恒例の原恵一ナイトですが今回は意外とかかっていない『河童のクゥと夏休み』!vol.8の『colorful』公開記念以来7年ぶりですね。実は今回かかる作品の中で観たことあるのが「百日紅」だけだったりします…。あと、トークショーで原監督が酒飲んでるのはもう定番なんですけど、今回は最初から酔っ払ってて吹いたw

 前回の「新文芸坐×アニメスタイルセレクションVol.93 『天元突破グレンラガン』10周年! 今石洋之SPECIAL!!」のレポートはこちら!

トークショー


!notice!

トークの内容につきましては、その場で速記してまとめています。事実誤認、不適当な記述などございましたらご連絡ください。対応させていただきます。

登壇者

原恵一監督(。以下「」)

小黒祐一郎さん(アニメスタイル編集長、司会。以下「」))

 原監督が最初から泥酔している!

新文芸坐・花俟さんによる前説

花 今日は原監督です。藤原さんのニュースが偶然にも入ってまいりまして1、また原監督と一緒にこちらでお酒を飲んでもらえればと思います。今日は原監督の濃い3本をお送りします。

映画を作るのは大変

小 お客さんが若い感じですね今日は。

原 世代交代ですね。

 

原 (今日上映するのは)3本とも、興業的にはコケてますから…。

小 はっきりいいますね。でも3本とも映画賞とか取って評価されてるじゃないですか2

原 映画って個人で出資して作れるわけではないので、そうなるといろんな会社とか人とかがお金を使って回収するのが目的なわけですよね。そういう人たちを喜ばせていないというのはあります。できればみんなで良かった良かったと言ってもらいたい。

小 そういうドカンとヒットするものを撮りたいんですか?

原 自分でもびっくりするくらいの額を儲けたいわけじゃないんですよ。みんなが損しないくらいで、次回もやろうというくらいが自分には合っている。

小 「河童のクゥ」と『カラフル』を復習したんですけど、原さんの変わらなさはすごいですね。自分の作りたいものを作ってる。

原 いやいやそんなことないですよ。フリーの人間が映画を作ることがどれだけ大変なことか。10年前、フリーになってから、身に染みて感じてます。

小 「河童のクゥ」から実写映画含めて4本3撮っているわけで、決して寡作ではないですよね。

原 こちらが予定しているロードマップと、世の中の評価というのは決して一致していない。でも時々、突然サービスエリアがあらわれるというか。ガソリンが無いとかトイレ行きたい、どうしようというときに突然現れる。

小 そこで映画を撮ることができたと。

原 ほんとそんな感じですよ。「河童のクゥ」が製作開始になる前に、サンライズの内田さん4から『カラフル』の話があったんだけど、(「河童のクゥ」の)話をしたら内田さんは待つよって。

小 4年くらい待ったわけですね。

原 その間、内田さんは矢面に立ってたんだけど、そのうち内田さんが社長になって「待ってたぞ」って。内田さんはシンエイとうち(サンライズ)で作ってもいいんだけどって言ってたんだけど、自分は無理だと思ったし、「しんちゃん」も6本作ったし、やりたいことをやったので、フリーになって最初の仕事はこの人と、と思って。

小 それで新規のスタジオを立てたんですね。

原 そこで第一回作品ということで『カラフル』を作ったわけです。

原監督「『ドラえもん』を馬鹿にしていたやつらを見返してやりたい!」

小 「アッパレ」5と「河童のクゥ」との間に5年空いてますけど、ここはずっと「河童」の準備をしていたんですか。

原 準備もしてたけど、何もしてない時もありました。シンエイ動画の社員だったし。

小 「しんちゃん」のコンテを描いたり…。

原 そうですね。あとは、この企画を実現させるためにどうしたらよいかを必死に考えてました。

小 「原恵一はこのまま監督をやらずに辞めていくんじゃないか?」という噂が業界では流れてました。マッドハウスの丸山さん6なんか、「このままだと原くんがかわいそうだから、うちで何か作ってもらおうか」とか言ってましたね。新宿の飲み屋で。

