はじめに

 今月は毎年恒例東京アニメアワードフェスティバルとGEIDAI ANIMATIONのおかげで短編アニメーションばかり狂ったように観てました…。新作もドラえもんとかスパイダーバースとかで今月は特にアニメの比率が高くなっております…。

本の方のログ

今月のおすすめ!

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 1975年から2002年まで続いていたアンゴラ内戦の序盤を描いたグランプリ作品。表現的には今流行りのコミック調のシェーディングによる3DCGで、内容も史実であることから、「これをアニメーションで描いたのはどういう意図なのだろう」と思って見ていた。しかも、途中からは実際に事件を生き延びた人々のインタビューや当時の写真などが挿入され、国際アニメーション映画祭にノミネートされているにもかかわらず、アニメーションの扱いは全体の半分程度だ。

 しかし、中盤、作品のヒロインとも言える人物が登場してから、作品の印象は大きく変わっていく。この映画(の少なくとも一部)はアニメーションでなければならなかったのだ。志半ばで死んでしまった女性戦士を蘇らせるには。例えばこれが全編実写であったとしても、そこにあるのは作られた世界に過ぎない。アニメーションという技法だけがアプリオリに持つ虚構性が、逆説的に失われた世界を再現する。この感覚は例えば、片渕須直監督が『この世界の片隅に』で見せた「歴史への意識」と同じものだ。ここでは、記録され得なかった記憶を生き生きと再現するために、アニメーションという表現が使われ、そしてそれが最大限の効果を上げている。今年の長編コンペはどれも高いレベルだったが、「なぜアニメーションという技法を選んだのか?」という点において、本作は抜きん出た特徴を備えている。納得のグランプリ。

 「歴史性」という観点を抜いても、本作のアニメーション技術は個性的で、特に印象深かったのが、随所で現れる「解体される世界」の表現。夢の中のように美しいそれは、主人公・カプシンスキの混乱する心象とも重なり、強い効果を残している。また日本で上映することがあったら必見の作品だ。

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観た映画一覧(時系列順)

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 「クレしん」はコンスタンスに良質な作品を作り出していると思うのだが、ドラえもんの方は当たり外れが激しい。隔年でクソと本格カレーが交互にやってくるイメージがあって、今年は当たり年(ということは去年は…)。個人的にはヒロインが男の子だと出来が良いように感じる。「ひみつ道具博物館」とか。

 今作はドラえもんフリークの辻村深月先生が脚本ということもあって、基本的なドラ映画のお約束をなぞりつつも、その先へと意欲的な動きを見せる。具体的には「異説クラブメンバーズバッヂ」を物語の中心に据え、さらにそこから派生したオリジナルのひみつ道具を取り入れることで、「ドラえもんヴァース」にさらなる広がりをもたらした点が素晴らしい。「異説クラブメンバーズバッヂ」は地球空洞説や宇宙円盤説と言った、これまで歴史上信じられてきた「異説」を特定のメンバーの中でだけ現実化する秘密道具だが、これを使ってのび太たちは月面にうさぎたちの文明を築き上げる。

 この存在しない「世界」の創造を、これまでの歴史の中で育まれてきた「人類の持つ想像力」と結びつけることで、物語は飛躍的な広がりを見せる。「想像力など無駄だ」と断言する敵の親玉に対してドラえもんが放つ「想像力は未来だ!」という言葉は印象的だ。さらには、「想像された世界の中で想像すること」にまで踏み込み、それが物語解決の鍵となっているのも面白い。『映画ドラえもん のび太の創造日記』では想像された世界を入れ子にするという解決方法が示されたが、ある意味でそれに近いものがある。

 「想像力≒創造力」という点から、個人的には片渕須直監督の『アリーテ姫』を連想した。月面へと決戦に向かう気球から地上の明かりを見てしずかちゃんが言う「あの明かりの一つ一つに人々がいるのね」というセリフからは、城下の光を示して「あの一つ一つに人々がいる」と言うアリーテの姿が重なって見える。

 敵のボスとの対決は若干大味な雰囲気があるが、ヒロイン(?)であるルカやルナ、そして敵方のゴダート(元ネタは「ロケットの父」ロバート・ゴダードだろうか)といったゲストキャラクターは魅力的だし、すっきりとした脚本もわかりやすい良作。…と思ったがやっぱりこの脚本、大人向けだわ。子どもが観て理解できるんかな…。

