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【映画レビュー】『七日』:ミニマリズムの極地から見えるもの
【東京国際映画祭2015】

      2017/09/10


 猫が道を横切る、そんな何気ないカットがいつまでも心に残る。

 渡辺紘文監督の『七日』は、その舞台設定からしてとてもシンプルな映画だ。全編モノクロ、役者は二人と牛たち、セリフ無し。ストーリーもほぼ無いに等しい。主役の二人は監督本人(渡辺紘文)と彼の実の祖母(平山ミサオ)だし、舞台となる家もそのばあちゃんが実際に住んでいる家だ。予算の方も(たぶん)恐ろしくミニマル。

 前作『そして泥船はゆく』(2013年)では、いまや日本映画にかかせない俳優の一人となった渋川清彦を主演にすえ、彼の下衆さを全面に押し出した軽快なコメディを見せてくれた渡辺兄弟だが、本作では一転して、ドラマ性を排除した冷徹な「日常劇」を展開する。いや、「劇」というのは少し言いすぎかもしれない。この映画ではいわゆる劇的なこと、ドラマティックな展開は、本当になにも起きないのだ。

 朝、男(渡辺紘文)が歯を磨き、ゴミを捨てに行き、朝食を食べ、仕事場に向かい、牛の世話をし、飼料を買い、帰宅して夕食を食べ、寝る。という一連の動作が丹念に写し取られる。一週間を描いた作品だが、恐るべきことには、一日目と二日目がほとんど同じ構成だということ。これから始まるのは「おっさん版「エンドレスエイト」なのではないか。」という恐怖にとらわれる。東京国際映画祭で、私が観ていた回ではこの時点で観客の4分の1が退出した。しかし、物語(と言っていいのか)、男の日常は少しずつ変化していく。冒頭に掲げた「道を横切る猫」はその一つだし、雨が降れば男は仕事を休む。この地に住む彼が自然とともに生きていることがわかる。食事を食べ過ぎた夜は、パンパンに膨らんだ腹を上にして横になる。その腹を太鼓のように叩くおばあちゃんがまた愛おしい。だがしかし、この映画は基本的には、「何も起きない」映画である。

 そして、その「何も起きない」ということは恐ろしく作為的だ。一見するとドキュメンタリーのような様相も見せるこの映画は、それとは正反対に、綿密に仕組まれたフィクションの網の目で出来ている。全く同じように見える1日目と2日目、全く言葉をかわさない家族、同じような構図が繰り返され、日々の暮らしが反復する。何気ない日常が非日常化していく。とても「映画的」な瞬間が立ち現れる。

予告編

基本情報

七日  Seven Days110 min

監督:渡辺紘文

音楽:渡辺雄司

脚本:渡辺紘文

撮影:方又玹

出演:渡辺紘文/平山ミサオ

公式サイトhttp://foolishpiggiesfilms.jimdo.com/

公式Twitterhttps://twitter.com/Foolish_Piggies

Q&Aセッション

 上映後には渡辺監督、弟で音楽監督の渡辺雄司さん、撮影監督の方又玹さんによるQ&Aセッションがありました。詳細は公式の方でまとめてくれているので、下の「関連リンク」にリンクを貼っておきます。この「ヘンな」映画がどのようなプロセスを経て生まれたのかが垣間みえて興味深いセッションになっています。前作との繋がりの強さというのも感じますし、何より印象的なのが「96歳の新人女優」という触れ込みでデビューした平山ミサオさん(おばあちゃん)のくだりですね。今回は98歳になっているはずですが、女優としての自覚が生まれたという(笑)耳に残ってしまう劇中の音楽についてのルーツが聞けたのも収穫でした。

関連リンク

■映画制作集団 大田原愚豚舎 OFFICIAL WEBSITE
 http://foolishpiggiesfilms.jimdo.com/

■第28回東京国際映画祭 | 「同じような生活が徹底的に繰り返されることで、人間の生活の奥底にある感情だとか、真実みたいなものが見えてくるんじゃないか」日本映画スプラッシュ『七日』-10/28(水):Q&A
 http://2015.tiff-jp.net/news/ja/?p=33924

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