原 社会人監督が長かったので、社会がこんなに冷たいのか、と思っていましたね。企画書とか、イメージボードとか5,6分のプロモーションビデオを作っていろいろ持っていったんだけど、まあどこも冷たかったですね。「これには金の臭いがしない」とか言われたりね。「クゥ」を作らないと先に進めないような気がしていました。「しんちゃん」も「戦国」で10本目だったし、そろそろ次のステップに行こうかな、と思った時に、自分なりにキャリアを積んできたつもりだったんですけど、それは藤子(・F・不二雄)先生の名前と「しんちゃん」という誰もが知っている人気キャラ、それあっての監督だったというのが骨身に染みてわかったという感じですね。

小 「河童のクゥ」に関しては児童文学を原作としたものをやりたいということもあったと思うんですけど、どういった意識があったんでしょうか。

原 シンエイ動画ってキッズものをメインとして安定した収入源のあった会社だったんで、僕も子供の頃から藤子先生の作品に親しんできていて、それで縁があってシンエイ動画に入りまして、今でこそ『ドラえもん』も大人が見ても恥ずかしくないものになってると思うんですけど、僕が入った頃は「シンエイ動画で『ドラえもん』やってます」というと「はぁあ~ん」みたいな反応で、一番尖ってたやつは『AKIRA』とかやってて、「おまえら覚えてろよ!」って思ってました。

 (オフレコです!)

原 それで、『ドラえもん』を馬鹿にしてるやつを見返したいという気持ちはありましたね。で、この小黒さんという人は見るからにうさんくさいやつなんだけど、当時『ドラえもん』のTVシリーズを「アニメージュ」で紹介してもらって、だからこの人には恩があるんですよ。ちゃんとした人が来るかと思ってたら…。

小 なんかTシャツ着たやつがきてね(笑)

原 見るからにオタクみたいなやつが…(笑)

小 「なんですかあなたは!」って言われましたからね(笑)

原 今でこそ毎日のように2時間スペシャル番組をやってるけど、当時はお正月スペシャルと言ったら、新作と旧作を組み合わせて、その間に「ブリッジ」という橋渡しのものを作らないといけなかった。脚本も何もないやつ。でもそれをやるとブリッジ料をもらえたんでがんばってやりましたね。

小 その藤子作品が中心だったシンエイ動画で「河童のクゥ」をやりたいと。

原 藤子先生の作品が大好きで、子供が観るもんだろと馬鹿にする人が嫌いだったんですけど、「河童のクゥ」は『ドラえもん』なんですよ、非日常が平凡な家庭に入ってくるという。で、それをちょっとリアルに描きたかった。藤子先生は結構不遇だったと思うんですよね。アニメーションがちょっと違う方向に行ってしまって取り残された感じになってしまった。でも藤子先生って子供から大人までみんなが読める作品をずっと作ろうとしていたと思うんですよ。亡くなった途端にみんなが評価し始めて、頭にきましたね。もっと早く言えよ!と。自分の幹を作った人を正当に評価しないというのはいけないと思うんです。作り手の支えになるものってそれしかないと思うんですよ。

長いのには理由がある

小 「河童のクゥ」は最初のコンテが3時間あったと聞きましたが…。

原 そうなんですよね。「しんちゃん」の作り方で作ってみたんですけど、それはロングプロット作ってからコンテを作っていく形だったんですけど、やってみたら3時間以上になっちゃった。3時間以上は無理だよなあ、と思ってせめて3時間にしようと思ってコンテを切った。

小 それで2時間50分になったと。

原 それでも大騒ぎになって、キレキレ攻撃がきまして…。

小 それで2時間18分に。

原 画ができていた部分もカットしたからその部分を担当した人には本当に申し訳ない。だから長年温めてきた企画だけどあまり嬉しくなくて…。家で『アラビアのロレンス』7を大音量で流して、「4時間の映画もあるぞぉ~!」とかやって(会場爆笑)

小 今でも3時間版の方が出来が良かったと思います?

