的リファインが最高。エヴァっぽくもあるし、村上隆的でもある。テーマも現代的で良い。物語の解釈はなかなか難解。

『怪盗グルーのミニオン超変身』

いいシーンがたくさんあって最高!ポピーのDDRのシーンとか最後のマキシム・ル・マルとのデュエットとか。メガミニオンが助けに来るかと思いきや全くおまけなのも楽しい。メガメルのチーズの穴あけシーンがくだらなすぎて好き。

『墓泥棒と失われた女神』

思っていたのとはだいぶ違っていてかなり文芸映画だったがだいぶ傑作。キーワードとしては「(上下関係の)逆転」「見る/見られる」あたりか。オチがそこに帰着するというのがあまりにもエモーショナル。

『きみの色』

山田尚子節が全開で最高~!!!音楽も良すぎる。事件の起こらなさもいい。最後の水金地火木土天アーメンが異常に盛り上がって多幸感がすごい。

『侍タイムスリッパー』

めちゃくちゃ面白いし、テーマも素晴らしい。最後までもやもやしていた真剣の話でオチをつけるのがかなり上手い。

『犯罪都市 NO WAY OUT』

いきなり國村隼出てきて驚いてしまった。青木崇高も良いヴィラン。チャン・イスのポジションのチョロンが好きすぎる。

『犯罪都市 PUNISHMENT』

相手がIT犯罪者なので若干暴力が弱まっている感じはするがそれを補うチャン・イスの大活躍。最高。今後も出続けてほしい。

『ベイビーわるきゅーれ ナイスデイズ』

池松壮亮演ずるかえでのキャラが良すぎる。だいぶ可哀想な過去がありそうだけど、そこをあまり掘り下げないのもいいね。殺す相手の服をちゃんと畳んでるあたりとか、皆殺しにしておいて命がもったいない!とかいいだすあたり、かなりサイコパス。前田敦子と二人の絡みも最高。

『破墓/パミョ』

まさかの日韓歴史もの。めちゃくちゃ日本語出てくる。墓の下から更に墓、という二段構え三段構えが楽しい。サンドク役のチェ・ミンシクが良い。巻き添えのお坊さんがかわいそうすぎる。

『ふれる。』

正直全く期待してなかったけど面白かった。ふれるの真の機能が明かされるあたりから一気に面白くなる。キスしただけで彼氏面のシーンが好きすぎる。あれはキツイて。

『動物界』

人間から徐々に動物になっていくというのがエグすぎる。目が人間なのがなー。なんか爽やかな終わり方してるけどだいぶビター。新生物はもちろんマイノリティの暗喩なんだろうけど、なかなか難しいな。鳥人間コンテストのシーンが良かった。無理やて。

『アングリー・スクワッド 公務員と7人の詐欺師』

まさかの地面師かぶりだったけど逆に地面師先に見ておいて良かった。どんでん返しがいいが、ちょっとご都合主義的でもある。コミカルな面が多く、明るいのがいい。

『私にふさわしいホテル』

堤幸彦ってこんなに面白かったっけ?というくらい面白かった。主演ののんの芝居が最高。作家の本質としての嘘つきの側面が遺憾なく発揮されているのが良い。コテコテの邦画っぽい芝居も逆に合ってる。