2014-10-11

 毎年この時期の恒例になりつつある「東映動画特集」です。最近のアニメのような派手さはありませんが、過去の名作をスクリーンの大画面で見られるのはやはり嬉しいですね。今回の目玉は東映長編映画の中でもあまり触れられてこなかった(と思われる)1965年の傑作スペースオペラ『ガリバーの宇宙旅行』

 そして、ゲストは「データ原口」こと原口正宏さん!恥ずかしながら、今年から始まった「データ原口のアニメ講義」(阿佐ヶ谷ロフトにて不定期開催。vol.1は2014年5月25日。)で初めてお名前を知ったのですが、いやあ、噂に違わないすごい人でした。2014年11月9日(日)に行われたVol.3の様子はまとめてあるので、よろしければ御覧ください。→「【アニメスタイル】クレジットの偉大さを知るための180分:「第92回アニメスタイルイベント 原口正宏アニメ講義vol.3 商業アニメを作り上げてきた4大河とその支流たち2」に行ってきました」

データ原口のアニメ講義@新文芸坐

 今回は「『ガリバーの宇宙旅行』の再評価をする」ということで、前後編のトークショーでした。上映前の軽めの第1部に続き、『ガリバーの宇宙旅行』を上映、そしてそれを踏まえてトーク第2部。こういう構成はゲストの方には負担が大きいと思うのですが、作品の理解が深まるのでとてもいいですね。そして、期待を裏切らないデータ原口さんらしい濃い語り口が素晴らしかった…。

 毎度のことですが、アニメスタイルのイベントは録音・録画禁止なので、その場でメモをとっています。もちろん、話すスピードでは書ききれないので、実際にはここに書いた分の2倍から3倍程度のボリュームがありますし、脇道にそれた話が面白いこともままあります。気になる方はぜひぜひイベントまで足を運んでみてくださいね。

トークの内容につきましては、その場で速記してまとめています。事実誤認、不適当な記述などございましたらご連絡ください。対応させていただきます。

出席者

原口正宏さん(フリーライター、アニメーション研究家、通称「データ原口」。以下「」)

小黒祐一郎さん(アニメスタイル編集長、通称「アニメ様」、司会。以下「」))

トーク第一部

東映長編とはなにか

小 ではまず、東映長編とはなんなのか、ということについて…。

原 東映動画ができてから1年に1本ずつ作ってきたのが東映長編です。

小 定義としてはどのへんまでなんですかね?大塚康生さん 1 に聞いたら「わんぱく王子」 2 まででしょうって…。

原 『金の鳥』 3 以降はそういうプログラムが作られなくなっちゃったということはありますね。東映も人員が増えて、年2本体制になったんですが、『ガリバーの宇宙旅行』はこの年に『鉄腕アトム』 4 が始まったので、急遽、『狼少年ケン』 5 班に生まれ変わったんですね。一方で、『わんわん忠臣蔵』 6 は継続して制作されてます。
 このころは監督よりもアニメーターの力が強い時代で、長編の作画とか演出とか大きな部分を担っていたんですね。技術開発の現場でもあったと。演出が制御しきれない部分での作画の魅力もあります。

小 最近のアニメにはない魅力もありますね。

原 歌のシーンが差し込まれるのが自然な流れで。基本的には旅物、いわゆるロードムービーであって、様々な要素をてんこ盛りにしてもそれほど違和感がないんです。

『ガリバーの宇宙旅行』の魅力

小 『ガリバーの宇宙旅行』もミュージカルシーンが印象的ですね。

原 ミュージカルシーンを意識して作られていて、その部分だけが独立しているほど完成度が高いんです。東映動画の作ったスペースオペラでもあって、ちゃんとロケットを切り離して発射してたり、炎の描写がリミテッドアニメのようだったりします。冒頭と最後に大きな仕掛けがあって、当時の子どもたちは当惑したんじゃないかな。ガリバーはいつ出てくるんだ、って(笑)
 劇中の「地球の歌」が見どころで、児玉喬夫さん 7 が担当してます。黒田昌郎監督 8 がまるまる任せたパートです。地球の四季について語る歌なんだけど、実はとんでもない歌で、当時の社会に向けたメッセージが込められているんですね。児玉喬夫さんが美術も作画もほとんど1人でやってます。後半の「ロボットの歌」は永沢さん 9 が担当で、東映動画じゃないんじゃないかという尖った表現。東映の代表的なアニメーターである森康二さん 10 は「夢の星」のシークエンスを手がけていて、星の王子様を彷彿とさせるキューピッドのシーン。そのシーン自体も色々と意味があるシーンなんだけど、とにかくキューピッドがかわいい!「いいとこ!」っていいながら足をスリスリする仕草が萌えます!足の動きに注目してください!

