おひるねラジーズ

毎日を、楽しく生きる


【映画批評】『メッセージ』:テッド・チャン×ヴィルヌーヴの描く新世代のSF【ネタバレなし】

      2017/09/19


 テッド・チャンによる原作(「あなたの人生の物語」)を読んでいる間、私の頭のなかにあったのはなにやらムーミンめいた可愛らしい七本足の生き物で、それがいわゆるヘプタポッドのイメージなのだった。だから、この映画で映し出される「彼ら」の造形、つまり、表面を覆うしっとりとした現実感であるとか、身に纏う神々のような凛とした静謐さは衝撃だった。

 「あなたの人生の物語」は短編小説である。それもどちらかと言えば地味な作品だ。謎めいた宇宙人は登場するが、物語の中心に据えられているのはヘプタポッドたちの言語を解読しようとする女性言語学者ルイーズで、ミステリータッチの言語解読パートとルイーズと娘の生活が交互に語られていく。語り口は淡々としていて、それほど大きな事件が起こるわけではない(重要な死はあるけれど)。同じ短編集に収められている「地獄とは神の不在なり」の方がドッタンバッタン大騒ぎだし、テーマ的にもテッド・チャンの色が濃く出ている。しかし、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督は、この美しくも静かな物語を、原作の味を損ねることなく、彼らしいやり方で彩っている。

 とりわけ素晴らしかったのがヘプタポッドの文字の美しさだ。原作では「グラフィックイメージのような」としか形容されないのだが、映画ではヘプタポッドが液体とも気体ともつかない墨のようなものを吐き出し、それが複雑な突起を持つ円形を描き出す。もちろんこの形は物語を理解するためのヒントである。ヴィルヌーブ監督は原作で重要な要素であった「フェルマーの原理」を省いた代わりに、円というビジュアルを使って、よりスマートな解決方法を提示してみせた。一文を表すために描かれる円には始まりもなければ終わりもない。ヘプタポッドたちは、書く(話す)前にその結末が見えてしまっている。

 「もしも明日のことがわかれば…」と思う人は多いだろう。しかし、その未来が絶対に覆せないとしたらどうだろうか。その上、その先に待っているのが悲劇だとしたら。この物語の根底に流れているのは、そんな絶望的でドス黒い運命論だ。ルイーズ(エイミー・アダムス)はヘプタポッドたちの言葉を解読するうちに彼らと同じ能力を得るが、彼女にはある悲劇的な出来事が待ち受けている。そして、その出来事を避けることが出来ないということも彼女にはわかってしまっているのだ。このあたりの運命論的世界観には、テッド・チャンと同じアメリカ人SF作家であるコニー・ウィリスの作品に通ずるものが感じられる(『ドゥームズデイ・ブック』などはその典型だ)。

 原作と同じように、物語は叙述トリック的な手法で紡がれている。ちょうど『複製された男』と同じように意図的な混乱が作り出されている。例えば予告編やポスターで前面に押し出されている奇妙な形の宇宙船や、冒頭に取り上げた神々しいエイリアンたち、彼らの来訪によって引き起こされる世界的な混乱と危機、それらは確かに重要なのだけれど、そういったマクロ的な事象の合間に、ルイーズと娘の「記憶」というミクロ的な物語が語られる。ヘプタポッドたちとの会見場とルイーズの家の湖を望む一面の窓がどことなくアナロジカルに映るのは偶然ではない。一見すると余計な「回想シーン」が実は本編だったと気付くのはすべてが終わったあとなのだ。

予告編

基本情報

メッセージ  Arrival116 min

監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ

音楽:ヨハン・ヨハンソン

脚本:エリック・ハイセラー

撮影:ブラッドフォード・ヤング

出演:エイミー・アダムス/ジェレミー・レナー/フォレスト・ウィテカー/マイケル・スタールバーグ/マーク・オブライエン/ツィ・マー

公式サイトhttp://www.message-movie.jp/


 - 映画レビュー

関連コンテンツとスポンサードリンク