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【映画レビュー】『幕が上がる』:「どこでもない、どこか」へ。

      2017/09/10


青春の向こう側へ

 『幕が上がる』は、端的に言ってしまえば「直球ド真ん中の青春映画」だ。

 さおり(百田夏菜子)、ゆっこ(玉井詩織)、がるる(高城れに)らの弱小演劇部。なんとなくの部活動をしていた彼女らの元にある日新任美術教師・吉岡(黒木華)がやってくる。彼女こそはかつて「学生演劇の女王」とまで呼ばれた伝説の役者だった。彼女の熱心な指導によって、富士ケ丘高校演劇部は次第に全国大会優勝という目標に向かって走りだす…。

 「弱小部活動が一念発起してがんばる」という構造自体は今までの映画の中でさんざん語られてきたものだし、それ自体に目新しいところは特に無い。しかし、この映画には単なる青春映画以上のものがあって、終盤の展開などは大筋はテンプレート的であるにもかかわらず、不覚にも涙してしまった。この物語は、今現在の青春を生きる若者たちよりはむしろ、すでに薹の立ってしまった人々により強く訴えかけてくるようだ。

成長するアイドルたち

 ところで、この映画はいわゆるアイドル映画であるわけだけれども、だからといって役者たちの演技が貧弱であるというのは杞憂にすぎない。例えば、物語序盤の「ロミオとジュリエット」の演技の酷さを演ずる巧みさ(要するに上手い)、そして後半に向かうにつれて次第に上手くなっていく様を演じる演劇部の面々。劇中では、裏の主人公とでも言うべき黒木華が実に素晴らしい演技を見せるのだが、それにも引けをとらない芝居を見せる。

 特に、5人のメンバーの中で良かったのが主人公・さおり役の百田夏菜子で、序盤の雑な感じからチームをまとめあげるリーダーへの成長、そしてその過程での思い悩む様子が実に良かった。台本が書けないスランプからトリップするあたりはMVっぽくもあり、そういえば、学校と家庭とで演じ分けていたのも彼女だけだ。

 本広監督はこの映画を制作するにあたり、原作者である平田オリザの25時間に及ぶ演劇ワークショップを課したという。中盤からの怒涛の特訓の場面、特に東京での合宿などは、アイドルとしてのももクロが実際に体験した出来事を追体験しているかのような感覚を味あわせてくれるドキュメンタリー的な側面があって面白い。

期待と不安の中で

 この実際に特訓してきたアイドルたちを通して、この映画は「青春」というものを真正面から真摯に描き出そうとする。それは、この物語が演劇部の物語であるということ、そして彼らの晴れ舞台が実質的に一年に一回しかないことと重なる。

 青春というものが持つ、残酷なまでの不可逆性が、舞台という場を通して語られる。それは一回性のものであり、そして無限の広がりを持つ。しかし、決して宇宙の果てに到達することはない。

 「私たちは舞台の上でならどこへでも行ける」とさおりは言う。しかし同時に「どこでもない、どこかへ行くことしか出来ない」とも。青春というもののはらんでいる期待と不安がそこにはあって、だから彼らの演ずる『銀河鉄道の夜』が、ある意味で泡沫的な物語で、何万光年もの旅の末に堂々巡りの結果を迎えるというのも実に「青春的」だ。

「青春」の普遍性としての黒木華

 そして、この映画を語る上で外せないのが黒木華演ずる美術教師・吉岡というキャラクターだろう。彼女はもう一人の主人公として圧倒的な存在感を発揮する。とりわけ素晴らしいのが、やる気に乏しい演劇部の3人の前で束の間の仮面をかぶり素晴らしいスケッチ(寸劇)を披露するシーン。劇中の人物をして「神様がいた」と言わしめるだけあって、開け放たれた窓から入る風(これが偶然らしいというのもまたすごい)、後光のようにきらめく光、そしてその舞台の上で一瞬のうちに変貌を遂げる黒木華はとても素晴らしく、後半の活躍への予兆を感じさせる。

 ももクロの面々が、いわゆる「青春」をリアルタイムに生きる世代を描いたとするなら、黒木華は青春のその先を表象する存在だ。一度は演劇の道を諦めた彼女は演劇部の面々とともに全国大会への道を目指す中で、もう一度かつての自分の夢に向かって歩き出す。この物語は弱小演劇部が青春を生きる物語であると同時に、人生に挫折した人がもう一度青春を取り戻す物語でもあるのだ。彼女は青春というものが儚いものでありつつ、同時にまた普遍的でもあるということを教えてくれる。

 ぼくらは永遠の青春の中に生きている。それは儚くそして永続的だ。だから、物語のあのラストでタイトルが浮かび上がるのは実に象徴的なカットだった。「幕が上がり」物語は終わる。しかしてまた別の物語が始まるのだ。「どこでもない、どこか」へ向けて、人生は続いていく。

予告編

基本情報

幕が上がる  119 min

監督:本広克行

音楽:菅野祐悟

脚本:喜安浩平

出演:百田夏菜子/玉井詩織/高城れに/有安杏果/佐々木彩夏/黒木華/ムロツヨシ/清水ミチコ/志賀廣太郎

上映開始日:2015年2月28日

公式サイトhttp://www.makuga-agaru.jp/

 原作はこちら。

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