the_congress_poster

 東京アニメアワードフェスティバル2015、4日目は「『コングレス未来学会議』 アリ・フォルマン監督×山村浩二氏マスタークラス」に参加してきました。『コングレス未来学会議』(原題:”Congress”)はアリ・フォルマン監督による『戦場でワルツを』(2008年)以来5年ぶりの新作(欧米では2013年公開)。昨年のTAAF2014のコンペティション部門でグランプリを受賞したことでも話題になった作品です。日本では今年の6月にシネマカリテ(新宿)などで公開が決まりましたね。ようやくという感じですがとにかくめでたい!とても奇妙ですが、同時にとても素晴らしい映画なので、大勢の人に見てもらいたい作品です。

 トークの方はインタビュアーが山村浩二さんという豪華さで、確信を突く質問をバシバシしてくれたのでとても聴き応えがありました!

 映画自体のレビューについては、別記事に書きましたので、よろしければどうぞ!

アリ・フォルマン×山村浩二マスタークラス


!notice!

トークの内容につきましては、その場で速記してまとめています。事実誤認、不適当な記述などございましたらご連絡ください。対応させていただきます。

出席者

アリ・フォルマン監督(以下「」)

山村浩二さん(以下「」)


ア 製作権を買ったのは『戦場でワルツを』の直後で、その時はまだライブアクションとアニメイテッドが半分ずつになることしかわかっていませんでした。原作はコミュニストとの戦いをドラッグに置き換えて描いたメタファーの作品だけれども、私は共産主義を経験したことはありません。制作の契機になったのは、カンヌで出会った70年台の大女優にショックを受けた、ということがあります。それは、彼女がただの人だったからです。ミラマウントホテルでロビンが誰にも気づかれない、というのはこのエピソードを描いています。この映画では一人の女優の物語を作ろうとしたんです。

山 制作のスタートはどのようにしたのですか?まずは脚本から?

ア 脚本を書くのは早い方で、『戦場でワルツを』の場合は4日で書き上げたんですが、『コングレス』の場合はテルアビブのスタジオ(ボート)で8ヶ月間苦しみ抜きました。それは世界のルールを作らねばならなかったからです。例えば、ピルを飲むと誰に幻覚が見えて、誰にそうでないのか、とかね。
 当初はケイト・ブランシェットをキャスティングしていたんですが、偶然出会ったロビン・ライトに変更しました。この映画のファーストショットは彼女しかいないと思ったからです。正面からのショットですね。
 ライブアクションはアメリカでやって、非常に楽でした。効率的だったしね。それに対して、アニメーションの部分は非常に大変でした。これは、ヨーロッパでの資金調達の方法に問題があって、例えばある町で制作を行うと、その町にお金を落とさないといけないというような事情があったからです。この映画は9カ国で制作を行っていますが、それぞれの国でテクニックにばらつきがあるという事情もあり、また例えば(主要キャラクターの一人である)デュランで言えば、各国で男性的であったり女性的であったりしました。これを8ヶ月の間に統一するのが大変な苦労でしたね。映画の1ショットを4つの大陸で作らなくてはいけなくて、そのために旅をしてやっと戻ってくると間違っていたり…。とても(very very very)複雑な仕事でした。

山 この映画は全てがハンドドローイングです。役者の動きをロトスコープするのではなくて、役者の演技をアニメーターが絵に起こす。このやり方は前からのものですか?

ア 大御所の俳優さんでもアニメーターのために演技することを喜んでやってくれて、その点は良かったですね。

(メイキングの上映)

ア (実写の)俳優の表情や動きを元にして手描きしています。もし、アニメーターたちにロトスコープでしょう、などと言おうもののなら、彼らは怒りのあまり自殺してしまうかもしれません。
 この映画では未来の世界のアニメをあつかっていますが、未来のアニメというものがどのようなものなのかわからないため、私たちは過去の作品に構想を得ました。フライシャー兄弟 1 は『ポパイ』や『スーパーマン』で有名ですが、ディズニーがクリーンなイメージを持っているのに対して、フライシャー兄弟は荒々しい作風です。他にはラルフ・バクシ 270年台の日本映画、そして個人的には今敏の作品から影響を受けています。『東京ゴッドファーザーズ』や『パプリカ』などですね。

山 『戦場でワルツを』でも思いましたが、現実と幻覚に興味があるように見受けられましたが…。

ア 私は、誰もがパラレルワールドに生きていると考えています。良い映画とはこの2つの世界を一つにしてくれるものだと思います。ディヴィッド・リンチの意識と無意識の統合であるとか、そういったことですね。

山 ナガサキやボブスの和装のアイデアなどは?

ア 私自身、日本という国の大ファンということがあります。薬品会社(劇中での「ミラマウント・ナガサキ」)を日本企業にした時には、日本経済が落ち目になるとは思っていませんでしたね。着物は単なるジョークのつもりですが、ボブスのキャラクターはスティーブ・ジョブズに代表されるアメリカ企業へのあてつけかもしれません(笑)
 日本はSFファンが多いと聞いていますので、この映画も是非ヒットしてほしいです。今取り掛かっているのはアンネ・フランクの伝記アニメで、一部は日本でも制作したいと思っています。

山 是非、このユニークな作品が日本でヒットして欲しいですね!

[cf_event] [amazonjs asin=”B004BBPPYU” locale=”JP” title=”戦場でワルツを 完全版 Blu-ray”]

NOTES

  1. マックス・フライシャーとデイヴ・フライシャー。1921年に「フライシャー・スタジオ」を設立。30年台の「ポパイ」シリーズ、1941年の『バッタ君町へ行く』などで評価が高い。1940年台のパラマウント社との軋轢によって疲弊し、現在は版権管理を中心に行っている。
  2. ラルフ・バクシ[Ralph Bakshi](1938年8月29日- )。パレスチナ出身のアメリカ人アニメーション作家。1978年のアニメ版『指輪物語』あたりが有名でしょうか…。