小 誰が作画してるかわからないけど、破片とビームが凄いですよね。

原 牽引ビームが非常にリアルですね。東宝特撮を彷彿とさせるキメ細かさ。クライマックスの月岡貞夫 11 パートの敵が倒れる作画も非常に特徴的な崩れ方です。
 『ガリバーの宇宙旅行』の世界に絶望しているような主人公像は当時よりも今の世界のほうが受け入れられるのではないでしょうか。だからこそ、今、上映する意味があるのだと思います。

トーク第二部

『ガリバーの宇宙旅行』における宮﨑駿  *ネタバレがあるので閉じてます

クリックで開きます

小 原口さんの解説を聞いてから観たのですごく楽しめました。あれは盛り上げないのが意図なんですかね。ラストのロボットの対決とかも勇壮的な音楽流さないですよね。

原 ロボットを水で倒すという意外性、水風船というトホホなものも用意していて、武器と武器との戦いからもっとも遠いものを使っているから、半分はそういう意図もあっただろうし、『ガリバーの宇宙旅行』という制作の背景的に、最後がちょっとああいうふうになったのは仕方がない面もあっただろうと思います。
 ただ、監督に話を伺った時は、青い星=地球という隠喩で、テッドたちが訪れた緑の星はこれから歩むだろう未来の地球なんですね。「地球の歌」に見られるように、テッドの絶望的な状況がまずあるんです。
 ラストシーンはロボットの対決シーンから、なにごともなかったかのように最初の倒れているシーン、そして少し希望を持ったテッドが朝日の中に駆け出していく、というように自然につなげていきたかったとのこと。

小 ところが、宮﨑駿さんが…。

原 大塚康生さんの証言によると、当時一介の動画マンだった宮崎さんがロボットの中から普通の女の子が出てくるというように変えてしまった…というのが伝説的になっているんですけど、今回、黒田監督に聞いたところによると、宮崎さんからそんな提案されたことはないという衝撃の事実が…(笑)
 この変更に関しては、ガリバーの最後はとんでもない状況で、当時の東映にあった労働問題とかのごちゃごちゃのなかでそうなってしまったところがあって…。ちなみに、黒田さんはこのとき宮﨑さんが直訴してきたら認めなかったと言っている(笑) 黒田さんはこのとき新人監督中の新人監督。このことについては、今後、永沢さんの証言を得たいですね。

小 お姫様の最初の登場シーンとか、首細すぎるから絶対に人入ってないよね(笑)

原 普通に考えれば宇宙人のデザインなんだけど、ある新人アニメーターは認めなかった、と(笑)

東映動画における社会派的なもの

小 ガリバーの宇宙旅行はむきだしですよね。

原 それを黒田監督に聞いたら、やっぱり僕は戦中派だから、という答えでした。戦後のあれやこれや、フランス文学への造詣の深さ、そして演劇的な感覚、つまりアニメーターも役者だ、という要素によって『ガリバーの宇宙旅行』が出来上がっているんです。他の監督候補生たちと違って、社会的・地球的な問題をむきだしのまま入れた、と。アニメーターの裁量が大きかったのもあって、そういう方向に引っ張られていったわけですね。

小 黒田さんの『ガリバーの宇宙旅行』、高畑さんの『太陽の王子ホルスの大冒険』、池田さん 12 の『空飛ぶゆうれい船』 13 で三大社会派アニメですね。

原 池田さん的には『どうぶつ宝島』も大国のエゴに翻弄される海賊たちを描く社会派的作品にしたかったそうだけれど、大塚康生さんに提案したらとても嫌な顔をされたのでああいう作品になったとか。

小 社会派のかけらもないですよね(笑) 海に落ちても死なないし。

原 『太陽の王子ホルスの大冒険』はガリバーとは逆で、組合が結成されてクオリティが上がった結果、金を使いすぎて会社から止められ…。本来のターゲット層にいまいち届かなくて、10年経ってから再評価されたんです。高畑さん曰く、「愚直なまでに衣食住を描くことに挑戦した。ヒロインのエルダも揺れ動く内面を持ったもう一人の主人公として描くことに注力した。」 その後の宮崎・高畑作品につながるターニングポイント的作品です。その後は抑制されていくけど、今見てもとんでもないカメラワークがあったりしますね。序盤のグルンワルド登場のカットはセルでなわを作って立体にして作ったとか…。途中からフォーカスがはっきりしていくんですよ、立体だから。がんこじいさんのシーンも撮影監督の吉村さん 14 が火の照り返しや強弱を勝手に付けて…。労働組合的な結束がそういうところに表れているわけですね。



東映動画の傑作長編映画4本立て!