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 教養あるエキセントリックな黒人天才ピアニスト・ドクター・シャーリー(マハーシャラ・アリ)と足立区あたりでのし歩いてそうなイタリア系暴力解決マン・トニー・リップ(ヴィゴ・モーテンセン)の絵に描いたような凸凹コンビがまず楽しいが、差別者である白人と被差別者である黒人という単純な関係でないところがとても上手い。イタリア移民であるトニーもまた、白人でありながら差別される立場にあるのだ。物語後半でドクターが吐露する「自分は何者でもない」という告白は、差別者であり被差別者でもあるトニーにも重なってくる。

 それにしても凄まじいのは、「グリーンブック」なるものが存在するほどの1960年台のアメリカ南部の差別の酷さ。南北戦争の遺恨がほんの50年ほど前まで残っていたのも驚きだが、一人でバーに入ればボコボコにされ、ゲストであるはずなのに庭の隅にある黒人専用トイレ(年季の入った掘っ立て小屋)を使うことを強要されたり、挙句の果てに演奏前に会場であるレストランで食事しようとすれば入場拒否される…。さすがにこれはキレて帰るわな。

 そういったシリアスな部分の救いとなるのが、道中のトニーとドクターの楽しいやりとり。みんな言ってるけど、やはりケンタッキー・フライドチキンを食べ散らかすシーンが最高。カップを律儀にバックで取りに行くところも。ドクターの「お手紙教室」も見どころだし、最後の最後にその伏線(?)が活きてくるのもニヤリとするポイント。楽しさと問題意識が程よい配分で描かれた傑作。

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 35年生きてきて初めての劇場鑑賞!!調布シネフェス2019にて!

 「なんどめだナウシカ」と言われるくらいですから、もう何回もテレビ画面では観てるですが、大画面で観るのはやっぱり新鮮でした。オープニングがもう本当に好きなんですが、ここでもう泣きそうなくらいの感慨が…。素晴らしすぎる…。当時の上映を再現ということでモノラル音声だったらしいんですが、それにしても久石譲さんの音楽はいいなあ。物語も、ダレるところがまったくなくて、あっという間。今見ても全くつまらなくないってのがすごい。

 とは言うものの、やっぱり観終わって思うのは「原作版でリメイクしてくれ!!」ってことですね。特に「少女の愛が奇跡を呼んだ」というキャッチが体現しているあっさりとしたエピローグは今見ると気になるところがあるよなあ。いわゆる「スーパーハカーエンド」というか、予定調和すぎるというか…。原作の持つ世界の深みのようなものがなくなってしまっているんですよね。その分、わかりやすくて大衆的であるとは思うのですが…。これはこれで素晴らしくはあるんですけれども、原作を読んでしまうと物足りなく感じしまうというのもまた事実。

 余談ですが、隣で見ていた幼稚園児くらいのお嬢様たちが巨神兵が溶けていくシーンでギャン泣きしていて、こんなトラウマを植え付けてくれるとはある意味で羨ましい一家でした笑 いやー、いい経験をした!!無理だとは思うけど、年一回くらいやってくれないかなー。トトロとかも大画面で観たいし。

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⑤ GEIDAI ANIMATION 10 SKIN 第十期生修了作品 A プログラム

 毎年のお楽しみ、「GEIDAI ANIMATION」に今年もやってきました!今年の会場は渋谷のユーロスペース。正直、ユーロの椅子で3時間はキッツいなーと思っていたのですが、短編集ということもありあっという間。今年のレベルも高かった!

 さて、最初のスロットで群を抜いて良かったのが一発目の星夢乃『あたまのからだ』!前作の『明日から』も良かったけど、今回はさらにパワーアップしている感じ。生物・無生物・概念を自由自在に行き来する動きの楽しさと、音楽とのコラボレーション。やっぱりアニメーションって「動き」だよなー、と思い出させてくれる作品。ずっと観ていたい。大谷たらふさん系だよね。これは売れる!

