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【映画レビュー】『パディントン』:可愛いけど、くさそう

      2017/09/10


 骨董屋のグルーバーさん(ジム・ブロードベント)の店内を、紅茶セット一式がおもちゃの貨車に引かれてパディントン(ベン・ウィショー(声))とブラウン夫人(サリー・ホーキンス)の前にやってくる。無造作にケーキを手づかみで頬張るパディントン。ふと彼が目を移すと、車内の小さな人影が動き出し、グルーバー氏の短い昔語りが始まる。現在と過去が滑らかに繋がる。

 映画『パディントン』はこんな感じの遊び心に溢れた場面に満ちている。暗黒の地ペルー1での全自動マーマレード作りの場面から始まり、ずんぐりしたパディントンの身体がふわりと浮かび上がるスリ犯の追跡劇、スクリーンの向こう側にシームレスに通じる故郷の過去。ローテクなエアシューターが張り巡らされた地理学協会でのデザインもどことなく浮世離れした雰囲気だし、単なる装飾だと思っていたブラウン家の壁に描かれた桜ですら、軽やかに花びらを舞い散らす。

 現実と空想の垣根を取り払う、こういった演出の積み重ね、そして「気持ち悪い」とま揶揄されたパディントンのリアルな造形(特に毛なみ)が、「言葉を話す紳士的なクマ」というファンタジー的な存在にリアリティを与えている。

 ストーリーは至ってシンプルだ。ペルーのジャングルの奥からロンドンにやってきた一匹のくま。彼の叔父と叔母がかつて出会ったイギリスの探検家のおかげで彼は流暢な英語を話し、遺品の帽子とトランクを身に付けている。彼は親切なブラウン夫人のおかげでブラウン家で一晩を過ごすことに。ブラウン氏(ヒュー・ボネビル)は保険の仕事をしており、臭いくまを家に入れるのには反対の立場。彼らはかつてペルーにやってきた探検家を探すことになるが、その影でロンドン自然史博物館の剥製部部長ミリセント(ニコール・キッドマン)とブラウン家の童貞っぽい隣人カリーさん(ピーター・カパルディ)によるパディントン捕獲計画が進行していた…。

 語るべきところは色々あるが、冒頭に記したような演出の素晴らしさがとくに目を引く。ブラウン家のミニチュアの中を覗き込むとキャラクターが動き出すところはウェス・アンダーソンの作品を髣髴とさせるところもあるが、衛兵の詰め所に雨宿りするパディントンがティーセットを振る舞われる場面などはオリジナリティに溢れている。丁寧に伏線を回収していく脚本も観ていてただただ気持ちが良い。

 そして、この物語の中でくまのパディントンは明らかに移民のアナロジーとして表現されている。故郷であるペルーで起こった災害は内戦や迫害といった現実の難民たちになぞらえることができるし、彼がロンドンで巻き起こす騒動もまた、実際に移民と移住先の人々が遭遇する軋轢を暗示している(もちろん、現実にはもっとシリアスな問題であるのは前提だけども)。この映画を『ドラえもん』を筆頭とする「異世界からやってきた異質なモノと同居する」作品群の一つとして見ることもできるのだけど、いつか帰ってしまうであろう彼らと違ってパディントンは「家」を探し求める。ぼくらが臭いくまであるパディントンと共に生きるにはどうしたらいいのだろう。

 物語が大団円を迎えた後、パディントンはこう呟く。「ぼくはみんなにはなれない」2と。人種や民族、セクシャリティと同じように「くま」という属性を彼から引き離すことはできない。でも、この物語の転換点がそうであったように、シャワーを浴びてダッフルを羽織り、人間のように生きていくことはできる。異なる社会で生きるということは結局そういうふうに、お互いにどこかで折り合いをつけていくことなのかもしれない。それはくまでも人でも変わらないのだ。

 

 …というような小難しいことを考えずともパディントンの変顔を見ているだけで楽しい映画ではある。子供から、大人まで。

予告編

基本情報

パディントン  Paddington95 min

監督:ポール・キング

音楽:ニック・ウラタ

脚本:ハーミッシュ・マッコール/ポール・キング

撮影:エリック・ウィルソン

出演:ヒュー・ボネビル/サリー・ホーキンス/ジュリー・ウェオルターズ/ジム・ブロードベント/ピーター・カパルディ/ニコール・キッドマン/ベン・ウィショー(声)/マデリン・ハリス/サミュエル・ジョスリン/イメルダ・スタウントン(声)/マイケル・ガンボン(声)/ティム・ダウニー/サイモン・ファナービー/マット・ルーカス/マット・キング/マイケル・ボンド

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 原作はこちら。

NOTES

  1. なぜかパディントンは自分の生地をこう呼ぶのだ。
  2. 吹替版。字幕のほうで観た時は多分"I'm bear."と言っている。

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