原 思いますけど、もうできないですね。両方あると思うんですよ。僕がフリーランスで「河童のクゥ」を作ろうとしたらできなかった。社員だったからバックにシンエイ動画があって、実績のある会社があったから成立した。だけど3時間のアニメを作れっていう話ではなかったんですよね。

小 『カラフル』はそのあたり計算してやってたんですか?

原 『カラフル』も2時間以内が望ましいという感じで、2時間8分だけどあまり歓迎されなかった。でも作り手って映像にしたものを人に見せたいから作ってるわけで、最初からいらないと思って作っているわけではないことは知っておいてもらいたい。黒澤明は「同じ面白さだったら短いほうがいい」と言ってるけど、それは間違いない。『七人の侍』8もたまに引っ張り出してみるけど、いらない部分がないですよね。

小 「百日紅」は綺麗にまとまってますよね。

原 あれはそういう要求だったんですよ。『カラフル』のあとでサンライズでの次の企画が難航して、なかなか決まらなかったんだけど、そんなときにプロダクションIGの石川さん9から「百日紅、うちで企画動かしたことあるんだよね」という話があって、「うちでやらない?ただし予算は少なめで尺はエンドロールまで含めて90分以内!」という条件が出て、その場で「やります!」と。企画が数分で決まった瞬間でしたね。作ってる間、石川さんは一切口出ししなかった。俺も約束だったから90分以内に納める作業をしました。あんなに時間をコントロールした作品はなかったですね。おかげで編集で欠番は1カットもでなかったんですよ。びっくりした!こんなことできるんだ!って。もともとは定尺のテレビだったからそれもありましたけど。あの時もオーバーしてたけど。15分の尺で20分のコンテ描いたりね。

小 『エスパー魔美』10も長かったですね。

原 何気ないやり取りが好きなんですよ。木下恵介11監督の映画とかで学んだことなんですけど。でもそれをやりだすとどんどん長くなっちゃって。「しんちゃん」のときも映画版はそこそこ(カットの)欠番を出してましたね。一番切れるのがしんちゃんのギャグなんですよ。あれってストーリーには何も関係ないから。でもそれをやったらいけないわけですよ。

啓治へのことば

小 藤原啓治さんに一言。

原 あー、啓治もねえ、シャバに戻ってくるみたいで良かった!

小 今日の3作品も主役じゃないけど全部出てますね。

原 「河童のクゥ」なんか3役くらい12でてるかな?(笑)

小 今後も(一緒に)仕事をやっていきたい感じですか?

原 人間的に好きなんですよね。演技も好きだし。出てくれるならやってもらいたいですね。

小 またここ(新文芸坐)でお酒飲んでもらいたいですね。

 時間ちょうどで原監督がトイレに行きたいと言って終わる…

小 すごい終わり方だな!(会場笑)

上映作品

[cf_cinema post_id=3262 format=3 text=” 結構何回も劇場で観てるんですけど、やっぱり見応えありますねー。小さいエピソードがいくつか連なっている作品ですが、それぞれの話のつなぎが途切れているのに飽きさせないリズム感。演出がいいのかな。橋から始まり橋に終わるという構成もいいですね。どのエピソードもいいんですが、花魁の首が伸びる話の不可思議と法螺話のバランス感、そして、物語の一つの軸となっているある人物をめぐる一連の話、とりわけ死と家族の関係性についてのある種のクライマックスとも言える場面はかなり好きです。それまでのゆったりとした所作と対照的に疾走するお栄の姿が印象的。細かい映画なので、回数を重ねると味わいが深くなってくる気がします。公開当時は、作品のクオリティに反して興業があまり振るわなかったようにも聞いていますけど、これから再評価されいていく、そんな映画だと思います。”]

