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【映画レビュー】『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』:東映まんが映画の遺伝子を見た。

      2017/09/10


丸、丸、丸!

 まず、目を引くのが丸を基調としたビジュアルの美しさ。トム・ムーアの描く世界は「まるいもの」で満ち溢れている。主役となる少年ベンとその妹シアーシャの丸い顔、アザラシたち、大きな円にすっぽりとはまり込むおばあちゃん(グラニー)の体。ベンたちが連れてこられた町の中心にはラウンドアバウトが置かれ、その中心には妖精たちの世界に通じる穴がある。物語のキーとなる母の形見の巻き貝は常に正面から描かれてその円形のフォルムを強調し、室内に置かれたコップなどはキュビスム的に丸を上にして表現される。画面のレイアウトも丸を強く意識していて、例えばタイトルバックの魚の群れの泳ぐ様、後半に出て来る魔女の家では円形の蜘蛛の巣から覗く形で視点が据えられる。

糸を辿って

 そして、この丸い世界で展開されるのはアイルランドのセルキー伝説をベースにした少年少女の冒険譚だ。セルキーとはアザラシの精霊で、このセルキーが歌を歌うと現世に囚われた妖精たちが自らの国に帰れるという言い伝えがある。ベンとシアーシャの兄妹は灯台で父コナーと3人で暮らしている。母ブレナーはシアーシャが生まれた際に死に、ベンはそれをシアーシャのせいだと思いこんでいる。実は、ブレナーはアザラシの精霊セルキーであり、シアーシャは人間とセルキーのハーフ。母の残したコートを纏い、海に入るとアザラシへと変わり、自由に泳ぎまわることができる。しかし、母と同じ運命をたどることを恐れた父はコートを海に捨て、兄妹は町に住むおばあちゃんの家に住むこととなる。灯台に戻ろうとするベンとシアーシャだったが、その途中、3人のディナーシー(妖精)に出会う。彼らは、梟の魔女マカによって石に変えられてしまった妖精たちを元に戻してくれるようにシアーシャに頼む。しかし、そのためには母の形見のコートが必要で、しかもそのコートがなければシアーシャは死んでしまうのというのだ。かくして、魔女マカの手を逃れ、コートを探すための冒険が始まる…。

 この物語は主人公たちが自らの出自を求める物語でもある。故郷へと戻るという行為がそもそもそうだし、形見のコートを探す、巻き貝の海のうたに耳を傾ける。全てが今はなき母という根源的なルーツへと繋がっていく。その点で、道中でベンが出会う精霊シャナキーは象徴的な存在だ。自らの髪の毛に埋もれているこの老人は、自分の髪の毛にこの世の全ての物語が記憶されていると豪語する1。ベンはこの髪の毛を、あたかも記憶の糸を手繰るかのようにして進んでいく。記憶、物語という名の糸がストーリーを駆動していく。

東映動画的なもの、宮﨑駿的なもの

 この映画を観たあとに最初に感じたのは「東映動画っぽい」ということだった。ここで言う「東映動画」というのはいわゆる東映長編動画、すなわち『白蛇伝』から『グリム童話 金の鳥』に至るまでの一連の長編まんが映画のことだ。何がどう、とは具体的には表現しづらいのだけど、とにかく東映動画っぽい雰囲気が漂っている。

 キャラクターの丸い顔と柔らかい表情、動きはあたかも森康二さんが描いたかのようだし、少年少女が主人公の冒険活劇(まあ東映長編の中にはそうでないものも多くあるのだけど)である点も「まんが映画」的だ。物語のクライマックス、風に乗ったオオカミたちがベンとシアーシャを灯台へと運ぶ場面は、『わんぱく王子の大蛇退治』(1963年)を思い出させる。それから、『太陽の王子ホルスの大冒険』(1968年)冒頭のハイイロオオカミたちも。

 その一方で、監督自身が影響を受けたと語っている宮﨑駿的な要素も見て取れる2。例えば、おばあちゃんと梟の魔女マカの類似は『千と千尋の神隠し』(2001年)における湯婆婆と銭婆の関係を想起させるし、人の持つ悪しき感情を人間性の一部として受けとめるあたりは『風の谷のナウシカ』原作に描かれた宮崎的思考と繋がっているように思える。

「喪失」をいかに乗り越えるか

 「悪者」がいないのもこの映画の特徴の一つだ。物語の後半、梟の魔女マカの意外な正体が明らかになる。このあたり、おばあちゃんとの造形の類似や同じ声優(フィオヌラ・フラナガン)を使っているということは多分に意識的な演出だろう。ご丁寧に、二人の家に置いてあるのはほとんど違いがわからないデザインのラジオだ。マカとの対決で明らかになるのは、彼女が全くの善意から一連の行動を起こしているという事実であり、それは確かに世界と向き合うための一つの方法なのだろう。しかし、ベンとシアーシャが選ぶのは、近親者の喪失を受け入れ、心の奥に存在する悲しみに向き合うことだった。

 この映画は少年少女にとってはシンプルな冒険活劇であり、そして近親者の喪失という人生における試練を、いかにして乗り越えれば良いのか、という大人のための物語でもある。

予告編

基本情報

ソング・オブ・ザ・シー 海のうた  Song of the sea93 min

監督:トム・ムーア(Tomm Moore)

音楽:ブルーノ・クーレ(Bruno Coulais)/キーラ(Kíla)

脚本:トム・ムーア(Tomm Moore)

出演:デヴィッド・ロウル(David Rawle)/ブレンダン・グレーソン(Brendan Gleeson)/フィオヌラ・フラナガン(Fionnula Flanagan)/リサ・ハニガン(Lisa Hannigan)/ルーシー・オコンネル(Lucy O'Connell)/ジョン・ケニー(Jon Kenny)/Pat Shortt/Colm Ó Snodaigh/Liam Hourican/Kevin Swierszcz

公式サイトhttp://songofthesea.jp/

NOTES

  1. 全然関係ないけど、ビジュアル的に『銀河鉄道999』の世井正雪先生を思い出しました。
  2. トム・ムーア監督自身はパンフレットのインタビューで『となりのトトロ』と『もののけ姫』が一番影響を与えたと語っている。あと小津安二郎。

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