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【映画レビュー】『ハイ・ライズ』:灰色の肌に包まれて

      2017/09/10


 原作のロバート・ラングはもっとこう、三枚目的なイメージがあるような気がしていた。例えば、『グランド・ホテル』(1932年)におけるライオネル・バリモア演ずる医師・クリンゲラインのような。もっとも、いざ観終わってみるとトムヒのラングもとてもしっくりくるのだけれど。

 ロンドン郊外に建設中の5棟の高層マンション。最初に完成したタワーの一室に医師ロバート・ラング(トム・ヒドルストン)が越してくる。この40階建ての「タワー」は建築家アンソニー・ロイヤル(ジェレミー・アイアンズ)が設計したもので、スーパーマーケット、フィットネスクラブ、プール、(劇中に描写はないが)銀行や学校といった設備を備えた一つの街のような様相を呈している。もう一つの特徴としては、階ごとに社会階層が定められているという点で、大雑把に言えば上の階にいくほど富裕層ということ。設計者のロイヤルは最上層40階の広大な庭園を備えたペントハウスに、医師のラングは25階(2505室)、そしてもう一人の主人公であるTV屋リチャード・ワイルダー(ルーク・エバンス)はほぼ最下層の2階(映画では明確な言及はないけれど)に住むといった具合。

 ラングは上階(2605室)のシャーロット(シエナ・ミラー)や隣室の矯正歯科医師と交流を深めるが、ある夜に起きた下層階の停電をきっかけに、「タワー」の雰囲気が変質していく。ダストシュートは詰まり、水道が止まる。上層階と下層階はインフラと食料をめぐって対立を始める。この辺りの少しずつ環境が悪化していく様子の描写は、原作と同様に非常に面白い。徐々に腐っていくスーパーの果物の描写であるとか、死体置き場になっていくプールの描写の面白さ。観終わった後、序盤のシーンと終盤のシーンを比べると、そのあまりの違いに愕然とする。

 原作との相違点はいくつかあるが、例えば原作で非常に重要な役割を果たすラングの姉が入居時点ですでに亡くなっていたり1、40階をロイヤルが占有していたり(馬がいる!ナイスアイデア!)、細かいところだとスーパーマーケットが10階から15階になっていたりする。しかし、より重要なのはその場面が一体何階で行われている出来事なのか、ということがわかりにくくなっていることだ。30階のジムや15階のスーパーなどはあからさまに階数が提示されるのだけど、その他の場面、例えば原作では2階であることが明示されているワイルダー夫妻の部屋などが画面に映るとき、つかの間、そこがどこなのかが曖昧になる。上層階と下層階の戦いが物語の軸だが、上下の移動がカメラの移動によって表現されないのも面白い。移動はほとんどが全くカメラに動きがないエレベーターだ。逆に、ロビーから出る人々の流れや、スーパーマーケットの中のように、水平方向への移動が強調されている。物語の後半、一部の人々は黒いゴミ袋が乱雑に置かれたロビーを出ていつものように出勤していく。日常と非日常が混濁する。天井が低く、うす暗いタワーの内部とあいまって、独特の閉塞感がこの映画を支配している。

 この映画自体はSFに分類されるのだけど、舞台となる「タワー」は、SF映画に出てくるような未来都市のイメージとはかけ離れている。更地に孤立して佇む灰色の立方体は、どちらかと言えば「墓標」のようだ。そういえば、ラングのオフィスで彼の椅子の背後に置かれてたのは人間の頭蓋骨だった。物語の序盤、彼が解剖室で皮を剥いだ人の頭部と同じように、「タワー」はその中にはらむグロテスクさや猥雑さとは裏腹に、素知らぬ顔で冷たい灰色の肌を晒し続ける。それは社会の中での孤立する我々個人の姿でもあるし、無秩序な欲望の暴走の果てに迎える社会そのものの未来予想図でもある。

予告編

基本情報

ハイ・ライズ  HIGH-RISE119 min

監督:ベン・ウィートリー

音楽:クリント・マンセル

脚本:エイミー・ジャンプ

撮影:ローリー・ローズ

出演:トム・ヒドルストン/ジェレミー・アイアンズ/シエナ・ミラー/ルーク・エバンス/エリザベス・モス/ジェームズ・ピュアフォイ/キーリー・ホーズ/ピーター・フェルディナンド/シエンナ・ギロリー/リース・シェアスミス/エンゾ・シレンティ/オーガスタス・プリュー/ダン・スキナー/ステイシー・マーティン/トニー・ウェイ/レイラ・ミマック

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NOTES

  1. 後半のあの場面は、ラングが人の外に踏み出す上で重要な一歩だったと思うのだけど…。

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