[cf_cinema post_id=6381 format=3 text=” 初見。ビジュアルは子供向けなのに、かなりショッキングなシーンで幕を開けるのがまず意外。そして、ファンタジーの皮を被っておきながら、河童をめぐるあれこれのリアルさがめちゃくちゃおもしろい!300年の眠りから覚めるのは一般家庭の洗面所だし、上原家の人々も最初こそ戸惑っているものの、河童の飼い方を真面目に話し合ってるし。最後の別れの場面も当人たちの心情に寄り添えば涙なしには見れないんだけど、あとで冷静になって考えると宅急便かよ!って突っ込みたくなる。中盤のマスコミ襲来ではテレビ出演までしちゃうし。河童を物理的実態のある生き物として描くというSF的面白さ。かと思えば龍が出たり犬のオッサン(良いやつだった…)とテレパシーで会話したり。でもそういう設定上の歪さから生み出される面白さがこの映画の魅力なんではないかと思ったりもします。上原家の人々、みんないい人なんだけど、特に妹が良かったなあ。顔芸のシンエイ動画っぽさ。この映画もスルメみたいな映画ですね。毎年各地で上映されているのも頷ける。”]

[cf_cinema post_id=6383 format=3 text=” これも初見。評判いいから観たい観たいとは思っていたのですけど、内容がなんか憂鬱になりそうだったから後回しになってまして…。作画的なクオリティが高い!そしてお母さんがガンダムシリーズに出てそう!笑 物語も、確かに最初は陰鬱な雰囲気で息苦しいんですけど、進展していくにつれてどんどん開放感が生まれてくるのが気持ちいい。オチもなんだか途中から薄々わかってはくるものの、非常にスッキリしますね。とりあえず、早乙女くんが天使すぎる。二人で廃線跡を辿っていくくだり、張り詰めた空気が徐々に弛緩していくのが伝わってきて印象に残ります。あとプラプラが可愛い。最初声あってねえじゃんと思ったけど最後はなんか違和感なくなってた。中学生くらいの子どもに観せていきたい映画ですね。”]

写真など

まとめ

 「百日紅」以外は所見だったこともあるけど、どれも飽きさせない作りで無事完走できました。さすが200本にセレクトされただけはありますね。原監督の作風、テーマとか題材は変わっても安定してますねー。現在企画中という次回作も楽しみです。あと原監督の作品、テレビも多いのでなにかの機会で特集してほしいなあ。


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関連リンク

■新文芸坐 http://www.shin-bungeiza.com/

■Webアニメスタイル http://animestyle.jp/

NOTES

  1. 前日の2017年6月16日、野原ひろし役でおなじみの声優・藤原啓治さんが病気療養から復帰すると発表された。病気療養の藤原啓治が復帰へ「徐々に仕事を再開」 『クレしん』野原ひろしの役など | ORICON NEWS
  2. 『河童のクゥと夏休み』は「第31回日本アカデミー賞優秀アニメーション作品賞」他、『カラフル』は「第34回日本アカデミー賞優秀アニメーション作品賞」他、『百日紅~Miss HOKUSAI~』は「第48回シッチェス・カタロニア国際映画祭 アニメーション部門・最優秀作品賞」他を受賞。
  3. 2013年公開の『はじまりのみち』。
  4. サンライズの現会長取締役の内田健二さん。
  5. 『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ アッパレ!戦国大合戦 』(2003年)。
  6. マッドハウスの丸山正雄プロデューサー。
  7. 『アラビアのロレンス』(1962年)。監督:デヴィット・リーン。完全版は3時間47分ある。長い。
  8. 『七人の侍』(1954年)。これも3時間半くらいあって長い。
  9. プロダクションIGの石川光久プロデューサー。
  10. 『エスパー魔美』(1987-89年)。高畑さんがめっちゃ良いやつ。Amazonで配信してるのでみんな観よう!
  11. 木下恵介(1912年12月5日-1998年12月30日)。代表作は『カルメン故郷に帰る』(1951年)、『二十四の瞳』(1954年)など。木下監督の生涯を描いた映画が原監督による『はじまりのみち』(2013年)。
  12. Wikipediaで確認した「司会者・テレビドラマの男優・コンビニの店員」だそうです。