  • ★星夢乃『あたまのからだ』
  • 野田ゆり子『Where is my home?』
  • 山崎スヨ『降霊ダイヤルの恐怖』
  • 前畑侑紀『湿らない 腐らない おいしく まろやか』
  • 端地美鈴『夜の道路工事』
  • 佐藤桂『A Pawn』
  • 開發道子『レーテー』

⑥ GEIDAI ANIMATION 10 SKIN 第十期生修了作品 B プログラム

 まず、ささきえりさんの『うめぼしパトロール』、動き・フォルムの自由さという点でアニメーション本来の持ち味が活かされている。そしてそこに縦横無尽な視点の変化が加わる。フォルムの自由さがもたらす視点の自由さ。

 去年の『毎日は踊りたいことだらけ』が素晴らしかった平松さんの新作『ひ なんてなくなってしまえ』。ゲシュタルト崩壊を起こした「ひ」が練り歩く!軽快なダンスはここでも健在!とても楽しい作品。抜けた顔の紀貫之が好きすぎる。「みんなのうた」とかで流れてていても違和感ないなー。

 齊藤光平の『舞空』、実写なんだけど確かにアニメーション。アート寄りなんだけど、観ていて楽しい。壁面についた水が次々と形を変えていく。恐ろしく手間が掛かっているという点もアニメーションらしい。

 しばたたかひろ『何度でも忘れよう』。この人は毎回問題作を作るなあ。問題意識をオブラートに包んだようでむき出しにしているのが良い。取れた腕を自ら縫い付ける主人公のクマが痛々しい。吐瀉物のようなスープも。必見。

 キヤマミズキ『くじらの湯』。荒々しいストロークで描かれた女性たちの肉感が見事。ルノワールっぽさ。

  • ★ささきえり『うめぼしパトロール』
  • ★平松悠『ひ なんてなくなってしまえ』
  • 鵜飼ゆめ『あの夏に二人でいた』
  • ★しばたたかひろ『何度でも忘れよう』
  • ★齊藤光平『舞空』
  • 村松怜那『雪解けをきいて』
  • ★キヤマミズキ『くじらの湯』

⑦ GEIDAI ANIMATION 10 SKIN 第十期生修了作品 一年次制作

 一年次とか修了とかあんま関係ないよな、というクオリティの高さ。

 『眠れぬ夜の流れ星』で素晴らしいストーリーテリングを見せてくれた若林萌さんの『空とぶハエも星のよう』。個人的には前作の方がクオリティ高いかなー、とも思ったけど、今作も奇妙なキャラクターが丁寧な芝居を見せる。カラーを徹底して抑えているのも効いてるよね。

 リズ・レモン『テーブルの向こう側』、視点の転換をうまく使った作品。親近感が湧くアイデアが面白い。

 西野朝来『外に出ない日』。こういう柔らかいフォルムでシニカルでソリッドな内容のやつ好きだなー。ルンバとネコがかわいい。

 石舘波子さんの『Pupa』。やたら(商業アニメ寄りに)上手いなー、と思ったらスタジオコロリドの人じゃん。マクドのwebCMとかやってる人じゃん。柔らかい色使いが印象的。最後のコロンって動きも好き。ワンルーム女子ものとして連想したのは『西荻窪駅徒歩20分2LDK敷礼2ヶ月ペット不可』。

 岡田詩歌『ワンダフル千鳥足inワンダーランド』。落語家さんの噺の巧みさと無軌道なアニメーションが悪魔合体!!流れるように酒を飲み、あっという間に終わってるテンポの良さ(?)!いやー、これマジで好きです。

  • 阿部天音『水母』
  • 川上喜朗『雲梯』
  • ★若林萌『空とぶハエも星のよう』
  • ★リズ・レモン『テーブルの向こう側』
  • ★西野朝来『外に出ない日』
  • 劉軼男『においがする』
  • 副島しのぶ『鬼とやなり』
  • ★石舘波子『Pupa』
  • 宮本瑛未『Psyche』
  • 李念澤『レモンと話したら』
  • 斉藤七美『Behind Us』
  • ★岡田詩歌『ワンダフル千鳥足inワンダーランド』
  • 田育霖『ポケット自然VR』
  • 楊建華『ウミウシ』
  • 全振圭『死の商人』

⑧ TAAF2019 短編アニメーションコンペティション スロット①

 はい、こちらも毎度恒例、TAAFの短編コンペ!これだけあると絶対好みのやつがあるから最高!!

