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【映画批評】『きみの声をとどけたい』:ラジオと女子高生が紡ぐひと夏の奇跡【ネタバレなし】

      2017/09/19


あらすじ

 鎌倉・日ノ坂町に住む女子高生・なぎさ(片平美那)。友人との人間関係や将来への漠然とした不安を抱いて毎日を過ごしていた彼女は、ふとしたことから廃業した喫茶店に迷い込む。そこはかつて地域のミニFM局として親しまれていた「ラジオ・アクアマリン」だった。ここでDJをしていた母を持つ紫苑(三森すずこ)と出会ったなぎさは、彼女の思いを届けるため、仲間とともにひと夏のラジオ局を開局する。

TVアニメで観たかった!

 色々と惜しい映画だ。まず尺が足らない。たった90分強の中に、はじめてのラジオ放送、ミニFM局とは何か、友人とのすれ違い、商店街の人々との交流、友人としての思い出づくり、コミュニティの崩壊の危機などなどという多種多様な要素が詰め込まれている。個性豊かなキャラクターたちをもっと掘り下げてほしかったとも思うし、舞台となる商店街の面々に絡むエピソードも観てみたかった。なぎさの家庭も複雑な事情を抱えているが、特に劇中でそのことについて語られることはない。特に、中盤以降はダイジェストで流されてしまう部分が非常に多い。欲を言えば1クールほどを費やしてじっくりとキャラクターの心情や芝居を描いてほしいと思ってしまった。

 テンポが良いように思えるのは、主人公・なぎさが強引に物語を牽引していくからだ。特に物語の端緒となるラジオ・アクアマリンでの最初の放送までの一連の流れは、良く言えばスピーディー、悪く言えば予定調和的。そして非常識。他人の家にズカズカと入り込み、大胆にも放送を始めてしまう主人公の姿を見て、この映画全体に対する漠然とした不安を感じたのを覚えている。全体の尺から考えて、ここで時間を費やすわけにいかないのはわかるのだけれど…。

 なぎさはコトダマを見ることができる少女だが、このあたりのファンタジー的な要素が全体に通底する日常的な雰囲気と上手く調和しているとは言い難い。物語中に紫苑が投げかける「どうして私の思いが母に届かないのか」という疑問はもっともだ。どうすれば「声がとどくのか」という根本的な疑問は最後まで解消されない。物語の結末も、普通に見ればあまりにも都合が良すぎるという印象が拭えないだろう。

 だというのに、この映画を観終わった後に印象に残るのは、そういった雑な部分よりも、瑞々しい輝きに満ちた青春のスナップショットだ。むしろ、荒々しいからこそのキラメキがある、そんな気にすらさせられる。映画『きみの声をとどけたい』は、17歳の夏休みというある種の非日常空間を舞台にした魔法のような物語だ。

強引であり力強くもあるヒロインの魅力

 キャラクター原案は「あま絵」でおなじみの青木俊直先生。普通であればキャラクターはアニメ用にリファインされるのだけれど(アニメキャラクターデザインは『干物妹!うまるちゃん』の高野綾さん)、この映画は青木先生独特の、ちょっとゆるい雰囲気の女の子たちがそのまま動き出す。かっちりと描かれた湘南の街並みに重なるイラストタッチの登場人物たちは、少しちぐはぐとした雰囲気を放っているのだけれど、むしろそれがこの映画を輝かせている一つの要素だ。

 とりわけ、主人公・なぎさのコロコロと移り変わる豊かな表情がとても良い。降りしきる雨の中、思いを吐露するアバンタイトルの場面、夏休み初日のだらっとした朝の光景、紫苑のとの会話でボロボロと涙を流す姿、そして、怒りを爆発させる後半の一場面。他人の家で臆面もなくラジオ放送を始めてしまうあたり、「非常識」と書いたけれども、裏を返せば、このキャラクターの性格を的確に表現すると同時に物語を(半ば強引に)初めてしまう最適解の一つだったのだと思える。

 彼女と一緒にラジオ放送を盛り上げる仲間たちも魅力的だ。母の意識が戻ることを願う紫苑、同級生のかえで(田中有紀)と雫(岩淵桃音)、ラジオにこだわりを持つブレーン・あやめ(神戸光歩)、音楽担当の乙葉(鈴木陽斗実)、そしてかえでとの間にわだかまりを抱えるお嬢様・夕(飯野美紗子)。特に、序盤の非常識なラジオ局運営をまともな方向に引き戻す「藍色仮面」の登場からは安定感がぐっと増す。ミニFM局という場を通じて、この7人の少女たちが親交を深めていくのが中盤の流れだが、先にも述べたように、このあたりがしっかりと描写されていればより魅力的な作品になったことは間違いない。とはいえこういった省略によって、逆に、短い尺の中で「かえでと夕の微妙な関係」と「紫苑の母への思いが伝わるのか」という2つのテーマがより鮮明になっている。

17歳の夏休みには魔法が宿っている

 なぎさは「コトダマ」を信じている。幼いころ、祖母から伝えられた言葉だ。「言葉には魂が宿っている」。そんな夢まぼろしのような儚い言い伝えのようなものがこの映画を貫いている。なぎさはそれをただひたすらに愚直なまでに、疑うことなく信じている。彼女は、ラジオという「コトダマ」を通して、かえでと夕の間に凝り固まったしこりを解きほぐし、さらには紫苑の母親を目覚めさせようとする。多分それは、17歳という少女と大人のはざまにある人間だけが持てる、傲慢とも言える無邪気さが引き起こす奇跡なのだろう。30すぎのおじさんがやってもこうはいかない。それは僕らが「コトダマ」なんてものを信じられないことに気付いてしまっているからだ。でも今だけは、この映画を観ている時だけは、17歳の夏休みが持っている「魔法」を信じることができた。そんな気がした。

予告編

基本情報

きみの声をとどけたい  94 min

監督:伊藤尚往

音楽:松田彬人

脚本:石川学

出演:片平美那/田中有紀/岩淵桃音/神戸光歩/鈴木陽斗実/飯野美紗子/三森すずこ/梶裕貴/鈴木達央/野沢雅子

公式サイトhttp://kimikoe.com/movie/

公式Twitterhttps://twitter.com/kimikoe_movie

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