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【映画レビュー】映画『コングレス未来学会議』:追憶と幻覚の果てに。【TAAF2015】

      2017/09/10


スタニスワフ・レムの奇妙な世界

 一言で言ってしまえば、これはとても変な映画だ。

 アニメーション映画という喧伝だけれども、ファーストショットは大写しになったロビン・ライト役のロビン・ライトのどこか泣き出しそうな雰囲気のある顔から始まる。実写である。『フォレスト・ガンプ/一期一会』で一世を風靡したかつての大女優は齢40歳半ばに達し、女優としてのキャリアに終わりを告げようとしていた。大手映画制作会社・ミラマウントから提示された最後のオファーは、「彼女の全てのデータを取得し、今後20年間にわたってCG女優となったロビン・ライトを会社が自由に利用できること」というもの。この映画の2014年は生身の俳優が続々とCG俳優に置き換わっている世界だ。ロビンは最初、この要求を拒絶するが、難病を抱える息子・アーロン(コディ・スミット=マクフィー)のため、自分の身体データと出演権を売却する…。

 と、ここまでが話のまくら。物語が本格的に転がり出すのは、それから20年後の世界だ。60歳半ばになったロビン・ライトがオープンカーを疾走させている。「アブラハマ市」で開催される未来会議で講演を行うため、そして20年前に締結した契約を更新するためだ。彼女(のCG女優)は今や永遠の大女優として君臨しており、かつてのロビンが出演を拒んでいたB級SF映画で大人気。余談だが、執拗に流れるこのクソみたいなSF映画の予告が、どうみてもアサイラムあたりが作っているようにしか見えなかったりする。

 都市に通じるゲートで警備員が言う。「アブラハマ市はアニメ専用地区になっています…」。頭にはてなマークの浮かぶ観客たちを置いてきぼりにして、物語は怒涛のアニメーションパートになだれこんでいく…。

現実と映画とアニメーションと

 ロビンの運転する車が「アブラハマ市」に近づくにつれ、アニメーションが(映画の中の)リアルを侵食し始める。ロビンがバックミラーに写るアニメ化された自分の姿を垣間見るシーンなど実にキュートで、緩やかにアニメの世界に入っていく。『戦場でワルツを』ではアメコミを思わせる平面的で陰影のはっきりとした魅力的な絵を動かしていたアリ・フォルマン監督だが、この作品ではフライシャー兄弟にインスパイアされた、レトロなキャラクターたち(もちろん、直前に出ていたライブアクションの俳優たちを模した彼ら)がアニメーションらしいなめらかな動きで世界を自在に動き回る。私が、手塚治虫的な感覚、特にりんたろう監督による『メトロポリス』を連想したのは、ジグラットを思わせる「ミラマウントホテル」のせいもあるかもしれない。

 ここで描かれるのは、「表現手法としてのアニメーション」ではなく、「現実に置き換わっていくアニメーション」だ。この奇妙な世界のからくりは物語後半になって明らかになるが、ここでは書くのを控えよう。そして、「未来学会議」とは何なのか、ということも。

 スクリーンのこちら側の世界と、ライブアクションとしての映画、そしてアニメーションという3つの現実が、おなじ座標にありながら、全く別のレイヤーとして存在しているという、かつてない奇妙な感覚がこの映画の最大の魅力と言ってもいい。これらは完全に独立していながら、互いにリンクしている。

 アリ・フォルマン監督は『戦場でワルツを』のラストでとんでもない映像を用意して、のんきに構えていた我々に文字通り「現実」を突きつけたが、この映画でも同じような構造が見られる。「世界のアニメ化」とそれをもたらす「あるもの」は、『戦場でワルツを』の中で語られる戦場カメラマンのエピソードにおけるカメラと同じものだ。もしかしたら、後半で鮮やかにフィルターが取り除かれるシーンで、『マトリックス』を見た時のような衝撃を受けるかもしれないが、この物語はディストピアを主題としているわけではない。支配と秩序というユートピア≒ディストピアの基本的要素はなくて、現実世界とアニメーションの世界はほとんど交流をもたない。どちらも確かに現実だが、片方は現実的な「夢」だと言ってもいい。今敏から影響を受けた、とアリ・フォルマン監督が言うように、この作品には、例えば『パプリカ』を連想させるものがそこかしこに見られる。この映画は夢(幻覚)を巡る映画なのだ。

アリ・フォルマンは追憶の夢を見る

 アリ・フォルマン監督の前作『戦場でワルツを』は主人公の映画監督(もちろん監督自身であることは言うまでもない)が失われた記憶を求めて彷徨う物語だった。この『コングレス未来会議』でもロビン・ライトは過去へと向かって、文字通り(タイム)トリップする。それは彼女の最愛の息子に再び会うためだ。

 「未来学会議」の20年後に目覚めるロビン。そこは全てがアニメーション化された世界となっていた。人々はあらゆるものになることができ、あらゆる(文字通りの)夢が実現のものとなった。ブッダやキリスト、往年の映画スターや神々に扮した人々が闊歩するかつてのニューヨークを、アーロンを求めて彷徨うロビン。再会した息子の主治医・アル(ハーヴェイ・カイテル)は、アーロンに会うためにはトリップしか無いと告げる…。

 目覚めることのない永遠の幻覚と夢の世界。『未来世紀ブラジル』のラストを思い起こさせるそれは、多分とても幸せなことなのだろう。しかし、果たしてそこで再会する人々は記憶が生み出す儚い幻影ではないのか。かつての大女優が選んだ道は、俗的な面で見れば芸能関係者やアーティストが陥るドラッグ問題にも言及しているようにも思えるのだけど、何にもまして家族愛的だし、そしてどうしようもなく悲壮的だ。

予告編

基本情報

コングレス未来学会議  The Congress120 min

監督:アリ・フォルマン

音楽:ミックス・リヒター

脚本:アリ・フォルマン

撮影:ミハウ・エングレルト

出演:ロビン・ライト/ハーベイ・カイテル/ポール・ジアマッティ/ダニー・ヒューストン/ジョン・ハム/コディ・スミット=マクフィー/サミ・ゲイル/マイケル・スタール=デビッド/フランシス・フィッシャー

上映開始日:2015年6月

公式サイトhttp://www.thecongress-movie.jp/

 監督自身の失われた記憶をめぐる奇妙な旅の物語。

 プレミアついてた原作も再販されました!

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