 去年も『竜の橇』を出品していたイェブゲニヤ・ジルコヴァ(Evgeniya Jirkova)監督(去年はエフゲニヤ・ジルコワ表記)の『グッドハート』、石器時代の一家の元に動物たちがどんどん集まってくる話。お母さんの三白眼とパワフルさが楽しい。あと猫が可愛い。

 ガリーナ・ゴルベワ『私達の宇宙飛行士は』、中世風のコラージュで描かれる宇宙飛行士の物語。絵柄の面白さ、そしてロシアの科学的偉業と牧歌的な宇宙旅行の情景のアンバランスさが楽しい。

 ジエ・ウォン『黄昏のクインテット』は今回「豊島区長賞」を取った作品。一人の少女が老女になっていく間の猫たちの話。ストップモーションなので、猫たちのもふもふ感が良い。ボディービルダー猫が意味わからなくて好き。オチがハッピーできれいなのもいいですね。

 ハン・ヤン&バジル・マレク『木』、いかにもゴブランらしい作品。砂漠で一人枯れかけの木を守る老人。朝から晩まで必死に井戸水を汲み出している姿が印象深い。リアリティ寄りの結末は人を選ぶかもしれないけど、全編に渡って丁寧な芝居がとても良い。

 合田経郎『モリモリ島のモーグとペロル』、何度も観ているおなじみの作品だけど、国際アニメーション映画祭にノミネートされているのはやはり感慨深い。調理シーンがもうめちゃくちゃ美味しそうだしさ。あれがコマ撮りってのがさらにすごい。

  • ルイス・モートン『フロリアーナ』
  • ファン・ユンシアン『一人ぽっち』
  • ★エフゲニヤ・ジルコワ『グッドハート』
  • ★ガリーナ・ゴルベワ『私達の宇宙飛行士は』
  • エリーズ・シムリン/エドゥアール・ヒュッテ/クロティルド・ボノット/アンナ・コマロミ/マリサ・ディ・ヴォラ・ペイショート/ヘレナ・バスティオーニ『もやもや』
  • ゾゾ・ジェン、テナ・ガロヴィク/マリーヌ・ヴァルガイ/イェンチェン・リウ/エリス・カーイン・チャン『阿公』
  • ★ジエ・ウォン『黄昏のクインテット』
  • マキシム・クリコフ『静けさの中に』
  • イグナシ・ロペス・ファブレガス『難関を越えて』
  • ★ハン・ヤン&バジル・マレク『木』
  • ★合田経郎『モリモリ島のモーグとペロル』

⑨ TAAF2019 短編アニメーションコンペティション スロット②

 ワン・クオ『でんでん太鼓』。変わりゆく中国の都市を活写した時代性の高い一本。近代的なビル街を軽やかに飛ぶ鳥たちと、地面に落ちる飴細工の龍(古きものの象徴と見る)が対照的に描かれているのが面白い。

 今回一番観客にウケていたのが2本目の『ワイルドな愛』。冒頭のマーモットが無残に死ぬシーンでドッと沸いていたのはちょっと引いたけど、確かにそこも含めてお下品なバイオレンス全開で最高に笑えた。キャンプ用具で殺しにかかってくる森のなかのチェイスシーンも良かったし、死体を使って人をおびき寄せるというマーモットたちの悪知恵が楽しい作品。

 シャディ・アディブ『ヒューズ』。風刺画的な作画がグワングワンとよく動く。オチが楽しい。

 ニコラス・デヴォーの『時速1メートル』は実写化と見間違うようなリアルな造形のカタツムリたちが飛行機の翼上でダンスを踊る。背景は実写っぽいんだけど、絶対CGだよな…。アニメーション映画祭だし…。というレベルのリアルさ。唐突に鳥に食べられてしまうのも申し訳ないけど笑ってしまった。

 アッボース・ジャラリ・ヤキタ『海の向こうの我が子』は実写をベースにして、壁にアニメーションを描き出すというハイブリッドな作品。3Dと2Dの間の断絶を、喪われたもののそれと重ね合わせているのが上手い。

 クエンティン・ベイリュー『ル・マン 1955』。84名の犠牲者を出した1955年のル・マン耐久レースを当事者の一人であるメルセデス・ベンツチーム側から見た作品。特徴的なのはそのビジュアルで、キュビスム的とも言える面の重なりで構成された鋭角的なフォルムで、さらにそれが3DCGでできているという!道理で、難しい動きをするなあ。炎や光の表現も統一されていて、不謹慎ながらも美しく感じてしまう。物語的にはメルセデス・ベンツの撤退という決断の場面をドラマティックに描き出す演出が印象に残る。非常にレベルの高い作品だと思う。