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写真など


まとめ

 というわけで、今年の東映長編オールナイトはいつもより一段と濃いものになりました。『どうぶつ宝島』のような名作を定期的に見られるのも嬉しいし、全く名前も聞いたことのなかった『ガリバーの宇宙旅行』の完成度の高さも素晴らしかったです。データ原口さんの解説もマニアックでありながら、話の面白さもあってか、とてもわかりやすい!原口さんゲストの回、またやっていただきたいですね!

 次回のアニメスタイルオールナイトは2014年11月10日の「新文芸坐×アニメスタイルセレクションVol.61 BONES SPECIAL ダンディでカウボーイなナイトじゃんよ!」の予定です!

まとめました! → 「【新文芸坐】最高にダンディな夜だったじゃんよ:「新文芸坐×アニメスタイルセレクションVol. 61 BONES SPECIAL ダンディでカウボーイなナイトじゃんよ!」まとめ」


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NOTES

  1. 大塚康生(おおつか やすお)[1931年7月11日-]。東映動画最初期のアニメーター。東映動画→Aプロ(シンエイ動画)→テレコム・アニメーションフィルム。東映長編映画には第一作の『白蛇伝』(1958年)から原画で参加。「ルパン三世」シリーズ、特に宮﨑駿監督の『ルパン三世 カリオストロの城』(1979年、作画監督)の評価が高い。
  2. 『わんぱく王子の大蛇退治』(1963年)。86分、カラーワイド。芹川有吾監督、作画監督 森康二、脚本 池田一朗・飯島敬、音楽 伊福部昭。日本神話子ども向けにアレンジしたまんが映画で、日本のアニメーション史に残る作品として評価も高い。
  3. 『グリム童話 金の鳥』(1987年)。52分。平田敏夫監督、脚本 田代淳二。
  4. 1963年1月1日から1963年12月31日。言わずと知れた国産の30分TVアニメシリーズ第一弾。
  5. 1963年から1965年。東映動画の最初のTVアニメシリーズ。演出に月岡貞夫、芹川有吾、高畑勲らが名を連ねる。
  6. 1963年。81分。白川大作監督、脚本 飯島敬・白川大作、音楽 渡辺浦人。原案は手塚治虫。『仮名手本忠臣蔵』を現代風にアレンジした作品。
  7. 児玉喬夫(こだまたかお)[1936年-]。1959年に東映動画に入社。『狼少年ケン』(1963年)、『まんがこども文庫』(1978年)、『シニカル・ヒステリー・アワー』(1988年)など。
  8. 黒田昌郎(くろだよしお)[1936年-]。東映動画→日本アニメーション。『狼少年ケン』(1963年)、『ゲゲゲの鬼太郎』(第1期、1968年)、日本アニメーションに移ってからは、『フランダースの犬』(1975年)など世界名作劇場の作品を手がける。
  9. 永沢まこと(ながさわまこと)[1936年1月9日-]。1957年、東映動画入社。『白蛇伝』(1958年)から『ガリバーの宇宙旅行』(1965年)までの東映長編映画で動画・原画として参加。他に『ファイトだ!!ピュー太』(1968年)の構成・演出など。
  10. 森康二(もりやすじ)[1925年1月28日-1992年9月5日]。日本動画→日動映画→東映動画→ズイヨー映像→日本アニメーション。東映動画の発足当初から活躍している「アニメーションの神様」。高畑勲、宮﨑駿、大塚康生など後の日本アニメーション史に残る人々を育てたことでも有名。初期は東映長編映画、日本アニメーション時代には世界名作劇場などを手がける。
  11. 月岡貞夫(つきおかさだお)[1939年5月15日-]。手塚治虫のアシスタントから東映動画へ。東映最初のTVアニメシリーズである『狼少年ケン』(1963年)の企画立案をしたことでも知られる。1964年に東映動画を退社し、虫プロへ。1970年以降はCM・短編を中心に活躍。現在は宝塚大学等で後進の育成に努めている。
  12. 池田宏(いけだひろし)[1934年8月10日 – ]。東映動画→任天堂。東映動画で演出(監督)、脚本を手がける。在籍期間は10年強とそれほど長くないが、『狼少年ケン』(1964年)、『どうぶつ宝島』(1971年)など重要な作品を手がける。任天堂退社後は、東京工芸大学や宝塚造形芸術大学などで教鞭をとっている。
  13. 1969年。60分、カラーワイド。池田宏監督、脚本 辻真先・池田宏、原作 石ノ森章太郎、音楽 小野崎孝輔。原画で若き日の宮﨑駿が参加していることでも有名な作品。ゴーレムと戦車のシーンですね。ボアジュースは伏線だから気をつけろ!アニメスタイルオールナイトではvol.20とvol.33で上映。
  14. 吉村次郎(よしむらじろう)。『太陽の王子ホルスの大冒険』の撮影監督。ほかに『わんわん忠臣蔵』(1963年)など。