 見里さんの『マイリトルゴート』は何回も観てるけど、今回面白かったのは審査員トークで、他のアニメーション専攻の人たちが全くコンペに出さないので見里さんが世界の短編コンペを席巻しているという話。確かに作品自体の質も高いと思うんだけど、そういう積極的な姿勢が賞の獲得につながってるのだなあ。

  • ★ワン・クオ『でんでん太鼓』
  • ★ポール・オートリク/クエンティン・カミュ/マリカ・ローデ/レア・ゲオルゲス/ゾエ・ソテュー/コランタン・イヴェルニョ『ワイルドな愛』
  • ★ニコラス・デヴォー『時速1メートル』
  • ★シャディ・アディブ『ヒューズ』
  • ★アッボース・ ジャラリ・ ヤキタ『海の向こうの我が子』
  • ファヌーシュ・アベディ『召使い』
  • ロスト『リランズ-再上映-』
  • ★クエンティン・ベイリュー『ル・マン 1955』
  • ドゥシャン・カステリク『箱の中』
  • ★見里朝希『マイリトルゴート』

⑩ TAAF2019 短編アニメーションコンペティション スロット③

 短編コンペ優秀賞を取ったジョジー・マリス『聖者の機械 6 – 前へ進め』。『2001年宇宙の旅』を彷彿とさせる世界観。前に進むにつれて壊れていく探査機に悲哀を感じる。ビジュアルから連想したのはスマホアプリの『ひとりぼっち惑星』。

 台湾のフィッシュ・ワン(面白いペンネームだ)の『金魚』。西島大介ライクなキャラクターデザインが楽しいが、それ以上に高齢化へと突き進む現代社会がシニカルに描き出されている。街中にランドマークのように聳える巨大な老人の顔からは様々なものが連想できるだろう。若者らしい視点と、パワフルなアニメーションも魅力的。

 ドナート・サンソネ『沁み』は凄まじい表現。太い筆のストロークが繊細な臓器や肌の質感にモーフィングしていく。生命から宇宙というスケールの大きさも面白い。

 ゴブラン卒業生たちの『賭ける』は、近未来ボクシングに挑む兄弟の話。初見では話も中途半端だし、微妙な作品だなあ、という印象だったのだけど、後々じわじわ思い出し来るところを見るとやはり良い作品だったのではないかと思えてくる。演出が良かったのか?確かに物語的には物足りなさがあるものの、大きな物語の断片をつまみだしたようなものと思えば違和感もない気がする。眼下の老人の動きを茶化す最後のシーンが良かった。

 グランプリ作品のニンケ・ドゥーツ『花咲く道、11歳』は、思春期の女子二人の感情の揺れ動きを繊細に描いた作品。これも表現が素晴らしい。ほぼ透明の登場人物たち。3DCGなのか、ミニチュアなのか、立体感のある家をカメラは覗き込むように動き回る。自然光の差し込む室内の設えも美しい。思わず親友から隠れてしまう場面がとても良かった。グランプリも納得。

 今津さんの『モフモフィクション』は去年のGEIDAI ANIMATIONでも印象深かった大好きな作品。外国の人たちにもウケてて自分のことのように嬉しい。これ、売れて欲しいなあ。

  • ★ジョジー・マリス『聖者の機械 6 – 前へ進め』
  • ★フィッシュ・ワン『金魚』
  • ゲルト・ゴッケル『ノット・マイ・タイプ』
  • ルクレース・アンドレア『セイウチおじさん』
  • ★ドナート・サンソネ『沁み』
  • ジョウ・ハオラン『ハリー』
  • アラン・ビエット『偉大なる鉛筆たち』
  • ★レセゴ・フォルスター/ピエール・イブ・ヴォゼル/ディエゴ・トレス/ヴェンカトラム・ヴィスワナタン/キリル・ブルーメンクランツ『賭ける』
  • ★ニンケ・ドゥーツ『花咲く道 11歳』
  • ★今津良樹『モフモフィクション』
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 TAAFの長編コンペ、毎年1本はいわゆる「東映長編」的な作品があるんだけど、今年はこれ。

 アンデス山中の村が舞台。主人公のテップルパイは村のシャーマンを目指す少年で、インカ帝国に奪われた村の守り神を取り戻すため帝国首都・クスコを目指す。ビジュアルはポップで色調は明るく、『どうぶつ宝島』といった東映長編アニメーションを連想させる少年少女の冒険譚!…なのだが、終盤に入るとリアリティの方にググっと寄ってくるのが驚き。インカ帝国が出てきたあたりでなんか嫌な予感はしてたのだけど、まさか「火を吐く鉄の悪魔」が歴史上に残るあの大虐殺につながっているとは…。このあたりはリアルな人民を描いた『太陽の王子ホルスの大冒険』を思わせる。

 キャラクターの造形も魅力的だが、伝統的な自然描写を取り入れた背景の表現も面白い。月や太陽は幾何学形の目鼻がついたキャラクターとして描かれているし、ホタルの放つ光も装飾的で、アニメーションならではの味わいがある。動物たちがとてつもなくかわいいのも見どころで、特にリャマがありえないしんどみがあった。助かってよかった…。

 勧善懲悪的な結末は予想通りだし、「まんが映画」的な大団円ではあるのだけど、史実が片鱗を見せたことで、彼らのその後に思いを馳せてしまうのが少しつらい。

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 いやー、驚きましたね!まさか東京アニメアワードフェスティバルコンペティション部門のチケットが売り切れるとは…!なんでも主演の方が有名な韓流スターだったそうで…。全く存じ上げなかったので、1回目の上映で満席になったと聞き、かなり早めに並びましたが、通し券だったこともあり、なんとか観れました。それにしてもいつもの客層からガラッと変わっていて、これは新鮮でしたね。トークの方も、客席の反応がいつもより大きく、楽しかった!

 捨て犬たちが安住の地を探し彷徨うというストーリーだが、野良犬が問題化している韓国現代社会を下敷きにしているとあって、テイストはかなりリアル寄り。法律なんぞなんのそのという敵方の捨て犬ハンターのしつこさもそうだし、危険な高速道路を渡らなければならない場面の妙な現実感。そして悪い人間ばかりではなく良い人間がいるというあたりも。リーダーがあそこで旅を離れ、人間のもとで暮らすようになるくだりは、人間、そして世界の複雑さを上手く表現していると感じた。

 犬たちが人間たちに対抗するアクションシーンも見ものだが、特にアイデアがユニークだったのが、クライマックスの場面。韓国という土地と歴史に悲しくも存在する道具を見事に使って跳躍し、「安住の地」にたどり着くムンチたち。最初見た時は、○○○かな、と思っていて、審査員トークでもそういったことが話されていたのだけど、観客の方が「あれは軍事境界線だ」という知見を与えてくれて、そういった点も含めてとても良かった。個性的な犬たち(軍用犬のおじさんがすき!)と笑いあり涙ありのストーリー、そして現代の韓国社会にも視点を広げることができる良質な作品。ぜひ日本でも上映して欲しい。シネマート新宿とかで。

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 シュヴァンクマイエルの名作『アリス』の男の子版!!最近のアニメは3DCGがメインだからストップモーションは新鮮でいいねえ。そういえば、今回はついに2Dセルアニメ長編が一作品もなかったんですよね…。ストップモーションと言えば一昨年話題になったスタジオライカの『KUBO 二本の弦の秘密』が思い出されるけど、本作も負けず劣らず素晴らしい作品。製作期間11年は伊達じゃない。

 主人公のモートンが小さくなって大冒険!…って話なんだけど、スケールが一部屋のなかで完結しているのが面白い。時間軸もせいぜい一昼夜だし。水没した部屋の中で大航海なんだけど、素敵なのが船のデザインなんですよ。小さくなる前のモートンが革靴をベースにして作った船なんだけど、まあこれがよくできていて。船のクルーたちは昆虫なんだけど、なぜか現実世界のキャラクターがモデルになっているのも面白い。お気に入りは(船に乗らない)船員兄弟。タイトルにある蜘蛛の女王もカッコいいし(悪役だが)、ヒロインの芋虫もすごくかわいい。『アリス』と同じように、残酷なシーンがさらりと挿入されているのもいいアクセント。ミキサーみたいな機械にセットされると美味しいドーナッツになっちゃうの。コミカルかつ残酷。水の表現も難しいのにがんばってるなあ…。これもまた観たい。

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 まず驚かされるのが表現の力強さと多様さ。ベースはセルルックの3DCGだが、この時点でもう十分すごい。アメコミをそのままアニメーションにしたかのような表現で、影にはアミカケのドットが荒く残り、キャラクターが走れば空中に擬音が刻印される。日本ではそれなりに浸透したような気がする(『楽園追放』とか…古いか)セルルックCGだけど、ピクサー全盛のアメリカCG業界ではまだ目新しいのではないだろうか。さらに、そこに異次元(スパイダーバース)からやってきたスパイダーマンたちの多種多様な表現が併存するという凄さ。例えば明らかに日本のアニメに影響を受けているペニー・パーカーはANIME調の表現だし、ナチスぶっ殺しマンのスパイダーマン・ノワール(ニコラス・ケイジの熱演も見もの!)はモノクロームの表現。豚のスパイダー・ハムは伝統的なカートゥーン調。彼らが一同に会する場面はさりげなく描かれているが、恐ろしく手間がかかっていることは想像に難くない。

 物語は、期せずしてスパイダーマンを継ぐことになってしまった黒人少年マイルスが「ヒーロー」になるまでを描いたシンプルなものだが、複数の世界線が入り組み、異なるスパイダーマンが登場することで、「ヒーロー」とはなにかという命題がより先鋭に浮かび上がる。複数の「ヒーロー」がいたとしても、自分の世界の問題は自分が解決するしかない。本作で描かれる「自分でなければならない」という感覚は、これまで何度も語られてきた「大いなる力には責任が伴う」という命題をまた別の角度から語っている。演出面でも、スパイダーマンの醍醐味とも言えるビル街を縦横無尽に飛び交うという表現が、そのまま「ヒーローになる」という契機につながっている。ヒーロー(人間)になるためには虚空の中に飛び込まなくてはならないのだ。

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 うわー、これもいいヒーロー映画だ!女性ヒーロー映画というだけである意味貴重だけど、女性であるということと「ヒーロー性」が素晴らしく融合してるのが良い。何度も挿入される、「女性であるがゆえに」地に伏せさせられる場面が、最後の最後にヒーロー映画でおなじみの場面につながってくるとは…!自分の名前を取り戻す場面も、「自分であること」を肯定し、人生を取り戻すとてもいい場面。過去を取り戻す、映画でもあるのだなあ。

 敵方だと思っていた顔つきの悪い人たちが実は…、という展開も個人的にすごく好き。そりゃあ、ああいう対応されたら敵だと思うよね。顔も怖いし。「悪人が悪人っぽい顔をしていない」というのもモダンでいいですね。外見と意外性という意味では猫ちゃん(グース)はマジでびっくりした。フューリーが「猫ちゅわーんくぁいいでちゅね〜」ってやってるのにも引いたけど笑 っていうかアイツの片目、そんな理由で無くなったんかい!ってとこも意外すぎる。

 あと最後の方の「来いよヴァース!パワーなんて捨ててかかってこい!」「はいドーン!」のとこクソ笑ったw そりゃそうなるよな。

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 原作ファンとして待ちわびていた「移動都市」がやっと来た〜〜!!!原作ファンとしての目線ですが、率直に言って大満足!このシリーズの醍醐味は何をおいてもまず都市が動くというスペクタクルなわけですが、冒頭のロンドンが採掘都市を捕食する場面でもう100点満点!「都市が動きまわる」世界を描くことができるのはハリウッドかアニメーションしかないと思ってたけど、さすが『指輪物語』のピーター・ジャクソンチーム。小採掘都市がガットに取り込まれて解体されていくシーンなんて巨大な丸鋸やチェーンソーがガッチャンガッチャン動くし、へスターとトムが投げ出されたあとのロンドンのキャタピラの大きさときたら!

 ストーリーも概ね原作準拠。結末はかなりハッピーエンドよりになっちゃってるのが残念といえば残念だけど、単体の映画としてみると爽やかな終わり方だよね。できれば第4部までやってほしいところだけど、あの結末だとロンドンがバトムンフ・ゴンパに近すぎるし、ほとんど生き残ったロンドンの住人たちも反移動都市同盟に取り込まれちゃってるからなー。アナ・ファンも続編以降でかなり重要な役割を果たすわけですが、あそこで終わりだとなかなか原作通りの展開は厳しそう。続編やってほしいけどなー。第二部のアンカレジ編とかは美少女辺境伯とか出てきてラノベっぽい展開なので日本でアニメにして欲しい。第一部だとロンドンより大きな都市が出てこないからアルハンゲリスクとかムルナウとかも出てきてほしいんすよね。

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